魔王「間違えた…」 5/13

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姫様「悪趣味だなー、美しくないぞ?」

魔王「一応人質だから。縄で縛るよりはいいかなーって」

姫様「ふーん。結構考えてんじゃん・・・、ん?」

姫様「別に、襲われたりしたんじゃないんでしょ?」

町娘「え?あ、うん」

姫様「じゃあ、私がぶっ壊したピンクい空気は一体?」

町娘「!!」

魔王「!!」

町娘「ちがっ・・・!元はといえばこいつが・・・!」

魔王「ちょ!違う、絶対君からだった!」

町娘「な、あ、あたしがんなことすっかぁ!適当いうなぁ!」ゲシッ

魔王「いったい!違う!絶対あの空気は違う!」

町娘「あ、あれは暇すぎて・・・!で、でもあたしはかんけーねぇ!!」

魔王「関係なくはないでしょ!?だってあんなこと言われたら」

町娘「聞こえねぇ!なんも聞こえねぇぞ!うっせぇんだよハゲ!エロハゲ!」ゲシッゲシッ

魔王「痛、痛い痛い!足癖悪いんだよ本当に!!」

姫様「・・・雑魚どもが言ってたパシリ疑惑って・・・」

町娘「と、とにかく!違うんすからね!」

魔王「そう!違う!違う!」

姫様「あー、もう分かったよ。・・・酒の缶とか落ちてっし・・・」

町娘「うっ・・・、い、いろいろあってなー」

姫様「・・・で、この子連れ帰って構わないんでしょ?」

魔王「そりゃあもう、願ったり叶ったりで・・・」

町娘「え・・・」

魔王「・・・え?」

姫様「・・・・・・・・」

魔王「・・・ほ、ほらそういうの!なんなの!?何がお望みなの!?」

町娘「・・・ば、なんでもねーよ・・・、あーあー!やっと帰れるなー!わーい!!」

魔王「わーい、とか使う人だったっけ!?」

町娘「うるせぇ!う、うれしいから、言っちまったんだろー」

魔王「じ、じゃあ、帰れるのが、うれしいんだね」

町娘「う・・・、う、う、うれしいさ、当たり前だろ・・・」

魔王「そうだね、そりゃ、当たり前だね」

町娘「・・・っ!さ、さっさと帰りましょー・・・」

姫様「なんだかなぁ」

魔王「に、二度とくんなよー!」

町娘「・・・だ、だれが来るかハゲ!た、頼まれても、来てやんねーから・・・」

姫様「おい、引き止めたほうがいーんじゃないん?」

魔王「そ、そんなわけないでしょうに」

町娘「ひ、姫様。早く行こーぜ」

魔王「そ、その!」

町娘「な、なんだよ。まだなんかあんのかよ、魔王」

魔王「もう少し、待―――」

勇者「―――はい到着」

ドンガラガッシャーン!

町娘「ひぇっ!?」

魔王「べふぅっ・・・!」

姫様「おー」

ゴロゴロゴロズガシャーン!!!

勇者「着地もばっちり。流石俺、勇者の名は伊達じゃない」スタン

勇者「コレが俺とお前の差だな、姫。後先考えねーで突っ込んでんじゃねーよタコ」

姫様「結局お前も飛び込んでんじゃん」

勇者「あー?探したんだけどいい道無くてなー」

勇者「紐もないし、ツタ使って下るのめんどくさいし、仕方なくだっつーの」

町娘「つ、次から次へと・・・」

勇者「人間・・・?おー、お前もしかして攫われた娘?生きてんじゃん、ラッキー」

姫様「さっき確認した。怪我とかもしてないっぽい」

勇者「おーおー、良かったじゃねーか。さーて、んじゃ本命の・・・」

勇者「・・・魔王ってのは、どこだよ」

魔王「―――」

姫様「・・・そこだ、勇者殿」クイッ

勇者「・・・はぁ?嘘だろ?コレ?」

勇者「マジで?流石俺、すごい命中率」

町娘「凄いデジャヴ・・・」

勇者「んー、おいこら魔王、起きろや」ゲシッ

魔王「ぐはっ・・・!もうなにがなんだか・・・!」

勇者「関係ねーやつ巻き込んで・・・、えー、なんだったか」

勇者「・・・とにかく、ぶっ飛ばすぜ」

魔王「ちゃんと言おうよ!かっこよくない、ってげぇ!?今度は勇者か!!」

姫様「もうそれ私やったから大丈夫」

勇者「マジで?でもここまできたらしっかり・・・」

姫様「どうやら殺す必要もないっぽい」

勇者「あん?危険じゃねーって?」

町娘「危険かどうかはわかんねーけど、少なくともあたしは殺そうとしないし・・・」

勇者「ふーん」

姫様「これから帰ろうとしてたとこだし」

勇者「とんでもなくユルな・・・。んでもやっぱ、間に合ってよかった」

町娘「間に合う?」

勇者「てめーらだけじゃ、話が中途半端に終わっちまうってことだよ」

勇者「・・・おい魔王。てめーの目的はなんだ」

魔王「!」

勇者「若い娘攫って、乳くりあうのが目的じゃねーんだろ?そもそもの的は姫だしな」

勇者「じゃあ、一体なんだよ。そこがわかんねーと、いつまでたってもてめーは危険だ」

勇者「危険分子は抹殺。それが俺の、仕事だからな。めんどくせーけど」

姫様「・・・・・・・・・」

町娘「そういや・・・、聞いてなかったな・・・」

魔王「・・・・・・・・・」

勇者「答えろよ、魔王。この場で叩き切っても構わねーんだぜ」

町娘「ちょ・・・、待てよ!」

勇者「あん?」

町娘「あ、あたしが死んでねーんだから別にいーだろ!解決じゃねーか!!」

勇者「ああそーだ。解決だ、この事件は」

勇者「『不幸な町娘が攫われた事件』は、コレで解決、めでたしめでたし」

町娘「なっ・・・!」

勇者「じゃあ、その後は?おめーは巻き込まれただけだ」

勇者「その後・・・、『本命』のほうは、これからどーなんだよ」

勇者「帰って、おめーの知らねーとこで姫が攫われねーって保障がどこにあんだよ」

町娘「・・・ッ」

姫様「おい勇者。私なら別に構わないんだぞ。負ける気もしないし」

勇者「んだからおめーはノーテンキなんだよタコ」

勇者「また起こったらどうする。おめーじゃねーやつが巻き込まれたらどうする」

姫様「それは・・・」

勇者「今回がたまたまラッキーで、次は違うかも知んねー」

勇者「もしかしたら、今回以上にひでぇかもな。人が死なねー今回が、極上のラッキーだ」

姫様「・・・・・・・・・」

町娘「・・・・・・・・・」

勇者「『たまたま』、『もしかしたら』。んな不確実なもん求めてどーすんだよ」

勇者「これからめんどくせーことが増えんなら、ここらでサックリ終わしておこうぜ」

勇者「どーすんだよ、あ?」

勇者「魔王」

魔王「・・・どこから説明すればいいのか」

勇者「全部だ、一から十まで。零つけてもバチあたんねーぞ」

魔王「それじゃ、結構長い話になると思うけど」

勇者「出し惜しみすんな。焦らしなんざ求めちゃいねーんだよ」

魔王「手厳しいな」

町娘「お、おい、てめぇ・・・」

魔王「・・・今回は、本当に悪かったね、巻き込んで」

町娘「っ!んなこといってる場合じゃねーだろ!?」

魔王「そうだけど・・・、でもやっぱり、一番の被害者は君なんだから」

町娘「てめ・・・」

魔王「本当に、ごめん」

町娘「・・・・・・!」

勇者「へぇ、らしくねー魔王だな」

勇者「今まで『魔王』を名乗ってたやつらは、クソみてーに自分勝手なやつらだったのに」

魔王「はは、自分でもそう思うよ」

魔王「そもそも僕は、『魔王』なんて名乗るほどのもんじゃないから」

町娘「・・・・・・・・・」

勇者「ふーん?で?そこから話すか?」

魔王「そうだな・・・。それより、今回のことだけど」

魔王「そこの姫様を攫おうとした理由」

勇者「おう」

魔王「それは・・・、君たちの国に、交渉をしようと思ったからだよ」

姫様「交渉?私を攫ってか?」

魔王「他にも方法はあったんだろうけど、僕らにはそれしかなかったってこと」

勇者「姫を拉致って、対等になるようにしたってか?けっ、コソコソしやがって」

魔王「本当に、そう思う」

魔王「あの日、数人の部下を連れて国に入った」

魔王「事前に調べてたから、あの日パレードがあることは分かってたんだ」

姫様「国外からも大勢人が来る日だ、警備も手薄。考えたじゃないか」

魔王「僕らはほら・・・、少しがんばれば、人間と変わらないから」

勇者「んで、潜入して、姫を襲おうとした?」

魔王「単純に攫うのは難しいからね。人込みから機会を伺ってた」

姫様「私は個人的に国民に挨拶をするよう心がけているからな」

姫様「高台から大勢に挨拶したってしょうがない。やはり挨拶とは、個人にしなけりゃ」

勇者「そこを狙われるんだよタコ。警備はついてなかったのか?」

姫様「もともと平和な国だ、警備隊も油断してたんだろ」

勇者「国の警備体制を見直す必要があるだろ・・・」

姫様「そういうわけで、私は路地裏に目を向けたわけだ」

町娘「・・・そこに、たばこをふかしたあたしが居た」

魔王「僕が動く前に、部下の一人が動いてた」

姫様「そんなに深い路地裏じゃなかったから、誰からも見えないとこだ」

町娘「あたしは、気恥ずかしくて、すぐ追い返した。しっしってな」

姫様「それで私は踵を返して・・・、それっきり、だ」

勇者「接点は一瞬。でも、魔物の頭でなら的を間違えるだけ十分」

町娘「・・・眠らされたな。なんだありゃ、魔法か?」

魔王「一人が捕獲に成功したと分かった瞬間、僕らはいっせいに逃げ出した」

魔王「・・・城に戻ってきてやっと、人質を確認した」

勇者「・・・爪の甘い犯行ってこった」

魔王「めんぼくないよ、まったく」

勇者「なんですぐに、彼女を解放しなかった?」

魔王「森に放せば、すぐにその辺の魔物に襲われると思った」

魔王「国に連れて行くしかない。でも、もう一度入るのは簡単じゃない」

勇者「じゃあ、それがベストだったってわけか」

魔王「僕にとっては、ね」

町娘「・・・・・・・・・」

姫様「ほう」カシュッ

勇者「・・・なんとなく話してて、やっぱお前は人攫うようなやつじゃねぇと思うよ」

魔王「そんなことないよ。実際、攫ってきてる」

勇者「しかも間違ってるしな。そんなお前が、人攫いしてまでする、交渉の内容は?」

勇者「んで、その理由は?」

魔王「それは・・・」

町娘「・・・ちょっと待て。今、何あけた?」

勇者「は?」

魔王「え?」

姫様「んー?」ゴクゴク

勇者「ばっ・・・!お前何飲んでんだ!!??」

姫様「ぷはぁ。まだ入ってるの見つけたからつい」

勇者「つい、じゃねぇよタコ!今なんの話してっかわかってんのか!?」

姫様「大丈夫大丈夫、私、酔わない人だから」ゴクゴク

勇者「そーいうやつが最初に潰れんだよ・・・、つかなんで監禁部屋に酒?」

魔王「いや、ここ監禁部屋じゃなくて僕の部屋」

町娘「たばこの煙で部屋いっぱいんなっちまってなー。煙いからこっちにきた」

勇者「・・・お前ら、なんだその余裕・・・。てか雑魚どもの言ってたのはほんとのことかよ・・・」

姫様「ほーれ、一本」ヒュッ

勇者「おわっと」パシッ

姫様「お、ツマミもあるじゃん。気が利くな、カルパス、カルパス♪」

町娘「・・・マジ飲みじゃねーか・・・」

魔王「さっき結構シリアスムードだった気がするんだけど・・・」

勇者「んだよ、しゃーねーな」カシュ

町娘「おめーも飲むのかよ!?」

勇者「ああん?悪ぃのかよ」

町娘「悪ぃ悪くねーじゃねーよ!さっきまでクソ真面目だったじゃねーか!」

勇者「いーよいーよ、もう。こいつ悪いやつじゃねーよ」

魔王「ちょ・・・、そんな軽く」

勇者「これから積もる話が始まんだろ?素面じゃねーほーがいーだろ」ゴクゴク

町娘「・・・それって・・・」

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