女戦士「……」
若い男「あんたら……どういうつもりだ?」
少年「どういうつもりも何も……話を聞いていなかったんですか?」
若い男「い、いや……聞いてはいたが……」
少年「ではそういう事です。女戦士さん?」
女戦士「はい」
少年「この荷車から一度荷物を降ろして、これとそっちの食糧を荷車に積み直します」
女戦士「わかりました。時間もありませんのですぐに終わらせます」
商隊長「こ、困ります! おやめくださいっ!!」
少年「この縄はもう必要ありませんね」
商隊長「あっ!?」
女僧侶「勇者さま、縄を解いては……」
子供達「「「兄ちゃん!」」」
少年「……野盗に襲撃され、荷の全てを奪われた事にしてもよいのですが?」
商隊長「それはもっと困ります!!!」
若い男「俺達は野盗じゃねぇ!」
少年「そんな事はどうでもいいでしょう?」
若い男「良くあるかっ!」
少年「あなた達は誰も傷つかず傷つけず食糧を手に入れる。私達は全てとはいかないまでも荷物を街まで運ぶ」
若い男「……」
少年「何か問題でもありますか?」
若い男「どうして……」
少年「うん?」
若い男「どうして俺の魔法がお前に効かなかった! お前、一体何もんだよ?」
女戦士(そうだ。この男の放った魔法の火球が、勇者殿の前でかき消すように消失した)
少年「何者と言われても……ただの旅人としか」
若い男「ただの旅人にあんな芸当が出来るか! それに勇者とか何とか呼ばれてやがったよな?」
少年「勇者だったのは私の父です。その子供というだけで、私には何の取り柄もありません」
若い男「勇者の息子!? お前が?」
少年「もういいですか? 日が暮れる前に最西の街に着きたいのですが」
若い男「おい! 話しの途中だぞ!! 無視するな!!!」
少年「全く、面倒臭いな……」
若い男「何だと!」
少年「……女戦士さん、荷物の整理は済んでいますか?」
女戦士「はい。指示のあった物はこちらの荷車に積み替えました」
少年「仕事が早くて助かります。では、皆さん行きましょうか」
女僧侶「は、はいっ」
若い男「お、おいっ!?」
商隊長「に、荷物が……」
若い男(何だこいつ……魔法は効かねぇわ、人の話は聞かねぇわ)
少年「神はあなたの行いをご覧になれていますよ、きっとね」ニッコリ
商隊長「うっ……は、はい……」
若い男「なぁ……最西の街に行くんだよな?」
少年「さっきからそう言っています」
若い男「街に何の用だよ?」
少年「荷物を届ける以外、街には用はありません。何事もなければ、更に西へ向かう予定です」
若い男「名前の通り最西の街が人間の住む最西だ。街の向こうには何もねぇぞ」
少年「それは直接行って確かめ……」
女僧侶「ゆ、勇者さま、それ以上は……」
少年「……そうですね。では、行きましょうか」
若い男「……待てよ」
少年「まだ何か?」
若い男「いや……食糧の事は助かった。ありがとよ」
少年「私は何もしていません。礼なら食糧を提供してくれた教会に言ってください」
若い男「それは断らせてもらう」
女僧侶「何という恩知らずな……」
少年「ほらほら、そんなに怖い顔をしないでください。可愛らしい顔が台無しですよ?」ニッコリ
女僧侶「か、かわ、可愛らしい? わ、私がですか?///」
少年「えぇ、あなたは聖職者なのですから、皆さんの為にも穏やかでいてください」
女僧侶「はっ、はいっ!///」
若い男(このガキ……目が笑ってねぇし)
若い男(あっちの女戦士は我関せずって体だし……何なんだ、コイツら?)
女戦士「では、参りますか?」
少年「えぇ」
若い男「この荷物、最西の街の司祭宛てなんだろ?」
少年「そうですね」
若い男「ふん、気をつけろよ。あの強欲司祭は一筋縄じゃいかねぇぞ」
女僧侶「司祭さまに対して無礼ですわ!」
少年「ほら、また……」
女僧侶「は、はいっ///」
少年「……恵まれない子供達に配ったんです。きっと司祭殿もお喜びくださるでしょう」
若い男「だといいがな。まぁ、せいぜい気をつけてくれ」
商隊長「はぁ……」
少年「ご忠告、感謝します」
女戦士「勇者殿、急ぎませんと街の閉門に間に合わなくおそれが……」
少年「わかりました。少し急ぎましょうか」
―――
――
―
子供A「兄ちゃん、大丈夫かよ!」
若い男「あぁ。心配掛けたな、お前ら」
子供C「これ、貰っちゃっていいのかな?」
若い男「くれるって言ってたんだ。遠慮なんてする事はねぇよ」
子供B「でも……あの人達、大丈夫かな?」
若い男「わからん……が無事に街を抜けられるといいんだがな……」
~~夕刻 最西の街にて~~
商隊長「ふぅ……なんとか門前払いを食わずに済みましたな」
少年「申し訳ありませんでした。途中で余計な時間をとってしまったせいで……」
商隊長「いえいえ、それは構わないんですが……」
女僧侶「荷物、の事でしょうか?」
商隊長「あ、あはは……そうですな。帳簿通りの積荷がないと何を言われるか……」
少年「事情は私が説明します。あなたに非はないのですから」
商隊長「まさか、聖堂までご一緒されるおつもりで?」
少年「積荷を送り届けるとは、そういう事ではないのですか?」
商隊長「そ、そうなんですが……参ったな」
少年・女僧侶・女戦士「?」
商隊長「ま、まぁ……行けばわかる事なんですが……本当にいらっしゃるんですか?」チラッ
少年「私が行くと何か不都合でもあるのでしょうか?」
商隊長「不都合というか何というか……勇者様のような見目麗しいお方は少し……」
少年「……どうも要領を得ませんね」
女戦士「勇者殿の容姿が何か?」
商隊長「私の口からは……うぅむ……」
女僧侶「何か問題あるのでしたら、仰ってください」
少年「ここで話をしていても時間を無駄にするだけです。とにかく積荷を届けてしまいましょう」
商隊長「……そうですね。ただ、後で私を責めないでくださいよ?」
女僧侶「勇者さまに、何か危害を加えようというのではありませんわね?」
商隊長「め、滅相もありません!」
女僧侶「では、どういう事なのです?」
商隊長「ですから私の口からは……ご勘弁ください」
少年「行けばわかるそうですから、一先ず積荷を届けに聖堂に向かいましょう」
女僧侶「ですが!!」
少年「教会の遣いであるあなた方がいて、まさか危害を加えられる事はないでしょうから」
女僧侶「は、はい……」
~~最西の街 教区にて~~
商隊長「いつもお疲れ様です。聖堂に荷物をお届けに参りました」
衛士「おぉ、お前かご苦労だったな」
商隊長「いえいえ。私の苦労など衛士様と比べれば……」
衛士「ふむ、そこの連れは見ない顔だが……ほう……これはなかなか」ニヤニヤ
商隊長「こ、この者達は積荷の護衛でございます」ゴソゴソ
衛士「……そうか。良しさっさと通れ」
商隊長「はい、ありがとうございます」
女僧侶(今、何か……)
女戦士(賄賂……か)
商隊長「ささ、早く参りましょう」
―――
――
―
~~最西の街 教区 聖堂内にて~~
女僧侶「教区の衛士が賄賂など……」
商隊長「何も仰らないでください。衛士達と揉めると私の仕事がやりにくくなってしまうので……」
女僧侶「し、しかし!」
少年「やめましょう。私達が商隊長殿の生活を保障できる訳ではないのですから」
女戦士「そうですね」
女僧侶「あ、あなたまで何を……」
女戦士「では、あなたが彼の生活を保障されるのですか?」
女僧侶「それは……」
商隊長「まぁまぁ、皆さんその辺りで……いらぬ気遣いをさせてしまい申し訳ございません」
少年「いつも、あのような感じなのですか?」
商隊長「はははっ……残念ながら……」
女僧侶「これでは、あの野盗が正しい事を言っている事に……」
少年「組織も大きくなれば……という事なのかもしれません」
女戦士「……」
少年「それにしても司祭殿は遅いですね。いつまで待てばよいのでしょうか」
商隊長「いつもの事ですよ。司祭様はお忙しい方ですから……っと、みえられたようですな」
司祭「あらあら、いつもご苦労ね」
商隊長「いえいえ、滅相もございません」
女戦士(あれがこの街の司祭殿……)
司祭「この者達は?」
商隊長「国王陛下の命を受けたとの事で。王都からこちらの街に向かうとお聞きして、ご一緒に」
司祭「こ、国王陛下ですって!? あなたは教会の人間のはずでしょ?」
女僧侶「はい。国王陛下と司教猊下の命で、こちらにいらっしゃる勇者さまのお供を仰せつかっております」
司祭「ゆ、勇者殿ですって!? あなたが?」
少年「……」
女僧侶「ゆ、勇者さま、ここは堪えて……」
少年「……わかっています」
司祭「ほぅ……なんと可愛らしい……」
少年「……は?」
司祭「な、何でもありません/// それで、この街に何の用かしら?」
少年「この街ではなく、更に西へ。詳しい事はご容赦ください」
司祭「……陛下と猊下の命ですもの。機密事項なのは当然ね」
少年「はい、申し訳ございません」
司祭「気にしないでちょうだい。そんな顔をされたら、私が虐めているみたいじゃない」
少年「そのような事……滅相もありません」
司祭「でも、虐められた顔も見てみたいものねぇ……」
少年「はっ?」
司祭「な、何でもないのよ!? 何でも!」
少年「……そうですか」
司祭「それにしても……」ジロジロ
少年「……」
女戦士(何だ……司祭殿のあの視線は……)
司祭「本当に何でもないの。ただね、勇者殿があまりに可愛らしいものだから……」
商隊長「し、司祭様! 積荷のご確認をお願いしたいのですが」
司祭「……せっかくいい気分だったのに、何て無粋な男なのかしら」
商隊長「も、申し訳ございません」
司祭「ふん、まぁいいわ。人を遣るから積荷のところで待っていなさい」
商隊長「はい、よろしくお願いします」
司祭「ねぇ、あなた達。宿はまだ決まってないんでしょ?」
女僧侶「はっ、はい!」
司祭「あなたには聞いてないの。ね、宿は決まってないんでしょ、勇者殿?」
少年「はい」
司祭「そうね……こちらで部屋を用意するから、今日はゆっくりしていくといいわ」
少年「ご配慮、感謝します」
司祭「気にしないで。王都からの客人……それも勇者殿に対して無碍(むげ)な扱いは出来ないもの」
商隊長「では、私は積荷の所に控えておりますので……」
司祭「わかったわ。それじゃ、私は失礼させてもらうわよ」
商隊長「はい。貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました」
商隊長「……ふぅ、何とかご機嫌を損ねずに済んだようですな」
女僧侶「な、何なんですか……あれでも……」
商隊長「しっ……あまり大声を出されては……」
女戦士「司祭殿は……随分と変わったご趣味をお持ちのようですね」
商隊長「ま、まぁ、ご想像の通りです」
少年「私は司祭殿に気に入られてしまった……という事ですか?」
女僧侶「気に入られたって……司祭さまは男の人なんですよ!?」
商隊長「こ、声を抑えてください」ボソボソ
女僧侶「で、でも……」