魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」 8/10

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店主「おう。またこっちに来ることがありゃ、是非ご贔屓に頼むよ」

娘「ふふ……また近い内に来るかも知れません」

店主「お、もしかしてあの騎士様絡みじゃあ……」

娘「んー、ご想像にお任せします。ありがとうございました!」

店主「ああ! またいつでも来てくれよ!」

娘「ふう……お土産も買ったことだし、そろそろ行くかな」

娘「これでこの街ともお別れか。いたのは数日だったけど、何だか名残惜しいな……」

娘「ま、どうせまた来るんだけどね」

娘「そう……また来るよ。来なくっちゃいけないものね」

娘「さて、まずは主の所に行かなきゃ」

洞窟―

娘「おは」

竜「む」

魔王「娘!!」

娘「……へ?」

魔王「ああ!夢にまで見た娘だ!本物だ!うちの娘だ!!」

娘「な、何でお父さんがいるの」

魔王「見ろ主!こいつが言っていた、私の娘だ!可愛いだろう?そのくせ凛々しいだろう?」

竜「落ち着け陛下。何度も顔を合わせているのだから、知っている」

魔王「何しろ国を一つ落とした実績があるのだからな。流石は私の娘。よく出来た子だ」

竜「私の話に耳を傾けてはくれぬのだな、陛下」

娘「何なの、これは」

竜「先程やって来られてな。それからずっと、お前の話を聞かされている」

娘「それはその……父がご迷惑をお掛けして、すみません……」

竜「構わん」

魔王「……久々の再会だと言うのに、冷たいな。私はお前の顔が見れて、嬉しいぞ」

娘「え……その……私もう、嬉しいけど」

魔王「うんうん。そうだろうとも」

娘「でも本当に、何しに来たの?」

魔王「お前を迎えに来た。帰るぞ」

娘「唐突に?!何かあったの?!」

魔王「何を言う。それもこれも、お前達が勝手に動くから悪い」

娘「……私、何かやっちゃった?」

魔王「いや、少し抜けていただけだ」

娘「?」

魔王「こいつが今の時期、人間を襲うわけがないだろう」

娘「あ、それはもう分かって……うん?」

竜「……」

魔王「お前がいつ来ても、こいつはこの洞窟にいたはずだ」

娘「そうだけど……何で知ってるの?」

魔王「それはお前、卵を守るため動けないからに決まっているだろう」

娘「え」

娘「……え?もう一回」

魔王「だから、数十年に一度卵を産み、孵化まで付きっ切りで見守るという」

娘「卵?!どこに?!」

魔王「何だ、やはり知らなかったのか」

竜「姫からは、私が邪魔で見えてはおらなんだろうな」

娘「え……えええ……」

魔王「と、言うことだ。こいつが外をうろつくはずがない」

娘「じゃ、じゃあ最初から無駄足だったってこと?」

魔王「ああ」

娘「何よそれー……」

竜「…………うむ」

竜「我が子を狙う者が、極稀にやって来るため……なるべく卵のことは他に伏せておきたくてな。すまん」

娘「あ、いいよ気にしないで。子供が大事なのは当然だもの」

竜「……ああ」

魔王「しかし、今の時期は気が立っているはずだろう。見知らぬ者が来て、よく牙を剥かなかったな」

竜「仮にも陛下の子を名乗る者だ。そのようなこと、出来るはずが無い」

魔王「……相変わらずだな、お前は」

娘「でもお父さんが主と知り合いだって知ってたら、無駄足にならずに済んだのにー……」

魔王「私に言わぬ、お前と側近が悪いのだ。何かあったらこれからはまず、私に言え」

娘「今回は知り合いだったけどさ……引き篭りのお父さんに、実際知り合いってそんなにいないよね?」

魔王「何を言うか。私はこの世に生きる魔物の生態等、ありとあらゆる情報を把握しているのだぞ」

娘「……はい?」

娘「ぜ、全部?何百種類じゃ済まないくらいいるのに全部?」

魔王「魔王としては当然のことだろう」

娘「側近はそんなこと一言も」

魔王「いや何、この知識をあいつの前で披露する機会が今まで皆無だったのでな。知らんのも無理は無い」

娘「何よそれー……」

魔王「どうした娘、いきなりへたり込んで」

主「くっくっく……陛下も相変わらずのようだな」

魔王「……どういう意味だ」

街道─

騎士「はあ……まだ何の手がかりも見つからないとはな」

兵1「隊長」

騎士「何だ。にやにやして」

兵1「知ってますよー。隊長は早く仕事を終わらせて、イイ人に会いたいんですよね」

騎士「な、な、な?!」

騎士「何を言い出すんだお前は?!」

兵1「何って……あれだけあからさまに追っかけといて今更ですよ。他の皆もその噂で持ちきりですし」

騎士「くっ……」

兵1「まあいいじゃないっすか。家柄とか身分とか、障害があるほど燃えるって言うじゃないですか」

騎士「一応言っておくが……彼女とは、お前達が思うような関係ではないからな」

兵1「あー、まだいいお友達止まりなんすね。頑張って下さい隊長殿!」

騎士「……」

兵1「何ですか隊長ー。無視は酷いですよー」

騎士(ああ……)

騎士(確かに最初は姫の面影を見ていた)

騎士(だが……今になっては、本当に、彼女のことを……)

騎士(もう会えなくなるなんて……嫌に決まっている)

騎士(しかし引き止めるわけにもいかない……彼女には何か悩みを抱えているようだし……)

騎士(また、私は思い人について、何一つ知らないままなのか)

騎士「……いや。何とか、してみるさ」

兵1「何をですか?」

騎士「こちらの話だ」

兵1「つれないですねー、そんなんじゃあ愛しの彼女に嫌われて」

兵2「隊長!あちらから煙が上がっています!」

騎士「?!今行く!」

洞窟─

娘「ま……まあいいや。ちょっと荷物預かっててね、すぐ戻るから」

魔王「仕事は終わりだぞ、どこに行く?」

娘「ちょっと野暮用がね。あ、お父さんいい物持ってるじゃない」

魔王「ああ、一応持って行けと側近がな」

娘「貸してくれるよね」

魔王「構わんが。剣など何に使うつもりだ?」

娘「後で説明するよ」

魔王「何かは知らんが、危ない事はするなよ。急ぐと転ぶぞ、気を付けてな。それから……」

娘「えへへ、ありがと。じゃあ行って来るね」

竜「……待て」

娘「どうしたの?」

竜「何処からか微かに、人間の血の臭いがする。それも複数」

娘「……始まったか」

魔王「む?」

竜「やはりか。首を突っ込んで、何になると言うのだ姫よ」

竜「人間の争いなど、我ら魔物には何の関係も無いはずだ」

娘「……」

竜「何をするつもりだ、姫」

娘「とある人間を、助けるつもり」

竜「何」

魔王「ほう」

竜「まさかとは思うが……人間に情が移ったか?」

娘「……説明している暇は無い。行くね」

魔王「ああ、行ってこい」

竜「陛下?!」

娘「じゃあ二人とも待っててね!行って来ます!」

竜「……陛下」

魔王「何。子を信じて送り出すのも、親の責務だろう。あいつなら心配いらんよ」

竜「……」

魔王「納得出来んか?ならば私の代わりに、あいつの野暮用とやらを見届けて来るが良い」

竜「な」

魔王「卵なら私が見ていてやろう。どうだ?」

竜「……」

娘「さあて」

娘「ふんふん……あっちか」

娘「血の臭いと悲鳴と怒号」

娘「どうか間に合って」

娘「私達のために……!」

街道外れ─

娘「……おっと」

キィンッ…!

「大人しく降伏しろ!そうすれば、命までは取らない!!」

「クソ!こんな大人数が来るなんざ聞いてねえぞ……?!」

「一人たりとも逃がすな!追え!!」

娘「随分と荒っぽい捕り物だなあ……やれやれ」

娘「あの人は……ああ」

娘「怪我した部下を庇いながら剣を振るうだなんて。全く騎士の鏡だね」

娘「とりあえず生きていたか。良かった」

ガギッ!!

騎士「くっ……!」

賊「おらおらどうした?!早くくたばっちまえ!」

騎士「くそ!!」

ザシュッッ!!

賊「ぎあぁあっ?!」

騎士「生憎……まだ、やるべき事があるんでね」

兵1「……た、隊長」

騎士「さあ、傷を見せてみろ。この程度なら、応急処置で何とかなるだろう」

兵1「……隊長」

騎士「どうした、早く手当てを」

兵1「すみません」

騎士「な」

キイン!!!!

娘「……残念」

兵1「なっ?!」

騎士「……な、何故」

娘「ごめんなさい。でもね」

兵1「ひ……や、やめ」

娘「ちょっと黙ってて」

ガギィイイイッ──ン!!

騎士「ま、待って下さい!!」

娘「……何をするんですか。貴方の命を狙った輩を、何故庇うのですか」

騎士「助けて頂いたことは感謝します!しかし、部下を守るのも私の使命だ!」

娘「全く……もう。貴方のせいで逃げられたじゃないですか。ああ、違うか。逃がしたのでしょうか?」

騎士「……そう取って頂いても、構いません」

娘「ふふ……愚直ですね。私はそういうの、大好きですよ」

騎士「……」

騎士「本当に何故、貴女がここに」

娘「嫌な噂を耳にしましてね。貴方が命を狙われているとか、何とか」

騎士「……彼がその手先だったと」

娘「その様子じゃあ、慣れているみたいですね。話が早くて助かりますよ。あ、どこに行くんですか」

騎士「少し離れていますが、聞こえるでしょう……私の部下が、まだ戦っています」

娘「そうですね」

騎士「私は、行かねばなりません」

娘「まだ部下の中に裏切り者がいないと限らないのに?そうそう都合よく、助けが入る保障はありませんよ?」

騎士「それでも私は部下を……民を見捨てることなど出来ません」

娘「ふふ……」

騎士「?」

娘「良かった」

騎士「何が……でしょうか?」

娘「お気になさらず。私もご一緒しますよ」

騎士「い、いけません!娘さんはここにいて下さい!」

娘「あら、先程実力はお見せしたと思いますよ。私にも、何か出来ることがあるはずです」

騎士「……どうあってもついて来るおつもりですね」

娘「よくお分かりで」

騎士「分かりました……私の側を離れないようにして下さいね」

娘「ありがとうございます」

騎士「貴女のことが、ますます分からなくなってきましたよ……一体、何が目的なんですか?」

娘「ふふ。でしたら道すがら、私の話を聞いて下さいませんか。手短に済ませますから」

騎士「……はい」

娘「どこから話せばいいのやら……私は小さい頃、とあるお方に拾われたんです」

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