女勇者「勇者になんて、生まれたくなかったんだよ?」 1/12

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母「起きなさい、勇者。私のかわいい勇者」

ぽんぽん

母「勇者、おはよう…」

女勇者「あ、ママ。おはよー」

母「……今日はあなたの8歳の誕生日……」

女勇者「うん!ママ、プレゼントはなぁに?」

母「ごめんなさい。あなたは今日、旅立たなければならないの…」

女勇者「え?旅立つ?」

母「…こんなに幼いこの子が旅立たなければならないなんて…」

女勇者「ママ?泣かないで?…どうしたの?」

母「あなたはこれから、魔王を倒して世界を平和にしなければならないの…」

女勇者「?」

母「ああ、せめて…せめて、この子がもう少し大きくなるまで待ってはくれなかったの…?」

母「…ごめんなさいね、勇者。こんな母親を許してね?」

女勇者「…?なんで謝るのママ。泣いちゃやだよ…」

母「勇者に生んでごめんなさい…」ぽろぽろ

女勇者「ううん。私、勇者に生まれてよかったよ。ママの子供でよかった」

母「勇者…!」

女勇者「今日旅にでるんだよね。だいじょーぶ!私がんばるからね!」

母「強い子ね…。あなた、娘はあなたに似てこんなに強い子に育ったわよ…」

女勇者「私、がんばって早く帰って来るからね。ママ、待っててね!」

母「…うん、うん。約束ね」

女勇者「約束!ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本!」ぶんぶん

母「ふふ、針千本ね。…さぁ、勇者。まずは王様に会って、酒場で仲間を見つけなさい」

女勇者「わかったー!じゃあママ、行ってきまぁす!」

【お城】

王様「そなたが勇者か…。なるほど、聞いていた通り幼いな」

女勇者「おーさま?」

王様「いかにも。わしが王だ…」

女勇者「はじめまして!私は勇者です」ぺこ

王様「うむ。…そなたには申し訳ないと思っている」

女勇者「おーさまも?」

女勇者「どうしてー?王様、なんにも悪い事してないよ?」

王様「…わずか8歳という若さで、旅に出て貰わなければならない。本当に済まない」

女勇者「私もう8歳だもん、だいじょーぶだよ」ニコ

王様「…危険な目にも合うだろう。命を落としてしまうかも知れん」

女勇者「んー…それでも、私は勇者だもんね。大丈夫」

王様「魔王の勢力がこんなに早く伸びるとは思っていなかった…。…勇者よ」

女勇者「はぁい?」

王様「こんな事を頼めた義理ではないが…。必ず、生きて帰ってくれ」

女勇者「はーい」ニコ

【酒場】

女勇者「うわー…50Gももらっちゃったぁ。お小遣いいっぱい♪」

女勇者「あ、ここがさかばかな?」

トテトテ

トテトテ

ガチャ

女勇者「すみませーん、さかばですか?」

戦士「……君は、もしや勇者殿か」

女勇者「うん、今日旅にでるの!おじちゃんだれー?」

戦士「俺は戦士。…噂には聞いていたが、本当に幼いな」

女勇者「今日で8歳なの」ニコ

戦士「ふむ…。勇者殿、よければ俺がついていこう。君のような子供を一人で戦わせる訳にはいかない」

女勇者「ほんと!?仲間になってくれるのー?」

戦士「うむ。出来る限り力になろう」

戦士「幸いここには、勇者殿の力になってくれる仲間がたくさん居る」

女勇者「そうなの?仲間になってくれるかなぁ?」

戦士「なってくれるとも。声をかけてみると良い」

女勇者「うん!ねぇねぇお姉ちゃん」

魔法使い「はい?私ですか?」

女勇者「うん!お姉ちゃん、私と一緒に旅に行ってくれる?」

魔法使い「あなたはまさか、噂の勇者様ですか…?」

女勇者「そうだよ。私は勇者!今日8歳の誕生日なの」ニコニコ

魔法使い「…あなたが、魔王を倒す旅に…」

女勇者「魔王を倒すの!」

魔法使い「…わかりました。私もお供させていただきます」

女勇者「やったぁ!よろしくねお姉ちゃん!」

魔法使い「よろしくお願いします。私の事は、魔法使いと呼んで下さい」

女勇者「魔法使いちゃんだね。わかったぁ!」

僧侶「あ、あのぅ…」

女勇者「はーい?なぁに?」

僧侶「あなたが…勇者様なんですよね?」

女勇者「そうなの!勇者!」

僧侶「…私もお供させてくださいますか?」

女勇者「え!ホント!?」

僧侶「え、えと、勇者様がよろしければ…」

女勇者「えへへ、もう仲間いっぱいだぁー」

戦士「あらためてよろしく。勇者殿」

魔法使い「私達が、必ず勇者様をお守りいたしますからね」

僧侶「わ、わたしも頑張ります!よろしくお願いしまぁす!」

女勇者「うん!皆、がんばろーね!」

戦士「うむ。ではさっそく街の外に出よう」

僧侶「そうですねぇ。まずは実線でレベルを上げないと」

女勇者「じっせん?」

【フィールド】

戦士「勇者殿、魔物が出て来たら1番後ろに居るといい。戦闘は俺達に任せろ」

女勇者「?まものってなに?」

魔法使い「魔物とは、凶暴で人を襲う、魔王の手先ですよ」

女勇者「ふぅん?なんか怖いね」

僧侶「大丈夫ですよぉ。私達がお守りしますからね」

女勇者「わかったぁ。私もがんばるね!」

魔物があらわれた!▼

魔物「ぐるるる…」

戦士「!来たな。勇者殿、後ろへ」

女勇者「え?え?」

魔法使い「さぁ、勇者様!私達の後ろで隠れていて下さい」

僧侶「勇者様、私のところに居て下さい。大丈夫、怖くありませんからね?」

女勇者「何してるの?ねー、みんな何するのー?」

戦士「おりゃあああ!!」

ブンッ!

魔法使い「火炎魔法(小)!」

ぼぉぉ!

僧侶「勇者様、大丈夫ですからね。怖くない怖くない」

ぎゅっ

女勇者「ねぇ、僧侶ちゃん!なんでおじちゃん、あの子を切ったの?痛くないの!?」

僧侶「勇者様…」

女勇者「あのまものの子が悪い事したの?痛いんだよ、ねぇ、切ったら痛いんだよ?」

魔法を倒した!▼

トテトテ

女勇者「…うわぁ。うわぁ……」

女勇者「痛そう…痛い?大丈夫?」

女勇者「お返事しないの?ねぇ、まものさん?」

戦士「……勇者殿」

女勇者「おじちゃん…?この子、動かなくなっちゃった」

戦士「…魔物は、倒さなければいけないんだ。勇者殿」

女勇者「…倒すと死んじゃうの?」

戦士「………そうだ」

女勇者「この子、死んじゃったんだね…」

戦士「…そうだな」

僧侶(やっぱり…やっぱり勇者様は…)

僧侶(旅に出るには…戦いに出るには幼すぎますよね…)

女勇者「…しょうがないの?しょうがないんだよねぇ?」

僧侶「!」

女勇者「この子をやっつけないと、人間が危ないもんね」

戦士「…そうだ」

女勇者「ねえ、おじちゃん。この子にとっても、同じじゃないの?」

戦士「え?」

女勇者「私たちに勝たないと、そこの草むらにいるこの子の赤ちゃんやっつけられちゃうから…」

ガサッ

魔法使い「!本当に…草むらに子供が…」

魔物「がう…」ビクビク

僧侶「ゆ、勇者様?どうしてこの赤ちゃんがそこに隠れているとわかったんですか?」

女勇者「え、だって…」

戦士「まさか、気配で気付いたのか?この年で?」

女勇者「んーん。気配とかはよくわかんないけどねぇ?」

女勇者「さっきのまものさんがおじちゃんに斬られてから動かなくなるまで、じっと草むらを見てたから…」

戦士「!そうだったのか…」

女勇者「うん。…すっごく、かわいそうだった」

女勇者「…守れなくてごめんねって、言ってるみたいだったよ…?」

戦士「…」

魔法使い「…この子をどうしますか、勇者様」

女勇者「え?」

魔法使い「逃がしてやるか、それとも…ここで倒していきますか」

魔物「がう…!がるる…」

女勇者「…私が決めるの?」

戦士「そうだ。勇者殿が決めると良い。俺達は勇者殿に従おう」

女勇者「わかんないよ、私には…」

戦士「……」

女勇者「どうしたら良い?かわいそうだよ…?」

戦士「…そうだな。…この魔物を生かすも殺すも、勇者殿次第だ。それが勇者殿の意思であり、正義だ」

女勇者「正義?…なに?」

戦士「正義とは、正しい事を正しいと信じる事だ」

女勇者「んー?正しい事を正しい…?」

戦士「なにが正義かは、俺にはまだ答えられないが」

女勇者「そっかぁ…。うん。じゃあ、逃がしてあげようよ。良いでしょ?」

戦士「それが勇者殿の意思であり、正義ならばそうしよう」

女勇者「うん!」

僧侶「ねぇ、戦士さん…」

戦士「む?」

僧侶「やっぱり、勇者様にはまだ戦いは早過ぎるんじゃあ…」

戦士「うむ。…そうだな。出来る事ならば、この歳から血を見て欲しくない」

魔法使い「でしたら、私達が戦えば済む話です」

戦士「俺達が戦い、勇者殿には出来る限り戦闘には参加させない…という事か」

魔法使い「そうですね。勇者様にはまだ…早過ぎます」

戦士「そうだな。いくら勇者に生まれたとは言え、まだ8歳。命を賭けるには幼な過ぎる」

僧侶「やっぱりそうですよね。私達が、勇者様をお守りしましょう」

女勇者「ねぇねぇ、何お話してるの?」

戦士「勇者殿。…勇者殿はこれから、戦闘には参加しないでくれ」

女勇者「え?」

戦士「魔法とは俺達が戦おう。勇者殿は後ろで居てくれれば良い」

女勇者「いや!」

戦士「なに?」

女勇者「だって、おじちゃん達は戦うんでしょー?」

僧侶「…そうですけど、勇者様はまだ8歳になったばかりなんですよ?」

女勇者「うん。だけど、私は勇者だもん」

魔法使い「勇者様…」

女勇者「私だけが戦わないで逃げてるのはやだよ。私だって、がんばるから」

戦士「…」

女勇者「やらなきゃいけない事を誰かにやってもらうのは、正義じゃないでしょ?」

女勇者「だから、私も戦う。ね、良いでしょ?」

戦士「…わかった」

僧侶「戦士さん!」

戦士「勇者殿はやはり勇者だ。幼くして、勇者としての自覚と責任を持っている」

女勇者「じかく?」

戦士「勇者殿」

女勇者「ん?なぁにおじちゃん?」

戦士「勇者に生まれてしまった事を、後悔しているか?」

女勇者「んーん、全然!」

戦士「…そうか」

女勇者「うん!」ニコ

戦士「よし。わかった。しかし、勇者殿。これだけは守ってくれ」

女勇者「?」

戦士「勇者殿は望んで勇者に生まれた訳ではない。辛かったり、戦いが嫌になったらいつでも言ってくれるか?」

女勇者「えへへ、大丈夫だよぅ。でも…わかった!約束するね!」

戦士「うむ。我々はそれを、絶対に責めたりはしないからな」

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