中庭
勇者「わぁ、広い庭だ・・・」
父「素晴らしい庭だろう?」
勇者「あ、お父さん・・・(あれ、お父さん一人?ゴハンは・・・?)」
父「すまないね、待たせてしまって。完全に日が落ちないと我々も力が出ないのでね」
勇者「あ~・・・そうですかぁ(・・・力?)」
父「いくら子供とは言え、勇者と呼ばれた男・・・本気でやらないと失礼だろう?」
ギンッ
勇者「!?」
父の瞳が紅く染まった
勇者「ど、どういう事です?」
バンパイア「ここは、吸血鬼の館・・・そして私がその長。魔王様の為、君にはここで死んでもらおう」
ザワザワザワ・・・・
父の姿が完全に変わる
勇者「きゅ、吸血鬼・・・!」
バンパイア「娘を太陽光から救ってくれた事に恩義は感じているが、勇者となると話は別だ!」
バンパイアは勇者に向かって飛び掛る
勇者「わ、わあああ!!」
勇者は逃げ出した
自分の故郷から出発て倒したモンスターの数はたったの2匹
こんな大物相手に戦う覚悟も力も全く無い状態である
バンパイア「待てーーーー!!!!」
勇者「わああああああ!!」
勇者は迷路のような屋敷を走り回った
ロビー
バンパイアの声「逃げ足だけは中々のようだな・・・だが、この屋敷からは逃げられん」
勇者「・・・」
バンパイアの声「何処に隠れようと必ず見つけ出すぞ!!」
勇者「・・・」
勇者は柱に隠れた。息も気配も殺す
のしのし・・・とバンパイアの足音が近づいてくる
バンパイア「はー・・っ何処だぁー・・・?」
少女の部屋
少女「(この騒音・・・お父様と勇者は鬼ごっこでもしてるのかしら・・・)」
少女「(確かに、勇者は倒すべき敵であるのはわかってるんだけど・・・)」
少女「(あの時、勇者が来てくれなかったら私はそこらのモンスターに襲われてたかもしれないし)」
少女「(やっぱり・・・助けてくれた人を・・・始末するってのは・・・・!)」
ズズーー・・・ン
少女「!(・・・・・・・・助けなきゃ!)」
バンパイア「そこにいたかー!!」
勇者「うわあああ!」
勇者は必死に逃げ道を探す
バンパイア「何処に逃げようと無駄だ!この屋敷からは出られんのだから!!それともまだ鬼ごっこをしたいのか?ん??」
勇者「う・・・うぅ」
バンパイア「まだ後ろに階段があるが・・・逃げてみるかね?」
勇者「!・・・ッ」
勇者「!・・・ッ」
勇者には階段を上るしか逃げ道はなかった
急いで階段を駆け上がったが・・・
バンパイア「しかし・・・黙って逃がしてやる程私も優しくない!」
バンパイアは半分に破壊された柱を一つ持ち上げ、勇者に向かって投げた
勇者「!(駄目だ!当たる・・・!)」
死を覚悟したその時
少女「あ、勇・・・え?」
勇者「!」
勇者の前に少女が姿を現した
バンパイア「な!!!」
投げつけられた柱はそのまま勢いよく二人へと向かっていった
グオオオオオッ
少女「きゃ・・・」
バガアアアアンッ!!!
柱は壁にぶち当たり、粉々に砕け散った
バンパイア「娘よ!無事か!?」
パラパラ・・・
勇者「・・・だ、大丈夫?」
少女「え・・ええ・・・」
間一髪、勇者が少女に飛びつき、お互いの直撃を回避させた
バンパイア「娘よ!!!」
ドスンドスンドスンッ
しかし、娘を助けた事により勇者の逃げ道は完全になくなってしまった
勇者「・・・く」
少女「・・・勇者・・・様」
バンパイア「おお娘よ、無事で良かった!さあ、そこをどきなさい。勇者にトドメを刺す」
少女「・・・ダメですっ!!」
バンパイア「え?」
勇者「!?」
少女が突然大声でそう叫んだ
少女「私はこの方に二度も命を救われました!!この方を殺す事は私が許しません!!!」
バンパイア「な、なに!?娘よ、何を・・・」
少女「例え魔王様の為でも!お父様の命令でも!!ぜーーったいにダメです!!!」
勇者「え・・・えーと」
バンパイア「娘!!いい加減にしなさい!!」
少女「嫌です!!言う事聞いてくれないならお父様とは二度と話しません!!クッキーだってもう焼いてあげません!!!」
バンパイア「え・・・え!?」
勇者「(動揺してる・・・?)」
少女「こんな家だって出て行きます!!!二度と帰ってきません!!」
バンパイア「ええっ!!いや、ちょっと・・・」
少女「お父様!私は本気です!!!!」
ギンッ
勇者「・・・」
バンパイア「~~~~~っ・・・・わ、わかった・・・」
少女「!」
父「二度も愛娘の命を助けられては仕方あるまい・・・お前の言う通りにしよう」
少女「お父様!ありがとう!!」
勇者「た・・・助かった・・・・」
食卓
父「騒々しくなったが・・・ディナーを始めよう。勇者殿、驚かしてすまなかった・・・怪我はないかね?」
勇者「は、はい。大丈夫です」
少女「勇者様、遠慮しないでお食べになって下さいね!」
勇者「ええ、すいません・・・」
父「勇者殿、これからも一人で旅を続けるのかね?」
勇者「とりあえず、次の街で仲間探しをしようと思うのですが・・・」
父「次の街といっても、ここからでは結構な距離がある。その間襲ってくる魔物から身を守れるのかね?」
少女「・・・」
勇者「ま・・まあ、なんとかやりますよ・・・ははは(ホントは不安だけど)」
父「せめてもの償いだ。沢山食べて体力をつけていってくれ」
勇者「はい、すいません」
翌朝
勇者「すいません、すっかりお世話になりました」
父「気をつけてな。・・・敵の私がこういうのもなんだが」
少女「勇者様、これ持っていって下さい!」
少女は道具がパンパンに詰まった袋を勇者に渡す
勇者「え?頂いちゃっていいんですか?」
父「お前、何時の間にこんな物を・・・」
少女「お父様、命の恩人の命を奪おうとしたのですから、これぐらいの事は当然です!」
父「う・・・」
勇者「・・・ありがとうございます。奇妙な縁でしたが・・・またお会い出来る日を楽しみにしています!!」
父「うむ、道中気をつけてな」
少女「またお会いしましょう、勇者様ーー」フリフリ
勇者「」ペコリ
父「さ、昨日散らかしてしまった場所を片付けるぞ。娘、お前も来て手伝いなさい」
少女「・・はーい」
――その夜 勇者は道端で野宿をしていた
勇者「今日歩いた分だけで三分の一か・・・長いなぁ」
勇者「・・・というより、あの娘さんから貰った荷物が異常に重かったのも原因の一つか」
勇者「一体何が入ってるんだろ?ギッチギチに詰め込んだ感じだけど・・・」
勇者が袋の紐に手を伸ばした
その時
「待って下さいー!開けないでーー!」
勇者「!?」
何処かから声が聞こえた
勇者「だ、誰?」
パサパサパサパサ・・・
勇者の目の前に小さな蝙蝠が降り立った
勇者「コ、コウモリ・・・?」
どろんっ
勇者「わ!?」
少女「えへへ、勇者様・・・来ちゃいました」
蝙蝠の正体はあの少女だった
勇者「え?来ちゃったって・・・?え???」
少女「勇者様、私も旅のお供に加えて下さい!」
勇者「旅のお供って・・・お父さんは許したの?」
少女「いえ、これは私の独断です。」
勇者「いや、勝手に出てっちゃお父さん心配するっでしょ?」
少女「いいんです!お父さん、少し私に依存しすぎてるみたいですから」
勇者「あー・・・」
少女「それに、私物は全部持ってきてありますから!後戻りも出来ません!!」
ゴソゴソッ
少女が袋を開けると、少女の着替えやら何やらがみっちり入っていた
勇者「・・・これで重かったのか」
少女「勇者様、宜しくお願いしますね!」
勇者「・・・今お屋敷は大騒ぎしてるんじゃないかな」
少女「大丈夫ですよ、朝まではバレませんから」
勇者「しかし・・・なんで旅なんかに?」
少女「え・・・そ、それは///」
勇者「?」
少女「勇者様、私は貴方との出会いに運命を感じたんです・・・」
勇者「・・・運命!?」
少女「ええ・・・だって、同じ方に二度も命を救われるなんて、普通じゃ有り得ませんもの」
勇者「あー・・・あの」
少女「お父様が殺すつもりで柱を投げつけてきたのに、勇者様は逃げる事より私を助ける事を選んでくれたのです・・・もう決定的です!」
勇者「そ、そうかな・・・はは(あれは必死だったからなにがなんだか・・・)」
少女「私の生涯仕える旦那様は勇者様に決まりました!!」
勇者「ええっ!?」
少女「お互いの事をもっと良く知る為にも、同行させて頂きます!!」
勇者「えーー・・と」
少女「宜しくお願いします!・・・ねっ?」
勇者「あ・・・は、はい///」
翌朝
勇者「ん・・・ふああ~・・・・」
勇者「あれ、なんで僕外で寝て・・・へっきし!!!」
勇者「ズズ・・・あ、そうか。あの子をテントで寝かせてるからか・・・」
少女の声「勇者様、おはようございます」
勇者「おはよう・・・わ、どうしたのその姿」
少女「あ、私吸血鬼ですから・・・朝日の出てる時間帯はこうやって全身隠さないとまともに歩けないんですよ」
勇者「そっか・・・さて、準備が整ったら出発しようか。今頃、向こうも騒ぎになってるだろうしね」
少女「はいっ、わかりました!」
吸血鬼の館
父「な、なにぃぃーーー!?娘がいなくなっただと!?」
黒服「は、はい。何度呼びかけても返事がなかったので、中に入ってみたらこれが・・・」
父「手紙と・・・なんだ、そのカンカンは?」
黒服「中身は大量のクッキーです。お嬢様が作られたものだと」
父「手紙を」
黒服「はい」
父「…『お父様、勝手に出て行ってごめんなさい。でも私、あの方に運命を感じました。今この時を逃すと一生後悔してしまいそうな気がするのです。暫く帰って来れませんが、クッキーを沢山作って置きました。』」
父「…『我侭言ってごめんなさい。ps・お父様愛してる』・・・・はぁ」
黒服「追手を出しますか?」
父「・・・よい、あの子の好きにやらせてやろう」
黒服「はっ」
父「(惚れた相手にはとことん尽くす・・・死んだ妻に似ておるわ)」
少女「よいしょ、よいしょ」
勇者「重いでしょ?それ、僕が持つよ」
少女「い、いえ!大丈夫です!私の荷物ですから!」
勇者「朝日が出てる時間帯は力出ないんでしょ?無理しないでね?」
少女「ありがとうございます///」