王様「ああその通りだ。見えてあたりませのパンツ見たって、達成感ねーもんな」
姫様「・・・男って・・・」
魔人「・・・って、ていうか、ぱ、パンツ見る気だったんですか・・・!?」
王様「違っ・・・、やべー口から出てた!今日の俺チャック緩くね?」
姫様「知らねーよ・・・、私は娘として、本気で父親に近づきたくなくなってきたよ・・・」
王様「あらやだ娘が反抗期」
女兵士「はやく下ろしてくださぃぃぃ!!破廉恥ですからぁぁぁ!!」ガクガク
魔人「分かりま、ちょ、腰を、揺さぶらな、んっ、じ、自分でやりますから・・・!!!」
魔人「・・・で、では、これでよろしいですか」
勇者「完璧」
姫様「美しい」
女兵士「非の打ち所もない」
王様「抱き枕にしたいくらい痛っ」ガスッ
魔人「き、着替えるだけで一体どのくらいかかっているのか・・・」
姫様「・・・冗談はさておき、それじゃあメイドの仕事、これから頼むなー」
魔人「・・・はい、お任せください」
―――こうして、魔人であるはずの私の、
決してこれまで、人間と交わる事が無かったであろう魔人の、
『城に仕えるメイド』としての生活が、始まるのであった。
―――城・メイド館
姫様「・・・んじゃ、これから案内するけど・・・」
魔人「はい、ありがとうございます」
姫様「うちの城では、メイドはみんなこの『メイド館』で生活してる」
姫様「飯とかはみんな食堂で食わせるようにしてるし、風呂も好きに使っていーんだけど・・・」
魔人「・・・!お風呂、ですか」
姫様「んー?・・・まぁとにかく、寝たり、メイドたちの会議だったりは全部ここだ」
姫様「だから、生活はほぼココですると思ってくれていーよ」
魔人「・・・わかりました」
姫様「あと、まぁここまでの空気で分かる通り・・・」
姫様「私も父上も、勇者も、上下関係ってのがどーも苦手でなー」
魔人「・・・・・・・・・」
姫様「・・・ま、お偉い立ち位置だからこそこんな勝手なこと言えんのかもしれねーけど」
姫様「とにかく、テンプレートにメイドとして従わなくて、いーから」
魔人「・・・と、いいますと・・・?」
姫様「下手に謙譲語になったりとかさー、『ご主人様』とかさー・・・」
姫様「くすぐったくてしかたねーよな。そんなん言われて喜ぶのは、成金かオタクだっつの」
魔人「はぁ」
姫様「後は、私らの言うことに絶対服従ってのもやめてくれよな」
姫様「間違ってると思ったら、従わなくていーんだ。上の言うことがすべて正しいわけじゃねー」
魔人「・・・なるほど」
姫様「・・・まっ、それを口実に仕事されなくなるのも困るんだけど・・・」
姫様「・・・まぁ、ねーちゃんは大丈夫だろ、うん。頼んだわ」
魔人「・・・わかりました」
―――正直、意外だった。人間は、絶対的な上下関係で支配されていると思っていたから。
しかもそれは、ただの弱肉強食ではなく、
『権力』という目に見えない、酷く曖昧なものだ。
私の知識が間違っているとは思わないから、ここの人間たちが特別なのだろう。
先ほどの、一見無遠慮な応酬も、
もしかしたら目に見えない、信頼の現われなのかもしれない。
姫様「・・・じゃ、仕事とかは空気とか、他のメイドを見てればつかめると思うから」
姫様「とりあえずメイド長に一緒に挨拶して、それからメイド達んとこにいこう」
魔人「はい」
姫様「そろそろ勤務時間も終わると思うんだよなー、あ。勤務時間とかも、他のメイドに聞いてくれよ」
姫様「はずかしー話だけどよ、メイドの顔は全部覚えてても・・・」
姫様「普段、メイドが何してくれてるかなんて、数えるくらいしかわかんねーんだ。情けねーな」
魔人「・・・いえ」
―――その、『目に見えない信頼』とは、すごく暖かいものである気がした。
そんなこと、思ったことも無かったから、
初めての感情に、少し、戸惑う。
ガチャリ
姫様「・・・おーっす、メイド長。居る?」
メイド長「あらあら、姫様。珍しいですねこんな時間に。なにか用事ですか?」
姫様「あー、ちょっとな。時間大丈夫か?」
メイド長「ええ、もう書類も片付きまして・・・。さ、入ってください。お茶でも入れます」
姫様「悪ぃな。・・・ほら、ねーちゃん」
魔人「は、はい」
メイド長「あらあら?そちらの方は・・・、お友達?」
魔人「いえ、えっと・・・。始めまして」
魔人「これからここで、お世話になります」ペコリ
姫様「・・・ねーちゃんだ。まず、挨拶に来た」
メイド長「あらあら、ご丁寧にどうも・・・。さ、座ってくださいまし。ゆっくりお話は聞きますわ」
姫様「おーう。・・・さ、入れよ。メイド長の入れる紅茶はな、超旨いんだ。私もたまに飲みにくる」
メイド長「最近飲みに来てくださらないから寂しかったですよ。・・・せっかく、いい葉っぱが入ったのに」
魔人「―――ん、おいしい・・・」ゴクン
姫様「だろー?なーんか、旨いんだよなー」ズズッ
メイド長「あらあら、気に入ってくださってよかったですわ」
魔人「なんだろ・・・、葉っぱが違うのかな・・・、それとも、水が・・・」
メイド長「・・・あらあら!分かりますか?そうなんです、葉っぱのほかに、お水もこだわってまして・・・」
魔人「お水一つでこんなに変わるものなんですね・・・」
メイド長「まー、わかっていただける方がいらっしゃるとは!嬉しい限りですわ!」
姫様「・・・旨けりゃいーんじゃねーのー」ズズッ
メイド長「あらあらそれではいけませんよ姫様。淑女の嗜みとして、良いものを選べるようになりませんと・・・」
姫様「・・・はーじまったぁ。長ぇーんだよ、これが。噂の『クドクドメイド長』」
メイド長「んなっ・・・!?そ、そのような陰口を叩かれておりますの・・・!?一体どなたが・・・!」
姫様「信頼の上に成り立っておりますので、情報提供者の個人情報に関しては一切答えかねます」
メイド長「か、頑なにいらん知識ばかり身につけてしまって・・・!」
魔人「・・・ほんと、おいしい。なんの葉っぱかな・・・」ズズ・・・
メイド長「・・・確か、あなたは・・・」
魔人「・・・!」
姫様「・・・ああ、そうだ。『村』から条約で来た、『魔人』だよ」
魔人「・・・・・・・・・」
―――『魔人』と呼ばれることに、少しだけ居心地が悪く感じるようになっていた。
何故だろう、ここに来てからずっとだ。
自分は『魔人』なのだから、『魔人』と呼ばれるのは当たり前のことだし、
私自身、人間は『人間』だし、花は『花』、鳥は『鳥』と呼ぶのだから、
そこに居心地の悪さを感じるのは、身勝手で、余計に嫌な気分になる。
メイド長「・・・そうですの」
姫様「ねーちゃんはなぁ、一ヶ月前、結構世話んなったんだよ」
姫様「家事は一通りこなせるらしい。メイドには持って来いだと思ってな」
メイド長「あらあら、それは心強いですわね」
―――そして、自分が『魔人』だと知った後の、ほんの少しの間。
それが、たまらなく不安になってきた。
先ほどまで、楽しく紅茶の話をしていた彼女との間に、
見えない壁が、出来てしまったかのように、思えてくる。
魔人「・・・・・・・・・」
メイド長「・・・?どうかしました?」
姫様「・・・ねーちゃん?」
魔人「・・・私は、魔人ですが・・・」
魔人「・・・それでも、精一杯、やりますので・・・」
―――気分を悪くさせたと思う。
でも、そう言うしかなかった。
自分で言ってしまったほうが、楽は楽だ。
決して、人間になりたいわけではない。
私は、自分自身が魔人であることに、少なからず誇りを持っているつもりだ。
これは、簡単に覆えることでは、ない。
魔人「・・・どうか、その・・・、よろしくお願いします」ペコッ
―――昔の上司と、その元を訪れた人間の女ことを、思い出していた。
あの二人が特例なだけで、実際にあそこまで上手く行くはずが、ないのだ。
そんなはず、ない。私達の間には、見えない確かな『溝』がある。
メイド長「・・・あなたには」
魔人「・・・はい」
メイド長「・・・『メイド魂』はありますか」
魔人「・・・は?」
メイド長「『メイド魂』はあるかと聞いているのです」
魔人「は、え?・・・『メイド魂』・・・?」
姫様「・・・でた、メイド論」
メイド長「なんと呼ばれようとも結構。・・・で、どうなのですか?」
メイド長「主に身を粉にして従えと言っているのではありません」ズイッ
メイド長「求められるありとあらゆる知識経験技を習得するつもりがあるのかと」ズズイッ
メイド長「そしてそれらすべてを自ら切磋琢磨し磨き上げていく覚悟があるのかと」ズズズイッ
メイド長「そしてそして日々怠ることなくそのすべてを己の鍛錬とし精進させていけるのかと」ズズズズイッ
魔人「・・・っ!?」
メイド長「・・・聞いているのでございます、魔人の君」
魔人「・・・それって・・・」
魔人「・・・誰かの役に立つ覚悟があるのか、ってことですか・・・?」
メイド長「あなたがそう取るのならば、それで結構」
メイド「・・・して?その覚悟はおありで?」
魔人「・・・私は・・・」
―――求められるのであれば。
必要とされるのであれば。
魔人「・・・誰かの役に、立ちたいです・・・」
メイド長「・・・・・・・・・」
姫様「・・・・・・・・・」ズズッ
魔人「・・・・・・・・・」
メイド長「・・・それが、あなたの『メイド魂』ですよ」パシッ
魔人「・・・え?」
メイド長「一流のメイドに必要なのは、知識でも経験でも技でもなく・・・」ギュッ
メイド長「・・・強い意志で、ございます」
メイド長「強い意志を持つものが、一流になれる・・・」
メイド長「・・・そこに、人間だの魔人だの、そんなつまらないもの、必要ありませんよ」ニコッ
魔人「―――ッ」
姫様「・・・もう済んだかー」
メイド長「・・・あらあら、なんのことですの?」
姫様「まったく、大した熱血だよ」
メイド長「メイドたるもの、常に熱いパトスは持ち合わせませんと」
姫様「・・・そんなもんかー・・・。まぁいいけど。メイド長!お茶温くなった!新しいの!」
メイド長「はいはいただいま~・・・」
魔人「・・・・・・・・・」
姫様「・・・面白いだろ、メイド長?」
魔人「・・・は、い。すごく・・・」
姫様「本人が聞いたら喜ぶよ。アレから学ぶことは結構あると思うからー」
魔人「・・・まったくです」
メイド長「あらあら、クッキーを見つけましたわ。他のメイドのものですが、まぁいいでしょう」
メイド長「さっ、食べましょう、魔人さん。おいしいクッキーですわよ」
魔人「・・・はい。いただきます」
―――メイド館・宿泊部屋
メイド長「二人で一部屋使うのが、原則となっていますの」
魔人「なるほど・・・」
メイド長「現在、メイドの人数が奇数ですから、一人入れますわ」
魔人「だ、大丈夫でしょうか・・・、私なんか、その・・・」
メイド長「・・・魔人さん?」
魔人「は、はい」
メイド長「あなたはこれから同じメイドの身。私達とは変わらない、メイドでございます」
メイド長「そこに、『魔人だから~』という、特別扱いは、適応されませんからね?」
魔人「そ、そんなつもりでは・・・」
メイド長「・・・わかっていますよ、そんなこと。だから、そんなに自分を追い込まないで?」
魔人「・・・わかり、ました」
メイド長「結構。・・・では、この部屋です」
魔人「・・・・・・・・・」ドキドキ
メイド長「・・・私です。はいりますわよー」コンコン
ガチャリ
メイド長「・・・あら?」
メイド「・・・うべへ!?げほ、げっほ!な、何でばれたんスか・・・!?」
メイド長「あらあらあら?あなた、まさかまた・・・」
メイド「違っ、誤解っスよげほっ、ちょ、チョコレートなんて喰ってねーっスよ!?」
メイド長「・・・一人部屋だからって・・・、毎晩毎晩消灯間際にお菓子を食い漁って・・・」
メイド「だ、だって、甘いもん喰いたくなったりするじゃないっスか!こ、これは・・・!」
メイド長「部屋での隠れ食いは禁止のはずですわよね・・・?部屋は汚れるし太るし損ばっかり・・・」
メイド「き、綺麗に食べてるし、わ、私太らない体質だしそれに・・・、と、糖分は脳をリフレッシュする効果が・・・!」
メイド長「・・・問答無用!折檻ですっ!!!」
メイド「やめ、それだけは・・・!ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!??」
魔人「・・・・・・・・・・」
メイド長「・・・改めまして、あなたと同室になる方ですよ」
メイド「・・・う、うぃ~っす・・・」
メイド長「人懐っこい子ですから、すぐに仲良くなれると思いますわ」
魔人「ど、どうも」
メイド長「・・・彼女、最近入ったばかりの新人なんです」ボソッ
魔人「は、はぁ・・・」
メイド長「・・・やる気は人一倍あるんですが、おっちょこちょいで・・・」ボソボソ