魔人「・・・間違いでは?」 1/11

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―――城の門が見えたとき、改めて「何故こんなところに来てしまったのか」、と感じた。

     しかし、「君が適任だと思うんだ」というかつての上司の言葉を思い出し、

     同時に、特別反対する気持ちが起こらなかったことも、思い出した。

魔人「・・・間違いでは?」

兵士「・・・しかし、本日入城許可は降りていないのですが・・・」

魔人「・・・おかしいですね。本日挨拶に向かうと、事前に打ち合わせていたのですが」

兵士「うーん。『村』関係ならば、話は違ってくるかも知れませんね・・・」

兵士「・・・どっちにしろ、確認までしばらく時間はかかると思いますが・・・」

魔人「・・・困りましたね。どうしましょうか・・・」

勇者「・・・ん、おーい」

魔人「・・・あ」

兵士「あ、勇者さん。ちぃーっす」

勇者「ちぃーっす、じゃねーよ。お前な、いい加減俺に対する態度改めろよ」

兵士「勇者さんの王様に対する態度見てたら、説得力ないっすよ・・・」

魔人「・・・どうも、お久しぶりです」

勇者「ああ、いらっしゃい。えーっと・・・、部下さん?秘書さん?」

魔人「・・・どちらも、『元』です。現在は、『村』の住人です」

勇者「そーだったそーだった。いらっしゃい、魔人のねーちゃん」

魔人「・・・ねーちゃん・・・」

兵士「勇者さん、どーいうことっすか?今日の入城許可は・・・」

勇者「俺が誰も入れねーようにしたんだよ。なんかあっかも知んねーからな」

魔人「・・・・・・・・・」

―――結局、自分は歓迎されていないのだと思った。

     『魔人の村』が認められてからまだほんの一ヶ月しか経っていないのだから、当然だ。

勇者「・・・あ?なんか勘違いしてんだろ、ねーちゃん」

魔人「・・・なんのことでしょうか」

勇者「今のは別に・・・、いや、そう取られても仕方ねーか。悪ぃ悪ぃ」

勇者「別に、ねーちゃんが危険だとか、そーいうこと言ってるんじゃねーんだ」

魔人「・・・・・・・・・」

勇者「・・・ただ、まだ『魔人』は、完全になじんじゃいねーからな」

勇者「ねーちゃんに何かあってからじゃ遅ぇだろ、そーいうことだよ」

魔人「・・・言い訳にしか、聞こえませんが」

勇者「・・・かっ、その通りだわな。申し訳ねー。・・・んじゃ、まぁ入れよ」

兵士「・・・王様や姫様に許可は取らなくていいんですか?」

勇者「許可済みだっつの。大切なお客様だぜ?ほら、どいたどいた」

魔人「・・・・・・・・・」ペコリ

兵士「・・・わかりました、ようこそ」

―――王の間

王「・・・よぉ、いらっしゃい。ご苦労だったな」

魔人「・・・いえ、そういう約束でしたから」

姫様「うおーっ、ねーちゃん久っしぶりー!元気だったか!?」

魔人「・・・え、ええ。まぁ」

姫様「魔王城で別れて以来だろー?あんときゃまともに挨拶できなかったからなー」

姫様「すっげー引っかかってたんだよ。悪かったな。色々世話になったのに」

魔人「・・・いえ、お礼を言うのは、こちらのほうですから」

姫様「相変わらず固ぇなー。・・・胸は、こんなに柔らけーのに・・・」ツン

魔人「ちょ・・・!や、やめなさい・・・!!」バシッ

姫様「痛・・・。父上、ねーちゃんはな、怒ると超怖ぇんだぞ」

王様「・・・おめーが怒らせるよーなことすっからだろ・・・。失礼すぎんぞ・・・」

勇者「・・・つーわけで、王。コイツが、例の・・・」

王様「・・・ああ、そーだったな・・・」

王様「・・・改めて、ようこそ我が国へ」

王様「手当てはいくらでも出っから、いくらでものんびり過ごしてってくれ」

魔人「・・・分かりました」

―――そう。

     『魔人の村』と、それを引き込んだ『国』とのあいだに結ばれた条約。

     それは、研修という名目で、お互いの住人を一人、つまり・・・。

     人間と魔人を交換し、自分の『領域』に住まわせるというものだ。

     こうすることで、お互いの異文化を持ち帰り、お互いの種族の発展となる。

     ・・・という建前で、お互いの種族をそれぞれ、『人質』に取ることが出来る。

姫様「今日からこっちに住むんだよな?荷物は?」

魔人「ええ。先ほどの兵士様に預けさせていただきました」

―――決して、互いを信頼していないわけではない。

     そうでなければ、ここまで歩み寄れない。

     しかし、事が起こってからでは、遅い。

     他国への言い訳にもなる。

     何重にも保険を重ねた結果の、条約。

     自分で策士を名乗るだけはある、と素直に関心した。

     他でもない、この目の前の、国王の提案だった。

王様「住むとこは決まってんのか」

魔人「いえ・・・、本日の午後を使って、ゆっくり決めようかと」

姫様「はぁ?そんな悠長な・・・」

魔人「少し融通が利くかと思いまして。ご迷惑だったでしょうか・・・」

王様「いや、そんなもんいくらでも利かせてやるけど、そうだなぁ・・・」

―――私は、今日から人間の町である、この城下町に住む。

     紛れも無く、『人間の町』だ。ここには魔人は一人もいない。

     心苦しい、とは思わない。魔人は、そういった感情には疎いはずなのだ。

     しかし、不安に感じないわけではない。

     この町には、魔人はただの一人も、いないのだから。

王様「・・・いっそ、このまま城に住んじまうのはどうだ?」

魔人「・・・は?」

姫様「おー!いいじゃんいいじゃん、住んじゃえよ!そっちのほうが楽しーし!」

魔人「・・・し、しかし・・・」

勇者「あー、そっちのほうがいーんじゃねーの。いろいろ楽だぞ、ここは」

魔人「・・・よろしいのですか・・・」

王様「もちろん、むしろこっちの我侭だ。よろしく頼むわ」

魔人「・・・それでは、お世話になります」

姫様「やっほぅ!部屋に遊びに来いよねーちゃん!あっ、先に部屋選ぶか!?」

魔人「・・・選ぶなんてとんでもない、私はどこでも大丈夫ですから・・・」

勇者「遠慮すんなっての。どーせならいい部屋に住もうぜ、使ってねー部屋いっぱいあっから」

王様「おめーが言うな、おめーが」

魔人「・・・あ、それと。お仕事ですけど・・・」

王様「あぁ?いいんだよ、仕事なんて。むしろ、この町に住むことが仕事みてーなもんだろ?」

魔人「ですが、流石にお世話になりっぱなしでは、肩身が狭いですよ」

勇者「・・・ほんっとに、頭が固ぇんだから。遊んで暮らせるよーなもんだぜ?」

姫様「そーそー!むしろこっちが羨ましいぜそんな生活!」

王様「・・・おめーらも見習えよ、少しは」

魔人「・・・それでは、部屋に荷物を運んでから、仕事を探してきます」

王様「元々、なにしてたんだっけ?あの、魔王の下で」

魔人「・・・あのときは・・・」

勇者「秘書、だっけ?側近というか、サポートしてたんだろ?魔王の」

魔人「秘書だなんて、そんな・・・。ただの部下です」

姫様「でも、飯とか風呂とか用意してくれたの、ねーちゃんだったよな?」

魔人「・・・はい、家事はどちらかといえば、得意なので」

勇者「めずらしーんじゃねーか?そんなマメな魔人ってのも」

魔人「・・・そう、でしょうね。私は、綺麗好きな性分ですので・・・」

王様「・・・ふむふむ。んじゃ、ピッタリな仕事があるじゃねーの」

魔人「・・・ピッタリ、ですか?」

王様「ああ。しかも、城の中で出来る。完璧じゃねーか」

魔人「それって・・・」

王様「・・・メイドさんだよーん」

王様「おい、おい我が娘、一着持ってきてみ?」

姫様「しゃきーん。もう既に持ってきてある」

勇者「流石姫、いい仕事したな」

魔人「えぇ!?用意良すぎませんか!?」

姫様「ふっふーん。常に先を見通すのが、政治の基本ぜよ」

魔人「見通しすぎでは!?もうエスパーの域じゃないですか!」

王様「いいからほれ、早速着てみろって。ほらほら」

魔人「え、で、でも、サイズが・・・」

姫様「揉んだから大体あってると思う」

魔人「うぇぇ!?なんですかそのトンデモ能力!」

姫様「・・・はい、はいっ!着替えるから男ども、出た出た!」

王様「ガッテン!」ダッ!

勇者「任せとけ!」ダッ!

魔人「ちょっ・・・、無駄な団結力・・・」

バタム

女兵士「姫様、呼びましたかー?」

姫様「おう、着せんの手伝ってくれ」

魔人「・・・よ、よろしくおねがいします」

女兵士「あっ、始めまして。確か魔人さん・・・、でしたよね?」

魔人「は、はぁ」

女兵士「わー、すっごい綺麗。スタイルもいいですし・・・、メイド服着られるんですか?」

姫様「うちのメイドとして働くことになったんだ」

魔人「え、ま、まだ決まったわけでは・・・」

女兵士「賛成です、賛成!さ、さ、早く着替えましょう早く!」

魔人「わ、分かりましたよ、って、え!?じ、自分で脱ぎますから・・・!」

女兵士「いーからいーから」

魔人「えっ、な、なんでそんなに脱がすの上手い・・・、し、下着は脱がなくてもいいでしょう!?」

姫様「・・・呼んどいてなんだけど、ほんっと恐ろしい女だなコイツ・・・」

女兵士「サイズは・・・、胸、大きいですねー」

魔人「いや、そんな・・・、あなたほどでは・・・」

姫様「・・・何食ったら二人とも、そんなにデカくなるんだ?」

女兵士「やだなぁ、姫。これからですよー!」

姫様「くっ・・・!その子供扱いもムカツクんだが・・・!」

女兵士「それに、おっぱいがある姫なんて姫じゃないみたいな・・・、ああもう可愛いな」ギュッ

姫様「おぅ、だ、抱きつくなよバカ・・・!い、今はこっち、メイド、メイド・・・!」

魔人「・・・に、人間とは、恐ろしいものですね・・・」

姫様「あらぬ誤解を受けている!?離れろっての!疑われてるぞ!!」

女兵士「私には、疑われて困ることなど何一つないので・・・」ギュゥゥ

姫様「私にはあるっつーのぉ!おい、バカ、うっ、苦し・・・!」

魔人「・・・・・・・・・」

姫様「ひ、引かないでくれぇぇぇぇ、誤解なんだぁぁぁぁぁ」

魔人「・・・一応、着れましたが」

姫様「・・・おー、なんつーか、似合うな・・・。うん、美しいぞ!」

女兵士「ちょっと回ってもらってもいーですか?」

魔人「回る・・・?こう、ですか?」クルリ

姫様「おーおー!綺麗だなーなんか、様になってるというか・・・」

女兵士「私個人的にはもっとスカートのタケを・・・、失礼しますね」

魔人「ひゃあ!?きゅ、急に腰を触らないでください!!」

女兵士「え?ここですか?ここ、好きなんですか?」サワサワ

魔人「ちょ、まっ、お、怒りますよ仕舞いには・・・!」

姫様「ばっ・・・!お前炭にされるぞ!その辺にしとけっ!!!」

女兵士「ちぇー、つまんないの・・・。これで、どうですか?」

魔人「んっ・・・、短くありませんか、これ・・・。スースーする・・・」

姫様「女装した男子か」

ガチャリ

王様「・・・終わったか」ヒョイ

姫様「終わったけど・・・、ノックも無しに入るとは何事か」

王様「畜生終わってたか・・・」

姫様「・・・・・・・・・」ゲシッ、ゲシッ

王様「痛、痛い、煩悩口から漏れてた。油断したんだ、蹴んな・・・」

勇者「んで、ねーちゃんは・・・」

女兵士「じゃーん、いかがでしょう?」

魔人「・・・ん、き、着れましたが・・・」

勇者「・・・・・・・・・」

王様「・・・・・・・・・」

魔人「・・・あ、あまりジロジロと、見ないで頂きたいのですが・・・」

王様「・・・俺は、今日ほど王様やってて良かったと思ったことは無いかもしれない」

魔人「えぇー・・・、それって上に立つものとして最低の感想じゃないですか・・・?」

勇者「・・・うん、エロい」

魔人「そんなあけすけな・・・!!」

女兵士「そうでしょ?そうでしょ?」

勇者「・・・だがな。やはり、こんな国王でも、やっぱり王は王だ」

王様「こんな国王って言われた・・・」

勇者「・・・やっぱり、その下で働くとしたら、それなりのケジメは必要なんじゃねーか?」

魔人「あ・・・」

女兵士「・・・っ」

勇者「・・・なんつーかまぁ、俺が言いたいのはな、とにかく・・・」

勇者「・・・スカートが長いからこそのメイド服なのではないかと・・・!」

魔人「結局あなたの趣味の話ですか!?一瞬聞き入ってしまっていた自分が悔しい!!」

女兵士「・・・私が・・・、間違っていました・・・!!」ガクン

魔人「こ、こっちはこっちで膝から崩れ落ちてるし・・・!なんなんですかこのテンション!?」

女兵士「魔人さん・・・!スカート下ろしましょう・・・!これじゃあただのコスプレ風俗です・・・!」

魔人「あ、あなたがやったくせに風俗扱いですか!?せめてメイド喫茶くらいに・・・!」

姫様「あー、これも好きなんだけどなー、もったいねーなー」

勇者「タコ、清楚さあってこそのメイドだ、履き違えんな」

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