魔人「・・・間違いでは?」 9/11

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先輩B「教えろ教えろ」

先輩C「あのねー、一昨日の飲み会のときー、ちょっとウトウトしててー」

魔人「・・・!」

先輩C「話し声が聞こえたからー、誰かなー、って思ってたんだけどー」

先輩C「新人ちゃんとー、兵士さんだった気がするのー」

先輩A「・・・兵士さんって、あの、城門にいる?」

魔人「・・・あの、あれは」

先輩C「そうー。二人でー、お風呂がどーとか話して、そのまま出てったよねー?」

先輩B「マジで?二人でお風呂って・・・、おいおいおい!どういうことだよ、新人ーっ!」

魔人「あれはっ・・・、ただ、お風呂の話をしていただけで・・・!」

魔人「大浴場の鍵の場所に案内してもらっただけです!決して、そんなっ・・・」

メイド「―――大浴場の、鍵・・・?」

魔人「―――っ」

先輩B「おう、お帰り。今おもしれー話が・・・!」

メイド「え?でも、ねーさん、あの時・・・」

メイド「・・・覚えて、ないって・・・」

先輩A「あなた、兵士さんって知ってる?どんな容姿の人?」

先輩C「あははー、カッコいい人だよー、お酒強いらしいのー」

メイド「・・・話の、内容聞いたときに・・・」

メイド「鍵の話なんて、一言も・・・」

先輩B「酒に強いってのは高ポイントかもなー」

先輩A「それで、この子とお似合いなの?ねぇ・・・。・・・どうかした?」

メイド「・・・ねーさん、あの時・・・」

メイド「・・・嘘、ついたんスか」

―――私は嘘をついた。

魔人「・・・違っ・・・」

―――私はあなたに、嘘をついた。

魔人「・・・そん、つもりっ、は・・・」

―――私はあなたを傷つけた。

魔人「・・・っ、ごめっ・・・」

―――私は、あなたを裏切り、

     あなたの手を、振り払った。

魔人「―――ごめん、なさいッ・・・!」

―――綺麗になったシーツを見て、

     自分の心まで綺麗になったと思い込んでいた。

     なんと愚かなことだろう。

     その場から走り去ることしか出来なかった。

     ヤッパリ アナタハ 『マジン』ダカラ…

     その声は、背中からではなく、

     お腹の奥の方から聞こえた。

―――夕暮れ・屋上

魔人「・・・・・・・・・」

―――どのくらいここにいるのだろう。

     さっきま空の天辺で輝いていた太陽は、

     穏やかな色に変わり、山の奥へと消えそうだった。

     私は、こうして膝を抱いて、惨めに泣くことしか出来ないでいる。

     干したシーツは既に、とりこまれていた。

魔人「・・・・・・・・・」

―――吐き気は無かった。吐いたところで、一つもすっきりしないのだから。

     相変わらず、重たく冷たい氷は、

     お腹の中でどっかりと腰を下ろし、動こうとはしない。

     やがて、自分の体はすべてその冷たくて重たい氷になってしまいそうで、

     そのまま凍って死んでしまえればいいと思った。

     その死に方は、とても苦しくて、寂しくて、

     今の私には、一番お似合いな死に方だから。

―――なにもかも、分からなかった。

     初めてのことだらけで、頭がパンクしそうだった。

     出来ることなら、このまま、子供のように両手をバタつかせて、

     「助けてくれ」と、泣き喚きたかった。

―――しかし、それは出来ないことだ。

     私がやってはいけないことだ。

     私はそれだけ、彼女を傷つけた。

     彼女の想いを踏みにじり、

     彼女の笑顔を奪い去った。

―――彼のことを、少しだけ思い出して、やめた。

     彼に対する、あの熱い感情の正体はいまだに分からないが、

     その感情は、今出すべきものではないと、思う。

     それはもっと、とても綺麗でさわやかな感情で、

     今の私にはふさわしくないものだ。

魔人「・・・分から、ないのです」

魔人「分からないのです」

魔人「私は、『魔人』なのです」

魔人「『魔人』には、『人間』のことなど、分からないのです」

―――あなたは、『魔人』と『人間』は似ていると言った。

     けど所詮、それは違ったのだ。

     似ているだけで、同じではないのだ。

     両者は、決定的になにかが違っている。

     それはもう、圧倒的に。

     それはもう、必然的に。

魔人「・・・私は、」

魔人「私は、どうすればいいのですか」

魔人「どうすれば、彼女に償うことが出来るのですか」

―――『魔人の村』に住む、一人の人間を思い出した。

     彼女なら、どうするだろう。

     彼女ならば、いったいどうしただろう。

     彼女ならば、『魔人』と『人間』を歩み寄らせた彼女ならば、

     私達『魔人』を救ってくれた彼女ならば、

     私のことも、救ってくれるだろうか。

・・・コツコツコツ

魔人「・・・・・・・・・」

コツコツコツコツコツ

魔人「・・・・・・・・・」

コツ・・・

―――ずいぶんシケた顔してんじゃねーか。

魔人「・・・っ」

町娘「―――よう、久しぶり」

―――彼女ならば、

     私のことも、救ってくれるだろうか。

魔人「・・・たすけ、て・・・」

魔人「―――たすけて、ください・・・」

―――城・姫様の部屋

・・・バタバタバタバタ

ガチャン!

姫様「・・・誰だか知らねーけど、ノックくらい・・・」

町娘「おっす」

姫様「―――うぇぇぇっ!?おまっ、おい!久っさしぶりだなーおい!!」

町娘「変わりねーか?」

姫様「ねーよ!相変わらず美しい!・・・じゃなくて」

姫様「なに急に来てんだ、一ヶ月も音沙汰無しだった癖によ!」

町娘「あー。いいじゃねーか別に・・・、あたしがいつ来たってよぉ」

姫様「良くねーよ!魔王は一緒じゃねーのか?待ってろ、今勇者呼んでくっから・・・」

町娘「あたしひとりだ。・・・つーか、あー。呼ばなくていーよ、それより・・・」

姫様「ん?」

魔人「・・・・・・・・・」チョコン

町娘「・・・ちっと、女だけで飲もーぜ」

町娘「―――まっさか、メイド服で居るとは思わなかったよなぁ」

魔人「・・・私も、思いませんでしたよ」

姫様「似合ってるだろ?」

町娘「似合ってる似合ってる・・・。こーもカチッと収まるとはなー」

姫様「天職ってやつだ。まだ二日しか仕事してねーけど、完璧だってメイド長が褒めてた」

魔人「・・・今日は、サボってしまいました・・・」

姫様「・・・あん?」

町娘「・・・ほら、チューハイしかねーけど」カシュ

魔人「・・・いただきます」ソッ

町娘「んじゃほら、乾杯しよーぜ」カシュ

姫様「ほらねーちゃん、かんぱい!」カシュッ

魔人「え、ええ・・・」

町娘「ほいカンパーイ・・・」

カツカツン…

魔人「・・・んっ、んっ」グビグビ

姫様「・・・で、どーなん?『村』は」

町娘「ああ、ぼちぼち楽しくやってるよ」

魔人「・・・ぷはぁ」

姫様「そりゃ、楽しいだろうよぉ。二人で暮らしてんだろ?」

町娘「・・・まーな」ゴクゴク

姫様「で?で?どーなんだ?え?二人っきりの生活ってのはよぉ?」

町娘「・・・あー鬱陶しいな!ほっとけよ、そんなもん別に、普通だよ」

魔人「・・・んっ」グビグビ

姫様「ふつうー?ふつうねぇー?どーいう風に普通なんだ?なぁなぁ」

町娘「おめー、個人的な質問ばっかしてくんじゃねーよハゲ。あたしはこれでも条約の一つだぞ」

姫様「んな建前はどーでもいーんだよバーカ!聞かせろっての!!」

町娘「あーあー、また今度ゆっくり嫌になるほど聞かせてやるよ」ゴクゴク

魔人「・・・ぷはぁ。んっ・・・」グビグビ

姫様「つーかお前、何しに来たんだ?」

町娘「あー?いーだろ別に、いつ来たって」ゴクゴク

魔人「・・・・・・・・」ゴクゴク

姫様「バーカお前、まだ条約は整ってねーんだ。あんま自由にしてもらっちゃ困るって」ゴクゴク

町娘「里帰りだよ里帰りー」

姫様「・・・なんも未練残ってねーくせに、よく言うよ・・・」

町娘「つーか、今日の本題はこっち」クイッ

姫様「あん?」

魔人「・・・ぷはっ。・・・二本目、いただきますね」カシュッ

姫様「・・・いーけど・・・、ねーちゃんペース、速くね?」

魔人「・・・私は戻すことは無いので、心配なさらず。・・・んっ」ゴキュゴキュ

姫様「・・・・・・・・・」チラッ

町娘「・・・ま、そーいうこった」ゴクゴク

魔人「・・・ぷは。・・・んっ」ゴクゴク

町娘「・・・・・・・・・」ゴクゴク

姫様「・・・よーし、私も飲もー」ゴクゴク

魔人「・・・んっ、んっ」ゴクゴク

町娘「・・・は」

姫様「・・・ん、ふぁ」

町娘「おめーは、ほどほどにしとけよ」

姫様「人のこと言えんのかー?酔って延々惚気とかされたらたまんねーよ?」

町娘「ばっ・・・!誰がんなことすっかハゲ」

魔人「・・・んっ」ゴクゴク

姫様「いーんだよ恥ずかしがらなくて。聞いてほしーんじゃねーのー?」

町娘「ほっとけ」ゴクゴク

姫様「お互い好き合ってんだ、ラブラブしてんだろー?」

魔人「・・・・・・・・・」

町娘「・・・っとにしつけーなぁ。もう出来上がってんのか?」

魔人「・・・っぷは」

姫様「そーやって逃げるきかー?」

町娘「ほっとけっての」ゴクゴク

姫様「またまたぁ、好きなくせに・・・」

魔人「・・・『好き』、とは」

姫様「・・・え?」

魔人「・・・『好き』、とは、なんですか・・・?」

姫様「・・・・・・・・・」

町娘「・・・ぷは」

魔人「それは・・・、物に対する感情ではないのですか?」

魔人「・・・それは、他人に対しても、使える感情なのですか?」

魔人「・・・私は・・・、『彼女』に・・・、『彼女』の・・・」

魔人「・・・そして・・・、『彼』の・・・」

町娘「・・・おい」

魔人「・・・・・・・・・」

町娘「話せよ、聞くから」

魔人「・・・っ」

姫様「・・・・・・・・・」

魔人「・・・なぜ・・・」

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