勇者「もうがんばりたくない」 12/12

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水帝「主はこれで良いのですか!! 貴女はこんな結末・・・」

王女「いいの」

勇者「………」

王女「……私は…『二人』を救えたのかな」

勇者「…………………」

勇者「そうだな……『私』も、『彼』も、君に救われたんだ」

王女「えへへ、あなたも好きだよ……『私』って言うの少しかっこいいし」

勇者「・・・」

勇者「行ってきます、王女」

王女「行ってらっしゃい、勇者」

――― 天界・神殿 ―――

神「……」

神「入り口にいた『四天使』はどうした」

「勇者よ」

勇者「……」ザッ

神「戦闘らしい音が聞こえなかった、どうしたのだ」

勇者「先代の勇者に比べれば大した相手ではなかった」

神「文字通りの瞬殺か」

神「……やはりお前は生まれるべきではなかった」

勇者「『失敗作』だからか」

神「如何にも」キィンッ

ズ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ッッ!!

・・・ブォォンッ!!

勇者「……」ザッ

神「やはりな、既に耐…

勇者「【シャイニング・レイ】」ボソッ

神「!?」

ーーーーーーーーーー キィィィィ・・・ンッ

ーーーーーーーーーー カッッッ!!

ズ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ォオッッ!!!

神「ぐぉおお……!!」ガクッ

勇者「……」

神「ま、まさか……神の魔法すら会得するとは」

勇者「…なるほど、どうりで凄まじい威力だ」

神「フンッ」バシュッッ

ゴガァッ!!

勇者「……素手の破壊力だけなら【ロンギヌス】並みか」ガシィッ

神「!?」

神「おのれェ…!!」キィンッ

勇者「やめておけ」

神「ッ・・・」ピタリ

勇者「今ので分かった、貴様は私に勝てない」

神「……ぐ」

神「……」

勇者「…」

神「ふ、予想外にも程がある」

神「この神を以てしても、お前の欠陥に気づいた時は戦慄したものだ」

勇者「……欠陥」

神「然り」

神「勇者、お前は正真正銘本物の……『不老不死』になったのだ」

神「感じておるだろう? 自身の中で渦巻く魔力は無尽蔵に、力は無限に成長していくのが」

勇者「ああ、感じるよ」

神「だろう? 貴様に与えた力は『耐性強化』だったからな」

神「たしか貴様が生まれたのは『前回』だったか」

勇者「…!」

神「ん、なんだその反応は」

勇者「・・・神ならよく知ってるんじゃないか? 私の記憶を事ある毎に操作していたろう」

神「ふん、てっきり貴様の記憶が蘇ったのかと思っていた…そこまで気づいているならな」

勇者「……」

勇者「話せ、真実の全てを」

神「……そうだな、3ヶ月前を『今回』として」

神「『前回』とは勇者、お前を私が改めて生み出した時代の戦いだ」

勇者「……」

神「私はこれまでの勇者が中々魔神を討たない事に苛立っていてな、もしやこの男では魔神を討つに及ばないのではないか?」

神「そんなことを考えていた」

神「そして再び魔神を数ある平行世界の中で見つけた時、私は決断した」

神「二人目の……『勇者』を造ろう、と」

勇者「……それが私か」

神「然り」

神「だが貴様は最初から私の期待を裏切る男だった」

勇者「?」

神「……四天王まで辿り着いたのは良かった、だが貴様はその時点から突然精神的不安定に陥ったのだ」

勇者「仲間が死ねば当たり前だ」

神「それまでの貴様は先代の勇者と同じように従順だったのにか」

勇者「…そうなのか?…」

神「少し思い出してみろ、お前の口調はいつ変わっていた?」

勇者「??」

神「ふん、まあいい」

神「貴様は四天王の一人目である『地帝』にいきなり敗北した」

勇者「なっ…!?」

神「私も心底驚いたものだ、半殺しで追い出された等と情けない報告を聞いた時はな」

神「先代の勇者に貴様の手当てをさせ、再び四天王に挑ませたが……『地帝』を倒した次は『炎帝』に敗北した」

神「次は『雷帝』、その次は『水帝』……流石の私も気づいた、貴様は一度戦った相手には決して敗北しないとな」

神「・・・戦術、魔術、腕力、脚力、魔力」

神「お前は敗北した相手に合わせて急激な成長を遂げたのだ」

勇者「…」

神「その後、お前は四天王の戦術と魔術で魔王と互角の戦いを繰り広げた」

勇者「結果は?」

神「貴様が殺される瞬間に先代勇者が魔王を倒した」

神「もっとも、直後に魔神は平行世界の彼方に逃亡してしまったがな」

神「……貴様が先代勇者と共に戻った時」

神「お前の目は先代の勇者とは違っていた、『異質』な物になっていた」

神「その刹那に私は痛感したのだ、生み出した新たな勇者の末恐ろしい気配に」

勇者「……それで、私は…」

神「仲間が殺された記憶がお前を変異させたと考えた私は、貴様の記憶のみをリセットさせて平行世界に送り込んだ」

神「・・・だがそれこそが最大の過ちであったなぁ」

神「覚えはあろう、お前は旅の中で時折記憶が戻りかけては突然パワーが増していた」

勇者「・・・ッ」ビクッ

『 7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]2012/11/23(金) 18:17:12.39 ID:s6vh qwG0 』

『 エルフ「・・・」 』

『 勇者「……あの」 』

『 エルフ「疲れてる、休め、寝る? 食事?」 』

『 勇者「え、えっと、あの」 』

『 僧侶「この娘、エルフみたいです、私達を村か何かに案内してくれるの かも」 』

『 女戦士「そりゃーいい、休みたいな」 』

『 勇者「・・・」 』

『 勇者(何だろう、何度か見た事ある気がする) 』

勇者「・・・ッ」

勇者「もっと、もっと早く鮮明に思い出していれば僧侶はッ」ギリッ

神「……貴様は消した筈の記憶に沿うように、再び運命を辿り出した」

神「まるで記憶が無くとも、何かを信じるように」

神「何より、『前回』以上にお前はどこか幼く、反面絶望した『勇者としての面』が見え隠れするようにもなったが」

神「貴様も流石に覚えていよう、四天王が余りにも 弱い と感じた筈だ」

勇者「・・・」

神「後は、大体貴様も分かっているのではないか?」

勇者「そうだな……」

神「魔王を打ち破り、地下で魔神と対面した時に私は先代勇者に魔神を殺せと命じた」

神「だがそこで貴様は魔神の味方をしたが故に先代勇者と戦いになった」

神「そしてお前が殺された瞬間に私はお前の記憶を消そうとしたのだ」

勇者「……? 何故中途半端に消すような真似をした、消えたのは地下での事だけだ」

神「中途半端だったわけではない、勇者が『記憶改竄』に対する耐性を早くも身に付けていたのだ」

神「故に記憶を消し損ねた上に、貴様は魔神と共に平行世界へ消えた」

勇者「それが真実?」

神「然り」

勇者「………」

勇者「私……私が…くそ、なんて言えば良い」

勇者「……『前回』の記憶を消される前、私は自分を『私』と呼んでいたか? …」

勇者「・・・それとも」

神「……」

神「よく思い出してみるといい、貴様は今や神である私を越える存在なのだ」

神「一度消した記憶位なら、もう貴様の意思で取り戻せるだろう」

勇者「………」

『 水帝「初恋のエルフに騙されても尚、人間の味方を何故する!!」 』

勇者「………」

『「エルフ……私は……それでも…………」』

『「……勇者様?」』

勇者「……」

勇者(なるほど…『ぼく』じゃなかったんだね)

勇者(という事はやっぱり……『前回』と『今回』の人格が……)

神「私が知っている事はこれで全てだ」

神「……それで、貴様はどうする? 私を殺すか」

勇者「生かして置いたら、どうする?」

神「どうもできぬ」

神「お前はもう『勇者』等という枠に納まらん……この私ですら殺せないのだから」

勇者「!」

神「『死への耐性』、『時間概念への耐性』、『魔法への耐性』、お前をどうやって殺せるのか」

勇者「……」

勇者「もう……王女に関わらないんだな?」

神「魔神か、出来ることなら消したい存在だ」

勇者「あの子はもう魔神じゃない」

神「魔神じゃない? なら問おうか」

神「・・・戦争はどうして起き、王女達は迫害を受けたと思う?・・・」

勇者「!?」

神「王女が居たのは『東の国』というのは知っているな?」

勇者「………」

神「あの国は当時…戦争が始まる前から不穏な噂があったのだ」

神「そして、人間達の間で『魔法』が出回るきっかけとなったのもあの国だった」

神「……『魔神』はいたのだ、ずっとあの国の中で」

勇者「王女……が、そうだと?」

神「否」

勇者「!」

神「私が思うに『魔神』とは、平行世界とは違って全く異なる世界から来た力だと思っている」

神「人と人との間で受け継がれ、決して絶える事の無いまるで生物のような存在」

勇者「……王女は、どうしてそんなものに」

神「大体想像はつくであろうよ?」

神「不穏な噂が人間の間で大きくなり、邪悪さを増し、魔法という知恵を生み出した国を魔だと言った」

神「……そして『正義』を翳して戦争が起きた」

神「珍しい展開ではない、数多の平行世界でも人間は争いを生み、悲劇を生み、歴史を作り上げた」

神「執拗に『正義』を喚きながら女を犯して、男を切り捨て、王族は斬首される」

神「あの王女もまた、人間であった頃は餓死という結末を迎えていた」

神「その結果、本来ならば悲劇の歴史に埋もれる筈だった少女は新たな悲劇を生む種を宿してしまった」

勇者「・・・」

神「さて、絶望と憎悪の中で芽吹いた種は何を咲かせるか」

神「人間の敵になる事と引き換えに生を選んだ少女は、お前は、どんな結末を辿るのだ?」

勇者「……王女とぼくなら、きっと正しい道を行ける」ボソッ

神「ふん、なら勝手にするといい」

神「どうせお前達二人を別つ者など居はしない」

勇者「ああ、いざというときは『私』がいるしな」

神「……」

神「肝に命じておけ、『勇者』」

勇者「……何だ」

神「貴様もその状態がいつまでも続くとは思わない事だ」

神「『失った記憶の勇者』と『今の記憶の勇者』、二つの人格がお前の中にあるが」

神「いつか必ずどちらかが消える、その前にどうにかしないとな」

勇者「…そうだね」

神「そしてこれは『神として』の助言だ」

勇者「?」

神「人間の敵は、『正義』であって『悪』ではない」

神「………覚えておけ」

勇者「…ああ、覚えておく」

勇者「去らばだ、神」キィンッ

バシュンッッ!!

神「………」

神「……ふん」

神(果たしてお前達は報われる日が来るだろうか?)

神「答えは 否 」

・・・【1500年後】、王国・・・

バシュンッッ!!

勇者(………)スタッ!

勇者「!」

王女「……おかえり、勇者」

勇者「ただいま」

魔王「……久しいな」

炎帝「遅過ぎだ、何をしていたのだ」

雷帝「主が泣いた回数なんて800越えてんだからねっ!!」

水帝「久しぶりだな、勇者」

スライム娘「世界はずっと私達が管理していたので問題は有りませんよ!」

勇者「・・・ぼくと別れてどのくらい経ってるのかな」

王女「1500年ちょっとかな」

勇者「…変わらないね、王女」

王女「……ほんと?」

勇者「うん、後ろの皆も含めてね」

勇者「……」

王女「?」

勇者「王国、何だか……寂れてない?」

王女「170年位前から魔力を体外放出させる疫病が流行ってるみたいなの」

王女「私も、ちょっといつまでもつか分かんないや」

勇者「!!・・・」チラッ

魔王「我々ですら治療法を見出だせない」

魔王「……主に残された時間はそれでも60年少しある」

魔王「勇者と共に人間らしい一生は過ごせる筈だ」

勇者「・・・」

勇者「王女」

王女「ごめんね、時空間移動するだけの魔力はもうないの」

勇者「要らないよ、君は必ずぼくが救うんだ」

王女「私は勇者さえいればそれで幸せだよ」

勇者「…………」

ぐっ

王女「ひゃっ?」

……チュッ

王女「!?」ビクッ

勇者「……ぼくは、もう死ねないんだ」

勇者「君がいないともうだめなんだよ」

王女「ゆ、勇者……」

勇者「君を救う…だから君はぼくを救って欲しいんだ」

勇者「お願いです、ぼくの願いを聞いて下さい」

王女「・・・」

勇者「一緒に、君の力が来た『異世界』に行くんだ」

勇者「きっとそこなら、『魔神』が生まれた世界なら、疫病の治療法も見つかる」

魔王(神に聞いたのか……なるほど、それならば確かに)

王女「……私、がんばれるかな」

勇者「大丈夫、きっと……ぼくと君なら」

勇者「ぼくとがんばろう、最期の時まで、ずっと一緒に」ギュッ

王女「……うん、がんばる」ギュッ

――――― その後、勇者と魔神の力を宿した少女は忽然と姿を消した。

それまで世界を管理していた魔王達も同じく消え、完全に行方不明となる。

彼等の姿を見た者はいない。

しかし、それは決して死んだ訳ではない。

大切な人のために、自身の未来のために、失ってはならないものを守る為に。

彼等は『異なる世界』へと旅立ったのだ。

・・・もう『彼』は、諦めない。

勇者「もうがんばりたくない」

Fin

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