勇者「もうがんばりたくない」 5/12

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王立図書館

勇者「こんにちは、重要閲覧室に入りたいんだけど」

女「これはこれは勇者様! 朝から歴史に興味を持つなんて……え」

勇者「あっ」

女「あの時の……あー、覚えてます? ちょっとぶつかりましたよね!」

勇者「覚えてるよ、凄い偶然」

女「あはは、あの後試験に合格してこの王立図書館の責任者になったんです」

勇者(やっぱり…)

女「まさかあの時の人が勇者様だったなんて、もしかしたら勇者様が応援してくれたから 合格出来たかもしれないですね」

女「それはそうと、何でしたら閲覧室を私が案内しますよ」

勇者「助かるよ、お願いしようかな」

勇者「………」パラパラ

勇者(これじゃない)パタン

女「うーん、東の朽ちた城についてって、ちょっと情報不足ですねぇ」

勇者「地域別の歴史書だと付近のものばかりだしね」

女「『雷帝の年』・『水の月』より以前の歴史書なんて幾らでもありますからねー」

勇者「え?」

女「お忘れですか、今年の中でも今月は最悪ですよきっと」

勇者「そうじゃなくて、年号ってそんな呼び方だっけ」

女「はい?」

勇者「・・・いや、なんでもない」

勇者(そういえば『雷帝の年』って聞いたことあるなぁ)

勇者(何年も旅してると勉強してきた知識が全部うろ覚えみたいになるから・・・)

勇者「ありがとう、また来るよ」

女「はい!」

勇者(やっぱり……ぼくはこの世界でやり直すしかないのか)

勇者(……)ピタッ

勇者(魔王城が、魔王がいないなら……)

勇者(違う、そもそもこの世界に『魔王が存在した形跡が無い』んだ)

勇者(ここにずっと粘りつくような異物感があるのは、多分それが関係してる)

勇者「と思うんだけどな……」

「何が思うの?」

勇者「うわっ……いたの」

「今来たの、そろそろ勇者が出てくるかなーって」

勇者「いつも勘が良いね」

「うん、はい討伐依頼の紙」

勇者「うん?」カサッ

西城下町

勇者(……依頼内容は水溜まりに潜む魔物ってなってたっけ)

勇者(既に数人犠牲者が出てるとも書いてあった)

勇者(届いたのはついさっき)

勇者(なのに・・・)

「助けてくれぇ!」

「イヤァァァ!!」

「だれか、誰かぁ!! ぁあ!?」

ゲルスライム【・・・】ビタッ

ゲルスライム【・・・】ビタッ

勇者(数が多い……!!)

勇者(騎士団は何をしていたんだ……西城下町がこんなになるまで放置するなんて!)チャキッ

商人「うわぁぁあ!!」

ゲルスライム【・・・】ビュルルッ

ズバンッ

ゲルスライム【?】ビチャァ

勇者「近くの建物に入って下さい」スタッ!

商人「は、はいぃ!」

勇者「……!」

モコモコモコモコ……

ゲルスライム【・・・】ビタッ

ゲルスライムB【・・・】ビタッ

勇者(分裂再生……? いや、似てるけど違う)

勇者(短時間で増殖したのは、これのせいか)

ゲルスライム【・・・】シュルッ

勇者(移動なんてさせない……!)ヒュッ!!

トプンッ

ゲルスライム【?】

ゲルスライムB【・・・!】

ドパァアアアン!!

勇者(……)

勇者(『やっぱり』、か)

勇者(四天王の水使いも似たような戦術だから分かる、このゲル状の人形はパーツだ)

モコモコモコモコ………

モコモコモコモコ………

勇者(一体を形作っていた集合体の一部……のはず)

モコモコモコモコ……

アームスライム【………】ミシィッ

勇者(腕…?)

勇者「!!」ヒュッ!!

ガァンッッ

アームスライムB【……】ガラガラァッ

フットスライム【………】スタッ!

フットスライムB【……】スタッ!

勇者(……ぼくの実力を見抜いて集まって来たか、これで周りに被害は無くなるかな)

勇者「来い、私が相手をしてやる」チャキッ

「……♪」ザァーカチャカチャ

「・・・?」

モコモコモコモコ………

「……!」

モコモコモコモコ………

水魔王「くすくすくす、こんにちはぁ」モコモコモコ

「………」

水魔王「昨夜の雨で私、知ってるわぁ? あなた勇者とかいう奴の大切な番いらしいわねぇ?」

水魔王「ちょっと来てもらうわよ、あの男には借りがあるのぉ」

「………」

「乱暴はしないよ……ね」

水魔王「さぁ、どぉかしらぁ?」

勇者「・・・」スタッ!

モコモコモコモコ……ッッ!!!!

水魔人【………】

勇者(実力は大した事は無い、でも周囲の家屋に被害を出さずに奴は倒せない)

勇者(『水』である奴に物理攻撃は時間稼ぎにしかならない!)

水魔人【ッ!!】ブォンッ

勇者「……」ヒュッ

ズバンッ! スパスパスパパパパパンッッ

水魔人【……!】バシャァ

モコモコモコモコ……ッッ!!!!

水魔人【………】

勇者(キリがない……)

水魔人【……!】ビュルルッ

勇者(しまっ……地面に溶け込んで…!)

ガシィッ

勇者「うぁ!」ガクッ

ビュルルッ!!

ブォンッ!!

勇者「!?」

ドゴンッ・・・!

勇者(ぐあ……っ、コイツ思ったよりキツい一撃を……)

勇者「破ァッ!!」

水魔人【!?】バシャァ

勇者「……!」ヒュッ

スタッ!

勇者(四天王には程遠い……でもコイツは新しい意味で苦戦しそうだ)

水魔人【・・・】モコモコモコモコ

勇者「……」

モコモコモコモコ………

勇者「?」

勇者(なんだ? 新手?)

モコモコモコモコ………

水魔王「はぁーい?」

「・・・勇者」

勇者「なっ……!?」

水魔王「状況が理解できたなら武器は捨てなさいなぁ?」

勇者(なんで、なんであの子が……)ガシャン

勇者「………」

水魔王「こんにちはぁ、私が誰か分かるかしら?」

勇者「さぁ、水の魔王ってところかな」

水魔王「それだけじゃないわよぉ! あなたが2ヶ月前に殺した『雷帝』のとーっても大切な友達よぅ!」

勇者「目的は復讐?」

水魔王「その通り」

勇者「………」

勇者(それで、あの子を……)

「勇者、勇者」

勇者「なんだい」

「さっき聞いたの、あの女の弱点は……」ボソッ

勇者(……なるほど)

「どのタイミングで逃げたらいいかな」

勇者「……」

勇者(待ってて、すぐに迎えに来るから)

「うん、分かった」

水魔王「何をひそひそ話してたのかしら?」

勇者「何だろうね」

水魔王「まぁいいわ、どうせあんたは動けないし」

勇者「そうかもね」

ヒュッ!! スタッ!

水魔王「は?」

水魔人【!】

勇者「……『本体が出てきたのは失敗だったな』」

バシュンッッ

バシュンッッ

ヒュルルルルル・・・

水魔王(なっ!? なんで私、空から落ちてるの!?)

水魔人【……!?】

勇者「破ァッッ!!」

バチュンッッ!!

水魔王(嘘……私の分身が一撃で………)ゾク

水魔王「こ、の……ォッ!!」ザシュンッッ

バシュンッッ

水魔王(また瞬間移動…っ)

バシュンッッ

勇者「・・・」ピトッ

水魔王「ひっ……」

西城下町

「んしょんしょ……うぁ、ぬるぬるするよ」ニュルニュル

(・・・私を拘束してるスライムより、勇者大丈夫かな)

(大丈夫、だよね)

ニュルニュル……ッ

(あ、外れそう)

ニュル!

「ふぅ、まだペタペタする」

「………」クスクス

(かっこよかったな……私が人質になってるの見た勇者……)

(早く戻って来ないかな、勇者)

水魔王「ほ、本当よぉ!! 『マオウ』なんて見たことも聞いたこともないわぁ!!」

水魔王「もう許して……もうあんたには関わらないからぁ!」

勇者「………」

水魔王「ひぐ……痛いよぉ……なんで急に再生出来なくなったの……」

勇者「今の君は半分凍りついてるからだよ、 だから液体化出来ないんだ」

水魔王「凍りついてる……?」

勇者「最後に質問に答えてもらう、いいね?」

水魔王「は、はいぃ」

勇者「・・・他に、君達みたいな知能を持った魔物はどのくらいいる?」

ズバンッ

バシャァ……ジュゥゥ

勇者「……」チャキッ

勇者(いる、後二人……)

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