勇者「ここが勇者学校か」 貴族生徒「何お前?」 1/14

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今より少し前、世界は魔物であふれていた。

しかし約60年程前のある時、勇者のパーティーによって魔王は討ち果たされ、世界は平和になった・・・かに見えた。

魔王がいなくなり魔物は大人しくなったが人と人、そして人と魔物の間にトラブルは絶えなかったのだ。

事態を重く見た王は調停官学校の設立を決めた。

様々な問題を解決するための交渉術や戦術を学び、魔物をも退ける戦闘力を身につけ見事卒業したものには「勇者」の称号が与えられ、確固たる地位を約束される。

これは、そんな「勇者」の仕事に就くために集められた14歳~20歳までの若者達の中の、とある一人の青年のお話!

勇者の家

勇者母「勇者ー、朝よー」

勇者「zzz」

勇者母「勇者ー?」

勇者「んん・・・zzz」

勇者母「起きなさい!」バサッ

勇者「!?」

勇者「うう・・・寒い・・・」

勇者母「今日から待ちに待った学校でしょ?そろそろ起きないと遅れちゃうわよ」

勇者「うー・・・そういえば今日からだっけ?っていうか別に楽しみにしてなんかないし・・!」

勇者母「はいはい、早く下に行って朝ごはん食べちゃいなさい」

勇者「はーい・・・ふぁぁ・・・はぁ」

ドタドタドタ

勇者「いただきまーす」

~~

勇者「ごちそうさまでした」

勇者母「お粗末さまでした」

勇者「学校ってしばらく帰ってこれないんだったよね?」

勇者母「そうね、無事に卒業するか見込み無しで追い出されるかしないと帰ってこれなかったと思うわ」

勇者「っていうことはしばらくこの家ともお別れかー」

勇者母「お母さんともね」クスクス

勇者「別に母さんとは問題じゃないって!」

勇者母「はいはい」

勇者「それに、勇者の学校って言ったって王都公認の調停官の資格を取るためのところだろ?余裕余裕」

勇者母「勇者としての心構えなんかはお母さんが叩き込んだからね」

勇者「身体や剣の腕なんかは父さんに習ったしさ。直接指導受けたのは小さい頃だったからどんな人だったかあんまり覚えてないけど・・・」

勇者母「お父さんかー・・・とっても素敵な人だったわよ。かっこよかったしなによりとっても強くてやさしかったの。お母さんも助けられたのが出会いだったのよ?」

勇者「それもう何回も聞いたって。色々なところを旅したんだろ?」

勇者母「仲間の人達とね。楽しかったわ・・・」

勇者「今じゃ魔王もいないのにあんまり平和って感じじゃないから、気楽な旅なんて出来ないんだろうなー」

勇者母「お話はこれくらいにして、準備出来た?」

勇者「んー、剣とか鎧って持込可だったっけ?」

勇者母「確か大丈夫だったと思うわ」

勇者「じゃあ・・・」

勇者母「・・・」ニヤニヤ

勇者「何?」

勇者母「別になんにもないわよー?」

勇者「・・・鎧は置いていこうかな」

勇者母「もう、そんなに照れることないでしょ!ほら、お父さんの形見の鎧、着ていくんでしょ?」

勇者「ま、他に鎧持ってないし少し重いけど我慢してやるかな」ガシャガシャ

勇者母「ほんとにもうこの子ったら」クスクス

勇者母「あ、分かってると思うけど力加減はしっかりね。みんな鍛えてると思うけど・・・多分同じ年代でも勇者はかなりレベルが高いから」

勇者「えー、仮にもあの勇者を目指すような連中なんだから大丈夫だって」

勇者母「そうだと良いんだけど・・・」

勇者「母さんはいつも心配しすぎなんだってば」

勇者母「うん・・・。じゃあ気をつけていってらっしゃい」

勇者「行って来ます。転移呪文!」シュンッ

▽王都

勇者「よし、到着。ここなら人目につかないし着地地点に選んで正解だったな。早く学校とやらに向かおう」

テクテク

勇者「ここが勇者学校か」

貴族生徒「何お前?」

勇者「え、俺?」

貴族生徒「そう、お前だよ」ニヤニヤ

取り巻き「・・・」ニヤニヤ

勇者「やだなー、人違いですよ」スタスタ

貴族生徒「お前だって言ってるだろ!?」

勇者「ちっ・・・。それで、俺に何か用?」

貴族生徒「んんっ。僕は貴族生徒だ。この勇者を育てるための学校に推薦されてやってきたのさぁ!」

勇者「はぁ」

貴族生徒「やはり勇者は僕の様な高貴な人間にこそ相応しい称号だ。王都の連中はよく分かってるよなまったく!」

勇者「へぇ」

貴族生徒「そして聞いて驚くなよ?なんと僕の祖父はあの魔王を倒した勇者のパーティーの一員で、僕の父さんはこの学校の校長なのさ!どうだ、すごいだろ!」

勇者「はぁ」

取り巻きA「お前人の話聞いてないだろぉ!?」

勇者「いやいや、ちゃんと聞いてるって。お前一分間でゆで卵10個も食えるなんてすごいねー」

取り巻きB「やっぱり聞いてないじゃないか!」

勇者「ったく、なんなんだよお前は。朝からぎゃあぎゃあと・・・」

貴族生徒「ふんっ、なんなんだはこっちの台詞だよ。どうしてこの選ばれた者だけが通う学校にお前みたいなみずぼらしい奴が来てるんだ?何か汚い手でも使ったのか?」ニヤニヤ

取り巻きA「そういや平民からの一般入学が2人いるって噂ですよ貴族生徒さん」

貴族生徒「平民か、どうりできったない鎧着てると思ったよ!はっはっはっはっは!」

取り巻き「ははははは!」

勇者「お前ら・・・!」ガシッ

貴族生徒「ぐ・・なんだお前、この僕に手を出して済むと思ってるのか?」

取り巻きB「おい、何掴みかかってるんだよ!」

取り巻きA「離せよ、おい!」

勇者「とりあえずお前がむかつく奴だってのは分かったから、2~3発ぶん殴ってやる!」

貴族生徒「ひっ!?」

平民生徒「だ、ダメだよ!」ガシッ

勇者「うわ、何だお前!離せ!」ブンブン

平民生徒「暴力はダメだって、みんな見てる!」

勇者「関係ねーよ!」

校長「お前達!何をしているか!」

取り巻き「校長先生!」

取り巻きB「挨拶したらこいつが急に貴族生徒に掴みかかってきたんです!」

取り巻きA「止めようとしたらさらに殴ろうと・・・!」

勇者「な、なにぃ・・・!?」

貴族生徒「おい、離せよ・・・!」

勇者「・・・・」

校長「離しなさい」

勇者「・・・・」パッ

校長「よろしい。ではキミとお前とそこのお前、話を聞くからついてきなさい」スタスタ

貴族生徒「はい、校長先生!」

平民生徒「は、はいっ・・!」

勇者「着いてそうそうどうしてこんなことに・・・はぁ」

▽校長室

貴族生徒「さっきも言った通りこの人が挨拶しただけの僕に突然掴みかかってきたんです」

校長「ふむ、だそうだが?」

勇者「確かに掴みかかったけどそれはこいつが喧嘩を売ってきたからで」

校長「では掴みかかって殴ろうとしたのは間違いないんだね?」

勇者「そうなりますね」

校長「では謝罪すべきではないかね?」

勇者「・・・すみませんでした」

校長「よろしい。では下がりなさい」

勇者「あれ、貴族生徒から俺への謝罪は無いんですか?」

校長「何に対してだね?」

勇者「俺の父さんの形見の鎧を馬鹿にしたことにだ。汚いなんて言いやがって・・・!」

貴族生徒「・・・・」

校長「ふむ、それは確かに良くないが、見たところかなり年季が入っているようだ。大事な物ならば手入れはしっかりとしたほうがいい」

勇者「・・・」

校長「満足したかね?では下がりなさい」

勇者「・・・」スタスタ

平民生徒「失礼します」ペコリ

貴族生徒「平民が調子に乗るなってことだ」ボソッ

勇者「・・・」

ガチャッ バタン

校長「まったく、平民ごときがいい気になりおって。これだから一般からの入学なんていらないと言ったんだ・・・」

貴族生徒「本当にそうですねお父様」

校長「あいつらには関わらないようにな。じゃあお前も教室に行きなさい」

貴族生徒「はい」

▽1F廊下

平民生徒「あの、庇ってあげられなくてごめん」

勇者「いや、自分でやったことだから気にしなくていいって。それにああいう連中は無視するのが早いしな」

勇者「あと、さっきはありがとな。止めてくれてなかったらぶん殴ってて学校どころじゃなかったと思う・・・」

平民生徒「お礼を言われるほどのことじゃないから気にしないでいいよ」

勇者「じゃあそうする」

平民生徒「はは、そういえば名前聞いてなかったっけ。僕は平民生徒、キミは?」

勇者「俺は勇者だ、よろしく」

平民生徒「うん、よろしくね。勇者は勇者科なの?それとも戦士科?」

勇者「勇者・・・科?どういうことだ?」

平民生徒「あれ、知らないの?ここの学校は調停官の勇者と、後はその勇者のパーティーとして補佐を勤める戦士、魔法使い、僧侶を育成するためにそれぞれの科に分かれてるんだ」

勇者「なるほど、俺は鎧を着てるから勇者か戦士で憶測したってことだな」

平民勇者「そういうこと」

勇者「俺は勇者になりたく・・・なるために入れられたからそんなこと知らなかったぜ」

平民勇者「そうなんだ」

勇者「そういえば平民勇者もあいつみたいに推薦されて来たのか?」

平民勇者「いいや、僕もキミと同じで平民の出だよ。7の町から来たんだ」

勇者「ほー、俺は3の町からだ。・・・あんなのばっかりだったらどうしようかと思ったけど、平民勇者みたいなのがいるならなんとか楽しくやれそうだ」

平民勇者「あはは。僕はみんなと仲良く出来たらいいなと思ってたんだけど、難しそうかなー」

勇者「お前がそうしたいって言うなら応援する。あと結構尊敬する」

平民勇者「あはは。勇者科の教室は・・・あ、もうみんな教室に集まってるみたいだ。早く行こう」

勇者「おう」

▽勇者科教室

担任「えー、まずは簡単に挨拶させてもらうが私は担任、受け持ちは剣術だ。よろしく頼む」

担任「説明は受けていると思うがもう一度この学校について説明するぞ」

~~

担任「というわけだ。途中の試験で合格ラインに達していなかった場合は追試となるが、1週間後に行われる追試でも合格ラインに届かなかった場合は即刻退学となるから精進するよう」

担任「説明は以上だが、何か質問のある者はいるか?」

生徒「・・・・」

担任「いないようなので今日はこれにて解散とする。明日から始まる訓練と講義に備えて各自部屋で休むといい。では解散」

ワイワイ ガヤガヤ

勇者「なんか周りはみんな仲が良さそうだな・・・。そういえば平民から来てるのは二人だけって言ってたし、顔見知りなのかもしれないな・・」

勇者「お嬢さん、僕と剣でも振りませんか?」

女生徒A「えー、どうしよっかなー」クスクス

女生徒B「剣なんて振っても仕方ないよねー」クスクス

貴族生徒「おい、何やってるんだ。そんな田舎臭いのに構ってないで行くぞ」ニヤニヤ

女生徒A「あ、はーい」

女生徒B「というわけだからごめんねー」クスクス

キャッキャウフフ

勇者「あの野郎、あんな可愛い子達と仲良くしやがって・・・!それだけでなんかもう負けた気がする」

勇者「お、平民生徒!剣でも振りに行かないか?」

平民生徒「いいね、行こう」

勇者「そうと決まればさっそく行こうぜー」

女生徒「こんにちは」

勇者「お、おう、こんにちは」

平民生徒「こんにちは。女生徒さん・・・だっけ?」

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