魔王娘「おかえりなさい、あなた様……」勇者「ああ、ただいま……」 14/14

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~~早朝 ??~~

??「……どうやってここまで忍び込んだのですか?」

勇者「この程度の警備、あの時の魔王城と比べたら笊(ざる)みたいなもんだろう?」

司教「成る程、盗賊に転職されたとは存じませんでした」

勇者「人聞きの悪い事を言うな。せっかく昔の仲間が会いに来たっていうのに」

司教「生憎、盗人の知り合いなどおりませんので」

勇者「……お前、そんなに冷たい奴だったっけ?」

司教「私達を見捨てて行方をくらました、あなたに言われたくありません」

勇者「そんな風に思ってたのかよ……俺って意外と人望なかったんだな」

司教「感謝はしていますよ。あなたのお陰で、私はここまで登りつめる事が出来た」

勇者「で、人のいい陛下に取り入って、この国を盗もうって魂胆か?」

司教「……陛下に継嗣がいない以上、誰かが国の舵取りをしなければならないのです」

勇者「だからといって、陛下を騙すようなやり方は間違っている」

司教「人聞きの悪い事を言わないでください。あなたの方こそ陛下を騙したのではありませんか?」

司教「自らは勇者の息子と名乗り、勇者は死んだと陛下を欺いた。不敬以外のなにものでもありません」

勇者「あの時……俺が陛下に謁見していた時、随分と慌ててやって来たよな」

司教「勇者の子息が登城したと聞いた時は、正直驚きましたからね。真偽を確かめる必要がありましたから」

勇者「でも、俺だと気づいて……」

司教「当たり前です。私が気づかないとでも思っていたんですか?」

勇者「なら、どうして気づかない振りをしていた?」

司教「救国の英雄たるあなたが生きていると知れば、陛下はあなたにこの国を託されるでしょう」

勇者「……だから適当な任務を与えて俺を城から追い出し、殺そうとしたのか」

司教「そこまで上手く行くとは思っていませんでしたよ。案の定、失敗に終わったようですし」

勇者「そんなに俺が邪魔だったのか……」

司教「……それでは、私も一つお聞きします」

勇者「なんだ?」

司教「もし、あの場で勇者だという事が知れ、陛下から譲位の申し出あったなら、あなたはどうされました?」

勇者「俺には……その気も資格もない」

司教「あなたの意思など……ですよ」

勇者「……何だって?」

司教「関係ないんですよォ! あなたの意思なんてェェ!!」

勇者「お、おい……」

司教「周りがァ! それをォォ!! 許すとでも思っているのですかァァァ!!!」

勇者「おい、落ち着けって……」

司教「あなたこそォ! あなたこそがァァ!! この国を導くべきだったのにィィッ!!!」

勇者「おいっ! しっかりしろ!!」

司教「それをッ……それをあなたはァ……あなたはぁ……っ」

勇者「……大丈夫か?」

司教「信じていたのです……あなたこそが……この国を導くべきだと……」

司教「私の居場所は……あなたの隣だと……」

司教「あなたの居場所は……私達のところだと……」

勇者「……」

司教「どうして……私達を置いて行ったのです?」

司教「どうして、今更戻って来たのです?」

勇者「……確かに黙っていなくなった事は、悪かったと思っている。でも……」

勇者「俺が戻って来た理由は、お前が一番わかっているんじゃないのか?」

司教「……私が陛下に代わり国を率いるには、求心力が必要なのです」

勇者「お前を慕う人は大勢いるはずだ」

司教「まだ足りないんですよ。治世を磐石にする為には……」

勇者「だから、敵を作ろうとしたのか?」

司教「先の大戦の傷痕は今でも世界に残されています。そこに再び魔物達が現れたとなればどうなります?」

勇者「……何を置いてでも、自分達の世界を守ろうとするだろうな」

司教「そして、私の指揮の下、魔物達の脅威から世界を救ったとなれば、それは私への求心力となります」

勇者「だからって……そんな争いは無意味だ。魔王だってそんな事は望んじゃいない」

司教「ふむ……やはり魔王は生きているのですか?」

勇者「ああ。俺達がこうしていられるのもあいつのお陰だ」

司教「ならば、尚の事。魔物達を捨てておく事など出来ません」

勇者「あいつらは、確かに俺達とは違うところも多い。でも、悪い奴らじゃない。わかりあえるんだ」

司教「かつては魔王討伐を口にしたあなたが、その肩を持つなどと……堕ちたものです」

勇者「俺の事はどうでもいい。争えば新たな犠牲者を生み出すぞ」

司教「何を甘い事を。大多数の幸福の為に多少の犠牲はつきものでしょう?」

勇者「多数の為に少数を切り捨てるなんて考えは間違っている」

司教「必要悪というものですよ。民の大半は自分さえ幸せなら、多少の犠牲には目を瞑るものです」

勇者「そうやって、結界の調査隊を犠牲にしたのか?」

司教「彼らは殉教者ですよ。その尊い犠牲は後世に伝えられる」

勇者「そこまで腐ったか……」

司教「何とでも言ってください。今更、後戻りなど出来ません」

勇者「本当に考え直す気はないのか?」

司教「何を考え直すというのです? 私達は先へ進まなければならないのですよ」

勇者「そうか……」

司教「殺しますか? あなたの意に沿わない私を? 私を止めるなら今しかありませんよ?」

勇者「そんな事はしない」

司教「ふふっ、あなたに出来るはずがない。私を殺せば、自らの考えを否定した事になりますからね」

勇者「だが、お前が俺の大切なものを脅かした時は……」

司教「その時は私を手に掛けますか? でしたら、今やれば良いものを……本当に甘いお人だ」

勇者「甘くて結構だ。俺は今でもお前の事を仲間だと思っている」

司教「そう思うなら、今からでも遅くありません。私のところに戻って来てください」

勇者「何を……」

司教「今の私なら、あなたの居場所くらい幾らでも用意出来ます」

勇者「……もう遅いんだ」

司教「わ、私ではなく、あながたこの国を治めても構いません!」

勇者「……」

司教「そうだ! 今から登城して、陛下にあなたの無事を知らせましょう!」

勇者「もう……」

司教「へ、陛下もきっとお喜びになられるはず。国を挙げての祝賀となるでしょう!」

勇者「もう、やめてくれ……」

司教「そこであなたに陛下から譲位があるかもしれません。そして私はあなたの側で……」

勇者「……お前の気持ちは嬉しい。けど、俺には帰る場所がある」

司教「……っ!?」

勇者「帰りを待ってくれている人がいる。だから……すまない」

司教「……なら」

司教「……それなら、話はこれで終わりですね」

勇者「ああ……そうだな」

司教「用が済んだのでしたら、人が来る前にさっさと出て行ってください」

勇者「最後に一つだけいいか?」

司教「……なんですか?」

勇者「今までありがとう」

司教「……」

勇者「それじゃあな……」ヒュン

司教「……」

司教「……そんな言葉が欲しい訳じゃ……ありません」

司教「……」

司教「どうして……」

司教「どうして『一緒に来てくれ』と私に……」

司教「うぅっ……」

~~魔王城にて~~

勇者「よっと、久しぶりだなこっちに戻るのは……」

魔王娘「お帰りなさいませ。今回は随分とゆっくりでしたのね」

勇者「ただいま。ああ。向こうで色々とあってさ」

魔王娘「あら『仮初の姿身』が解けて……」

勇者「ああ。魔王に術を掛け直してもらわないと……」

魔王娘「また、無茶をされたのでしょう?」

勇者「んー無茶にならないよう、やってるつもりなんだけどな」

魔王娘「あなた様の基準で物を考えては、無茶も逃げ出してしまいますわ」

勇者「そこまで酷くはないと思うんだが……」

魔王娘「でも、仕方ありませんわよね」

勇者「うん?」

魔王娘「あちらの世界はあなた様の故郷。故郷を思う余り、無茶な事をされるお気持ちもわかります」

勇者「そう言ってくれると助かる……。それで、俺がいない間に変わった事は?」

魔王娘「そうですわね……お父様が執務室に籠もっている以外、平穏なものですわ」ニコニコ

勇者「……執務室に? そんなに仕事が溜まっているのか?」

魔王娘「ええ。あなた様がいらっしゃらないお陰で」

勇者「……なぁ?」

魔王娘「なんでしょう?」ニコニコ

勇者「魔王の奴、機嫌悪いだろ?」

魔王娘「『勇者が帰って来たら、あいつに仕事を任せて私も旅に出る』と仰るぐらいには」クスッ

勇者「いや、それこそ無茶だって!」

魔王娘「頑張ってくださいませ。微力ではございますが、私もお手伝いさせて頂きますから」

勇者「絶対に無理! あの量をこなせるのは魔王ぐらいだって!」

魔王娘「お父様の跡目を継がれる方が、そんな情けない事を仰らないでくださいませ」

勇者「……大体さ、どうして俺が跡継ぎになるんだよ。おかしいだろ?」

魔王娘「まあ!? 私との事は遊びだったと仰るのですか?」

勇者「そうじゃないって!」

魔王娘「では、どういう事ですの?」

勇者「間違いなく魔王の方が長生きするはずだろ? なのに俺が跡継ぎっておかしいだろ」

魔王娘「だからこそ『時の眠り』を使ったのです。それに、ちゃんと理由もございます」

勇者「理由?」

魔王娘「はい。お父様は永く魔界を治めて参りましたが、未だ悪しき慣習も数多く残っております」

勇者「そういえば、あいつの仕事を手伝っていた時に、そういう指摘をした事もあったけど……」

魔王娘「あなた様の指摘で、お父様は考えられたそうです。魔界にも新しい風を入れる必要があると」

勇者「いや、しかしだな……」

魔王娘「重圧とは存じますが、お父様と私の期待に応えては頂けませんか?」

勇者「魔王と、お前のか……そう言われると弱いな」

魔王娘「そうそう。もう一つ理由が……」

勇者「まだ他にあるのか?」

魔王娘「はい。お父様は『余生はのんびり孫と遊んで暮らしたい』と常々仰られておりまして……」

勇者「……そっちの方が本音じゃないのか?」

魔王娘「さあ、どうでしょうか?」

勇者「何にせよ、少し気が早いだろ」

魔王娘「そ、そうですわね///」

魔王娘「……ところで、向こうの様子は如何でした?」

勇者「正直、少しきな臭い。もしからしたら、以前のような争いになるかもしれない」

魔王娘「そうですなのですか……」

勇者「……そんな顔するなよ。そうならないよう努力はするさ」

魔王娘「はい……」

勇者「そういえばさ、久し振りに昔の仲間にも会ったんだ」

魔王娘「まあ、そうですの?」

勇者「ああ。他にも、協力してくれそうな奴らと知り合う事が出来た。それだけでも収穫かな」

魔王娘「……お話、聞かせてくださいます?」

勇者「もちろん。少し長い話になるだろうけど……」

魔王娘「あの……お話の前に……///」

勇者「うん? あぁ……」ギュッ

魔王娘「おかえりなさい……あなた様……」

勇者「ああ、ただいま……」チュッ

おわり

転載元:http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1366432118/

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