女勇者「勇者になんて、生まれたくなかったんだよ?」 7/12

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【最後の町】

トテトテ

女勇者「ここが、魔王の城までの最後の町だねぇ」

僧侶「そうなりますね。しっかり準備を整えましょうね、勇者様」

魔法使い「戦士さん。今日には出発しないんですよね?」

戦士「うむ。今日は一日休養をとって、明日万全の態勢で挑もう」

女勇者「きょうはお休み?」

戦士「ああ。とりあえず今日はこの町をゆっくり散策しよう」

女勇者「うん!」

魔法使い「では、私と僧侶は宿を取ってきますね」

僧侶「戦士さんと勇者さまは、お食事が出来そうなところを探しておいてくれますか?」

女勇者「はぁい」

戦士「了解した。行こう、勇者どの」

女勇者「うんっ!」

トテトテ

トテトテ

女勇者「わぁ…いろんなお店があるねぇ」

戦士「そうだな。最後も近い分、強力な武器や防具も揃っているのだろう」

女勇者「へぇ…でも、私はこの剣があるから武器はあらないね!」

戦士「うむ。俺もこの剣があるから、新しいものは必要ないな」

トテトテ

女勇者「ねぇ、晩御飯はどこで食べるの?」

戦士「うむ。勇者殿は何が食べたい?」

女勇者「んっと…なんでも良いけどねぇ」

戦士「明日になれば魔王の城に出発だ。今のうちに好きなものを食べておこう」

女勇者「うん!じゃあね、私…カレー食べたいなぁ」

戦士「よし。カレーならばさっき見た店にあったな。そろそろ戻るか」

女勇者「戻る?宿に?」

戦士「うむ。僧侶達も宿を取って待ってくれているはずだ」

女勇者「うんっ!」

【宿】

女勇者「ただいまっ!」

僧侶「おかえりなさい。ご飯食べるお店は決まりましたか?」

女勇者「うん!さっき見たお店で、カレーが美味しそうなの」

僧侶「ふふ、勇者様はカレー大好きですもんね」ニコ

女勇者「えへへ…僧侶ちゃんも好きでしょ?」

僧侶「はい。もちろん大好きですよ」

戦士「あまり遅くなってもいけない。そろそろ行こうか」

僧侶「はぁい」

魔法使い「そうですね。行きましょう」

【店】

女勇者「いただきまぁす!」はむっ

僧侶「ふふ、勇者様。そんなにあわてなくても大丈夫ですよ」

女勇者「わぁ。このカレー、ふっごくおいひいよ!」もきゅもきゅ

魔法使い「勇者様。お口にものを入れて喋ってはいけませんよ?」

女勇者「ごめんなさぁい…。でも、魔法使いちゃんも食べてみて?」

魔法使い「ええ。いただきます」 すっ ぱくっ

魔法使い「…本当。すごく美味しいですね」

女勇者「ね?美味しいでしょ?」

僧侶「戦士さん、少しお話があるんですが…よろしいですか?」

戦士「む?どうした僧侶」

僧侶「さっき、この町の方に聞いたんですが…」

戦士「…あまりいい知らせではなさそうだな」

僧侶「ううん。そういうわけじゃないんです…」

戦士「?」

僧侶「魔王との戦いについてなんですけど…」

戦士「なにか問題でもあるのか?」

僧侶「勇者様のことなんです。戦士さん、こんな話を聞いたことありませんか?」

戦士「…なんだ」

僧侶「勇者様にしか使えない、魔法のことです」

戦士「いや、聞いたことがない…。詳しく聞かせてくれ」

僧侶「そのぅ…なんでも、魔王を倒すには、勇者様のその魔法が必要なんだとか…」

戦士「…それは、たしかな情報なのか」

僧侶「わかりません。ただ、ここの町の広場で聞いたお話なんです。詩人さんみたいでしたけど…」

戦士「…しかし、勇者殿はあの状態だ。今日になってやっと回復魔法が使えるようになったような…」

僧侶「それなんですけど…」

戦士「うむ?」

僧侶「私、思うんです…。もしかしたら、勇者さまがここに来て魔法を使えるようになったのは、偶然じゃないのかも…」

戦士「…その魔法を覚えて、そして使えるようになるために…ということか」

僧侶「そうです。私の思い過ごしだといいんですけど…」

戦士「…しかし、勇者殿はまだその魔法を使えるわけではないのだろう?」

僧侶「はい。でも、聞いた話では…この町には祠があって…」

僧侶「そこで、その魔法と関係のある何かがあるって…聞いたんですぅ…」

戦士「……」

僧侶「戦士さんは、どう思いますか?」

戦士「…俺は魔法のことはさっぱりわからない。だが、僧侶が塔で言っていたような…」

僧侶「精神力を消耗する…ですね。はい、もちろん…」

僧侶「それが強力な魔法であればあるほど、身体の負担は大きくなります」

戦士「その魔法は、魔王を倒すためには必ず必要なのか」

僧侶「必ずという訳ではありません。話では、魔王の力を抑えるとしか言っていませんでしたし…」

戦士「…そうか」

僧侶「…どうしたらいいですか?勇者さまにお話します?」

戦士「いや。やめておこう」

僧侶「ふぇ?」

戦士「俺達も十分に強くなったはずだ。勇者殿に負担をかけずとも、必ず勝てる」

僧侶「…!そうですよね!」

戦士「旅立つときに、俺達は約束しただろう。必ず勇者様をお守りすると」

僧侶「はいっ。魔法使いちゃんも、戦士さんと同じことを言ってました」

戦士「そうか…。魔法使いも、言わないでおこうと?」

僧侶「はい。みんな、やっぱり考えることは同じなんですね」

戦士「当然だ。ここまで苦楽をともにしてきた仲間なのだからな」

女勇者「ねー、二人ともなんのお話してるの?」

戦士「うん?明日、頑張ろうという話をしていたんだ」

僧侶「はいっ。明日、必ず魔王を倒しましょうね!」

女勇者「うんっ!頑張る!私も、一生懸命てつだうからね!」

戦士「…無理だけは、絶対にしてくれるな。いいな?」

女勇者「むぅ…私だって強くなったんだよ?ほら、戦士くんの剣だってあるんだから」

戦士「ああ、そうだったな。…明日は、必ず皆で勝とう」

女勇者「そうだね!誰も欠けないで、平和を取り戻そうね!」

戦士「うむ。そのためにも、今日はしっかり食べて早く寝るんだぞ?」

女勇者「はぁい!」ニコ

女勇者「ふぃぃ…もうお腹いっぱい…」ぽふぽふ

僧侶「私もですぅ…えへへ、ちょっと食べすぎちゃったかな」

魔法使い「ふふ、決戦前はそれくらいでちょうどいいですよ」

戦士「よし…そろそろ宿に戻ろうか」

女勇者「うんっ!」

戦士「すまん、会計を頼む」

店員「かしこまりました。4名さま、420Gになります」

女勇者「ごちそーさまー!」

店員「はい、ありがとうございました。ご健闘をお祈りしております」ニコ

女勇者「うんっ!ありがと!頑張ってくるね!」ぶんぶん

ガチャ

バタン

トテトテ

トテトテ

女勇者「ねぇ、戦士くん」

戦士「うん?どうした?」

女勇者「明日勝ったらねぇ、約束してたの、行こうね?」

戦士「約束?」

女勇者「もー!忘れたの?」

戦士「ああ、カジノの話か。もちろん覚えている」

女勇者「そうだよぉ。平和になったら、またみんなで遊びに行くって約束したもん」

戦士「そうだったな。その約束、果たすためにも…明日は勝とう」

女勇者「うんっ!」ニコ

トテトテ

女勇者「?」

魔法使い「どうしましたか、勇者様?こんな広場で立ち止まって」

女勇者「…?誰か居た?」

魔法使い「はい?」

女勇者「…んーん。誰かが見てるかと思ったの」

魔法使い「夜とは言えまだ早いですからね。人通りもありますよ」

女勇者「うん、そうだね。早く宿にもどろっ!」

トテトテ

トテトテ

【宿】

女勇者「それじゃあ…おやすみなさぁい」

戦士「ああ、お休み。ゆっくり休みなさい」

魔法使い「明日はいよいよ決戦ですからね。万全の態勢で臨みましょう」

僧侶「そうですね。勇者さま、それじゃあ…いらっしゃい」

女勇者「えへへ…」もぞもぞ

僧侶「ふふ、甘えん坊さんですね」

女勇者「だって…僧侶ちゃん、ママみたいだもん」

僧侶「それは、喜んでいいのかなぁ…?」

女勇者「えへへ、お休み!」

僧侶「はい、おやすみなさい…」ニコ

ポロン…

女勇者「……ん」

女勇者「…ん~……」むく

女勇者「まま…?」ごしごし

ポロン…

女勇者「……何の音だろ…」

女勇者「…なんだろう?楽器…みたいな音…」

ポロン…

女勇者「……?……」すっ

女勇者「ふしぎ…なんだか、きもちいい音…」

トテトテ

トテトテ

【最後の町・広場】

ポロン…ポロン…

女勇者「誰だろう?こんな夜中に…?」

トテトテ

トテトテ

詩人「…」ポロン……ポロン…

女勇者「お姉ちゃん、誰?こんな夜に何してるの?」

詩人「…」ポロン…ポロン…

女勇者「みんな起きちゃうよ?ねぇねぇ」

詩人「…大丈夫」

女勇者「?」

女勇者「…お姉ちゃん?」

詩人「あなたに届けたい詩があったのです。こんな夜更けに失礼しました…」

女勇者「うた…?」

詩人「繰り返し、詠い継がれる詩を…」

詩人は静かに目を閉じ、女勇者に詠い聞かせた。▼

ポロン…

一人の少女を中心に

昼と夜が続くように

求める正義は廻り続ける

女勇者「…お姉ちゃん、詩上手だねぇ」

詩人「ありがとう…。この詩を綴ったのは、一人の少女」

女勇者「?」

詩人「魔王を倒しに行くのでしょう?」

女勇者「うんっ。明日、皆で出発するの!」

詩人「この詩では…少女は祠へ向かう」

女勇者「ほこら?」

詩人「そう…。行きなさい。あなたの大切なものが、そこにある…」

女勇者「…?」

詩人「あなたの大切なものの一つ。それが全てではないけれど…」

詩人「…答えを構成する一つの要素。それだけでは不完全」

女勇者「うーん。よくわかんないけど…ありがとう!行ってみるね!」

詩人「…」ニコ

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