魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」 7/10

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騎士「いつ頃ですか? 出来ましたらその……見送りたいな……と」

娘「そうですね……恐らく夕方になると思います」

騎士「……私が仕事を終えて戻ってくるまで、待って頂くことは」

娘「構いませんよ。是非、お願いしますね」

騎士「は、はい!」

娘(…………)

娘(これで、いい)

───………

魔王「ほら、薬だ。飲め」

偽姫「……おいしくない」

魔王「我慢しろ。風邪が治ったら、何でもうまいものを食わせてやろう」

偽姫「あ、あ。じゃあね、じゃあね、けーきがいい」

魔王「分かった」

偽姫「いっぱいたべてもいい?」

魔王「腹を壊すから、二切れまでだ」

偽姫「ぷう」

魔王「拗ねても駄目だ」

魔王「さて……少し出てくるが、大人しくしていろよ」

偽姫「どこいくの?」

魔王「お前の食事を作らせてくる。すぐ戻る」

偽姫「……ほんと?」

魔王「ああ。だから離せ、な」

偽姫「……はやくかえってね」

魔王「分かった」

偽姫「まだかな」

偽姫「……まだかなー」

偽姫「『ちゃんとねておけと、いっただろう』」

偽姫「……おこられちゃうかなー」

偽姫「ごめんなさいしたら、ゆるしてくれるもん」

偽姫「だって、まおうさんはやさしいもん」

偽姫「こわくないもん」

偽姫「まっくろで、こわいかもしれないけど……」

偽姫「わたしは……すき」

偽姫「えへへ……」

偽姫「て……」

偽姫「あったかかったなあ……」

偽姫「あしたも……」

偽姫「ううん、ずっと……」

偽姫「いっしょにいれるかな」

偽姫「いれたら、いまよりもっとすきになるのかな」

偽姫「すき」

偽姫「まおうさんは、わたしのことすきかな」

偽姫「すきだったら、うれしいな」

偽姫「わたしはまおうさんがすきで、まおうさんはわたしがすき」

偽姫「いっしょで、おそろい」

偽姫「おそろいは、うれしいな」

魔王「む……」

偽姫「おかえりなさい」

魔王「ちゃんと寝ておけと、言っただろう」

偽姫「ごめんなさい」

魔王「仕方の無い奴だな。ほら、飯を持って来てやったぞ。食わせてやる」

偽姫「はあい」

魔王「うむ、良い返事だ」

魔王「うまいか?」

偽姫「うん。おいしい」

魔王「そうか。良かったな」

偽姫「わ……」

魔王「ん……ああ、すまん」

魔王「頭を触られるのは、嫌か」

偽姫「い、いやじゃない」

魔王「そうか。なら、もっと撫でてやろう」

偽姫「……えへへー」

魔王「ペットの世話をしている気分だ」

偽姫「わたし、ぺっと?」

魔王「いや、何か違うな。お前は私の、何だろうな」

偽姫「なにかなあ」

魔王「ああ、そうだ。姫ではないということを、他の者に言いふらすなよ。しばらくは私達だけの秘密にしておこう」

偽姫「う、うん。わかった!」

魔王「よし。お前は聞き分けが良いな。偉いぞ」

偽姫「わたし、えらい?」

魔王「ああ」

偽姫「じゃ、じゃあね……わがまま、いってもいい?」

魔王「何だ?」

偽姫「あ、あのね」

夜――

偽姫(……)

偽姫(えへへ……)

偽姫(きょうは、いっしょ)

偽姫(いっしょにねんね)

偽姫(いいこにしてる、ごほうびだって)

偽姫(あったかいな……)

偽姫(こんなにあったかいのは……はじめて)

偽姫(やさしいのも、はじめて)

偽姫(まおうさんはひとじゃないけど……)

偽姫「ね、ね」

魔王「何だ?」

偽姫「わたしね、まおうさんのことすき」

魔王「……そうか」

偽姫「おやすみなさい」

魔王「お休み。私も、お前が嫌いではないな」

偽姫「……うん」

次の日─

魔王「すっかり元気になったな」

偽姫「うん!」

魔王「では、今日は久々に散歩でも」

バァンッ!!

側近「大変だ魔王!!」

魔王「何だ騒がしい」

側近「あの国の奴等……姫を見捨てやがった!!」

魔王「……何?」

偽姫「え………」

夜─

偽姫「ふあ……」

偽姫「…………あ」

偽姫「そっか……ねちゃったんだ」

偽姫「ないちゃったな……いっぱい」

偽姫「まおうさん……どこいったのかな……」

偽姫「……ぅ」

偽姫「……うぐ」

偽姫「ひっ……ぅ……あう」

偽姫(わたしはにせもの)

偽姫(にせものだから、すてられた)

偽姫(にせものは……やっぱりいらなくなる)

偽姫(まおうさんもいらなくなるのかな)

偽姫(わたしのこと、すてちゃうのかな)

偽姫「ひっく……う、ぇ……っく」

偽姫「どうして……ど……して」

偽姫「わたしは…………ど、して」

偽姫「にんげんなんかに……うまれたの……」

偽姫「う、う……うぇえ……ひ、ぐ」

次の日─

魔王「起きたか」

偽姫「うん……」

魔王「それでは、お前の処遇についてだが……」

偽姫「………ぅぐ」

魔王「聞く前に泣くな」

魔王「悪い話ではない。まあ、聞け」

偽姫「う、うん」

魔王「ここにいたいと、昨夜言ったな」

偽姫「……うん」

魔王「ならば、お前…魔王になる気はないか」

偽姫「……え」

魔王「私には後継者…つまり、子供がいない」

偽姫「……」

魔王「お前さえ良ければ……私の跡継ぎとして、城に迎えてやろう。どうだ?」

偽姫「そ、それ…って」

魔王「魔王の父親は、嫌か?」

偽姫「う………ううん、すき」

魔王「決まりだ。よろしく、娘」

偽姫「よ、よろしく!」

魔王「今日からお前は魔王の娘だ」

偽姫「むすめ……」

魔王「つまり、本物の姫君だ」

偽姫「ほん……もの?」

魔王「ああ」

偽姫「…………ない?」

魔王「何だ」

偽姫「わたしのこと……すてたり、しない?」

魔王「……私はお前の何だ?」

偽姫「え……あ、あの、おこらない?」

魔王「ああ」

偽姫「おと……さん……?」

魔王「……ああ」

魔王「お前が偽物なのではない」

魔王「その、国王とやらが偽物の父親だったのだ」

姫「あ」

魔王「そう考えれば良いだけの話」

姫「う、うん」

魔王「お前は本物だよ。本物の、私の子だ。そして私は子を、捨てん」

姫「うん。うん」

魔王「まあ、今は難しいことを考えるな」

偽姫「うん」

魔王「お前は私……いや、私達が守ってやる」

魔王「そして、お前が己のために生きられるよう、この世界を変えてやる」

魔王「私はお前のために、魔王であろうと誓う」

魔王「だから……もう、泣かなくていい」

偽姫「う、うん。ごめんなさい……ごめ、なさい」

魔王「泣くな、と言っているわけではない。謝るな」

偽姫「うん。うん」

魔王「…………全く。仕方のない奴だよ、お前は」

偽姫「…………てね」

魔王「何だ?」

偽姫「ずっと、いっしょに、いてね」

魔王「勿論だとも」

───………

朝─

娘「……ああ」

娘「お父さん……」

娘「そうだね、難しく考えることはないのかもね」

娘「私が、私として生きるために」

娘「彼を救いに行きますか」

店主「そうかい……もう行くのか」

娘「お世話になりました。これ……少ないですけど」

店主「ああ、宿代……な?! こ、こんな大金貰えないよ!」

娘「いえいえ、良くして頂いた分ちょっと色を付けただけですよ」

店主「しかし、これじゃあ正規の値の倍以上だ……それにお嬢ちゃん、金に困っているって」

娘「都合がついて、もう安心なんです。ですからどうかお納め下さい。お願いします」

店主「……分かった。ありがとう」

娘「こちらこそ、色々良くして下さって本当に感謝しています」

店主「そんな大袈裟な。しかしお嬢ちゃん、随分すっきりした顔だが、何かいいことでもあったのかい?」

娘「ふふふ、分かります?」

娘「色々吹っ切れたんです。ここに来て良かったと思います」

店主「そうかい、何か知らんが良かったなあ」

娘「はい! あ、お土産をこの辺で買って行こうかと思うんですけど、お勧めがあれば教えて頂けますか?

店主「おう、お安いご用さ。誰にあげるんだい?」

娘「家で待つ、父と兄に」

店主「家族想いなんだねえ」

娘「えへへ……なんたって、自慢の家族ですから」

娘「それでは、本当にお世話になりました」

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