魔王「ほんとは姫をさらうつもりだったのに」
魔王「何か間違えて町娘をさらって来てしまった」
魔王「どうしよう…」
町娘「離せよカスコラブチ殺すぞコラ」
魔王「いたい痛い!痛いってマジヤバいこの娘!」
町娘「おいここから出せよカスおいこらハゲ」
魔王「は、ハゲてないよ……ていうか下手な魔族より口悪いよこの娘」
町娘「てめえ何者だこらカス、オイシカトしてんじゃねえハゲ」
魔王「あー、あー、聞こえなーい」
町娘「オイハゲ!」ガンッ
魔王「うひいっ!?」
町娘「たばこ」
魔王「は・・・?」
町娘「たばこだよハゲッ!さっさと買って来いッ!!」
魔王「ひぃっ!ちょちょちょ、待ってよ!僕魔王なんだけど!!」
町娘「はぁ?知らねぇよ、こっちはニコチン切れてんだ」
魔王「それに、若い娘がたばことかやめようよ。肌が・・・」
町娘「うっせぇハゲ!早くしろっつの!!」ゲシッ
魔王「痛っ!?痛い痛い分かった分かったって!!」
魔王「・・・じゃ、この部屋から出ないでね」
町娘「知るか。てめぇの働き次第だろ」
魔王「下手に逃げられて下級魔物に殺されたら目も当てられないし・・・」
町娘「はぁ?」
魔王「分かったね!」
バタン
部下「・・・魔王様、良いんですか。こんな横暴・・・」
魔王「あー・・・。殺しちゃったら意味無いしさ。ちゃんと見張っといてよ?」
部下「ちょ・・・!ほんとにたばこ買いに行かれるんですか!?」
魔王「え?ああ、うん。一応人違いとはいえ、お客さんだからね」
部下「それなら・・・、もっと下の者に・・・」
魔王「頼まれたの僕だから。みんな仕事あるでしょ?」
部下「しかし・・・」
魔王「まー、僕もめんどいけど、みんなにとってもめんどいことだろうからさ」
魔王「ひとっ走りだし、いいよ。じゃ、頼んだよー」タッタッタッ
部下「・・・優しいんだか、甘いんだか・・・」
―――監禁部屋。
町娘「・・・たばこッ!」
魔王「はいはい買ってきたって」
町娘「てめっ・・・、マイルドセブン!?厨房じゃねーんだからよぉ!」
魔王「銘柄聞いてなかったからテキトーに・・・」
町娘「・・・ちっ、しゃーねーな」
魔王「あれ?怒んないんだね?」
町娘「あぁ?怒られてーのかよてめーはよ」
魔王「なんでもないなんでもない」
町娘「はぁー・・・、染みる・・・」
魔王「・・・それで、これからのことだけど」
町娘「んー・・・」スパー
魔王「どうしようかなぁ、やっぱ帰りたいよね?」
町娘「ったりめーだろ」
魔王「んー、でも今回の計画って結構大変だったし・・・」
魔王「こっちも簡単に返したりさらったりできないし・・・」
町娘「・・・・・・・・・」スパー
魔王「・・・あ、僕も一本もらって良い?」
町娘「いいよ」スッ
魔王「・・・んんん~・・・」スパー
町娘「・・・つーかよ」
魔王「ん?」
町娘「元々、姫様をさらうつもりだったんだろ?」
魔王「うん」
町娘「はっ。一国の姫と『こんなの』を間違うなんて、相当阿呆だなぁ、お前ら」
魔王「う・・・、言い返せないけど・・・」
町娘「ったくよぉ、ご本人様達が聞いたら呆れるぜ・・・」スパー
町娘「んでさぁ、結局今、姫様の代わりがあたしってこったろ?」
魔王「そういうこと、だねぇ。どうしたもんか」
町娘「・・・どうしたもこうしたもねぇよ、意味ねーだろーが」スパー
魔王「へ?」
町娘「『こんなの』じゃあ変わりになんかなんねーってんだよ」
町娘「てめーらが何してーのかはしらねーけどよ、デカい計画だったわけだ」
町娘「なんでさっさと殺さねーんだよ、あたしを」
魔王「んー・・・」スパー
町娘「そんなこともわかんねーくらい馬鹿なのか?お前らって」
魔王「・・・あ、そういえばカップ麺とか結構買ってきたよ」
町娘「はぁ?」
魔王「こっちの料理、口に合わないかも知れないし」
町娘「話そらしてんじゃねーよハゲ」ゲシッ
魔王「痛っ、足癖悪いな!」
町娘「てめーが唐突にわけわかんねーこと言うからだろーが!」
魔王「殺す殺さないの話でしょ?まぁ、それも考えたんだけど」
町娘「あん?」
魔王「やっぱさぁ、殺して達成したいことじゃないんだよねぇ」
町娘「はぁ?人攫いしといて何言ってんだお前」
魔王「うっ・・・、それはまぁそうなんだけど・・・」
魔王「・・・いつかはそりゃ、争うのは間違いないんだけど・・・」
魔王「やっぱり、そういうのって少ないほうがいいと思うんだよね」
町娘「・・・・・・・・・」
魔王「それが、ましてや巻き込まれただけの君なんか殺せないって」
町娘「・・・はぁ、んだそれ」
魔王「甘いかな?」
町娘「激甘。お前、部下に背中刺されるぜー、それ。あたしなら刺す」
魔王「手厳しいな」
コンコン
部下「・・・魔王様。食事の用意が・・・って、何締め切った部屋でふかしてるんですか!?」
魔王「あ、いけね」
町娘「あー、通りで空気悪いと思ったわ。窓開けろや」
部下「監禁部屋に窓なんかあるわけ無いでしょうが!」
魔王「あー、どうしよ。扇風機?扇風機でいける?」
部下「何やってるんですかまったく!とりあえず出てください!」
町娘「おいハゲ、ファブリーズ買ってこいよ」
部下「魔王様はお前のパシりじゃない!!」
魔王「ああ、多分僕の部屋にあると思ったから」
部下「魔王様ー!!」
部下「お食事です、魔王様!捕虜を連れて、早く着てくださいよ!!」
タッタッタ
魔王「そうそう、ご飯ご飯」
魔王「どうする?買っといたカップ麺食べるなら、お湯持ってこさせるけど」
町娘「ん~・・・」トントン
町娘「・・・もう一本、吸ったら行くわ。先行ってろ」
魔王「味は保障しないけど?」
町娘「お前らには旨いんだろ?」
魔王「そりゃ、まぁ」
町娘「んじゃ、あたしもそれでいいよ。火ぃ貸せ」
魔王「ん」パチン
町娘「・・・便利だなぁ」フー
魔王「人間でもできるって」
町娘「ああそう」スパー
魔王「じゃあ、食堂は階段上った突き当たりだから」
町娘「んー・・・」ヒラヒラ
スタスタ
町娘「・・・ぶっ。いくら手錠してるからって、普通捕虜を一人にするかよ」
町娘「阿呆な奴だなぁ。なんであんなんが魔王なんだろ」
町娘「・・・ま。逃げねぇあたしも、相当阿呆だけどなー」スパー・・・
―――某城。
勇者「・・・んで、俺になんの用だって」
王様「よくきたな、勇者。実は頼みごとがあってな」
勇者「面倒ごとはごめんだぜ」
王様「む・・・。うーん、面倒というかなんというか」
勇者「歯切れ悪いな。俺も暇じゃねぇんだ。寝たり、寝たりしたいんだよ」
王様「・・・おい、入りなさい」
姫様「失礼しますよーっと」
勇者「おっす、姫」
姫様「おっす、勇者」
王様「お前らな、お互いに礼儀をわきまえろよ」
勇者「話が進んでねーけど」
姫様「はいはい、これは私からの依頼なんだけどね?」
勇者「あ?姫からの?」
姫様「依頼っていうか、お願い?」
勇者「変わんねーよタコ」
王様「・・・こないだのパレードの時、魔物が現れたろ」
勇者「ああ。確か、町の娘が攫われたってやつ?」
王様「そうだ」
勇者「よくわかんねーけど、不真面目なやつだったんだろ?」
勇者「捜索依頼もおざなりだし、親の顔が見てみたいもんだけどな」
勇者「今更探しに行けってんじゃねーだろーな」
姫様「・・・心痛いけど、もう生きてないだろうし」
王様「わしの耳に入ってくれば良かったんだがな」
勇者「・・・んじゃ、なんだよ。魔物を倒してこいっか?どーせ野良だろ」
王様「いや、違うらしい」
勇者「・・・まーた別の『魔王』が現れたって?」
姫様「突然といっても、計画的なんだよ。魔物にしてはね」
王様「そして、報告だと、その攫われた娘は当日、コレの近くに居たらしい」
姫様「実の娘をコレ扱い?」
勇者「じゃあ奴らの狙いは、もともと姫ってことか?」
王様「おそらくな」
勇者「間違って、まったく関係ない市民を攫っちまったってか」
勇者「爪の甘い連中だな」
姫様「まったく。私って姫だよ、姫。普通間違うかな?」
勇者「んなもん、魔物に求めてどーすんだよ」
王様「・・・とにかくだ」
王様「勇者。お前には、その新たな『魔王』について調べて欲しいんだ」
勇者「調べる?殺すんじゃなくてか?」
王様「建前だ。危険分子かどうかの調査、危険分子と判断したら、抹殺」
勇者「ったく相変わらず汚ぇな」
王様「策士と呼べ。ばんばん魔物狩ってたら、それこそ国は総攻撃食らうっての」
勇者「わーったよ。んじゃちょっくら行ってくら」
勇者「ついでに、攫われた女も捜しとく。こっちは期待すんな」
王様「悪いな。骨だけでも見つけてやれば、少しは慰めになるだろ」
勇者「・・・んじゃいつもの財務からテキトーに前借してくからよ、もう出るわ」
王様「ああ、待て待て」
勇者「あん?」
王様「コレ、連れてけ」
勇者「・・・はぁ?」
姫様「二人旅、ってな。そんなに照れんなよ」
勇者「寝言は寝て言え、タコ」
王様「聞かねーんだ、コレが」
勇者「なんでお荷物背負っていかなきゃなんねーんだよ」
姫様「攫ってったそいつの顔、拝んでやらないとね」
勇者「は?」
姫様「だって姫だよ?おかしいでしょ、町の娘と間違えられるのは」
勇者「まさかの私利私欲か」
姫様「この世の美しいものがわかんない野郎に、ぶち込まないと気がすまない」
王様「そういうわけだ、手当てはつけっから」
勇者「はぁ・・・、ついてねーよな、ほんと」
王様「苦労かけるな」
勇者「苦労しかかけねぇんだよ、タコ」
―――城門前
勇者「・・・準備できたかよ」
姫様「なんでその日に出発なの。明日まで待ってもいいじゃん」
勇者「てめーがペースを決めんなよ」
姫様「・・・さいですか」
勇者「一応、顔だしはまずいからな、しばらく帽子深く被ってろよ」
姫様「隠れてる?私の美しさ、隠れてる?」
勇者「誰も見向きもしてねーから、隠れてんだろ」
姫様「はぁ!?気づけよ!!!」バッ
勇者「ばっ・・・!タコがッ!!帽子取んな騒ぐなッ!!」
勇者「・・・とんでもねーお姫様だよ」
姫様「美しいもんは、コソコソしないの」
勇者「そーですかー」
姫様「・・・ね、一番美しいものってなんだか分かる?」
勇者「『私』、とか抜かしたら目潰しくれるからな」
姫様「命だよ」
勇者「・・・・・・・・・」
姫様「・・・ほんとなら、私が死んでたかも知れない」
姫様「私を殺したくて殺すなら、まだ分かる」
勇者「・・・・・・・・・」
姫様「・・・でも、『勘違い』で人殺してんじゃねぇよ・・・」
姫様「殺してから、『違う人だった』じゃ遅ぇよ・・・」
姫様「そんな終わりかたってねぇよ。美しいものへの冒涜でしょ?」
姫様「善意とかじゃない。偽善と呼ばれたって仕方ない」
姫様「それで・・・、誰が得するかも、下手すりゃ損しかしないかもだけど・・・」
姫様「私は『ソイツ』にぶち込んでやらねぇと、気がすまない」
姫様「それが、私のやるべきことでしょ」
勇者「・・・そういうワケか」
勇者「んじゃ、景気よくさっさとぶっ飛ばしにいこうぜ」
勇者「・・・んで、彼女の骨、また返してやろう」
姫様「・・・うん、よろしく頼むわ」
勇者「俺を誰だと思ってんだよ」
姫様「・・・あ~、それにしても」
勇者「んだよ」
姫様「命について語る熱い私、美しくない?」
姫様「オーラ出てない?バレちゃう?」
勇者「目ぇ見開けよ」
姫様「ノット暴力・・・、痛いっ!!なにすんの姫だよっ!?」
勇者「うるせぇよタコ」