勇者「もうがんばりたくない」 2/12

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噴水広場

勇者(……)

勇者(これが僕の願いなわけない)

勇者(過去に戻ってもどうしようもないじゃないか)

勇者(さっきの女の子は 試験に合格していた 、だけどぼくは、違う)

勇者(……ぼくは試験に落ちて、母親に幻滅される)

勇者(それから数ヵ月、ぼくはお母さんに何度も落ちた事を責められる)

勇者(それがぼくの過去なのに)

勇者「…………」

「試験お疲れ様、……って言いたかったのにな」

勇者「?」

「こんなところでなにしてるの、勇者」

「あ、隣に座っていい?」

勇者「……うん」

「よいしょ」

勇者「・・・」

「・・・」

勇者「ごめん、君は誰かな」

「……?」

勇者「君」

「私?」

「誰かなー?」

勇者(………)

勇者(こんな娘は居なかったはず、となるとこの目の前にいる女の子)

勇者(魔物、もしくは罠……? この世界は虚実なの?)

「………」くすくすくす

「……ごめんなさい」

勇者「え」

「初対面だよ、私と勇者は」

勇者「でも、名前……」

「やっぱり気づいてないんだ、手に試験参加要書を持ってるの」

勇者(あ、これを見たから名前を……)

「私も書記官試験諦めたから、その紙が何かも大体分かるよ」

「驚かせてごめんね」

勇者「ぁ…いや、うん」

「試験、どうして行かなかったの」

勇者「受からないから、かな」

「だからがんばらないで逃げたんだ」

勇者「そうだね」

勇者「………」

「お疲れ様、勇者はよくがんばったよ」

勇者「何を……?」

「勉強、不安、不満、悲壮、つらいこと」

勇者「どういう事かな」

「理屈なんて要らないよ、勇者はがんばった」

勇者「……ただいま」

母親「お帰り『青年』、試験の結果は?」

勇者「落ちたと思う」

母親「・・・!!」

勇者「何を言われてもかまわないよ……ぼくはもう限界なんだ」

母親「なっ、待ちなさい青年! あんた何を考えて…!!」

勇者「出ていくよ、もうお母さんにまた同じ事言われたくないんだ」

勇者(・・・もう耐えたくない)

教会

神父「……おや」

勇者「こんばんは」

神父「こんばんは、どのような用件かな」

勇者「すいません、1日だけ泊めて頂けますか」

神父「構いませんよ、御名前は?」

勇者「名前は……」

勇者(まだぼくは勇者じゃないもんな)

勇者「青年です」

神父「青年君か、ではお部屋に案内しましょう」

勇者「……」

勇者(これからどうしたらいいんだろう)

コンコン

勇者「! はい?」

僧侶「神父様があなたに飲み物を、と」ニコリ

勇者「そこに置いといてくだ……さ…?」

僧侶「?」

勇者「そ……僧侶、さん」

僧侶「? はい、そうですよ」

僧侶「失礼ですが、どこかで会いましたか?」

勇者「………ッ」

勇者「・・・」

勇者「僧侶さん、この教会にいたんですね」

僧侶「はあ、そうですが」

勇者「……」

勇者(ほくと出会う前の、僧侶さん、……)

バタンッ!

勇者(……僧侶さん)

『わ、私僧侶って言います! まだ初歩的な回復魔法しか使えませんが……勇者さんの役に立ちたいです!』

勇者(………)ポロポロ

『こんな魔物もいるんですね、人間の女の子型のスライムなんて』

『彼女に敵意は無いみたいですし見逃してあげられませんか、勇者様』

勇者(……………)

勇者(優しい目は今も未来でもそのままだったんだね)グスッ

勇者「……ティッシュティッシュ」ズズッ

翌日

勇者「……」ガサゴソ

勇者(荷物の中身は魔王城に入った時のままだ)

勇者(勇者として任命されて、僧侶と女戦士さん達に出会った時に録った絵……)

勇者(……まだ残ってた)

勇者「ふぅ」

勇者(・・・)

勇者「これから、どうしたらいいのかな……」

「まずは朝食食べに行こうよ」

勇者「!」

「凄い偶然だよね、まさか同じ教会で一泊してたなーんて」

勇者「本当だね、えっと……」

「名前?」

勇者「そうそう」

「ふふん、好きに呼んでいいよ」

勇者「……えぇ」

「結局名無しなんだね」

勇者「……君が自分から言いたくないならぼくは無理に名前を呼ぼうとはしないよ」

「そうなんだ、ありがとう勇者」

勇者「うん」

勇者(・・・)チラッ

「さて、何食べに行こっか?」

勇者(……地元では見た事ない、綺麗な水色の髪の毛)

勇者(とても綺麗な肌……)

「綺麗かな?」

勇者「うん、………え?」

「ありがとう」

勇者(……///)

「美味しそうな料理だね、早く食べたいな」

勇者(さっき……///)

勇者(まるで心でも読まれたみたいな気分だったなぁ)

「顔赤いよ勇者、まだ恥ずかしいの?」

勇者「いや、何て言うのかな……あはは」

「楽しい?」

勇者「楽しいって、なにが?」

「………何でもない」

勇者「?」

「……ご馳走さま」

勇者「?」

勇者「まだ残ってるよ」

「ちょっとお手洗い行ってくるね、またね勇者」

勇者「………」

勇者(なんか不思議な娘だなぁ、ぼくでも疲れてきた)

「この店に『青年』とかいう奴はいるか!!」

勇者「!?」ビクッ

騎士「『青年』を連れて参りました、国王」ザッ!

国王「御苦労」

勇者(……な、なんだ? この状況)

ジャラッ

勇者「この手枷…外して貰えますか」

騎士「駄目だ」

勇者(まるで犯罪者扱い……)

国王「青年よ、そなたにはこのワシから話があって呼び出したのだ」

勇者「……国王陛下が私のような職にもついていない若僧にどの様なお話しが?」

国王「ふむ、実はな」

国王「 そなたは選ばれし勇者だと神託があったのだ 」

勇者「………え?」

国王 「魔物共の脅威に晒されている我が国をどうか救ってほしい、勇者よ!!」

勇者「な……………な、………」

勇者(なに……これ、昨日が書記官試験日ならぼくが勇者になるのはまだ2年は先のはず)

勇者(何故いま勇者に……!?)

国王「勇者よ、引き受けてくれるな?」

勇者「ぁ…………」

勇者(……………)

勇者「……」

騎士「フン、明日再び城まで来い」

騎士「改めて貴様の使命を確認させるのと、国王から資金が与えられる」

勇者「100Gぽっちの資金でしょう」

騎士「…貴様、切り捨てられたいか」

勇者「・・・」

「いたいた、勇者おかえりなさい」

騎士「っ、ち……命拾いしたな」ボソッ

勇者「では改めてまた明日」

騎士「フン……」ザッザッ

「今の人は?」

勇者「……騎士団長だよ」

「偉そうだったね、勇者の方が凄いのに」

勇者「どうかな、ぼくなんて………」

勇者「……」

『 「勇者は殺人鬼だー!!」』

『「国王はお前たちを切り捨てた、新たな勇者も見つかったそうだし な」』

『 「話は終わりだ、ここでお前達には死んでもらう」 』

勇者「・・・」

勇者(何一つ、報われない)

「……」

「おめでとー勇者っ、明日から頑張らなきゃね」

勇者「……ありがとう」

「えへへ」

「勇者、今夜泊まる所ないでしょ」

勇者「え……うん」

「噴水広場に行こう? 泊めてくれる親切な人がいるかも」

勇者「??」

ウェイトレス「……」

ウェイトレス(アタシが……アタシが……)

ウェイトレス(親には何て言えば良いのかな)

ウェイトレス(・・・)

勇者「誰もいないよ、もう日が暮れて来たしね」

「えー?」

勇者「どうしようかな」

「ね、あの人は?」

ウェイトレス「………」ウーン

勇者「えーと、すいません」

ウェイトレス「はい!?」ビクッ

勇者「わっ……あの、この辺りで一泊させてもらえる場所ってあるかな」

ウェイトレス「一泊? ……宿屋があるわよ」

勇者「お金なくて…」

「勇者、警戒されてない?」

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