女勇者「勇者になんて、生まれたくなかったんだよ?」 2/12

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【次の街】

トテトテ

戦士「ここが次の街か。少し休息を取ろう」

僧侶「はぁい…。疲れちゃいましたぁ」

魔法使い「そうですね。勇者様、疲れていませんか?ずいぶん歩きましたけど…」

女勇者「大丈夫大丈夫!私、歩くの大好きだからね」トテトテ

戦士「む?」

女勇者「うわー…。私、おうちの近くでしか遊んだ事ないから、こんなに遠くに来るのはじめてー」

トテ…トテ…

戦士「…勇者殿、足を怪我したのか?」

女勇者「え?ううん、してないよ?」

戦士「足を引きずっているではないか。少し見せてみなさい」

女勇者「やだよぅ…大丈夫だもん」

戦士「良いから。怒らないから、靴を脱いで見せてくれ」

女勇者「はぁい…」

もぞもぞ

すぽっ

戦士「…靴擦れしているな。靴が大きかったのか?」

女勇者「うん、ちょっとだけ…」

女勇者「あのね?…私、こんなちゃんとした靴はいた事なかったから…」

戦士「僧侶、回復してやってくれ」

僧侶「はぁい。勇者様、回復しましょうね」

女勇者「え、大丈夫なの。本当だよ?」

戦士「勇者殿、無理はしないと約束しただろう?」

女勇者「うん…したけどぉ…」

僧侶「回復魔法(小)」

ぱぁぁ…

女勇者「わぁ。痛くない…」

僧侶「ふふ、だって回復魔法なんですから。魔法は初めて?」

女勇者「うん!なんか変な感じ…」

僧侶「すぐに慣れますよぅ。それよりも、お怪我したらちゃんと言わないとダメですよ?」なでなで

女勇者「うん…。みんな、迷惑かけてごめんなさい…」しゅん

魔法使い「勇者様」

女勇者「はい。なぁに、魔法使いちゃん」

魔法使い「私達は、誰も迷惑だなんて思っていませんよ」

女勇者「…本当?」

魔法使い「えぇ、もちろんです。何故そんな事を思うのですか?」

女勇者「だってぇ…」

魔法使い「だって?」

女勇者「私だけ、こんなちっちゃくて弱いから…おじちゃん達はすごく強いのに」

女勇者「私は勇者なのに、頑張れないから…迷惑かな?って思ったの」

魔法使い「ふふ、そんな事ですか」

魔法使い「良いですか、勇者様。よく聞いてね?」

女勇者「…うん」

魔法使い「勇者様はたしかにまだ幼いです。子供です。でもそれは悪い事ですか?」

女勇者「…ううん。ちがうね」

魔法使い「そう。誰だって最初は子供なんです。私達だって子供でした」

女勇者「そうなの?おじちゃんも?」

戦士「…」

魔法使い「ふふ、確かに戦士さんの子供時代なんて想像できませんが」

魔法使い「でもね、勇者様。私達が勇者様くらいの頃は、勇者様みたいに強くはなかった」

女勇者「私?弱いよ?だって、剣も振れないし、盾も鎧も持てないもん」

魔法使い「それは仕方がない事です。勇者様が強いのは、心」

女勇者「こころ?」

魔法使い「そう、心です」

女勇者「…うーん?よくわかんない」

魔法使い「今はまだわからなくて良いんです。でも勇者様は、心に強さを持っている」

女勇者「そうなの?」

魔法使い「えぇ。そんな勇者様だからこそ、私達は命を賭けてでもあなたをお守りする決意をしたのです」

女勇者「…」

魔法使い「だからね、勇者様。あなたはなんにも迷惑だなんて思わなくて良いのです」

魔法使い「私達は勇者様を信じてお手伝いするんですから。だから、迷惑だなんて思わないで?」

魔法使い「…ね?」ニコ

女勇者「…うんっ!」

戦士「では行こうか。勇者殿、足はまだ痛むだろう」

女勇者「うん、ちょびっとだけ」

戦士「そうか。…ほら」

女勇者「ふぇ?おじちゃん?」

戦士「疲れただろう。背中におぶさると良い」

女勇者「…うん!」

すっ

戦士「よし、では宿に向かおう」

すたすた

女勇者「えへへ、おじちゃん」

戦士「む?」

女勇者「ありがとうね」ぎゅっ

戦士「うむ。構わん」

すたすた…

【宿】

戦士「一人部屋と三人部屋を頼む」

女将「わかりました。一晩で12Gになります」

戦士「うむ」

女勇者「やだ!」

僧侶「勇者様?」

女勇者「おじちゃんも一緒が良いな。ねぇ、僧侶ちゃん!良いでしょ?」

戦士「いや、それは…」

女勇者「やだぁ…!一緒が良いもん…」

僧侶「良いじゃありませんか、戦士さん。私達は平気ですよぉ」

戦士「しかし…」

女勇者「おじちゃん、お願い。ね?」

僧侶「戦士さん。勇者様は、この歳でママと離れないといけないんですよ?」

戦士「!」

僧侶「私達で代わりになるとは思いませんけど、勇者様の事を1番に考えてあげましょう?」

魔法使い「そうですね。私もそれが良いと思います」

戦士「…」

戦士「4人部屋を頼む」

女将「はい、わかりました」

女勇者「わぁい!」

戦士「それでは3人とも、風呂に入ってくるといい」

僧侶「先に入っても良いんですか?」

戦士「うむ。勇者殿を入れてやってくれ」

魔法使い「わかりました。勇者様、お風呂に行きましょうか」

女勇者「うん!おじちゃんは?」

戦士「俺は後から入ろう。やる事があるのでな。先に入りなさい」

女勇者「はぁい。行って来ます!」

トテトテ

戦士「行ったか。…俺も出かけるとしよう」

すたすた

すたすた

女将「あら?お出かけですか?」

戦士「ああ。少し店までな。まだ開いているだろうか」

女将「大丈夫だと思いますよ。ここを出て少し歩けば店が固まった場所があります」

戦士「そうか。助かる」

すたすた

【武器屋】

主人「いらっしゃい。何の用だい?」

戦士「武器を見せて欲しいのだが」

主人「おうよ。あんた、腕が立ちそうだな。ウチは良いのが揃ってるぜ」

戦士「…8歳の子供が装備出来るものはあるか」

主人「は?なんだって?8歳?」

戦士「そうだ」

主人「あんた、そんな子供に戦わせようってのかい、感心しねぇな」

戦士「その子は戦わねばならんのだ。自分の身を守る為に持たせてやりたい」

主人「うーん…しかしなぁ。どれも子供に扱える代物じゃねぇぞ?」

戦士「重いのか」

主人「こん棒でさえ2キロ近くある。8歳にゃ、とてもじゃないが無理だ」

戦士「女の子にも扱えるような武器はないのか」

主人「女の子ぉ!?」

戦士「うむ。女の子だ」

主人「…あんた、自分が何言ってるかわかってるか?」

戦士「承知している」

主人「……そうかい。事情がありそうだな」

戦士「……ああ。その8歳の女の子というのはな」

主人「…」

戦士「勇者だ」

主人「なんだって!?…本当かいそりゃ」

戦士「うむ。出来る事ならば、俺も戦わせたくはない」

主人「…そりゃそうだ。まさか、勇者様がそんな子供だったなんて」

戦士「勘違いしないで欲しい。勇者殿は確かに幼いが、勇者としての器を持つ人だ」

主人「そうかい。…よし、わかった」

戦士「む?」

主人「勇者様が武器を扱えないなら、あんたが守ってやりな。腕には自信があるんだろ?」

戦士「当然だ。俺が生きている限り、勇者殿はお守りする」

主人「よっしゃ、あんた。これを持っていきな」すっ

戦士「これは?」

主人「ここで用意出来る1番良い剣だ。品は保証するよ」

戦士「しかし、こんなに立派な剣を買える程の持ち合わせは…」

主人「良いんだ。お代はいらねぇ。そのかわり、しっかり勇者様を守ってやってくれ」

戦士「かたじけない。ありがたく頂く」

主人「おうよ。がんばってな」

戦士は新たな剣を手に入れた。▼

戦士「ありがたい。必ず勇者殿をお守りしよう」

すたすた

戦士「…勇者殿にも、何か用意しなければな」

すたすた

戦士「勇者殿が身につけているただの服では、戦いは無理だ」

すたすた

戦士「せめて防具だけでも何か用意してやらねばな」

すたすた

【防具屋】

ガチャ

戦士「邪魔する」

主人「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか」

戦士「重くない防具をくれ」

主人「はい?」

戦士「出来るだけ軽く、頑丈なものはないか?」

主人「軽い物となりますと…こちらになりますが」

戦士「ドレスか、服か…」

主人「はい。こちらが比較的軽い物ですね。動きやすく、かつ頑丈です」

戦士「…では、ドレスをくれ」

主人「畏まりました」

戦士「ああ、それから注文があるのだが」

主人「なんでしょう?」

戦士「それを、子供用に繕ってやってくれないだろうか」

主人「わかりました。何歳くらいのお子さんですか?」

戦士「今日で8歳になるのだが、その割に体はかなり小さい」

主人「畏まりました。少々お待ち下さい」

戦士「うむ。わがままを言って済まないな」

主人「いえいえ。お子さんも、こんなプレゼントをいただいたら喜ばれますよ」

戦士「…そういう訳でもないのだが」

【宿屋の風呂】

わしわし…

僧侶「勇者様、目を開けちゃだめですよぉ」

女勇者「んー…」

僧侶「ふふ、そんなにおもいっきり目をつぶらなくても…」

女勇者「だって、目に入ったら痛いんだよー?」

僧侶「もう、勇者様ったら。お家でもママと一緒に入ってたんですか?」

女勇者「うん…。時々ね?時々だよ?」

僧侶「クス…はい、時々ですね」

わしわし…

僧侶「はい、おしまいです」

女勇者「ありがとー、僧侶ちゃん!」

僧侶「どういたしまして」ニコ

女勇者「ねぇ、僧侶ちゃんはいくつ?」

僧侶「私ですか?17ですよ」

女勇者「じゃあね、魔法使いちゃんはー?」

魔法使い「私は19になります」

女勇者「そーなんだ!じゃあなんで魔法使いちゃんは年上なのに、僧侶ちゃんより小さいの?」

魔法使い「!」

僧侶「ゆ、勇者さま…」かぁぁ

女勇者「おっきくなったら膨らむんだよね?ねぇ、なんでー?」

魔法使い「勇者様」

女勇者「はぁい?」

つねっ

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