魔人「・・・間違いでは?」 11/11

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メイド「・・・・・・・・・」

魔人「・・・あな、たに、嘘、を・・・」

メイド「・・・ねーさん」

魔人「・・・!」

メイド「ねーさんは、兵士さんのこと、好きでしょ・・・?」

魔人「―――っ」

メイド「・・・ねーさんに、嘘をつかせたのは、私っスよ・・・」

魔人「違・・・」

メイド「それを、私は、ねーさんを・・・」

メイド「・・・ねーさんを、傷つけて・・・」

魔人「違うっ、私が、あなたを傷つけた・・・!」

魔人「・・・ごめんなさいっ、私は・・・!」

メイド「謝らないでって、ねーさん、私・・・」ボロボロ

魔人「あなたこそっ、どうして・・・」ボロボロ

メイド「・・・ねーさん、ごめん、なさい・・・」

魔人「私・・・、ごめんなさい・・・」

メイド「ごめんなさい、ごめんなさい、ねーさん・・・」

魔人「私の方が・・・、ごめ、ごめんなさっ・・・」

メイド「・・・ねーさぁぁぁん・・・」ガバッ

魔人「・・・っ」

メイド「ねーさん、ねーさんねーさん・・・!」ギュッ

魔人「・・・・・・・・・」ギュウゥ…

―――結局、同じだった。

     私は彼女を泣かせてしまって、

     彼女は私を泣かせてしまった。

     それを悩んで、泣きながら悩んで、

     そして泣きながら、謝ったのだ。

     許すとか、許さないとか、

     そういうものは、最初から無かった。

     ただ、謝りたくて、戻りたくて、

     私も彼女も、

     謝って、

     泣いた。

―――数日後。某・温泉

カポーン…

魔人「・・・ふぅー・・・。やっぱり、いいものですね、温泉は・・・」チャポン

メイド「・・・・・・・・・」チャプ…

魔人「どうしました?気に入りませんか?」

メイド「・・・いや、気持ちいーっスけど・・・」

―――ついに『魔人の村』に、『人間』が向かう日がやってきた。

勇者『どうせなら一緒に、里帰りでも。どうだ?』

姫様『行こーぜ、ねーちゃん!』

魔人『はぁ・・・。他に、何人か行くのですか?』

勇者『いや。俺達二人、ねーちゃん入れたら三人の予定』

魔人『・・・他に、誘ってもよろしいでしょうか』

姫様『あん?別にいいけど・・・。あんまり多くちゃ駄目だからな、一人ならいいよ』

姫様『誘いたい奴でもいるのか?』

魔人『・・・ええ、まぁ』

メイド「・・・それが、なんで私なんスか・・・!」

魔人「・・・嫌でしたか?てっきり興味があるものかと・・・」

メイド「い、いや、来たかったっスけど・・・。ってそーじゃなくて!」バシャン

魔人「・・・はぁ、なんでしょう」

メイド「私じゃなくて、『彼』を誘えばよかったじゃないっスかぁ!チャンスだったのに!」

魔人「・・・ああ、それも少しは考えたのですが・・・」

メイド「・・・か、考えたんスね・・・」ブクブク

魔人「・・・でもやはり、この温泉に一緒に入りたかったのは、あなただったので・・・」

メイド「・・・っ!」

魔人「・・・ごめんなさい、迷惑なら・・・」

メイド「・・・め、滅相も無い・・・、滅相もないっス・・・」ブクブクブク

魔人「・・・?おかしな人ですね・・・」

メイド「おかしいのは、ねーさんのほうっス・・・。絶対後で、後悔するっスよ・・・」

―――『彼』のことは、保留にしておいた。

     私も彼女も、彼のことは好きだったが、

     考えれば考えるほど、お互いに遠慮してしまいそうだったので、

     答えがハッキリするまでは、保留にしておくことに、二人で決めた。

メイド『私たちは敵ではなく、ライバルなんスよ!!どーっスかこれ?かっこよくないっスか!?』

―――いずれまた、衝突することは避けられないのだろうけれど、

     ソレまでにはきっと、私ももう少し上手く『恋』を扱えるようになっていると思うので、

     いまはまだ、考えなくてもいいかなぁ、と思っている。

メイド「・・・しっかし、よくこんな温泉作ったっスねー」チャプチャプ

魔人「近くに温泉が沸く洞窟があったので、運んで見たんです」

メイド「えっ・・・、コレ、ねーさんが作ったんスか!?」バシャ!

魔人「はぁ、まぁ・・・。入りたかったので・・・」

メイド「・・・す、すごいっスね、『魔人』の行動力って・・・」

魔人「そうですか?まぁ、大変でしたけどね。一年くらいかかりましたし」

メイド「一年も!?どんだけ風呂好きなんスかねーさん!!??」バシャン!

魔人「これだけが心残りだったんですよ・・・、はぁ。たまに入りにこよう・・・」チャポン

メイド「・・・はぁ、そんなんで彼にアタックできるんスかぁ?」

魔人「・・・それは、あなたにだけは言われたくありません」

メイド「なっ・・・!」

魔人「私は酒盛りが始まれば、彼と必然的に二人きりですし・・・」

メイド「・・・わ、私なんて名前覚えてもらえたんスからねー!」

魔人「・・・そういえばこの間、飲みに誘われた返事をしていませんね・・・」

メイド「そっ・・・、ソレは聞いてないっスよねーさん!?」

魔人「なんでもかんでもあなたに話さなければいけないのですか?」

魔人「それに、それを言うなら私はあなたの『名前の件』も知らされてないのですが」

メイド「・・・あー、ねーさんが一人で『村』に来れば、チャンスあったのになー・・・!」

魔人「・・・っ」

メイド「・・・ね、ねーさん?」

魔人「・・・そっ、私は、そんな理由で、さ、誘った、わけでは・・・」グスッ

メイド「わーっ!冗談冗談!ねーさん、泣くのは反則っスよっー!!」バシャバシャ

―――『村』は、もう夕日が傾きかけていた。

     露天風呂からみるこの景色が、私は好きだった。

メイド「・・・わぁー、綺麗っスねぇ・・・」チャポン

魔人「・・・でしょう?誰にも教えて無い場所なんですよ、ここ」

メイド「へ?そーなんスか?勿体無い、こんなに綺麗なのに・・・」

魔人「私だけの、秘密の場所だったんですよ」

メイド「・・・私に教えて、良かったんっスか?」バシャッ

魔人「・・・ええ」

魔人「・・・誰かと話しながらこの景色をみるのもいいな、と思ったんです」

メイド「・・・・・・・・・」

―――正確には、『誰か』ではない。

魔人「どうやら、正解だったみたいですね」

メイド「・・・ねーさん・・・」

―――でもそれは、内緒だ。

メイド「・・・ねーさーんっ!」バシャン!

魔人「ひぁ・・・!なななななんですか・・・!?」

メイド「ねーさんねーさんねーさん!」バシャバシャバシャバシャバシャ

魔人「やめ、なんですか急に、ちょ、やめて・・・!」

メイド「ありがとーっス!教えてくれて・・・」ギュッ

魔人「・・・気に入ってきれましたか?」

メイド「最高っス。ねーさんとこれて、良かった・・・」ギュウゥ

魔人「・・・・・・・・・」

―――私は『魔人』として、『人間』と暮らしていく。

     学ぶことがたくさんあって、

     私は少しずつ、自分が豊かになっていくことを感じる。

魔人「・・・私もそう思いますよ」

魔人「あなたとこれてよかった」ギュッ・・・

―――ソレは決して楽なことではないけれど、

     悩んだ後はなぜか、嬉しいのだ。とても。

メイド「・・・・・・・・・」ピタッ

魔人「・・・どうしました・・・?」

メイド「・・・ねーさんが、デレた・・・」

魔人「で、デレ・・・!?」

メイド「今のそーっスよね?ね!?そーでしょねぇー!?」ザパァ!

魔人「な、なにが、なんのことですか!?」

メイド「だーかーらー、ねーさんが私のこと好きってことっスよー!!」バシャバシャ

魔人「・・・そ、そんなこと言ってません」

メイド「でもそーいう意味っスよね?照れない照れない、私もねーさんのこと大好きっスからー!!」

魔人「か、勝手に想像しないでください・・・!」

―――『魔人』と『人間』は似ている。

     私が恋している、『人間』の言葉だ。

     その通りだ、と思う。

     だって私たちは、

     同じ人を好きになって、

     同じように、恋している。

―――そして、

     私たちは、お互いに――・・・

メイド「認めないつもりっスか?無駄っスよ!今のは絶対!」

魔人「・・・そ、そんなもの・・・」

メイド「ほらほら、ねーさん!」

魔人「・・・なにかの・・・」

メイド「ねーさん!!」

魔人「・・・間違いでは?」

・・・――好き合っている。確かに。

fin.

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