魔王娘「おかえりなさい、あなた様……」勇者「ああ、ただいま……」 11/14

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魔法使い「教会に属しているあんたらに言う事じゃねぇんだろうけど……」

魔法使い「あの街に寄生する屑共から、必ず街を開放するつもりだぜ、俺は」

魔法使い「……俺の話はこれで終わりさ。な? 面白い話でもなかっただろ?」

女戦士「いえ……ありがとうございました。お陰であなたがどういう人かよくわかりました」

魔法使い「そうかい? ま、どういう人かってのは、あえて聞かないでおくぜ」

女僧侶「あの……」

魔法使い「何だよ、まだ何かあんのか?」

女僧侶「王都に戻ったら、最西の街の苦境は必ず司教さまのお耳に入れます!」

女僧侶「司教さまなら、その状況を見過ごすなんて考えられません。ですから、早まった行動だけは……」

魔法使い「……何ていうかさ。損な性格してるよな、あんたは」

女僧侶「えっ?」

魔法使い「あんたみたいな奴が最西の街に居てくれりゃ、ちょっとは違ったのかもな」

女僧侶「ど、どういう意味ですか?」

魔法使い「何でもねぇよ。……ま、期待も約束もしねぇけど、出来る限りは待ってやるさ」

女僧侶「本当ですか!」

魔法使い「期待も約束もしねぇってんだろ。うるせぇからさっさと寝ちまえ」

女僧侶「それでも構いません。お役に立てなくてごめんなさい。あと……ありがとうございます」

~~夜半 賢者の塔にて~~

??「……」 

 カチャッ……キィッ……

??「……」

少年「……」

??(……これが最後の機会か?)

少年「……」

??(もう、今しか……今しかない……)

??(……本当にいいのか、それで?)

??(私は……どうすれば……)

少年「ふぅ……」

??「っ!?」

少年「いつまでそうやっているつもりですか?」

??「……」

少年「迷いのある人に人殺しなんて出来ませんよ、女戦士さん?」

女戦士「……やはり、気づいておいででしたか」

少年「旅に出たばかりの頃、休んでいる私の様子を何度か窺ってましたので、そうだろうとは」

女戦士「……その頃からお気づきでしたら、どうして今まで何も仰らなかったんです?」

少年「疑念が確信に変わったのも昨日の事ですから」

女戦士「昨日? そうだったんですか?」

少年「えぇ。最西の街で一騒動起こした後に、あなたの様子を見て確信しました」

女戦士「私の様子、ですか?」

少年「あなたは私に言いましたよね。弟さんが教会で世話になっていると」

女戦士「確かに……でも、それだけでどうして?」

少年「教会相手に揉め事を起こしたというのに、弟さんの事を心配されている様子がまるでない」

女戦士「あっ……」

少年「普通に考えれば、教会が無体な事などする訳がない。だが、一つ間違えれば私達は背教者です」

少年「その背教者の家族を、教会が放っておく訳がありませんよね?」

女戦士「それは……」

少年「弟さんの心配をする必要がないのは、教会でも相当に力のある人に庇護を受けているから。違いますか?」

女戦士「……」

少年「だんまりですか? なら、勝手に話を続けさせていただきます」

少年「後ろ盾を持つあなたは、教会に歯向かうような危うい真似をしても、弟さんを心配する必要がなかった」

女戦士「……仰る通りです」

少年「その人ですか? 私を殺すように命じたのは」

女戦士「……申し上げられません」

少年「まあ、聞かなくとも、誰が命じたのか想像出来ますけどね。でも理由ぐらいは教えてくれてもいいでしょう?」

女戦士「……」

少年「それもだんまりですか。頑固な方ですね」

女戦士「……私をどうされるおつもりです? 無理矢理にでも口を割らせますか?」

少年「何を馬鹿な事を……。話す気も殺す気もないなら、特に用はありません。早く部屋から出て行ってください」

女戦士「えっ?」

少年「聞こえなかったんですか? 私は休みたいから部屋を出て行って欲しいと言ったんです」

女戦士「ど、どうして!?」

少年「どうしてもこうしてもありません。私は休みたいからと言ったはずですが?」

女戦士「あ、あなたを殺そうとした私を放っておくのですか?」

少年「今のあなたに私は殺せない。それに話をする気もないのでしょう? なら、何の問題も用もない」

女戦士「くっ……は、ははっ……」

少年「……何もおかしな事は言っていないつもりですが?」

女戦士「いえ、申し訳ありません。私などが勇者殿をどうにか出来る訳がない。そう思ったらつい」

少年「そんな事はないでしょう。あなただって……」

女戦士「やめましょう。確か以前にも同じ遣り取りをしたはずです」

少年「そういえば、そんな事もありましたね……」

女戦士「あなたが……勇者の血が邪魔なんだそうです」

少年「私の血が?」

女戦士「はい。戦乱のない世界に勇者の血は不要、いらぬ諍いの種となる。そのように仰られていました」

少年「そんな理由で……くだらない」

女戦士「私が勇者殿にお話し出来るのはここまでです。申し訳ありません」

少年「構わないと言ったで……ああ、そうそう。あともう一つだけ」

女戦士「お答え出来るかはわかりかねますが、それでも良いのでしたら」

少年「これは質問というより確認です。女僧侶さん、彼女は関係ありませんよね?」

女戦士「はい。彼女は全くの無関係です。それは亡き我が父の名に誓っても」

少年「確認と言ったでしょう。そこまでする必要はありません」

女戦士「だとしてもです。ですから、彼女にこの件は……」

少年「それこそ必要のない事です。彼女に話をする意味がありません」

女戦士「……ありがとうございます、勇者殿」

少年「礼を言われる筋合いはありません」

女戦士「それでも……彼女の苦しむ顔は見たくありせん。ありがとうございます」

少年「それで、あなたはこれからどうするおつもりです?」

女戦士「このまま逃げても、私には行く当てもありません。それに弟を見捨てては……」

少年「ああ、弟さんといえば……病気の原因、わかるかもしれませんよ」

女戦士「ほ、本当ですか!?」

少年「では、確認しに行きましょうか」

女戦士「確認しに行くって……」

女戦士「えっ!? こ、これは……転移魔法!?」ヒュン

~~夜半 王都にて~~

女戦士「こ、ここは……?」

少年「王都の教区にある中央広場ですよ。流石にこの時間だと人の姿もないようですね」

女戦士「ど、どうして王都に? それにさっきの転移魔法は!?」

少年「『確認しに行く』と言ったでしょう? 人の話を聞いているんですか?」

女戦士「聞いていました! 聞いていましたが、どうして??」

少年「私はあなたの弟さんの居場所を知りません。案内してもらえますか」

女戦士「い、いえ……でも!?」

少年「確認しなくて良いなら、塔に戻りますが? ああ……でも、塔に直接転移は出来ないか……面倒だな」

女戦士「……信じてよろしいのでしょうか?」

少年「それはあなたが判断する事です」

女戦士「……」

少年「どうされますか?」

女戦士「……こちらです。ついて来てください」

少年「お願いします」

女戦士(勇者殿が転移魔法を使った時……)

女戦士(髪が金色になっていたような気が……)

女戦士(勇者殿の髪は黒い……)

女戦士(……暗闇にいたせいで、目が錯覚を起こしたか?)

女戦士(あれは絵姿で見た……)

少年「……聞いていますか?」

女戦士「あっ!? はい! 聞いています」

少年「しっかりしてください。私はあなたの家の場所を知らないんです」

女戦士「も、申し訳ありません」

少年「あなたの弟さんの病状や前後の状況等を賢者殿にお話して、原因となる可能性をお尋ねしました」

女戦士「いつの間にそんな……」

少年「賢者殿と二人で話しをした時ですよ」

女戦士「そ、それで何かわかったのですか?」

少年「発症の突発性、その後の経過、そして教会による近年の動向を考えて、二つの可能性が浮上しました」

女戦士「二つも!? では、弟の病気は!」

少年「希望を潰すようで申し訳ありませんが、あくまで可能性です」

女戦士「そう、ですか……」

少年「ただ、賢者殿が考察された可能性の確度はかなり高いはずです」

女戦士「……」

少年「それに、今回の確認で原因が掴めなかった場合、賢者殿が直接に弟さんを『診たい』と」

女戦士「け、賢者殿が……どうしてそこまで!?」

少年「『古い仲間の不始末だから』と。詳しい事は賢者殿に直接聞いてください」

女戦士「わかりました。それにしても……」

少年「……何です?」

女戦士「どうして勇者殿は、私の弟の事を賢者殿にお尋ね下さったのですか?」

少年「……私と同じ年頃の子が苦しんでいる」

女戦士「えっ!?」

少年「あなたが言ったんですよ。私と弟さんが同じ年頃だと……」

少年「それが理由ではいけませんか?」

女戦士「ありがとうございます……あそこが私の家です」

~~夜半 王都 教区 女戦士の自宅にて~~

女戦士「表玄関の鍵は中からしか開けられませんので、裏に回りましょう」

少年「わかりました」

女戦士「……この家は教会に所属した時にお借りした家なんです」

少年「元々住んでいた家はどうされたんですか?」

女戦士「手放しました。両親の思い出があるからと、弟は嫌がったのですが……」

少年「弟さんの為ですか?」

女戦士「はい。教区内の方が、弟の世話を教会の方にお願いしやすいので」

  ガチャガチャッ……ギィィィッ……

女戦士「この時間なら、家にいるのは弟だけのはずです」

少年「……」

女戦士「勇者殿?」

少年「失礼。最西の街から知らせが届くのはまだ先だとは思いますが……おかしな気配はないようですね」

女戦士「そうですね。監視ぐらいはついてもおかしくない事をしてしまいましたから」

少年「裏口の鍵は念のために閉めておきましょう。いざの時は転移魔法でここを離れます」

女戦士「そういえば……勇者殿は魔法もお使いになられたのですね」

少年「一通りは」

女戦士「今まで一度もお使いになった事がなかったので、てっきり使えないものと思っていました」

少年「制約があるんですよ、魔法を使うのに」

女戦士「制約ですか?」

少年「今はその話はいいでしょう。弟さんの部屋はどこですか?」

女戦士「はい、こちらです」

  カチャッ……キィッ……

??「誰?」

女戦士「起きていたの。私よ」

女戦士弟「姉さん? 帰ってたの?」

女戦士「仕事の途中で寄っただけ。それより具合はどうなの?」

女戦士弟「うん、悪くはないかな。言うほど良くもないんだけどね……」

女戦士「そっか……」

女戦士弟「えっと……そちらにいる人は?」

少年「初めまして。私は君のお姉さんの仕事を手伝わせてもらっている者です」

女戦士弟「そうなんですか。姉がいつも面倒を掛けています」ペコリ

女戦士「待ちなさい。どうして『面倒』って決めつめるの?」

女戦士弟「そんなの決まってるじゃないか。姉さんは剣術以外はからっきし駄目なんだから」

女戦士「こ、こら……」

女戦士弟「ふふっ。ふつつかな姉ですが、よろしくお願いします」

少年「いいえ。私の方こそ、君のお姉さんにいつも助けられていますから」

女戦士「ゆ、勇者殿まで!? お止めください!」

女戦士弟「勇者!? ねぇ、この人は勇者様なの?」

女戦士「あっ!? そ、そうよ。だから失礼のないよう……」

女戦士弟「そっか。姉さんが仕事関係の人を家に連れてくるなんて、珍しいと思ったんだ」

少年「そうなのかい?」

女戦士弟「うん。でも、勇者様なら納得だよ。だって……」

女戦士「こ、こら! 止めなさい!」

女戦士弟「姉さんが尊敬している人だもん、父さんと勇者様は」ニコニコ

女戦士「あぁ……///」

少年「……初耳ですね」

女戦士弟「そうなんですか? 姉さんの口癖なんですよ。『父さんや勇者様のようになりたい』って」

女戦士「い、いい加減にしなさい!///」

女戦士弟「幾ら勇者様の前だからって、そんなに照れなくて……っ……ごほっ、ごほっ……」

女戦士「だ、大丈夫!? 馬鹿みたいにはしゃぐから……」

女戦士弟「ご、ごめんなさい……ごほっ……久しぶりに姉さんの顔が見れたから嬉しくて……」

女戦士「ほら、お水飲んで……はい……」

女戦士弟「んっ……ありがとう。みっともないところを見せてごめんなさい、勇者様」

少年「あまり身体の調子が良くないんだって?」

女戦士弟「やだな……姉さん、そんな事まで勇者様に話したの?」

女戦士「……」

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