勇者「普通の人間からしたらスライムだって恐ろしい魔物だよ」
「スライムは涙を象徴した精霊なんだよ? 怖くないのに」
勇者「精霊?」
「うん、スライムは一粒の涙から生まれた原初にして最古の魔物なんだからね」
勇者「よく知ってるね」
「歴史に詳しいの」
勇者「……じゃあスライムが人間になつく事ってあるのかな」
「なつかないよ」
勇者「えっ? なつかないの?」
「スライム達には共通して基準があるの、他者を『敵』かもしくは……」
勇者「もしくは味方?」
「『大切な家族』、って認める事」
勇者「……」
王国から東の森
勇者「……」ザッザッ
勇者(そろそろスライムが出るはず)ピタッ
勇者「・・・」
勇者「・・・」
勇者「・・・」
勇者「……そこッ」
ヒュッ!!
ガゴンッッ!!
ゴーレム【 …!? 】バラバラ
勇者「ゴーレム……? 何故四天王直属の配下がここに!?」ヒュッ!!
ガガガガ!!
ゴシャァアッッ・・・
勇者「ふっ……!」ザッ!
勇者(あの後さらにゴーレムが四体…)
勇者(……この森、どうやらぼくが知る森とは違うみたいだ)
勇者(あのスライム娘がぼくになついたきっかけを考えるなら…急いだ方が良いかもしれない)
『勇者様、このスライム怪我を……!』
『何があったのかな』
『さぁ……』
『……この傷、転んだ訳じゃないみたいだぜ勇者』
『じゃあ、誰が?』
『この森を仕切ってる主……つまりアタシ達にとっては、 バ ケ モ ノ に値するヤツだな』
スライム娘『なぜ、なぜです……! 私達は貴方のために人間の国に侵入までしたのにっ』
スライム娘B『い、痛いよ…痛いよお姉ちゃん』
「黙りなさいな」バリィッ!!
バヂバヂィッ!!
スライム娘B『ぅあ''あ '' あ ''っッ!! 』
スライム娘『や、やめて! やめてぇ!!』
「身の程知らずが、この私に謀反の気を起こしたのが間違いよ」
スライム娘『しらない! 私達は貴方達に敵対するつもりなんて……』
「あら? じゃあ教えて貰おうかしら、一体誰が私の配下を燃やしたのかしら」
スライム娘『知らない!! お願いだから妹をこれ以上苦しめないで!!』
スライム娘B『お……お姉ちゃん』
スライム娘『お願いだから、お願いだから……っ』
勇者「……」ザッ!
「!?」
ヒュッ!!
ズバンッ!
バヂバヂィッ!!
「……なに、今の? もう少しで死んでたわぁ」
勇者「……」
勇者(この『女』……【魔王】にそっくりだ)
女魔王「アンタ、何者? 良い度胸してるわね」バリィッ
勇者「……雷が本体か」
女魔王「そうよ、だからどうするのかしら人間」
勇者(……)チラッ
スライム娘「……っ」
スライム娘B「…っ……」
勇者「…………私がお前の相手をしてやる」
女魔王「アンタがこの私の相手?」
女魔王「ハッ! 身の程知らずが、よっぽど死にたいようねッ!!」 バリバリィッッッ
バヂバヂィッ!!
ヒュッ
勇者「……」ザッ!
女魔王(なっ……雷を避けた!?)
女魔王「なら放電で!!」バジィンッッ
勇者「……」ヒュヒュッ
ゴガガッッ
女魔王「ぐぁァッ!!」ドゴォ
女魔王(う、嘘……なぜ私に物理攻撃が……)
勇者「・・・」チャキッ
女魔王「待っ……」
スパッ
ゴトンッ
勇者「……」
勇者(四天王よりも遥かに弱かった……ならゴーレム達はなんで居た?)
勇者(……それよりも今はスライム達が先か)
スライム娘「……!」バッ
勇者「?」
スライム娘「・・・!」パクパク
『こ な い で』
勇者「大丈夫だよ、そっちのスライムの傷を手当てするだけだから」
スライム娘「?」
勇者「……だめかな」
スライム娘「……」
スライム娘B「??!」ダキッ
スライム娘「! っ♪」ギュッ
勇者「・・・」
勇者(この娘、妹か娘がいたんだ)
勇者(でもぼくが知ってるスライムはあの時………)
勇者(……一人だったのは、ぼくがこの娘達を見つけるのが遅かったから?)
スライム娘「…」トントン
勇者「え?」
スライム娘「……っ」パクパク
『あ り が と う』
勇者「……」
勇者「もう町に近づいたらダメだよ」
スライム娘「……」コクンコクン
・・・
「それで、どうしたの」
勇者「どうもしないよ、そこでお別れしてきた」
「そうなんだ」
勇者「あ、でも」ガサゴソ
「?」
勇者「小さいスライムの娘がくれたんだよ、このピンク色のガラス玉」
「……ふーん」
勇者「何だろうこれ、ちょっと温かいんだよ」
「勇者の胸に押し当ててみて」
勇者「これを?」
「うん、そうしたら分かるから」
勇者「・・・」ギュッ
ポワンッ
勇者「!!」
勇者「は、入っちゃったけど……」
「やっぱりね」
「それ、その小さいスライムの『心』だよ」
勇者「ココロ……?」
「スライムが本当に信頼する相手にだけ渡す、何て言うか……通訳?」
「とにかくこれで勇者はスライム達が何を言っているか全部分かるよ」
勇者「……」
勇者(あったかい……)
「じゃ、勇者が雷を使う女魔王からスライムを助けた記念にパーッとご馳走にしますか!」
勇者「ほどほどにね」
「はいはいっ」タッ
勇者(…………あれ)
勇者(ぼく、『魔王』まで言ったっけ)
・・・2ヶ月後
勇者「……」ザッザッ
ガラガラッ
勇者「……」ザッザッ
勇者(脆いな、かなり風化してる)
勇者(いや違う……この惨状は風化じゃないんだ)
勇者(そう、これは『燃やされた』跡にも見える)
勇者(確か2ヶ月前にスライム娘が言っていた)
スライム娘『あ……来てくれたんですね』
スライム娘『妹の心を受け取って私達の言葉が聞こえるようになったんですよ』
スライム娘『え? どうしてあの時襲われていたのか?』
スライム娘『えーと……今までは命令に従っていれば安全だったのですが、突然怒り狂って来たんです』
スライム娘『何度も呟いてました……確か』
スライム娘『 何者かに配下を燃やされたとか 』
勇者「………」
勇者(あの話が本当ならば、ぼくのいた世界のスライム娘も同じ理由だったのかもしれない)
勇者(……四天王の炎使いは違う……だとしたらおかしい)ガラガラッ
ザッザッ
勇者「どうしてこの『 魔 王 城 』が朽ちているんだ……?」
勇者(ここは過去の世界じゃないのか?)
勇者(全てに絶望して、魔王が与えてくれた秘宝に願って辿り着いた優しい世界じゃないのか?)
勇者(だったら……ここはどこ? ぼくにどうしろと言うんだ?)
勇者「・・・」
勇者「……………誰か………誰か教えて…よ………」
勇者「ただいま」
勇者(……いない、のかな)
勇者(思えばあの子とも3ヶ月近い付き合いなのかな…早いや)
勇者(国中から来る討伐依頼を完了しつつ、お金は要らない分は全部あの子にあげて)
勇者(てっきり遊びに使ってるのかと思ってたら……いつの間にかこんな一軒家を買ってて)
勇者「ふぅ…… ん?」
カサッ
『帰ってきたら近所の果物屋に迎えに来て』
『多分、雨降るだろうから』
勇者「……」
勇者(そしていつの間にか……本当にあの子はぼくの奥さんになったつもりらしい)
勇者(…ぼくは、どうしたら良いんだろう)
店主「お嬢さん、傘貸そうか?」
「ありがとうおばさん、でも平気だよ」
ザァアアア・・・
「こんな雨でも、迎えに来てくれる優しい人がいるから」
「だから、私は待ってるの」
店主「ふぅん彼氏かい?」
「えへへ……だったら良いのにね」
店主「違うのかい」
「うん、きっと…彼は私がそばにいても気休めだから」
「だから私は全ての人に代わって優しくいたい、彼を好きでいたい」
「……なんてね」
パシャッ
勇者「おまたせ」スタッ!
「ちょっと遅いよ、雨風で体が冷えちゃった」
勇者「あ、ごめん…」
「いいよ、来てくれたのは嬉しかったんだから」
「勇者もお疲れ様……どこに行って来たの?」
勇者「帰ったら話すよ、寒いでしょ?」
「………うん♪」
ギュッ
勇者(……)
勇者「帰ったら温めてあげるね、部屋」
「えへへ……って部屋か」
「東の朽ちた城……」
勇者「何か知ってる?」
「………」
「どうだろ、分からないかな」
勇者「君でも分からないのか……」
「うん」
勇者(以前の世界なら魔王城は誰でも知っていた、つまり忘れ去られている?)
「勇者、図書館に行ってみたらどうかな」ギュッ
勇者「図書館?」
「何か……見つかるかも」
勇者「分かった、明日行ってみるよ」
「……」
勇者「ありがとう」
「うん……!」