魔人「・・・間違いでは?」 3/11

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メイド長「・・・でも、いい子ですから、理解してあげてくださいね」

魔人「・・・わかりました」

メイド「な、なにこそこそ喋ってらしてんスか?メイド長・・・」

メイド長「あらあら、あなたの隠れ食いを監視するようお願いしていたのですよ?」

メイド「うへぇ!?わ、私の唯一の楽しみが・・・!」

メイド長「・・・では、よろしくお願いしますね」

魔人「は、はい・・・、こちらこそ・・・」ペコリ

バタム

メイド「ふ、ふぃ~。普段ニコニコしてるのに、こーいうときは怖いんスから・・・」

魔人「・・・・・・・・・」

メイド「・・・お恥ずかしいところを見られちまいましたねー・・・」

魔人「い、いえ、そんなことは」

メイド「改めまして、はじめましてっス。いやーそれにしても・・・」

メイド「これでやっと、最下位からの脱出っすかねー!」

魔人「え?」

メイド「いや、私、ドジだから、まだ仕事も覚えきらなくて・・・」

メイド「覚えてる仕事も、ミスしがちっスから・・・、この城のメイドの中では最下位だと思うんすよ」

魔人「・・・思う、とは」

メイド「あ、はい。別に誰に言われたわけでもねーんスけど、自分の実力は、自分が分かってますし・・・」

メイド「・・・最下位ってのは!燃えると思うんすよね!ゴボウ抜き!みたいな!!」

魔人「は、はぁ・・・」

メイド「・・・そうは言っても、結構ツラいっスよねやっぱ。役立たずってわけですし」

魔人「・・・・・・・・・」

メイド「・・・でも!あなたも新人さんなわけじゃないっスか!!」

メイド「これから仕事も覚えるんスよね!?」

魔人「ええ、まぁ」

メイド「だったら、一緒っすよ、一緒!・・・ああ、いや、私が一緒ってのも、お恥ずかしいんスが・・・」

メイド「・・・でも!一緒にがんばりましょ!二人で仕事覚えれば、ラクショーっスよ、ラクショー!」

魔人「で、でも私は・・・」

メイド「固いこと言いっこなし!いーっスよね?決まりっスよ!?」

魔人「・・・わ、わかりました」

メイド「いやー、良かった。救われたっスー・・・」

メイド「・・・あ、そーいえば全然お互いのこと話してませんでしたね」

メイド「私、この城下町出身なんスよ。あなたは?」

魔人「えっと・・・」

―――一瞬、言うべきか、迷った。

     言えば、彼女が私を見る目が、変わってしまうかも知れない。

     それは、なんというか、すごく、怖い。

魔人「・・・『村』、です」

メイド「村?どこの村っすか?」

魔人「・・・だから、『村』です。ここから、少し歩いた・・・」

メイド「まさか、魔人の・・・?」

魔人「・・・・・・・・・」コクン

―――また、この居心地の悪さ。

     どうしても感じてしまう、この、狭さ。

メイド「ってことは、ねーさん、魔人なんスか!?」

魔人「うぇ、そ、そうですが・・・、ね、ねーさん?」

メイド「だって私よりずっと綺麗だしグラマラスなボンキュッボンですし!」

魔人「ぼっ、な、なんですかそんな・・・」

メイド「はぁー、魔人の、ねーさん・・・。カッコいーっすね!なんかそれって!」

魔人「か・・・、カッコいい・・・?」

―――先ほどから、びっくりするくらいの拍子抜けだった。

     メイド長といい、彼女といい、・・・勇者や姫は置いておいて。

     何故こうも、自分の考えの上の上を行くのだろう。

     まるで、自分の考えてることが、不安に感じていることが、

     まったくの見当違いであるかのように、

     軽々と、飛び越していってしまうのだろう。

メイド「いやー、私、魔人なんて始めて見ましたから・・・、って、あっ!」

メイド「すすすすいませんっス!い、今のは別に、あの、気を悪くしないで・・・!」

魔人「・・・いいえ、大丈夫ですよ」

メイド「ご、ごめんなさい。『でりかしーがない』って、昔から言われてるもんで・・・!」

魔人「・・・まぁ、そうでしょうけど」

メイド「なっ・・・!や、やっぱり怒ってるっスか!?」

魔人「怒ってませんよ。・・・ふふ」

メイド「・・・?」

魔人「・・・どうしてあなた達は、そうやって、私を怖がらないのですか・・・?」

メイド「・・・え?」

魔人「・・・あ、その、単純に、疑問なんです」

魔人「魔人と、人間でしょう?こんなこと、いいたくは無いですけど・・・」

魔人「私達魔人は、たぶんこれまで、たくさん人間を殺してきましたよ・・・?」

メイド「・・・そりゃ、そーかもしれねーっスけど・・・」

メイド「って言うより、私も、森ん中で魔人に会ったら、もっと、怖がってると思うっスよ・・・」

魔人「・・・・・・・・・」

メイド「・・・でも、今はこうやって、お互いベッドに腰掛けて、話してるじゃないっスか」

メイド「この距離で、怖がれってほうが、無茶なんスよ、きっと」

魔人「・・・・・・・・・」

メイド「それに、人間だって、負けないくらい魔人を殺してるっス」

メイド「もちろん、私が殺したわけじゃない。ねーさんも、人間を殺したわけじゃないんでしょ?」

魔人「・・・ええ」

メイド「なら、それでいーんすよ。五分五分っスよ、五分五分!」

メイド「あー、ねーさんが頭使わせるから、お腹減ったじゃないっスか・・・」

魔人「わっ、私のせいですか?」

メイド「あたりまえっスよ。・・・ほら、食べるでしょ?チョコ」ガサゴソ

魔人「い、いりませんよそんなの・・・!」

メイド「まぁまぁ、どーぞどーぞ」

魔人「また怒られますよ!メイド長に!」

メイド「ねーさんが黙っててくれたら、怒られねーっスよー」

魔人「なっ・・・!」

メイド「あー、ねーさんもチョコ、持ってるじゃないっスか」

魔人「これはあなたが渡したんで・・・!」

メイド「えへへ、共犯っスよ、ねーさん」

―――どうしてコソコソ食べるのか、と聞いたら、

     彼女は、そのそばかす顔を無邪気に綻ばせながら、

     コソコソ食べるのがおいしーからに決まってるじゃないっスか、

     と言って、チョコレートを齧った。

―――翌朝。

チュンチュン・・・

メイド「・・・ぐー、ぐー・・・」

魔人「・・・ん、朝・・・ですか」

メイド長「・・・あらあら、起こしにきたつもりだったけど・・・?」ガチャリ

魔人「あ・・・、おはようございます」

メイド長「おはよう。朝は強いの?」

魔人「ええ、まぁ・・・。特に理由も無いのですが」

メイド長「結構結構、助かるわ。・・・で、この子は・・・」

メイド「ぐがー・・・、ぐー・・・」

メイド長「あらあらまったく・・・、見習って欲しいものだけど」

魔人「あ、いえ・・・、ゆうべは遅くまで話し込んでしまったから、これは・・・」

メイド長「・・・それなら、条件はあなたも一緒じゃないの」

魔人「・・・あぅ」

メイド長「・・・あらあら、じゃあ、あなたに免じて起こすのはやめようかしら」

魔人「だ、大丈夫なんですか?」

メイド長「あなたが起こしてくれればいいのよ、どっちにしろ、まだ余裕はあるわ」

魔人「・・・・・・・・・」

メイド「・・・ぐぅ、ぐー・・・」

メイド長「・・・お話、出来たって?」

魔人「え、あ、は、はい。出来ました。すごく」

メイド長「あらあら、もう仲良くなったのね、良かった」

魔人「・・・ええ、本当に」

メイド長「・・・じゃあ、彼女を起こしたら、一緒に食堂まで来て」

メイド長「メイドは、兵士や官僚達より先に朝食を済まさなきゃならないわ」

メイド長「当番制で、朝食前の掃除もあるけど・・・。あ、食事も当番制よ。そのあたりの説明は、あとで・・・」

魔人「わかりました。着替えは?」

メイド長「もう着てきてもらって結構よ。じゃ、先行ってるわ」

メイド長「・・・あ、そうそう」ヒョイ

魔人「はい?」

メイド長「朝食の前に、ミーティングもやるの。そのとき、あなたを皆に紹介するわ」

魔人「・・・へ?」

メイド長「簡単な挨拶を考えておいて。それじゃ」

魔人「・・・あい、さつ・・・?」

メイド「ぐがー、んぅ・・・、ぐー・・・」

魔人「と、とりあえず起きてください、ねぇ、ねぇ」ユサユサ

メイド「ぐー、ぐがー・・・」

魔人「は、早く!わ、私、挨拶も考えないとだから・・・!」ユサユサ

メイド「ぐー、すかー・・・」

魔人「・・・・・・・・・」パチンッ

メイド「・・・うぉあぉ熱っ!?なっななななななんすかなんすかっ!!??」

メイド「―――やっぱり、前髪焦げてるっスよね?これ。変じゃないっスか?」スタスタ

魔人「全っ然大丈夫です、むしろ昨日よりキュートですよ」スタスタ

メイド「・・・ねーさん、怒ってます?」スタスタ

魔人「怒ってません。まさかあなたがメイド服を着るのにてこずるだなんて、思っても居なかっただけです」スタスタ

メイド「だってリボンが難し・・・、ってやっぱ怒ってるじゃないっスかー!」スタスタ

魔人「おーこってまーせーんー、私は、そんな余裕、ない、ですっ」スタスタ

メイド「いーんスよぉ、挨拶なんてテキトーで。むしろ掴みのネタ用意したほうがいいんじゃないっスか?」スタスタ

魔人「いえ、挨拶というのは第一印象ですから、しっかりしないと・・・」スタスタ

メイド「あっ、こんなのどーっスか?・・・『どうも、魔人でございまじん・・・』って、渋い声で熱ぅぃ!?」ボッ!

魔人「・・・炭になりたくなかったら、その口のチャックをどーにかしてくださいね」スタスタ

メイド「怖っ!?って、やっぱ前髪焦げてるのねーさんのせいっスか!?ま、まさか寝てるあたしに火を・・・」スタスタ

魔人「さぁ、どうでしょうね。少なくとも、これからはもっと早く起きることをオススメしますね」スタスタ

メイド「ちょ・・・!もう、火はやめてください・・・!シャレにならない・・・、ってやっぱ怒ってるじゃないっスかー!」スタスタ

魔人「怒ってまーせーんーよー・・・」スタスタ

―――食堂

ザワザワ・・・、ザワザワ・・・

魔人「・・・うう、緊張してお腹が空かない・・・」

メイド「まぁまぁ、飯の前に挨拶っスから、気楽に、気楽に」

メイド長「・・・そろそろ、いいかしら?」

魔人「・・・はい、お、お願いします・・・」

メイド長「―――はい、皆聞いて。ミーティングをはじめますよー」

メイド長「今日はまず初めに、新しく私達の仲間に入った彼女から、自己紹介と挨拶を貰います」

メイド長「・・・じゃ、魔人さん。お願いね」

魔人「は、はい・・・」

魔人「え、えー・・・、たっ、ただいまご紹介に預かりました・・・」

メイド「ねーさーん!落ち着いてー!」

魔人「うっ、しゅ、趣味はその、おおおお風呂で、その、あの・・・」

―――たくさんの『人間』の前で、自分が『魔人』だと告げるのには、相当な勇気が要った。

     ケジメとして、言おうとは決めていたのだ。

     しどろもどろになりながらも、なんとかそのことを話す、糸口を探した。

魔人「・・・わっ、私は、『村』から来た、その・・・」

魔人「・・・『魔人』です・・・」

ザワッ・・・!ザワザワ・・・

魔人「・・・・・・・・・」

メイド「ねーさーん!聞こえないっスよー!次、次ー!!」

魔人「あっ、え!?しゅしゅしゅ趣味は、その、お風呂で・・・!」

メイド「それさっき聞いたっスー!!落ち着いて!」

ドッ・・・!アハハハ・・・!

魔人「~~ッ。よ、よろしくお願いします・・・!」

・・・パチパチパチパチ!

魔人「・・・成功なんだか、失敗なんだか・・・」トボトボ

メイド「失敗っスよ、どんだけお風呂好きかー、って思われてるっスよ」

魔人「うっ・・・、そ、それは・・・」

―――あなたのせいだ、とは、言えなかった。

     あの瞬間、まるで彼女に救われたかのように、感じてしまったから。

先輩メイドA「・・・おっす、新人の魔人ちゃん!」

魔人「ど、どうも・・・」

先輩B「おもろい子だなー、どんだけお風呂好きなんよ」

魔人「え、えっと・・・、あ、ああいうのは苦手でして・・・」

先輩C「あははー、いがーい。何でもできそーな顔してんのにねー?」

魔人「そ、そんなことは・・・」

先輩A「まっ、わかんないことあったらなんでも聞いてよ!力になるよー」

先輩B「いきなりこいつのおもりだろー?大変だよなー」

メイド「なっ・・・!先輩!どーいう意味っすか!!」

先輩C「あははー、きみー、ドジっこちゃんだからねー」

メイド「そ、そんな・・・!おもりだなんて・・・!」

魔人「・・・・・・・・・」

―――あえて触れないようにしているとは、思えなかった。

     実際、面と向かって『魔人』と呼ばれもした。

     しかし、そこに嫌悪感や拒絶感はなく、あるのは好奇心か、興味のみ。

     ここにいる誰からも、悪意は感じられなかった。

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