若い男「言っただろ、借りがあるってよ! ぐうっ!?」
衛兵隊長「ふん、多勢に無勢だったな」
若い男「……うるせぇよ、この下衆共が!」
衛兵隊長「貴様、手配中の賊だな? 弱い犬程よく吠えると言うが、まさにそれだな」
若い男「くそ……ここまでかよ……」
商隊長「私のせいで……すまない」
若い男「俺が勝手にやった事だ、気にすんなよ」
衛兵隊長「ふん。大罪人同士、実に麗しい仲間意識だな」
衛兵B「隊長、どう致しますか?」
衛兵隊長「見せしめだ。二人共殺せ!」
若い男「ここで終わりか……師匠……済まねぇ……」
衛兵A「お、俺にやらせてくれ……この野郎さっきはよくも……ぐえっ!?」
少年「……二人共、生きていますね?」
若い男「お、お前は!?」
商隊長「勇者様!?」
衛兵C「な、何だこいつ!?」
衛兵B「くそ、仲間がいたのか!?」
女僧侶「大丈夫ですか? 今、治療を致します」
―――パァァァ
若い男「治癒魔法か……教会の奴に助けられるなんて、俺も焼きが回ったもんだぜ」
女僧侶「それだけ減らず口が聞けるなら大丈夫のようですね」
若い男「……助かったぜ、ありがとよ」
少年「まだ助かった訳ではありませんが?」
若い男「ほんと、かわいくねぇ餓鬼だぜ」
衛兵隊長「……女僧侶殿、これは一体どういう事ですかな?」
女僧侶「あなたたちこそ、どういうつもりですの!」
衛兵隊長「どうもこうも……教会に届けるはずの荷物をくすねた極悪人に罰を下そうとしているだけですよ」
女僧侶「彼は……商隊長さんはそんな事はしていませんわ!」
衛兵隊長「ほう……それは一体どういう事ですかな?」
少年「話すだけ無駄です、おやめなさい」
女僧侶「いいえ、言わせてください! 彼は私たちの頼みを聞いて、飢えた子供たちに食糧を施しただけです!」
衛兵隊長「成る程……そうだったのですか……」
女僧侶「それのどこに罪があるというのですか!」
衛兵隊長「それでは、その男は施しをしただけだと。貴女はそう仰る訳ですな?」
女僧侶「その通りです!」
衛兵隊長「それは貴女が、そこにいる男に御指示された事なのですね?」
女僧侶「私の……それに勇者さまのお考えでもあります!」
衛兵隊長「いや、そういう事でしたか……よくわかりました」
女僧侶「おわかりいただけましたか?」
衛兵隊長「えぇ、わかりましたとも……」
女僧侶「そうですか……良かっ……」
衛兵隊長「貴女が背教者だという事がよくわかりました」
女僧侶「なっ!?」
衛兵隊長「その上、勇者を騙る輩までいるとは……これは見過ごす事が出来ませんなぁ」
女僧侶「あなたは私の話を聞いていたのですか!」
少年「だから無駄だと……」
若い男「その餓鬼の言う通り。こいつらは端っから人の話を聞く気なんかねぇんだよ!」
衛兵隊長「今までの遣り取りを聞く限り、貴方が勇者を騙る大罪人ですね?」
女僧侶「勇者さまに対して……無礼ですよ!」
衛兵隊長「背教者は黙っていなさい。どうなのです?」
少年「私がそう名乗った事は一度もありませんけどね」
衛兵隊長「なるほど。勇者を騙るだけあってなんとふてぶてしい。全員ひっ捕らえろ!」
衛兵達「「「はっ!!!」」」
若い男「くそ……助けに来てくれたのはありがてぇけど、どうすんだよ?」
少年「女僧侶さん、商隊長殿の拘束を解いてあげてください」
女僧侶「はっ、はい!」
若い男「だから、お前は人の話を聞けよ!」
少年「うるさいですね……聞いてますよ」カキンッ! シュッ!
衛兵C「うわっ!?」
女僧侶「大丈夫ですか?」ガチャガチャ
商隊長「う、あ、ありがとうございます」
若い男「じゃあどうするんだよ!」
少年「あなたと違って、考えなしで突っ込むような馬鹿はしません」キンッ!
若い男「何だと!」
少年「あなたも口ばかり動かしてないで、手を動かしたらどうなんです」ザシュッ!
衛兵D「げぇっ!?」ドサッ
若い男「うるせぇ! 口を動かすのが俺の仕事だ!」
―――ゴウッ!
衛兵E「うぎゃ、あ、熱い!」
衛兵隊長「お前達! 何をやっている!」
衛兵B「し、しかし、相手は相当の手練れで!」
衛兵隊長「馬鹿め! 数ではこちらが勝っているんだ。取り囲んで押し潰してしまえ!」
衛兵B「は、ははっ!」
若い男「おい……このままだとやべぇぞ」
少年「わかっています。そろそろなんですが……」
女戦士「勇者殿ーーー!」ドドドドドッ!
衛兵B「なっ、また仲間!?」
少年「来ましたか」
若い男「ありゃあ馬か!?」
少年「逃走手段の確保は初歩の初歩です。あれで突破します」
ヒヒーン!
女戦士「お待たせして申し訳ありません!」
少年「いえ、丁度よい頃合でした」ガシュッ!
衛兵F「うぉっ!?」
女戦士「時間がなかったので、三頭しか調達できず……」
少年「この短時間でよくやってくれました。行きます!」
衛兵隊長「待て! 逃がさん!!」ブォン!
少年「……」ザクッ!!
衛兵隊長「ぐぼっ!? ば、馬鹿な……」ドサッ!
女僧侶「きゃっ!?」
衛兵B「た、隊長が……」
少年「女戦士さん、あなたは女僧侶さんを」
女戦士「はい!」
少年「馬には乗れますね?」
若い男「馬鹿にするな。馬ぐらい!」
少年「では、商隊長さんを一緒に。私が先行します。やあっ!」ダッ
ドドドドドッ!
衛兵B「ま、待て! くそっ、追え! 絶対に逃がすな!」
―――
――
―
若い男「おい! どこに向かっている!」
少年「東門に向かいます」
女戦士「西に向かうのではないのですか?」
少年「一度東に向かい、追っ手をくらまします。馬があるなら山越えで西に向かえるはずです」
女僧侶「……」
~~最西の街 東側近郊にて~~
商隊長「勇者様方、それに……えぇーと野……」
若い男「野盗じゃねぇ! 魔法使いだ!」
商隊長「勇者様方、それに魔法使い様、本当にありがとうございました」ペコリ
魔法使い「はん! 俺は借りを返しただけだ」
女戦士「我々のせいでご迷惑をお掛けしたのですから……当然の事です」
少年「……それで、これからどうされるおつもりです?」
商隊長「一先ず、妻と子を連れてこの国を出るつもりです」
女僧侶「国を……私たちのせいで、本当に申し訳ありませんでした」
商隊長「はははっ……罰が当たったんですよ……」
女戦士「罰、ですか?」
商隊長「えぇ……他人の不幸に胡坐をかいて利を貪っていたのです。当然の結果ですよ」
女僧侶「しかし、今回の事は!」
商隊長「いえいえ、勇者様方がされた事は正しい事でした。それぐらいは私にもわかります」
少年「……」
商隊長「ですから、こうして命を拾っただけでも良しとしますよ。それに……」
女僧侶「それに?」
商隊長「命さえあれば、また商いも出来ましょう」ニッコリ
魔法使い「はぁーっ……。逞しいんだな、あんたは」
商隊長「はっはっはっ。これぐらいでなければ、商売人など務まりませんよ」
少年「商隊長殿」
商隊長「うん、なんでしょう?」
少年「その馬はあなたが使うといいでしょう。追っ手よりも早く立ち回る必要があるでしょうから」
商隊長「勇者様方はどうされるのです?」
少年「先程も言いましたが、我々は山越えで西を目指します。それとこれを」
商隊長「うん……この紅玉は?」
少年「お詫び……という訳ではありませんが、売れば幾らかになるはずです」
商隊長「いや、しかし、これはかなりの……むぅ……」
少年「奥方達と合流しても、出立の準備をする時間はそう多くはないかと?」
商隊長「確かに……では、有り難く頂戴致します」ゴソゴソ
商隊長「短いおつき合いでしたが、皆様の事は忘れません」
魔法使い「気をつけて逃げろよ、おっさん」
商隊長「ありがとうございます。皆様もくれぐれもお気をつけて……それでは……はっ!」
―――
――
―
魔法使い「行っちまったな」
女僧侶「無事に逃げられると良いのですけど……」
魔法使い「あれだけの逞しさがあるんだ。何とかなるだろ」
女戦士「そうですね……」
少年「……では、私達も移動しましょう」
女戦士「はい。いつ追っ手がくるかもしれませんから」
女僧侶「そうですわね……」
~~最西の街郊外 山中にて~~
少年「……で、どうしてあなたまで一緒なんですか?」
魔法使い「固い事を言うなよ。旅の恥はかき捨てって言うだろ?」
女戦士「それを言うなら、旅は道連れでは?」
魔法使い「似たようなもんだろ。細かい姉ちゃんだな」
女戦士「意味が違います。貴方、本当に魔法使いなんですか?」
魔法使い「お前だって、俺が魔法を使っているのを見ているだろ」
女戦士「それは確かに見ていますが……」
魔法使い「はん! 聞いて驚けよ! 俺の魔法は西の賢者からの直伝なんだぜ」
女戦士「賢者殿!? 勇者殿と共に魔王を倒したという?」
魔法使い「ふふん、どうだ驚いたか?」
女戦士「勇者殿」チラッ
少年「えぇ」コクリ
魔法使い「あぁ、なんだよ?」
少年「私達はその賢者殿に用があって、西へ向かっていたのです」
魔法使い「師匠に会う為? だから最西の街を抜けるつもりだったのか」
少年「その通りです。まあ、あなたのせいで今は山中をこうしていますが」
魔法使い「おいおい、俺のせいってどういう事だよ!」
少年「馬が疲労するので、馬上で暴れないでくれますか?」
魔法使い「お、おう……すまねぇ」
少年「全く……二頭しかいない大事な馬なんですから、少しは考えてください」
魔法使い「くそ……納得いかねぇ」
少年「……話が脱線しましたね」
魔法使い「脱線させたのはお前だろうが!」
少年「それにしても、あの賢者殿が弟子をとられているとは……」
女戦士「えぇ。話に聞く限りでは気難しい方と伺っていましたから」
魔法使い「こいつら……また人の話を聞いてねぇ……で、師匠に何の用だよ?」
少年「……詳しい事は秘密と言いたいのですが、構わないでしょう?」
女僧侶「……」コクリ
女戦士「そうですね、私も彼なら問題はないと思います」
魔法使い「お前ら……俺の事、馬鹿にしてるだろ?」
少年「魔王の復活、そんな話を聞いた事はありませんか?」
魔法使い「また、人の話を……って、何だと!?」
少年「その様子だとご存知ないようですね」
魔法使い「魔王って、あの魔王かよ?」
少年「では、魔物が人を襲うという話は?」
魔法使い「だから、人の話を聞けよ!」
少年「ふむ。この話もご存知ないようですね」
女戦士「道中でも目ぼしい情報は聞けず、この辺りでならと思っていたのですが……」
魔法使い「全くこいつらは……」
少年「魔王復活、あくまでも噂や推測の域を出ませんが……」
魔法使い「それを確認するのが師匠に会う目的って訳か」
少年「えぇ、その通りです」
魔法使い「はっ! そこまで大きな話だと、当然国が絡んでるよな?」
少年「そこは想像に任せます」
魔法使い「……ふん」
少年「どうかしましたか?」
魔法使い「いやな……」
少年「何か思い当たる事でもありましたか?」
魔法使い「思い当たる事はねぇ。ただ、お前達を師匠のところに案内してろうかと思ってよ」
女戦士「本当ですか!?」