ドラゴン「無事たどりついたか」
魔王「現魔王に会いにきました」
ドラゴン「しらじらしい。首を取りに来たと言い直せ」
魔王「はい」
ドラゴン「裏切り者と侵入者はここで俺の業火で消し炭にしてやってもいいが」
ドラゴン「それだとのちのち困るのはこっちだからな」
勇者「どういうこと? なんであのドラゴンしゃべってるの?」
僧侶「私たちの王位継承にも戴冠式などいろんな儀式がありますよね?」
魔王「先も述べましたが先代の首をふりまわすこともひとつの通過儀礼なのです」
勇者「ふーん? じゃあなんでしゃべってるの?」
ドラゴン「それは俺が・・・賢いからだ!!」
▼ダークドラゴンはやけつく息を吐いた
戦士「お、おい! 火ふかねぇっつったろ!!」
僧侶「ちがいます・・・・これは・・・きゃあああああ!!」
戦士「うああああああっ!!」
勇者「僧侶!! 戦士ぃ!!」
魔王「グ・・・姑息な」
ドラゴン「姑息? 褒め言葉だな」
ドラゴン「チッ、勇者はまぬがれたか。さすがの耐性だな」
魔王(体が・・・おもうように動かないっ)
ドラゴン「俺の息は皮膚、粘膜、器官、あらゆる場所から体内に侵入し、対象を麻痺させる」
ドラゴン「貴様は魔法の使い手としては国でも五指に入るほどだが・・・相手が悪かったな」
魔王(まずい・・・勇者様をまもらなければ・・・)
勇者「魔王さん! 僧侶! 戦士!!」
ドラゴン「くははは! 勇者、三人はもらっていくぞ」
勇者「ま、まって!!」
ドラゴン「一人で魔王城まで来い。ま、無理だろうがな」
ドラゴン「貴様程度の実力では街の門番に殺されるといったところか」
魔王(勇者様・・・)
ドラゴン「飢えた民どもの糧にでもなり、その生命を終えるがいい」
ドラゴン「いや、それで済めば御の字だな」
勇者「!!」
魔王「きく・・・な・・・・」
ドラゴン「貴様のような熟れる前の小娘でも娶りたいやつは山ほどいるだろう。そっちに期待でもしてみるか?」
ドラゴン「くははははは! もう会うことはないだろう。さらばだ」
バッサバッサ・・・
勇者「あ・・・・あ・・・連れてかれちゃった・・・」
勇者「ど、どうしよう・・・魔王さん・・・」
勇者「うぅ・・・どうしたらいいの!」
勇者「みんな殺されちゃう! 殺されちゃうよぉ!!」
勇者「うっ・・・うっ・・・」
勇者「なんで、泣いちゃうの・・・だめ・・・勇者なのに・・・」
勇者「助けて・・・魔王さん・・・」
勇者「なんにもできないよ・・・スライムもたおせないのに・・・」
勇者「・・・・うっ」
勇者「うわああああああん!」
勇者「あああああああああん!」
――――――
――魔王城――
―謁見の間―
現魔王「がははははは! 笑いがとまらないぁ、なぁ?」
ドラゴン「まったくですな」
現魔王「勇者も元魔王も同時始末できるなんざ。ぎゃはははは!」
ドラゴン「国民集会の準備をすすめましょう」
現魔王「おうよ。俺はいまにもこいつの生意気な首をはねたくてはねたくてしょうがないのよ」
ドラゴン「となりの娘二人はどうしますか?」
現魔王「ばらしてくっちまうってのもいいが・・・そこはまぁ、げひゃひゃ」
現魔王「俺様に挑んできたことを死ぬほど後悔させてやるってもんよ!!」
魔王(う・・・・下衆が・・・)
僧侶(勇者様・・・)
戦士(体が動かねぇ・・・こんなとこで・・・こんなとこで死ぬのかよ・・・っ!)
現魔王「なんだ? その反抗心丸出しの面は」
戦士「!」
オーガ「げひ、げひ」
悪騎士「ぎひゃははは」
僧侶「!!」
現魔王「お楽しみといこうぜぇ、魔王さんよぉ」
魔王「よ・・・せ・・・・」
現魔王「てめぇのお仲間が絶望にまみれる姿、みせてやるよ」
僧侶「や、やだ・・・」
戦士「さわ、んな・・・ッ!」
ドラゴン「俺の息をすったら向こう一週間はうごけねぇぜ、ぎゃはは!」
ドラゴン「おいお前ら。俺も混ぜろぉ! ムラムラむしゃくしゃしてんだ」
オーガ「げひ、げひひ」
魔王「やめ・・・ろ・・・」
やめてくれ・・・その子達は・・・
頼む・・・お願いだ・・・
もう、嫌なんだ・・・・・あんな失望感・・・二度とごめんだ・・・
死んだって、死にきれやしない
悪騎士「サービスしろよぉ!」ビリィ!
僧侶「いやぁあああ!!」
オーガ「げひ、げひひひ」サワサワ
戦士「あっ、く・・・・ッ!!」
運命? 宿命?
そんなふざけたものをこの子たちに託す愚かな神がいるなら、死んでしまえ!
死なないなら・・・私が殺してやる・・・
なにもかも・・・殺して・・・壊してやる・・・
だから・・・・・
魔王「もうやめてくれ」
▼魔王はたちあがり、うつろな目でどこかあてのない空間を見つめている
ドラゴン「ばっ! 何!? 俺の息から自力で!?」
僧侶「魔王・・・さん・・・?」
▼魔王の全身からゆらりゆらりと闇が解き放たれる
魔王「嫌なんだ」
▼闇はやがて収束し、不気味で大きな、新たな肉体へと形作られていく
戦士「なにが・・・!?」
▼闇から伸びた異形の腕が悪騎士を引き裂いた
▼闇から放たれた業火をあっという間にオーガを消し炭に変えた
現魔王「なっ!! なんだこれは・・・!」
魔王「もういい」
戦士「魔王・・・お前は・・・!!」
現魔王「ばかな! おい! どういうことだ!!」
ゴースト「きゃつめは元は闇の魔導師・・・! まさかこんな術を」
魔王「壊すだけなら、これでいいんだ・・・」
▼巨大な腕はダークドラゴンをつかみ、ひきよせる
ドラゴン「や、やめろおお!! お前は公約でずっと不殺を」
▼ダークドラゴンはにぎりつぶされ、この世のすべての邪悪を孕んだものに噛み千切られた
魔王「クク・・・」
僧侶「魔王さん・・・なんて・・・なんてお姿に・・・!!」
ゴースト「こ、こやつは世界を滅ぼす気ですぞ!!」
現魔王「グ・・・させるか! 俺が直接ぶちころす!!」
▼ソレは周囲にただよう闇をちぎりとり、光線のごとく速度で正面へとなげつけた
現魔王「ぎゃああああっ!!! 俺の腕がぁあああああ!!」
ゴースト「魔の国の闇をすべて吸い取っているのか!!」
現魔王「なんだとぉ・・・・!!! 俺の国で暴れてんじゃねええ!!!」
▼化物の腕は、大きく空をなぎ払った
▼無数の刃となった闇の風が正面の物体を切り刻む
現魔王「ぁ・・・・・」バラッ…
魔王「モウ。いいンダ」
魔王「もう、何もいらない・・・なにも」
魔王「私は・・・全てを・・・」
僧侶「魔王さん! 正気にもどってぇ!!」
戦士「このままじゃ私らもやべーぞ、ただでさえうごけねーんだ。天井が崩れたら終わりだ・・・」
――腐敗した森――
勇者「うええええん、ああああああっ!」
勇者「ひっぐ・・・うっく・・ううう・・・」
勇者「・・・う?」
勇者「・・・・な、なんだろう」
勇者「闇がうすくなっていってるような・・・」
勇者「向こうの空の色がどす黒くなってる・・・」
オーク「きゃっほうう! お嬢ちゃん!!!」
勇者「!!」
オーク「迷子かい? 俺と遊んでかない? もちろん、死 ぬ ま で ♪」
勇者「あ・・・あぁ・・・どうしよっ」
オーク「びびんなよ可愛いなぁへっへっへ」
勇者「うぅ・・・・」
オーク「・・・・ん? なんだこの感じ」
勇者「・・・闇が・・・ううん、世界が溶けていってるのかな」
オーク「は・・・? ぁ・・・」ガクッ
オーク「な、なんだ? 力がハインねェぞ、おいおいおいおい!」
オーク「どういうことだってのぅ!! お嬢ちゃぁあんなんかした?」
勇者「なにか見えた! ・・・あれは、化物?」
オーク「城の方か・・・な、なんだあのバカデケェ腕・・・!! あんな怪物ここにゃいねぇぞ・・・」
勇者「・・・魔王・・・さん?」
オーク「あ・・・やばい・・・意識が・・・」
勇者「大丈夫!?」
オーク「うぇへへ・・・おいおいおい、俺は・・・魔物だぜ・・・アンタの敵だろ」
勇者「・・・・」
オーク「ちくしょ・・・」
勇者「いかなきゃ・・・私・・・なんで泣いてたんだろう、ばか」
勇者「・・・・何が起きているの? 魔王さん・・・」
魔王『勇者様』
勇者「僧侶・・・・・・・」
僧侶『勇者様ぁ!』
戦士『勇者!』
勇者「みんなに・・・・・」
勇者「みんなに・・・! 会いたいよ・・・ッ!!」
ヒュン――――……
魔王「アアアアアア!!」
▼ソレは、絶え間ない破壊を望み、闇を世界へとまきちらした
戦士「もう限界だ・・・」
僧侶「世界が・・・歪んでいきます・・・」
▼ソレには理性や情などなく、ただただ・・・滅びを欲した