戦士「潮風あびたら治るかな?」
魔王「酔いが覚めるのとはまた違いますから」
僧侶「さいてーな朝です・・・」
魔王「お酒は毒にも薬にもなるってことを体でしっかり覚えてくださいよ」
勇者「おんぶー・・・おんぶーしてー魔王さん・・・」
魔王「やれやれ・・・」
船長「さて、予約してたのはあんたたちだな」
魔王「えぇ・・・」
船長「大人三人子供一人で間違いねぇか?」
勇者「僧侶、子供だって」
僧侶「勇者様のことですよ?」
勇者「そうかな。もうお酒も飲めるし十分大人だよ! きっと聞き間違いだよね!」
船長「んじゃ。乗ってくれ。隣の島には半日ほどでつく」
魔王「よろしくお願いします」
戦士「船かー、揺れるのかなー」
僧侶「私も初めてなんです! たのしみですね!」
勇者「でも半日は暇そうだねー」
魔王「・・・勇者様」ポンッ
勇者「・・・え? 嫌だよ? 勉強しないよ?」
魔王「半日もたっぷり時間があってやりがいがあります」
勇者「嫌だよ!? 釣りするんだもん! いま決めました!!」
魔王「逃げ場はないですよ」
勇者「ええー・・・僧侶ぉ」
僧侶「だめ♪ です♪」
船長「たぶん今日は雨がふるからよぉ、船室にこもっててくれや」
戦士「だそうだぞ」
勇者「うわーーーん! いじわるな人ばっかり!!」
船員「イカリをあげろー!!」
船長「よっしゃぁいくぜ!!」
勇者「ま、まずい。こうしてる場合じゃない」タタッ
僧侶「どうしたんですか?」
船長「おいお嬢ちゃん、あんま舳先に行くとあぶねーぞ」
勇者「うひひ・・・・・・・スゥー」
勇者「 ふ な で だ ー ! !」
僧侶「あぁ・・・それがやりたかったんですね・・・」
魔王「気がすみましたか?」
勇者「すっきり!」
戦士「おまえほんとガキなのな」
勇者「ちがうよ! これは船の旅の常識だよ!?」
戦士「だれにきいた」
勇者「この人」ビッ
僧侶「いやんっ、指さしちゃヤです♪」
戦士「・・・おまえ、他にもあらぬこといろいろ吹き込んでるだろ」
僧侶「そんなことありません!」
魔王「まぁまあ、僧侶さんが勇者さんの人格形成に深くかかわってるのは確かに心配ですが」
僧侶「なんてひどい!」
魔王「決して悪い人ではないですし。それはまだ良かったなと思います」
僧侶「あ、そうですか・・・」
魔王「勇者の力とは、やはり誰にとっても絶大です」
魔王「それが右に振れるか左に振れるかで、世界情勢が大きくかわってきたりもします」
僧侶「いまはどちらに触れているんですか?」
魔王「そうですね・・・」
勇者「?」
魔王「この先、勇者様自身がどうなさるかで決まるかと」
戦士「こいつはあんまり善悪に頓着がねーからなぁ」
魔王「そうですね」
魔王(そこがまた、少し不安で、危険なのです・・・)
魔王(私は押し付けがましくも、また同じ過ちを繰り返してしまうのではないか・・・と・・・)
勇者「みんなが笑って暮らせる世界になればいいね!」
戦士「そういうことを笑顔で言えるのは世界でもお前くらいなもんさ」ムニッ
勇者「うにゃ・・・なにすんのぉ」
戦士「あはは、変な顔。ほっぺたやわらけー」
僧侶「私にもやらせてください」ムニー
勇者「うあー! いいっていってにゃい!」
僧侶「あははははっ! たてたてよこよこ♪」グニーン
勇者「ひひょいよー」
魔王「・・・」
僧侶「魔王さんもします?」
魔王「遠慮しておきます」
僧侶「ぷにっぷにですよ! スライムよりぷにぷにかもしれませんね」
勇者「うぅ・・・」サスリサスリ
魔王「仕返ししなくていいんですか?」
僧侶「しかえししてこないから、いじめ放題なんですよー」
戦士「やめてやれ」
僧侶「最初にやったの戦士さんじゃないですかー」
勇者「うぅぅ・・・」サスリサスリ
魔王(確かにやわらかそうではあるな・・・少女特有のというか、彼女個人の特徴だろうか?)
勇者「魔王さん、なぁにじっとみて」
魔王「あ、いえ・・・」
僧侶「やりたいんでしょー。大人はすぐ我慢我慢でなかなか素直になれないんですから」
僧侶「ほらどうぞどうぞ」グイッ
勇者「うわあああっ」
戦士「他人のほほを差し出すな」
魔王「・・・」
勇者「・・・ま、魔王さん・・・」ウルッ
魔王「・・・し、失礼します」
グニッ・・・みょーん
勇者「あ゛~~!! いひゃい~~!!」
僧侶「ね?」
魔王「確かに・・・この指を掴んで決して離さない感触、スライムのそれを凌駕しているかもしれませんね」
戦士「つかんでんのはお前だろ」
勇者「はなひへ~~!!」
魔王「はっはっはっは!」みょーん
勇者「わりゃわないへ!!」
戦士「魔王が笑ってる・・・」
僧侶「なんか本気で笑うと気味悪いですね」
戦士「言うな。私もちょっと思った」
魔王「はっはっはっは!」
勇者「はなへ~~!!」ジタバタ
僧侶「やっぱ魔王って悪い笑いかたするんですね」
戦士「肩書きのせいで完全にそう映ってるだけだろ」
僧侶「そうかもしれません」
船長「おぅい、そろそろ船室にいってくれー、嵐が近づいてるぞー」
僧侶「いきましょうっか」
戦士「おう」
勇者「魔王さんのばーか! もう次は絶対だめー!」
船長「ここだ。嵐をくぐりぬけたら声かけるぜ」
魔王「わかりました」
ガチャ カチャリ…
―船室―
勇者「みんなに遊ばれてヒリヒリするよぅ」
魔王「申し訳ございません」
勇者「うー・・・」
僧侶「じゃーん、そんなときは僧侶にお任せ! どんな傷も一瞬で回復!」
勇者「え?」
僧侶「うふふ、逃げ場はないですよー・・・」
勇者「なになに!? も、もしかして!」
僧侶「ベホイミ!」ちゅ レロ…
勇者「わー!! それ絶対いらないでしょ!!」
魔王「やめてくださいこんなところで。勇者様嫌がってるじゃないですか」
僧侶「・・・」じー
魔王「私の顔になにか?」
僧侶「・・・してほしかったり?」
魔王「いいえ」
僧侶「・・・してほしくなかったり?」
魔王「はい」
僧侶「フッ・・・そうやってチャンスを棒にふってるから独り身なんですよ」
魔王「余計なお世話です」
勇者「・・・うぅー、スライムよりきもちわるいよー」ゴシゴシ
僧侶「こっちはこっちで失礼しちゃいます」
戦士「最初はびっくりしたけどなんかもう見慣れた」
魔王「私には少し刺激が強いので、控えてくれるとありがたいです」
僧侶「じゃあ私と勇者様が事に及ぶときは、あの『ヒュンッ』って魔法で消えたらいいじゃないですか」
魔王「あれかなり魔力食いまして」
―しばらくして―
戦士「おかしいな」
勇者「なにがー?」
魔王「・・・確かに」
勇者「なにがー?」
僧侶「・・・どういうことでしょう」
勇者「なーにーがー!!?」
戦士「嵐に突入してんだよな? 全然揺れねぇぞ?」
魔王「・・・少し外の様子を見てきましょうか」
僧侶「危なくないですか?」
勇者「みにいこ! 嵐ってどんなのかな!」
ガッ・・・ガンガン ガチャガチャガチャ
魔王「おや・・・? 鍵がしまってます」
戦士「おっかしいな? 嵐ぬけたら呼んでくれるっていってたのに」
魔王「私が様子をみてきましょうか」
勇者「ヒュンってやつやるの!? ヒュンってやつやって!」
僧侶「そういえばあれってどういう魔法なんですか?」
魔王「目で見える光景や、鮮明に覚えている場所に移動するだけです」
僧侶「ぶつからないんですか?」
魔王「一般的な移動魔法とは違い、空間を転移していますから」
僧侶「よくわかんないですね」
魔王「魔族の中でも一部の血筋しか使えない、割りと高等な魔法なんですよ」
戦士「へー・・・まぁとりあえず頼むよ」
魔王「はい」
ヒュン――
勇者「わぁー! 何度見てもかっこいいなー」
ヒュン――
魔王(・・・霧!? いくらなんでも濃すぎる。なにも見えん)
魔王(嵐ではなかったのか・・・?)
魔王(なぜ嘘を・・・!?)
魔王(・・・だんだん晴れていく・・・)
魔王(闇・・・!!?)
魔王(もう夜・・・!? いや、違うな・・・これは・・・・ッ!!!)
魔王「なんてことだ、嵐なんてものじゃない・・・・くっ」
魔王「勇者様ァ!! いますぐ扉を破って外へ!!!」
船長「へへ。もうおそいぜ・・・クククク」
船員「ヒヒヒ・・・」ニヤニヤ
魔王「貴様ら・・・!」
バコン バタン!
勇者「魔王さん!」
戦士「な、なんだこの風景!? 真っ暗だぜ」
僧侶「おかしいです。まだ時間的には陽が高いはず!!」