魔王娘「おかえりなさい、あなた様……」勇者「ああ、ただいま……」 3/14

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女戦士「……」

若い男「あんたら……どういうつもりだ?」

少年「どういうつもりも何も……話を聞いていなかったんですか?」

若い男「い、いや……聞いてはいたが……」

少年「ではそういう事です。女戦士さん?」

女戦士「はい」

少年「この荷車から一度荷物を降ろして、これとそっちの食糧を荷車に積み直します」

女戦士「わかりました。時間もありませんのですぐに終わらせます」

商隊長「こ、困ります! おやめくださいっ!!」

少年「この縄はもう必要ありませんね」

商隊長「あっ!?」

女僧侶「勇者さま、縄を解いては……」

子供達「「「兄ちゃん!」」」

少年「……野盗に襲撃され、荷の全てを奪われた事にしてもよいのですが?」

商隊長「それはもっと困ります!!!」

若い男「俺達は野盗じゃねぇ!」

少年「そんな事はどうでもいいでしょう?」

若い男「良くあるかっ!」

少年「あなた達は誰も傷つかず傷つけず食糧を手に入れる。私達は全てとはいかないまでも荷物を街まで運ぶ」

若い男「……」

少年「何か問題でもありますか?」

若い男「どうして……」

少年「うん?」

若い男「どうして俺の魔法がお前に効かなかった! お前、一体何もんだよ?」

女戦士(そうだ。この男の放った魔法の火球が、勇者殿の前でかき消すように消失した)

少年「何者と言われても……ただの旅人としか」

若い男「ただの旅人にあんな芸当が出来るか! それに勇者とか何とか呼ばれてやがったよな?」

少年「勇者だったのは私の父です。その子供というだけで、私には何の取り柄もありません」

若い男「勇者の息子!? お前が?」

少年「もういいですか? 日が暮れる前に最西の街に着きたいのですが」

若い男「おい! 話しの途中だぞ!! 無視するな!!!」

少年「全く、面倒臭いな……」

若い男「何だと!」

少年「……女戦士さん、荷物の整理は済んでいますか?」

女戦士「はい。指示のあった物はこちらの荷車に積み替えました」

少年「仕事が早くて助かります。では、皆さん行きましょうか」

女僧侶「は、はいっ」

若い男「お、おいっ!?」

商隊長「に、荷物が……」

若い男(何だこいつ……魔法は効かねぇわ、人の話は聞かねぇわ)

少年「神はあなたの行いをご覧になれていますよ、きっとね」ニッコリ

商隊長「うっ……は、はい……」

若い男「なぁ……最西の街に行くんだよな?」

少年「さっきからそう言っています」

若い男「街に何の用だよ?」

少年「荷物を届ける以外、街には用はありません。何事もなければ、更に西へ向かう予定です」

若い男「名前の通り最西の街が人間の住む最西だ。街の向こうには何もねぇぞ」

少年「それは直接行って確かめ……」

女僧侶「ゆ、勇者さま、それ以上は……」

少年「……そうですね。では、行きましょうか」

若い男「……待てよ」

少年「まだ何か?」

若い男「いや……食糧の事は助かった。ありがとよ」

少年「私は何もしていません。礼なら食糧を提供してくれた教会に言ってください」

若い男「それは断らせてもらう」

女僧侶「何という恩知らずな……」

少年「ほらほら、そんなに怖い顔をしないでください。可愛らしい顔が台無しですよ?」ニッコリ

女僧侶「か、かわ、可愛らしい? わ、私がですか?///」

少年「えぇ、あなたは聖職者なのですから、皆さんの為にも穏やかでいてください」

女僧侶「はっ、はいっ!///」

若い男(このガキ……目が笑ってねぇし)

若い男(あっちの女戦士は我関せずって体だし……何なんだ、コイツら?)

女戦士「では、参りますか?」

少年「えぇ」

若い男「この荷物、最西の街の司祭宛てなんだろ?」

少年「そうですね」

若い男「ふん、気をつけろよ。あの強欲司祭は一筋縄じゃいかねぇぞ」

女僧侶「司祭さまに対して無礼ですわ!」

少年「ほら、また……」

女僧侶「は、はいっ///」

少年「……恵まれない子供達に配ったんです。きっと司祭殿もお喜びくださるでしょう」

若い男「だといいがな。まぁ、せいぜい気をつけてくれ」

商隊長「はぁ……」

少年「ご忠告、感謝します」

女戦士「勇者殿、急ぎませんと街の閉門に間に合わなくおそれが……」

少年「わかりました。少し急ぎましょうか」

―――

――

子供A「兄ちゃん、大丈夫かよ!」

若い男「あぁ。心配掛けたな、お前ら」

子供C「これ、貰っちゃっていいのかな?」

若い男「くれるって言ってたんだ。遠慮なんてする事はねぇよ」

子供B「でも……あの人達、大丈夫かな?」

若い男「わからん……が無事に街を抜けられるといいんだがな……」

~~夕刻 最西の街にて~~

商隊長「ふぅ……なんとか門前払いを食わずに済みましたな」

少年「申し訳ありませんでした。途中で余計な時間をとってしまったせいで……」

商隊長「いえいえ、それは構わないんですが……」

女僧侶「荷物、の事でしょうか?」

商隊長「あ、あはは……そうですな。帳簿通りの積荷がないと何を言われるか……」

少年「事情は私が説明します。あなたに非はないのですから」

商隊長「まさか、聖堂までご一緒されるおつもりで?」

少年「積荷を送り届けるとは、そういう事ではないのですか?」

商隊長「そ、そうなんですが……参ったな」

少年・女僧侶・女戦士「?」

商隊長「ま、まぁ……行けばわかる事なんですが……本当にいらっしゃるんですか?」チラッ

少年「私が行くと何か不都合でもあるのでしょうか?」

商隊長「不都合というか何というか……勇者様のような見目麗しいお方は少し……」

少年「……どうも要領を得ませんね」

女戦士「勇者殿の容姿が何か?」

商隊長「私の口からは……うぅむ……」

女僧侶「何か問題あるのでしたら、仰ってください」

少年「ここで話をしていても時間を無駄にするだけです。とにかく積荷を届けてしまいましょう」

商隊長「……そうですね。ただ、後で私を責めないでくださいよ?」

女僧侶「勇者さまに、何か危害を加えようというのではありませんわね?」

商隊長「め、滅相もありません!」

女僧侶「では、どういう事なのです?」

商隊長「ですから私の口からは……ご勘弁ください」

少年「行けばわかるそうですから、一先ず積荷を届けに聖堂に向かいましょう」

女僧侶「ですが!!」

少年「教会の遣いであるあなた方がいて、まさか危害を加えられる事はないでしょうから」

女僧侶「は、はい……」

~~最西の街 教区にて~~

商隊長「いつもお疲れ様です。聖堂に荷物をお届けに参りました」

衛士「おぉ、お前かご苦労だったな」

商隊長「いえいえ。私の苦労など衛士様と比べれば……」

衛士「ふむ、そこの連れは見ない顔だが……ほう……これはなかなか」ニヤニヤ

商隊長「こ、この者達は積荷の護衛でございます」ゴソゴソ

衛士「……そうか。良しさっさと通れ」

商隊長「はい、ありがとうございます」

女僧侶(今、何か……)

女戦士(賄賂……か)

商隊長「ささ、早く参りましょう」

―――

――

~~最西の街 教区 聖堂内にて~~

女僧侶「教区の衛士が賄賂など……」

商隊長「何も仰らないでください。衛士達と揉めると私の仕事がやりにくくなってしまうので……」

女僧侶「し、しかし!」

少年「やめましょう。私達が商隊長殿の生活を保障できる訳ではないのですから」

女戦士「そうですね」

女僧侶「あ、あなたまで何を……」

女戦士「では、あなたが彼の生活を保障されるのですか?」

女僧侶「それは……」

商隊長「まぁまぁ、皆さんその辺りで……いらぬ気遣いをさせてしまい申し訳ございません」

少年「いつも、あのような感じなのですか?」

商隊長「はははっ……残念ながら……」

女僧侶「これでは、あの野盗が正しい事を言っている事に……」

少年「組織も大きくなれば……という事なのかもしれません」

女戦士「……」

少年「それにしても司祭殿は遅いですね。いつまで待てばよいのでしょうか」

商隊長「いつもの事ですよ。司祭様はお忙しい方ですから……っと、みえられたようですな」

司祭「あらあら、いつもご苦労ね」

商隊長「いえいえ、滅相もございません」

女戦士(あれがこの街の司祭殿……)

司祭「この者達は?」

商隊長「国王陛下の命を受けたとの事で。王都からこちらの街に向かうとお聞きして、ご一緒に」

司祭「こ、国王陛下ですって!? あなたは教会の人間のはずでしょ?」

女僧侶「はい。国王陛下と司教猊下の命で、こちらにいらっしゃる勇者さまのお供を仰せつかっております」

司祭「ゆ、勇者殿ですって!? あなたが?」

少年「……」

女僧侶「ゆ、勇者さま、ここは堪えて……」

少年「……わかっています」

司祭「ほぅ……なんと可愛らしい……」

少年「……は?」

司祭「な、何でもありません/// それで、この街に何の用かしら?」

少年「この街ではなく、更に西へ。詳しい事はご容赦ください」

司祭「……陛下と猊下の命ですもの。機密事項なのは当然ね」

少年「はい、申し訳ございません」

司祭「気にしないでちょうだい。そんな顔をされたら、私が虐めているみたいじゃない」

少年「そのような事……滅相もありません」

司祭「でも、虐められた顔も見てみたいものねぇ……」

少年「はっ?」

司祭「な、何でもないのよ!? 何でも!」

少年「……そうですか」

司祭「それにしても……」ジロジロ

少年「……」

女戦士(何だ……司祭殿のあの視線は……)

司祭「本当に何でもないの。ただね、勇者殿があまりに可愛らしいものだから……」

商隊長「し、司祭様! 積荷のご確認をお願いしたいのですが」

司祭「……せっかくいい気分だったのに、何て無粋な男なのかしら」

商隊長「も、申し訳ございません」

司祭「ふん、まぁいいわ。人を遣るから積荷のところで待っていなさい」

商隊長「はい、よろしくお願いします」

司祭「ねぇ、あなた達。宿はまだ決まってないんでしょ?」

女僧侶「はっ、はい!」

司祭「あなたには聞いてないの。ね、宿は決まってないんでしょ、勇者殿?」

少年「はい」

司祭「そうね……こちらで部屋を用意するから、今日はゆっくりしていくといいわ」

少年「ご配慮、感謝します」

司祭「気にしないで。王都からの客人……それも勇者殿に対して無碍(むげ)な扱いは出来ないもの」

商隊長「では、私は積荷の所に控えておりますので……」

司祭「わかったわ。それじゃ、私は失礼させてもらうわよ」

商隊長「はい。貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました」

商隊長「……ふぅ、何とかご機嫌を損ねずに済んだようですな」

女僧侶「な、何なんですか……あれでも……」

商隊長「しっ……あまり大声を出されては……」

女戦士「司祭殿は……随分と変わったご趣味をお持ちのようですね」

商隊長「ま、まぁ、ご想像の通りです」

少年「私は司祭殿に気に入られてしまった……という事ですか?」

女僧侶「気に入られたって……司祭さまは男の人なんですよ!?」

商隊長「こ、声を抑えてください」ボソボソ

女僧侶「で、でも……」

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