魔人「・・・間違いでは?」 6/11

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―――自分たちは別々の種族。それはもう、当たり前に、違う。

     共通点はあっても、決して『同じ』ではない。

     不思議だった。『同じ』ではないものが、さも『同じ』ように生活しているのかが。

     どれだけ『同じ』に見えたところで、それは、『そう見えるだけ』で、

     まったくの別物なのでは、ないのだろうか。

兵士「・・・ん」ゴクゴク

魔人「・・・・・・・・・」

兵士「・・・ぷは。・・・僕らも、別に区別していないわけではありませんよ」

魔人「え・・・」

兵士「これは、物凄く変な言い方ですけど・・・、『ちゃんと、差別しています』」

魔人「・・・どういう、ことですか」

兵士「僕は、あなたのことを『魔人』だと思っていますし、面と向かって『あなたは魔人です』といえます」

兵士「それが、あたりまえだからです。あなたは『魔人』だし、僕は『人間』です」

魔人「・・・・・・・・・」

兵士「僕らは別に、あなたを『人間』扱いしようとも、気を使って『魔人』扱いしないようにもしていません」

兵士「・・・なのになぜここまであなたを受け入れる・・・、失礼。受け入れる、というのは変ですね」

兵士「そうだなぁ・・・、『一緒に居る』って感じでしょうか」

兵士「僕らは別の種族なのに、こうも自然に、一緒に居られるのだと思いますか?」

魔人「・・・どうしてでしょう」

魔人「やはりどちらかが、無理に合わせているからでしょうか・・・」

兵士「・・・違いますよ」

兵士「同じなんです、結局。『魔人』も『人間』も、同じ」

魔人「・・・同じ?」

兵士「食べますし、寝ます。お酒も飲みます。話して笑って、呆れます」

兵士「誰かを想ったり、心配したり、怒ったり、そしてまた、笑ったり・・・」

兵士「・・・僕らの違いなんて、そんなに多くあるわけじゃないんですよ、きっと」

魔人「・・・・・・・・・」

兵士「・・・それでも、『魔人』と『人間』、分かれているのだから、まったく同じではないんでしょうね」

兵士「そうだなぁ・・・」

兵士「・・・似ている、というのは、どうでしょう?」

魔人「―――っ」

―――似ている。

     私とあなたは、似ている。

     『魔人』と『人間』は、『同じ』ではなく・・・、

     似ている。

     一緒に居れば、一緒に見える。

     それは、別物ではあっても、

     偽物では、ない。

兵士「・・・なぁんて、はは。ちょっと、説教臭かったですね。すいません」

魔人「・・・いえ。非常に参考になりました」

兵士「そうですか?なぁんだ、もっと楽しい話がしたかったのに」グビッ

魔人「私は、『人間』のことは、よく分かりませんから・・・」

    

兵士「なにか、好きなことはないんですか?趣味とか」

魔人「趣味は・・・、掃除と、洗濯と、お料理と・・・」

兵士「・・・ほんと、真面目な方なんですね、あなたって」

魔人「真面目だなんて、そんな・・・。ただ、ほんとに好きですから・・・」

兵士「もっと、自分勝手な趣味はないんですか?自分にするための趣味とか・・・」

魔人「・・・お風呂が、好きです」

兵士「お風呂?温泉じゃなくて?」

魔人「ああ、いや・・・、温泉も好きです。唯一、のんびり出来るところかも」

兵士「へぇ・・・。もっと普段から、のんびりすればいいのに」

魔人「そういう性分なんです。無理してるとか、そういうわけではないので、こればっかりは」

兵士「なるほど。・・・じゃあ、城の大浴場はもう入りました?」

魔人「いや、実はまだ・・・。興味はあったんですけど、言い出せなくて・・・」

兵士「言ってくれればいくらでも案内しますって。ただお湯張ってるだけですが、広くていいですよ」

魔人「・・・そうですか。いいですね、楽しみ」

兵士「確か自由に使って良いはずだから、お好きなときにどうぞ」

魔人「昨日はシャワーを頂いただけでしたから・・・」

兵士「・・・気になります?大浴場」

魔人「・・・じ、実は物凄く・・・」ウズウズ

兵士「はは。本当に好きなんですねぇ・・・」グビッ

魔人「お、お恥ずかしいです・・・」

兵士「いやいや、気にしないで。・・・そうだ、今から入ってきてはどうですか?」

魔人「え・・・、い、いいんですか・・・?」

兵士「ええ。僕ももう、寝るだけですし。・・・あ、僕は兵舎の風呂を使うので、気にしないでいいですよ」

魔人「そ、そういうわけではなく・・・、せっかくの大浴場を、一人で使うなど・・・」

兵士「あはは、むしろ、一人で使うからいいんじゃないですか?」

兵士「大浴場を、独り占め。今しか出来ないかも」ピンッ

魔人「・・・あ」

兵士「・・・お」

魔人「・・・あ、い、いや・・・。・・・ん」ゴクゴク

魔人「・・・っぷは。えっと、その・・・」ウズウズ

兵士「・・・はは。良いじゃないですか、我慢しなくて。・・・ん」グビグビッ

魔人「・・・・・・・・・」

兵士「・・・ぷは。・・・よっと、それじゃ」カラン

魔人「・・・ど、どちらに?」

兵士「大浴場の鍵、取って来ます。ザルですから、酒盛りのときの鍵当番はいつも俺なんです」

魔人「そ、そんな!じ、自分で行きま・・・、あっ」フラッ

兵士「・・・っとと」ダキッ

魔人「・・・!」

兵士「あっ・・・、し、失礼。大丈夫ですか?」

魔人「・・・え、ええ・・・、ご、ごめんなさ・・・い」ドキドキ

兵士「・・・いえ。倒れなくて、良かった」スッ

魔人「な、なんでだろ、こんなこと・・・。わ、私も、ザルですから、こんなこと・・・」

兵士「・・・もしかして、友人と飲む酒はなんちゃら、っていう」

魔人「・・・あぅ」

兵士「・・・はは、嬉しいです。あなたを酔わせることが出来て」

魔人「・・・っ。よ、よよよよくそんな、恥ずかしいセリフを・・・!!」

兵士「あれ?俺はただ、仲良くなれて嬉しいっていう・・・」

魔人「・・・っ!そ、そうですか、そそそれはああありありがとうございます」ドキドキ

兵士「じゃあまぁ、とにかく、鍵を取りに行って来るので」

魔人「いや、わ、私も行きます。そんな、私が入るんだから・・・」

兵士「え?いいですよ、すぐソコですし・・・」

魔人「だ、駄目です。そこまでご厄介になるわけには・・・」

兵士「はぁ、まぁいいですけど。真面目というか強情というか・・・」

―――大浴場・前

兵士「・・・じゃ、この鍵を、さっきの場所に戻せば結構ですから」

魔人「はい、必ず」

兵士「俺は、部屋に戻りますね。おやすみなさい」

魔人「あ、あなたは入らないのですか?」

兵士「え?だって、男湯と女湯は別れてますけど、気味悪いでしょ?」

魔人「そんなことは・・・、大浴場は、個人のものではありませんし・・・」

魔人「入りたくないのであれば別ですが、独り占めできるのは男湯も同じですよ?」

兵士「・・・それじゃ、お言葉に甘えますかね」

魔人「是非、そうしてください。・・・あっ」

兵士「え?」

魔人「べ、別にさっきのは、い、一緒に入りたいという意味ではあああありませんから・・・!」

兵士「ぶっ!?わっ、わかってますよそんなの・・・!!」

―――大浴場

ガララッ

魔人「・・・あ、本当に広い・・・」テトテト

魔人「こんな広いところに一人で入れるなんて、贅沢ですねぇ・・・」

魔人「・・・どれどれ早速・・・、ん」チャポン

魔人「・・・ふぁぁぁぁぁ~・・・、いいお湯加減・・・」バシャーン・・・

兵士「―――そうですかぁ?良かったぁ・・・」

魔人「ッ!?そ、そうでした、あなたも、いらしたんですよね、失礼しまし・・・」ブクブク

兵士「―――いやぁ、本当に好きなんですねぇ、お風呂・・・」

魔人「い、いまのはその、油断していただけです」バシャン

兵士「―――油断ですかぁ、それは得したなぁ・・・」

魔人「か、からかわないでください・・・」ブクブクブク・・・

カポーン・・・

魔人「・・・結構、響くものですね、声」

兵士「―――そうですねぇ、やっぱり人が居ないからでしょうかぁ・・・」

魔人「これは、少し気をつけないと・・・」ボソッ

兵士「―――なにか言いましたぁ・・・?」

魔人「い、いえ!なんでもありません!」バシャン

兵士「―――やっぱり俺、出ましょうかぁ?あなたもゆっくり出来ないんじゃ・・・」

魔人「そ、そんな気を使わないでくださ・・・」

魔人「・・・『も』?」

兵士「―――あっ、いえ、あの・・・」バシャバシャン

魔人「・・・・・・・・・」ブクブクブク

兵士「―――お恥ずかしい話ですがぁ、女性経験に乏しいのでぇ、照れているんです・・・」

魔人「・・・そ、そうですか。すいません、言いにくいことを言わせて・・・」

兵士「―――いやぁ、いまのは・・・、笑ってやってください・・・」バシャン・・・

魔人「・・・・・・・・・」チャポン

兵士「―――やはり、失敗だったかも知れませんねぇ・・・」

魔人「そっ、そうですね・・・」

兵士「―――でも、やはり誰も居ない大浴場ってのもぉ、いいもんです・・・」

魔人「・・・ええ、本当に」

兵士「―――誘ってくれてありがとうございましたぁ・・・」

兵士「―――兵舎の浴槽はぁ、足を伸ばしきれないんでぇ・・・」

魔人「た、大変ですね、お疲れなのに・・・」

兵士「―――いいえ、普段はもっぱらここを使っているのでぇ・・・」

兵士「―――それより、どうですかぁ?なかなか良い風呂でしょう・・・」

魔人「ええ、とても気に入りました。通っちゃうかも」バシャ・・・

兵士「―――是非、そうしてください・・・」

―――お風呂の気持ちよさと、隣に彼が居る緊張と、程よい酒が混ざり合って、

     ふわふわとした、なんだか変な気分だった。

     いままで感じたことのない感情だ。それに少しだけ戸惑った。

     しかし、私はこの感情が、嫌いにはなれなかった。

魔人「・・・ふわぁぁぁ・・・」

兵士「―――寝ないでくださいよぉ・・・?」

魔人「ねっ、寝ませんよ・・・!」バシャバシャ

兵士「―――あはは、俺は少し寝そうです・・・」

魔人「あ、あなたこそ、寝たらまずいですよ?」

兵士「―――分かってます、先、あがりますねぇ・・・」

魔人「・・・あ、はい」

兵士「―――じゃ、ごゆっくりぃ・・・」ザパーン

魔人「・・・はい、お休みなさい」

兵士「―――はい、お休みなさ・・・」

パチンッ

魔人「―――っひぃ!?」

兵士「―――あ、電気が・・・」

シーン・・・

―――大浴場・前

王様「・・・あー、トイレ・・・」

王様「ったく、今何時だよ・・・」

王様「・・・ってああ?」

王様「風呂場の電気ついてんじゃねーか」

王様「今日宿直誰だっけ・・・、チェックしとけよったく・・・」

パチンッ

王様「・・・電気は大切にね」

王様「・・・エコロジーこそ、これからの社会に求められる・・・」

王様「・・・ふぁーあ。まぁいいや、トイレトイレ・・・」

―――大浴場

魔人「どどど、どどど、なに、なに、なにが・・・!!!」

兵士「―――あー、多分、外の誰かに電気消されちゃったんで・・・」

魔人「ほ、本当にそれだけですか!?」

兵士「―――ええたぶん、停電ってことはないだろうし、今日は消灯はありませんし・・・」

魔人「そ、そういう意味ではなく・・・!ててて敵とか・・・」

兵士「―――ああ、それなら大丈夫なはずです。そこまで手薄じゃありませんからぁ・・・」

魔人「・・・わ、わかりました・・・」

兵士「―――落ち着いて、その場から動かないでくださいねぇ・・・」スタスタ

魔人「は、はい・・・」

ガラガラー

ピシャン

・・・シーン

魔人「・・・・・・・・・」

魔人「・・・う、動くなといわれましても・・・」

魔人「不測の事態には、備えませんと・・・」

シーン

魔人「・・・・・・・・・」

魔人「・・・なにも見えませんね・・・」ザパー・・・

魔人「・・・しかし・・・、ゆっくり・・・、歩けば・・・」ソッ

魔人「・・・だ、大丈夫です、このくらい・・・」ヒタッ

魔人「・・・しかし、本当に暗い・・・」

パッ!

魔人「―――っ」クラッ

バタンッ

魔人「・・・目が眩むだなんて・・・」

魔人「・・・ッ」ズキッ

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