魔王娘「おかえりなさい、あなた様……」勇者「ああ、ただいま……」 2/14

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~~二時間後 王城 謁見の間にて~~

少年「それでは、このお二方と共に西の果てにある賢者の塔を目指せば良いのですね?」

司教「えぇ、彼の方はそこに居を構えているはず。では二人共、彼の事を宜しく頼みましたよ」

僧侶「お任せください司教さま」

戦士「はい」

司教「女僧侶は信仰も篤く勉強熱心な才媛、女戦士は昨年の武術大会で優勝している程の腕前です」

女僧侶「さ、才媛なんてとんでもございません。まだまだ至らぬ事ばかりです……」

少年「お二人共よろしくお願いします。武術大会で優勝とは凄いですね」

女戦士「……」

司教「うん……二人共歳は若いですが、旅の仲間として君の力になってくれるはずです」

少年「これからよろしくお願いします」

女戦士「……よろしくお願いします」

女僧侶「こちらこそよろしくお願いしますわ、勇者さま」

少年「……勇者だったのは私の父で、私は勇者ではありません」

女僧侶「え、でも……」

王様「確かに勇者はそなたの父であるのだ。些細な事に目くじらを立てる事もあるまい」

少年「しかし……」

王様「余の与えた勇者の紋章を持っておるのだ。その紋章に恥じぬ新たな勇者となってくれんか?」

少年「私にとっては父の形見ですが、新たな勇者にという事でしたら、これはお返しします」

王様「なんじゃと!?」

少年「確かに私の父は勇者でしたが、私はそれ程の器ではありません」

司教「君、陛下に対して無礼な言葉は許されませんよ!」

少年「……申し訳ございません」

王様「司教殿、待たれよ」

司教「いえ、しかし……」

王様「待てと申している。では、一先ずその紋章はそなたに預けておく」

少年「預ける、ですか?」

王様「そうだ。勇者よ、その紋章はそなたの父の形見でもあるのだろう。それを手放すとは何事だ」

少年「はっ……」

王様「そなたが今回の任務を見事に成し遂げた暁には……」

王様「新たな勇者として、正式にその紋章をそなたに授ける。それでどうかな?」

少年「……そういう事でしたら、それまでの間、この紋章をお預かりいたします」

王様「うむ。紋章に恥じぬ活躍を期待しておるぞ」

女戦士「……よろしいでしょうか?」

司教「ん、何かね?」

女戦士「そろそろ出発しませんと、今日中に隣の街まで辿り着くのが難しくなります」

司教「……そうですね。話も纏まったようですし、出発してもらいましようか」

王様「では、三人共、頼んだぞ!」

少年・女僧侶・女戦士「はっ!」

  ………

王様「……さて、どうなる事か」

司教「西の最果てにある街までは、特に大きな問題もなく辿り着けるでしょう」

王様「その先はどうであろうか?」

司教「その先は陛下の御威光も教会の力も及ばぬ地。正念場かと……」

~~二週間後 最西の街近郊にて~~

商隊長「あと半日もしない内に、最西の街に到着しますよ」

女僧侶「ようやくですね、勇者さま」

少年「あの、その勇者というのは止めてくださいと何度言えば……」

商隊長「あっはっはっ、何をご謙遜なさいますか。その紋章をお持ちという事が紛れもない勇者の証ですよ」

女僧侶「えぇ。商隊長殿の言う通りですわ」

少年「はぁ……」

商隊長「いや~しかし助かりました。まさか勇者様御一行に商隊の警護をしてもらえるなんて」

女僧侶「ちょうど目的地もご一緒でしたし、何よりも教会の荷物を運ぶという事でしたので」

商隊長「ここまで何事もなく来られたのも、神の御加護でしょうかな?」

女僧侶「そうですね。神の御加護に感謝しましょう」

女戦士「……勇者殿」

少年「ええ、どうやら……」

商隊長「ど、どうかなさいましたかな?」

女戦士「どうも雰囲気がおかしい……もしかしたら、囲まれたかもしれません」

商隊長「も、もしや魔物共が……」

  ヒュン! ヒュン! ヒュン!

少年「っ!? 皆、荷車の陰に!」

  ドスッ! ドスッ! ドスッ!

商隊長「ひぇっ!?」

女僧侶「み、皆さん、お怪我は!?」

少年「こっちは大丈夫です!」

商隊長「わ、我々の方も大丈夫です」

女戦士「まずいですね……飛んできた矢の数を考えると、相手はかなりの人数かと」

少年「二射目は……来ないようですが」

??「はっはっはっ、情報通りじゃねぇか」

女戦士「何者だっ!」

??「何者かなんて、てめぇらには関係ねぇ事だろ?」

女僧侶「わ、私たちは教会の者です。それを知っての狼藉ですか!」

??「あぁ、糞ったれ教会の犬共と知っての狼藉さ」

女僧侶「く、くそったれきょうかい!?」

商隊長「あわわわっ!?」

女戦士「目的は何だっ!」

若い男「ふん。そんな事は自分達の胸に手を当てて考えやがれ、犬共が!」

女戦士(若い男……それにあの手にした杖……魔法の使い手か?)

女僧侶「だっ、誰が犬ですか!」

若い男「まぁいい。幾ら糞ったれ相手でも、人殺しは俺の主義じゃねぇ」

女僧侶「矢を射掛けておいて、今更何を……」

若い男「その荷物を置いていけば、命までは取らないでおいてやる」

女戦士「野盗……にしては」

女僧侶「矢を射掛け、教会を侮辱しておきながら……あなた方は盗みを働く下衆ではありませんか!」

商人「ぞ、賊をあまり刺激しては……」

若い男「だから、こっちにはそうしなきゃならない理由ってもんがあるんだよ」

少年「……理由とはなんです?」

若い男「だから、そいつは自分の胸に手を当てて考えろって言ってんのよ!」

女僧侶「お話になりませんわ!!」

少年「あの……」

女戦士「何でしょう?」

少年「少し様子がおかしいと思いませんか?」

女戦士「そうですね。我々を囲んでいる気配はありますが、他の者が姿を現していません」

少年「居場所を悟られない為……という事は?」

女戦士「その可能性もありますが、現時点ではなんとも……」

若い男「おい! そこの二人! 何をこそこそしてやがる!」

少年「……皆をお任せして大丈夫ですか?」

女戦士「どうされるおつもりです?」

少年「お任せしても大丈夫ですかと聞いています」

女戦士「……現状を維持する程度でしたら何とか」

若い男「おいこら! 無視すんなお前ら!」

少年「では……お願いします」ダッ

若い男「こ、こいつ! 突っ込んで!? くそっ!!」

女僧侶「魔法の詠唱!? 勇者さま危ない!」

女戦士(矢が飛んでこない……しかし、あれでは魔法の餌食に……)

若い男「くらえっ!!」

  ゴウッ!!

若い男「なっ!? 火球が消えた!?」

少年「動くなっ!」スチャッ

若い男「う、うぐっ……」

少年「もう一度言う、動くな。動けばこの剣で胸を貫く」

若い男「く、くそっ……どうなってんだよ……」

少年「隠れている連中! こいつの命を助けて欲しければ、武器を捨てて出て来い!」

若い男「お、俺の事はいいから逃げろ!」

少年「動くなと言ったはずです」チクチク

若い男「ぐぅっ……」

子供A「やめろ! 兄ちゃんを放せ!!」

女僧侶「こ、子供!?」

若い男「馬鹿! お前ら逃げろっ!」

子供B「兄ちゃんを放って逃げられるかよ!」

若い男「お、お前達……」

商隊長「ぜ、全員……子供じゃないですか!?」

女戦士「どういう事……でしょう?」

少年「……全員、武器を捨てて一箇所に集まるんだ」

女僧侶「ゆ、勇者さま?」

若い男「お、俺の命ならくれてやるからあいつらだけは……」

少年「あなたの命なんて欲しくもない」

子供A「これでいいだろ! 兄ちゃんを放せ!」ガラン

少年「女戦士さん」

女戦士「はい」

少年「縄を持ってきてくれませんか? 念の為に彼を縛っておきたいので」

商隊長「隠れていたのは子供ばかりが十七人も……」

少年「私もまだ大人とは言える歳ではありませんが」

商隊長「い、いえ……別に馬鹿にしているわけでは……」

少年「さて、今度は答えてくれますね。どうして我々を襲ったんですか?」

若い男「……あんたら教会の人間だろ?」

女僧侶「この姿を見ればおわかりになるでしょう!」

女戦士「……」

少年「厳密に言えば私は違いますが……彼らはそうなります」

若い男「なぁ、こいつらの命は助けてくれ! 頼むっ!」

少年「先程も言いましたが、あなた方の命なんて欲しくありません。襲われた理由を知りたいのです」

若い男「理由か……あんたら本当に心当たりがないのか?」

少年「ないからこうして聞いているんです」

若い男「そこのおっさんは……そうじゃないみたいだよな?」

商隊長「えっ!? わ、私は……」

若い男「まぁいいさ、話してやるよ。その代わり、こいつらの命だけは助けてくれよ?」

少年「……では、最西の街は駐在している司祭殿の圧政に苦しめられていると?」

若い男「そうさ、布施と称して教会が大金を要求し……」

少年「お布施……ですか」

若い男「あぁ、布施を出さなければ背教者として扱われ、役人の手で鉱山に強制連行さ」

女僧侶「し、信じられません! 教会の司祭さまがそんな事を!?」

若い男「信じるも信じないもあんたらの自由。最西の街に行けばわかる事さ」

少年「しかし、お布施を出さないからといって、何故役人が出てくるんです?」

若い男「最西の街は、首都から遠い辺境にあるって事もあって、教会の力が強い街なんだよ」

女戦士「……」

若い男「加えて、教会が独自にそれなりの兵力を抱えてやがる」

少年「教会がですか?」

若い男「教会が私兵を抱えているなんて常識よ? その姉ちゃんだってそうじゃねぇのか?」

女戦士「わ、私は……」

若い男「教会の命令には、絶対服従の狂信的な連中も多いからな。魔物より性質が悪いっての」

女僧侶「信徒の皆さんを侮辱するのは止めなさい!」

若い男「はっ! さっきからうっさい姉ちゃんだねぇ、全く」

女僧侶「ぐぬぬぬぬ……」

少年「まぁまぁ、落ち着いてください」

女僧侶「で、でも!」

若い男「……まぁ、そういう訳で、役人共も教会の威光には逆らえないって訳よ」

少年「この子供達は?」

若い男「こいつらは布施を払えなくて、親が強制労働に遭ってる連中さ」

女戦士「……」

若い男「中には強制労働の果てに、親が命を落とした奴だっている」

子供C「と、父ちゃん……うぅっ……」

子供A「馬鹿っ! 泣くなっ!!」

少年「……どう思いますか?」

女僧侶「私には信じられません! 教会がそんな圧政を強いるなんて!」

女戦士「……真偽はわかりませんが、この子供達の栄養状況が芳しくないのは見ての通りです」

少年「確かに。皆、酷く痩せ細っているのは間違いありませんね」

少年「商隊長さん?」

商隊長「はっ、はい!?」

少年「あなたは教会の依頼を受けて、最西の街にはよく行かれていますね?」

商隊長「わ、私は頼まれて荷物を運んでいるだけで何も……」

少年「……」ジロッ

商隊長「ゆ、勇者様……私の口からは何とも……お察しください」

若い男「……勇者だと?」

少年「そこまで聞けば十分です。女僧侶さん?」

女僧侶「はっ、はいっ」

少年「確認しますが、困窮した方々に救いの手を差し伸べる事は、教義に反していませんね?」

女僧侶「勿論です! むしろ進んで行うべき事と司教さまも常々仰られていますわ」

少年「では、荷物の一部はここに置いて我々は街を目指します」

商隊長「は?」

少年「困窮している子供達に教会の物資を施すのです。何か問題でも?」

商隊長「い、いやそれは……しかし……」

少年「女僧侶さん、問題ありませんね?」

女僧侶「は、はいっ!」

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