――勇者一行は無事洞窟を抜け、近くの村へと立ち寄った
傭兵「ただの村だな、宿屋くらいしかなさそうだ」
勇者「泊まる所があるだけ十分ですよ、ねえ」
少女「はいっ!・・まさか傭兵さん、お酒が飲みたかったんですか?」
傭兵「え?・・・バレたか」
勇者「酒場がある街まで我慢して下さい。今日はもう休みましょう」
傭兵「ああ、わかってるよ」
宿屋
店主「いらっしゃいませ、3名様ですね?」
勇者「はい」
傭兵「ああ、部屋は分けてくれ」
勇者「え?一緒じゃダメですか?」
傭兵「・・・邪魔しちゃ悪いしな」
少女「!」
勇者「え?・・・!ちょっと傭兵さん!!///」
傭兵「はっはっは、大人は一人の方が落ち着くんだよ。お前らだって二人の方がいいだろ?」
勇者「え~?・・・ど、どう?」
少女「私はそれでいいと思いますっ!」
傭兵「決まりだな」
勇者「わ・・・わかりました」
勇者・少女の部屋
勇者「ほっ(よかった、ベッドは二つだ)」
少女「どうかしたんですか?」
勇者「え?いやいや、なんでもないよ!」
少女「? 変な勇者様」
勇者「夜御飯まで時間あるなぁ・・どうしよう」
少女「じゃあ、お散歩に行きませんか?もう日も沈みましたし!」
勇者「そうだね。行こうか」
少女「夜のお散歩っていいですよね。私大好きです」
村の外
サワサワサワ・・・
少女「いい風ですね」
勇者「うん・・・」
少女「傭兵さん、私達に気を使ってくれてましたね」
勇者「う、うん、そうだね」
少女「・・・迷惑でしたか?」
勇者「え!?」
少女「さっきの勇者様の表情見ると・・・なんか嫌だなーって感じがしまして」
勇者「そ、そんな事ないよ!ってかそんな顔してた?」
少女「・・・本当ですか?」
勇者「うん、全然嫌じゃないよ!ただ、その・・・恥ずかしい・・・っていうか」
少女「・・・そうでしたか、嫌われてなくてよかったです!!」
勇者「嫌いになるわけ・・・ないじゃん」
少女「! 勇者様、もう一回言って下さい!」
勇者「え?い、いいよ。もう」
少女「そんな事言わずもう一回!ハッキリ聞きたいんです!!」
勇者「ひ、引っ張らないで・・・」
少女「ちゃんと聞きますから!もう一度!!」
勇者「わ・・・わかった///」
少女「・・・」
勇者「僕が君の事・・・嫌いになるわけないでしょ・・・」
・・・・・・
勇者「(!?な、なにこの間?)」
勇者は恐る恐る少女の方を向いた
少女は全く違う方向を見つめていた
少女「勇者様、あそこに誰かいますよ」
勇者「え?」
少女が指差した方向を見ると、確かに誰かのシルエットが見えた
勇者「誰だろう?こんな時間に」
少女「何かあったのかもしれませんね。話しかけてみましょうか?」
勇者「う、うん」
村娘「・・・・」
少女「あの、どうかしましたか?」
村娘「え?あ、いやなんでもないです・・・」
突然声をかけられた女は顔を拭った
勇者「何かあったんですか・・・?」
村娘「・・・ちょっと嫌な事があってね」
少女「嫌な事?困ってるなら力になりましょうか?」
村娘「ありがとう・・・でも、もうどうにでもなる問題でもないの」
勇者「?」
少女「そうですか・・・失礼しました。勇者様、行きましょう」
勇者「うん、それじゃあ・・・」
村娘「うん・・・」
村娘「や・・・やっぱ待って!聞いて!」
勇者・少女「ええ?」
村娘「実は私、寝たきりのお父さんの世話をして生活してる者なんだけど・・・」
村娘「この間、お父さんの世話をしてる最中、吐血しちゃったの」
勇者「吐血・・・」
村娘「村のお医者様に見てもらったんだけど、原因不明で・・・治しようがないって・・・」
少女「・・・」
村娘「私が一人身だったらさ、こういう現実も運命だって受け入れるけどさ。・・寝たきりのお父さんがいるから・・・」
勇者「近所の人に頼めないんですか?」
村娘「近所の人達は自分の生活を送るのに精一杯なの。とてもじゃないけど手は借りられないわ」
村娘「酷い人なんか、心中しろなんて言うのよ」
勇者「それは酷い・・・」
少女「とんでもない人ですね」
村娘「お父さんは寝たきりだから・・・私が死ぬ事にも気づかないし、自分が死んでいくのもわからないだろうけど、やっぱり残して私だけ死んで行くってのは・・・」
勇者「うーん・・・」
少女「・・・方法が一つだけあります」
村娘「え?」
勇者「本当?」
少女「覚悟が必要ですが」
村娘「そ、その方法って・・・?」
少女「私が貴方の血を吸って吸血鬼にする事です」
村娘「・・・・・・・吸血鬼?」
少女「信じられないでしょうけど、私は吸血鬼なんです」
勇者「ちょっと、それはいくらなんでも・・・」
村娘「・・・からかってるの?」
少女「証拠と言ってもお見せ出来るのは、この八重歯と・・・」
どろんっ
村娘「!?」
蝙蝠「コウモリに変身出来る事ぐらいですが」
どろんっ
村娘「あ、あんた方二人とも吸血鬼なの?」
勇者「いえ、僕は普通の人間です。縁あって一緒に旅をしているんです」
少女「吸血鬼になれば、完全ではありませんが不死状態になれます」
村娘「完全じゃない不死?」
少女「はい、肉体的ダメージで死ぬ事はありませんが、寿命が来ると死んでしまいます」
勇者「へえぇ・・・」
少女「それと、寿命までその病気と付き合って生き続けなければならないんです」
村娘「・・・」
少女「私が協力出来るのはそれだけです。・・・どうしますか?」
村娘「・・・お願い」
少女「わかりました・・・勇者様」
勇者「?」
少女「先に宿へ戻っていただけませんか?血を吸う所は・・・勇者様には見られたくありませんので・・・」
勇者「あ・・・わ、わかったよ」
宿屋
ギィ
傭兵「お?勇者、何処行ってたんだよ」
勇者「あ、傭兵さん」
傭兵「飯が出来たってよ。食いに・・・あれ、お嬢ちゃんは??」
勇者「あ・・、食堂で説明します」
傭兵「吸血鬼にしただぁ?」
勇者「わ、あまり大きい声で言わないで・・・」
傭兵「まぁ、その娘が望んだ事なら仕方ないが・・・大丈夫なのか?」
少女「大丈夫ですよ」
勇者「あ、少女!」
傭兵「なんだ?・・・なんかツヤツヤしてるな」
少女「久しぶりの吸血でしたから・・・」
傭兵「本当に大丈夫なのか?突然この村の住民を襲うって事は?」
少女「大丈夫です、血が恋しくなった時はトマトで代用出来ると言っておきましたので」
勇者「へぇ・・・トマトって凄いね」
少女「ただ、朝外出歩く時はローブ着たり、教会に行かないようにとか銀製の物に触れないようにとか色々面倒な所はありますがね」
傭兵「ふーん・・・」
勇者「傭兵さん、少女は普通に僕達と行動してますし、大丈夫だと思います。少女が嘘を言うとも思えませんし」
少女「勇者様、ありがとうございます」
傭兵「へいへい、信じるよ。・・・しかし、洞窟では勇者がモンスターを助け、ここでは少女(吸血鬼)が人を助ける・・・なんか、凄い話だよな」
勇者「そう言われれば・・・」
少女「そうですね、なんか可笑しいです」
傭兵「じゃあ、おやすみ。お二人さん」
少女「おやすみなさい」
勇者「明日もお願いしますね」
傭兵「おう」
バタン
勇者「さて、寝ますか」
少女「はい」
ゴソゴソ
勇者「・・・おやすみ」
少女「おやすみなさい」
勇者「・・・」
少女「・・・」
少女「・・・・・・・・・勇者様?」
勇者「・・・・うん?」
少女「起きてましたか」
勇者「うん、なに?」
少女「魔物も人間も、なんで仲良く暮らせないんでしょうか?」
勇者「・・・なんでだろうね」
少女「勇者様は何故、魔王様を倒しに旅に出たんですか?」
勇者「んー・・・僕の故郷の一番偉い人に頼まれて・・・かな」
少女「断れなかったのですか?」
勇者「うん・・・一番偉い人だからね。断るわけにもいかないし・・・」
少女「断ったら何かされるんですか?」
勇者「何かされるって訳でもないけど。勇者に生まれちゃった人間の宿命らしいよ」
少女「・・・そういう考えの人がいつまでもいるから、私達と人間の争いが絶えないんじゃないんでしょうか」
勇者「・・・・・うーん、確かに」
少女「勇者様はその故郷のお偉いさんになんて言われたのですか?」
勇者「え?えーと確か・・・残虐の限りを尽くし、世界の民を悲しませてる魔王を倒してくれ・・・だったかな」
少女「残虐・・・人間には魔王様はそう言われているのですね」
勇者「魔王ってどんな人なの?」
少女「いえ、私は直接お会いした事がないので分かりませんが・・・お父様の話では真に世界の平和を願っているのは魔王様だと・・・」
勇者「うーん・・・」
少女「・・・ごめんなさい、変な事聞いてしまって。別に勇者様を困らせようと思って言ったんじゃないんです。」
勇者「いや、いいよ。気にしてないからさ」
翌朝
傭兵「よ、おはよう!」
勇者「おはようございます」
少女「傭兵さん、お早いですね」
傭兵「主人より先に起きて待ってる、これが傭兵の基本よ・・・それより勇者」
勇者「え?」
傭兵「昨日はヤったのか?」ゴニョゴニョ
勇者「え!?バ、バカな事聞かないで下さいよ!」
少女「?」
傭兵「はっはっは、怒るな怒るな」
勇者「えーと」
勇者が机に地図を広げた
傭兵「魔王城はまだ遠いな」
勇者「現在地はここですよね・・・えーと・・・うわ」
少女「どうしました?」
勇者「見てよコレ、次の街までの距離・・・」
少女「わぁ・・・すっごい長いですね・・・歩いて行ける距離じゃないんじゃ・・・」
傭兵「しかし、この道しかねぇんだ。気合入れて行くしかねぇぞ?」
勇者「そうですよね。・・少女、険しくなると思うけど大丈夫かな?」
少女「ご心配なく。勇者様と一緒なら何処でも平気です」
傭兵「おうおう、朝っぱらから・・・」