勇者B「気づいていないはずは無いですよね、先程の彼女の動きで……」
勇者「・・・」
勇者B「さて、瞬間移動魔法を操り大地を割らんばかりの力で殴ってくる彼女が……人間だと思いますかぁ?」
勇者「……ならぼく達だって人間じゃない」
勇者(確かにあの子には秘密はあった、ずっと何
かぼくに言いたそうな『何か』が)
勇者(でも……こんな奴の言うことじゃないはずだ)
勇者B「当たり前ですッ!! 我々は神に造られた究極の生命体なのですから!!」
勇者B「・・・だがしかしそこにいる世界を魔物で包んだ彼女は、化け物だ」
王女「・・・っ」ジリッ
勇者B「彼女も理解してるんですよ、貴方の仲間が死んだのも数多くの村や街で悲劇があったのも……」
勇者B「全部、彼女が原因なんですから」
勇者B「さあ勇者、貴方は彼女をどう考える?」
勇者「………」
王女「ぁ……あ………」
勇者「……」
勇者「王女……本当なんだね? 君が、本物の魔王って」
王女「ち、違うよ!!」
バシュンッッ
勇者B「違わないでしょう? でなければ貴女の…………」ジャキリッ
ガシィッ!!
魔王「………ッ」ギリッ
勇者(魔王…!?)
勇者B「………貴女の影から伸び出て来たこの『魔王』は、何なんですかねぇ」
王女「魔王……どうして!」
魔王「主よ、勇者の目をよく見ろ」
魔王「もはや勇者は主を守ってはくれない、我が出なければ殺されるのだぞ」
勇者「………」
勇者B「…」ニヤリ
勇者B「出来損ないの『勇者』、貴方に最後のチャンスだ」バシュンッッ
勇者「……」
勇者B「『裁きは罰と共に』、魔王すらも生み出した最強最悪の 魔神 を貴方の手で討ち倒すのです!!」
勇者「・・・」
勇者「・・・・・・」
チャキィッ・・・
王女「勇者っ」ビクッ
魔王「……フン、下がっていろ我が主」ズン
勇者「…………」ヒュッ!!
魔王「チィッッ……勇者、貴様には期待外れだ!!」ガギィン
勇者「……何が期待外れだって?」
勇者「もう一人のぼくは何も間違ってないよ、ぼくは魔王を倒す為に旅をしてきたんだ」ドガガッッ
バシュンッッ
魔王「・・・我が最後に言った言葉を覚えているか」
勇者「覚えてないな」
魔王「………そうか」チラッ
王女「……っ………っ」ポロポロ
魔王「……どうやら貴様も、そこの奴と同じ神の人形に堕ちたようだな」
勇者B「…さて、ね」ニヤリ
・・・・・・・・・・・・・・・
ゾンッッ!! ゾンッッ!!
魔王「がぁ……グオオッ!!」ブシャァァァア
ドサッ
王女「ま…魔王……!」
勇者「………」ザッ!
勇者B(幾ら出来損ないとは言うものの、やはり私の次に生まれた『勇者』……無傷で魔王を倒すか)
勇者B(予想以上の働きですかね)
勇者「……王女、君は…」ザッ
王女「ひ……っあ」ガクガク
バシュンッッ!!
勇者「!?」
魔王「その心臓ッ!! 貰ったァァアッ!!」ギュオゥッッ
ドズッ・・・・ッ!!
勇者「・・・ッ」ヨロッ
魔王「………」
魔王(……ッ)
魔王「ば、馬鹿な……貫けないだと」
バシュンッッ
勇者「【 】」ボソッ
ーーーーーーーーーー キィィィィ・・・ンッ
魔王「!?」
魔王(なんだ、この光は……こんな魔法勇者は使えたのか)
魔王(王女………)
ーーーーーーーーーー カッッッ!
ズ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ッッ!!
王女「魔王……!」
勇者B「・・・」
勇者B(? 今のはなんだ……?)
勇者「………」
バシュンッッ!!
王女「ひっ……」バシュンッッ
勇者B(……無駄ですね、勇者の予知能力は私と同等、瞬間移動魔法を使っても逃げ切れはしない)
勇者B(まったく、嬉しい誤算だ)
勇者B(何千年と繰り返されてきたこの戦争が、まさかあんな出来損ないに終わらされるとはね)
勇者B(しかし先程の魔法は一体何なのか……彼なりのアレンジを加えた光魔法?)
バシュンッッ
王女「はぁ…はぁ……っ、ぅあ」ポロポロ
王女(やだ……こんなの、嫌だよ)
ガクガクッ
ドサッ
王女(……死にたくないよ……こわいよぉ…っ)ポロポロ
バシュンッッ
勇者「……」ザッ!
王女「あ、勇者・・・」
勇者「安心していい」チャキッ
王女「……っ」ビクッ
勇者「傷みは……無いから、君は目を閉じて静かにしていればいい」
王女「や、やめて……やめて」ズリズリ
ザッ・・・ザッ・・・
王女「お願い勇者……やめて」ズリズリ
王女「今度はもっと勇者の為に料理の勉強をするんだよ……? きっと国王から勇者に感謝されるんだよ?」
王女「前より、ずっとずっと勇者は……幸せになれるんだよ」
王女「もう、こんな世界で…苦しまなくて……良いんだよ」ポロポロ
勇者「……」ザッザッ
王女「……あのね、私の部屋の戸棚にね…勇者の仲間になるはずだった女戦士と僧侶に向けた手紙があるんだ」ポロポロ
王女「全部終わって……」
王女「あの『勇者』から逃げ切れたら、二人に手紙を出して……皆でお茶会して」
王女「勇者が私に二人を紹介して、それから……」ポロポロ
ジャキリッ!!
ヒュッ!!
勇者「……」ググッ
王女「・・・っ、それから…ね? あのね」ポロポロ
王女「私がいて、勇者は救われたのかなって…」
王女「っ……グスッ、ひっ……っ」ポロポロ
王女「そ……それだけ、言いたかったの」ニコッ
勇者「……そうか」
勇者「ぼくは間違ってなかったよ」ジャッッッ
王女「頑張ってね、ありがとう……勇者」スッ
ズバンッッ!!
ゴトッ……パシャパシャ
勇者「……そのまま、そのまま静かにしててね」
バシュンッッ
勇者B「どうやら終わったようですね」
勇者「……」
勇者B「貴方の功績は神も高く評価されるでしょう、さあ私の手を取って下さい」
勇者「・・・」チラッ
勇者「その手を取れば、どうなる」ギロッ
勇者B「『天界』です、我々勇者は人間として生を受けましたが魂は天界の神がお作りになったのですよ」
勇者「なるほど……なら『私』の興味は尽きた」スパッ
勇者B「・・・すぱっ?」
ブシャァァァア!! ビチャッ
勇者B「ッッ!!?」
バシュンッッ
勇者B「な、何を血迷いましたか……!」スタッ!
勇者「……血迷ってない、私は確信を得ただけだ」
勇者「何も間違ってはいなかった、とな」チャキッ
勇者B「この・・・グズが、出来損ないが、この私に傷をつけるなんてぇぇ!!」
勇者B「 また 殺してやる……二度と生き返れぬようにね!!」
勇者「……」バシュンッッ
勇者B「ッ……!!」バシュンッッ
勇者B(チッ、破損した腕は数分で元に戻りますが……)
ガギィン!!
ドガガッッ!!!! ヒュッ!! スパッ!! ギギギギギィィィンッッッ!!!!
勇者B「片腕ではやはり貴方は殺せないようだ、さてさて」スタッ!
勇者B「どうしましょうかね」ゴォオゥッッ
勇者(あの炎・・・さっきの)
勇者B「……」ゴオオオオ
勇者「ただの炎じゃないな、私にも使えるのか」
勇者B「無理です、貴方はここで死ぬんですから」
勇者「……だろうな」
勇者B「【ロンギヌス】」ギュギュオゥッッ
勇者「正体は……炎の槍か」
勇者B「あなたは愚かだ、天界に行けば永遠の命も得られたというのに」バシュンッッ
勇者「……要らないさ」バシュンッッ
【三ヶ月前・魔王城地下】
(……!)パチ
(魔王が敗れた? また勝てなかったんだ)
そう、あの時も今までのように魔王が死んだのを感じて目が覚めた。
寒くて、寂しいあの地下祭壇で。
(早く時空間魔法を発動させなきゃ、じきに勇者は私を見つける)
そして私はまた逃げようとした。
400年かけて溜めた魔力を使用して発動する究極の魔法、時空間移動だ。
時空間移動を使えばどこかの平行世界に辿り着く、そして私は『魔王が誕生した日』からやり直す。
勇者を敗り、私の自由を手にするまで何度でも繰り返すつもりだった。
でもその時。
(?)
今まで私を追跡していた神の使徒ではなく、初めて感じた気配が隠し階段に入ってきたのだ。
(……だれ?)
いつでも時空間移動出来る程度に魔力を開放しつつ、私は気になった。
あの勇者でないのなら、もしかすると会話する予知ならあるかもしれない。
そんな考えが私の中にあった。
(……え)
(歩みが遅い、体力が低下してるのかな?)
(魔王と互角ってこと?)
だとすれば尚更、魔王を倒した者はあの『勇者』ではないことになる。
私は待った。
階段の奥から現れる彼を、不思議な気分で待った。
……少しして彼は、ボロボロの姿で現れた。
フラフラと、私の魔力の波動に揺れる城のせいで足取りは悪く。
何よりその目は・・・
勇者「……」フラフラ
死んでいた。
(……人間)
勇者「・・・」フラフラ
勇者「え?」
疲労困憊の彼は足を止めて、私を見た。
その表情の中には、困惑の色が見える。
もしかしたら彼の目的は私ではなかったのかもしれない。
勇者「これが……魔王の言っていた秘宝?」
(秘宝?)
そんなものはない、となると私を指して言っている?
魔王は彼に何を言ったのだろうか、彼は私をどうするのだろうか?
勇者はしばらく私を見つめている。
彼は少しの間を置いて、再び近づいて来た。
既に私との距離は手を伸ばせば触れ合える、通常なら危険なはずだった。
でも・・・
勇者「……」フラフラ