魔王「失脚してしまった・・・今後の生活どうしよう・・・」 12/14

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魔王「答えろ・・・」ズズ

船長「へははは!! 地獄への船出だぜ魔王さんよぉ」

船長「そして勇者ご一行様!!」

勇者「!?」

船長「ようこそ、魔の国へ・・・!!」

勇者「!!」

魔王(ハメられたか・・・!)

戦士「魔の国!?」

僧侶「う、嘘です!? 魔の国へいく方法は限られているはず」

船長「人間は知らねぇ特殊な海流にのった。あとはなにもしなくても漂着するぜ」

魔王「・・・なぜだ、なぜ私たちを連れてきた」

戦士「船ごと沈めちゃかたは付くはず」

船長「魔王様はご立腹だ。てめぇだよてめぇ元魔王」

魔王「・・・」

船長「てめぇが失脚した後、国中血眼になって探したんだ」

船長「だがてめぇは見つからなかった」

魔王「・・・」

船長「どうやってかしらねぇが国外へ逃亡していたんだな」

僧侶(転移魔法・・・! ということは魔王さんは私たちの島へ来たことが!?)

船長「そして例の件だ。デーモン隊長が倒され、ようやく尻尾をあらわした」

魔王「・・・うまくあぶりだされたということか・・・村ひとつを焼き払って」

船長「へははは! いまの魔王様は実に凶悪なことを考えなさる」

船長「てめぇの性分もよくわかってる」

魔王「あぁ、やり手だな」

船長「へははは! なに冷静なふりをしてやがる。ションベンちびりかけのくせによ」

魔王「・・・ここで私たちを沈めない理由がしりたいな」

船長「当然だろうが。魔王様の力を全土に示すには、どうしてもてめぇの生首がいるんだよ!」

魔王「わかった」

勇者「ね、ねぇ・・・どういうことなの?」

魔王「どうあっても自分の手で私を殺したいようです」

船長「おまけの勇者も一緒に血祭りだ」

戦士「・・・わけわかねーこといってんじゃねぇぞ」

僧侶「・・・でも魔の国・・・魔物の総本山・・・いまの私たちには早すぎます・・・!」

勇者「ううん。違うよ僧侶」

僧侶「・・・?」

勇者「こんなに早く魔王を倒せる日がくるなんて思わなかったもん!!」

勇者「はやければはやいほど良い!!」ブル…

僧侶「勇者様・・・」ギュ

勇者「うぅ・・・」

船長「あんしんしろよぉ。なんなら勇者はここで首だけにしてやるからよぉ」

船長「コエー思いして魔王様にたちむかわなくていいんだぜ? あ?」

勇者「う・・・」

戦士「殺すぞ」

船長「お仲間はどうでもいいんだよ。海に沈めて魚の餌にしてやる」

魔王「聞き苦しいな。あまり都合のいいことばかりべらべらしゃべらないほうがいい」

船長「あ? それはてめぇが過去数年にわたりさんざんやってきたことだろうが無能野郎」

魔王「そうだな。だから・・・私は舞い戻ってきた・・・まだやり遂げていないから」

船長「かっこつけんなよモヤシの事務のおっさんごときが」

魔王「お前たちには大きな過ちが三つある」

船長「・・・は?」

魔王「一つ。勇者様も一緒に連れてきたこと」

勇者「?」

魔王「二つ。私を連れてきてしまったこと」

船長「あ?」

魔王「三つ。私のことを知らなさ過ぎたこと」

ヒュン――

▼魔王は瞬く間に鋭い爪で海賊船長の首を切り落とした

船長「が・・・」

船員「ひぇええええ!!」

魔王「到着するまで船室でおとなしくしておけば命は見逃す」

・・・

戦士「なぁ・・・こんなこと言うのもなんだけど、あんたってやっぱり、魔王だったんだな」

魔王「・・・」

勇者「・・・」

魔王「怖いですか?」

勇者「ううん。魔王さんやさしいよ」

僧侶「魔王さんは・・・素晴らしい方だとおもいます」

魔王「そういわれると、また鈍るんですよ。魔物として」

戦士「また?」

僧侶「そうだ。聞きたかったことが」

魔王「なんでしょう。答えられることなら」

僧侶「魔王さんは、私たちの島へきたことがあるんですか?」

魔王「・・・」

魔王「そうですねぇ・・・。あれは・・・ずいぶんと血の気の盛んな頃でした――――――

――――――十数年前

あの頃、私は本国より命を受け、遠征調査隊の隊士として

小さな島に偵察にいっていたんです。

そこで、彼女に出会った。

それは、今思えば不思議な出会いでした。

私「なぜ剣をおさめる」

女「君を切る気はなくなった」

私「それは高貴なる魔族への侮辱と受け取っていいか」

女「とんがっているな。ますます嫌いになれない」

私「?」

女「よければお酒でも飲まない?」

私「わけのわからん女だ・・・」

女「よく言われる」

当時、成り上がりの豪族だった私は力に溺れ、己を過信していました。

どうしても品位と箔ほしかったので、貴族政治に身を乗り出したりもしました。

この世のすべてを手に入れる日も近い。そう思った矢先での大敗北。

それも女性に。屈辱でしたよ。

ですが、ゆえに・・・彼女が気になって仕方なかったんです。

なぜ旅をしているのか。なぜそんなに強いのか。

なぜ、敵である私に笑顔をむけるのか。

しらずしらずに会食を重ね、私たちはうちとけていきました。

魔物の私と人間の彼女が、です。

女「君は利口だな。ガウーしか言えない魔物がおおくて辟易していたんだ」

私「また私を愚弄するか」

女「あはははっ! 魔族は冗談もつうじないのか」

私「・・・・」

毎日楽しかった。

人を食ったり、戦いの技術をみにつける以外のたのしみを初めてみつけたんです。

でも、それを幸せだと思ってはいけなかったんですね。

だって私たちはどうあがいても、敵同士だったのですから。

女「わかる? 力をもつものが世界を創るんじゃない」

私「?」

女「壊すんだよ。そっから作っていくのは、力を持たないものたち」

女「みーんなでがんばるの」

女「魔王は馬鹿だから嫌い。あれは力が結果になってるだけ」

女「暴力の果てに暴力を生んで、血なまぐさい土壌しかできないよ」

私「む・・・それは薄々感じていたが・・・」

女「だから私が殺すのさ。力をもってね。君たちの世界を壊すの」

私「・・・」

女「だってこれでも勇者だもん!」

彼女は勇者と名乗っていました。

えぇ、その存在がどんな意味を持つかもちろん知っていました。

でも私の偏屈な頭は理解しようとしなかったんですね。

伝説等々で語られる、勇者という役職を担う者が、こんなに笑顔の少女だとは思えなかったのです。

そして・・・審判の日は唐突にやってきました。

全ては私のせいです。

いうまでもなく、彼女の剣を錆びつかせたのは私で。

私の魔物としての誇りを打ち砕いたのは、彼女なのです。

デーモン「勇者なんてあっけねけもんだぜ! なにが伝説だ!!」

デーモン「殺してやった! ひゃはああ!!」

ゴースト「こんなやつ束でかかればたいしたことはない!」

デーモン「おい、どうした? なんでてめぇ手を貸さなかった」

私「・・・」

――――――

魔王「・・・」

勇者「・・・魔王さん」

魔王「何もできなかった。残ったのは後悔と自責の念だけ」

魔王「その二つは混じり合い、やがて私を魔王へとのし上げる力となり・・・ただただ、虚しく・・・膨らんでいったのです」

戦士「・・・」

魔王「彼女と語りあった理想のため、奔走しました」

魔王「後ろ指をさされ、子供にまで笑われ・・・」

魔王「それでも・・・どんな苦汁を飲んでも、私は再び以前のように、力だけを求める愚か者には戻りたくなかったのです」

魔王「彼女の示してくれた一つの未来を、実現したかったのです。とんだわがままな迷惑王ですね」

僧侶「・・・いまからでも遅くないですよ!!」

魔王「えぇ・・・もちろんです。壊すよりも創るほうが大変なのですから」

魔王「私はまだ・・・戦い始めたばかりです」

魔王「上空を死鳥が旋回していますね。覚悟してください。・・・もうすぐ魔の国に到着します」

――魔の国――

勇者「うすぐらいよー・・・」

戦士「・・・しっ」

魔王「警戒しなくても大丈夫ですよ。都市部か城内にしか魔物はすんでません」

戦士「なんで?」

魔王「なにもないからです」

僧侶「たしかに・・・木も全部腐敗していて、果実のひとつすら・・・」

魔王「この国はほんとうに、なにもないのです」

魔王「だから私はつくろうとした、食料の供給ラインや娯楽施設、大浴場」

魔王「彼女におしえてもらったあらゆる文化をもとに、魔の国の改革を進めました」

勇者「ここくさーい! やだー!!」

魔王「ごめんなさいね。都市部に行けばすこしはマシになりますよ」

戦士「覇権を極めた魔の国の実態がこれかよ・・・」

魔王「力があっても、裕福とは限りません。奪うことしかしりませんでしたから」

魔王「国としては、すこしありえない話ですよね。でも私だって長年なんの疑問もいだかなかったんです」

魔王「だから私の改革は、急進派なんていわれちゃいましたよ」

魔王「なんでもない普通の幸せを、みなに与えたかっただけなのですがね・・・」

僧侶「魔王さんが再び返り咲けるよう、私たちは助力します」

魔王「・・・いいんですか?」

僧侶「え?」

魔王「以前勇者さまともこんな話をしたことありますね」

勇者「んー?」

魔王「魔王を倒して私が次の魔王になったら。勇者様はどうするかって」

勇者「絶対絶対たおさない! 魔王さんは良い人だから」

魔王「ありがとうございます・・・」ナデナデ

勇者「こんなとこにきてまで頭なでないでよー! 子供扱いしてー!」

魔王「どうやら・・・というよりも当然、バレているようですね」

戦士「!!!」

僧侶「上です!!」

▼ダークドラゴンがあらわれた

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