勇者「俺と魔王の101日決戦」 10/14

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

勇者「相変わらずだな」

神父「相変わらずとは……?」

勇者「俺が……だよ」

神父「まあ……簡単に変わる事は出来ませんね」

勇者「それを、分かっているから悩んでる」

神父「大小は、分かりませんが、確実に成長してると思いますよ?」

神父「素晴らしいと思います」

勇者「……そうか」

勇者「よし、行って来る」

神父「朝食は?」

勇者「遠慮する」

神父「そうですか……仕方無いですね」

勇者「行って来る」

神父「行ってらっしゃい」

魔王「……」

勇者「待たせたな」

魔王「嫌……待っていない」

勇者「さあ、始めよう」

魔王「……」

勇者「流石……だな!」

魔王「……」

この斬撃は……掴めない……!?

魔王「くっ……!」

勇者「……!」

勇者「……?」

普通は俺が脚を取られた時点で、魔王はとどめを刺しに来ていたはず。

様子を見る限りは何時もとなんら変わりは無いけど……焦っている?

ーー動揺か?

魔王「……」

早い。これ程とは……

回避する事は前からも行っていたが、止める事が出来無いのは、驚いた……

距離の関係もあるだろうが……確実に私の命に歯牙を向く程に強くなって行ってる。

ーーだが。先程は刺されても、問題無い……な。

魔王「……落ち着いた」

勇者「……」

落ち着いた……か。

勇者「来るか……!」

勇者「……」

もう目の前に!

魔王「……」

やはり、当たれば危険だな……

勇者「ガハッ!」

魔王「ふむ、みぞおちには当たらなかったな」

勇者「ぐうぅっ!」

左、右と何回も動いているぞ……どんだけ速いんだよ……!音速か?光速か?糞っ!

勇者「一か八かだっ!」

勇者「はあああああ!」

魔王「ぐっ……」

勇者「攻撃を当てた……」

よしっ……良いぞ……

魔王「……」

肩に傷か……

魔王「傷はまだ浅いな……」

これからは段々と深くなって行くだろう……

勇者「はあ!」

魔王「……!」

勇者「なっ!」

勇者「がはぁ!」

内臓が何個か潰れたぞ……!

軽装にするべきでは無かった……

嫌……変わらないな。

魔王「とっくに、死んでいた……か」

魔王「……」

何処かで抵抗していたかも知れない……

気付いたら……死体だけ。

やはり奴との闘いは楽しい、我を忘れてしまう。

魔王「強くなったな」

魔王「ふふっ……」

魔王「中々玉座も似合っているでは無いか……」

魔王「私と結ばれたら……」

魔王「此処に座る事もあるのか?」

魔王「……」

無駄な妄想……だな。

魔王「光になるまで、見守ってやろう」

魔王「ずっと……」

「そうだな……」

「……」

「貴様と私以外は、犯罪を犯している」

「“普通の世界”で言う所の……だ」

「たが、今の世界は犯罪が起きても普通なのだろう?」

「ああ、そうだな……」

「理由は、分かるな?」

「ああ、分かってる」

「魔王」「私が」「「死んでいないから」」

「簡単な理由だ」

「……」

「最後に頼みがある」

「……なんだ?」ポロポロ

「なんだ、察しているのか」

「毅然としているな……分からない……」ポロポロ

「そうか……なら、伝えなければならない」

「やめてくれ」

「私を殺せ」

「どうしてこうなったんだろうな?」チャキ……

「最初からだな」

「場所は変えるか?」

「嫌、此処で魔王を倒したと宣言してくれ。盛大に」

「……分かった」

「私はこの世界が好きだ。世界の負から産まれた存在だが……好きだからこそ、世界の負を背負ったと思う」

「魔王……」ポロポロ

「それ以上に好きな者が居る……」

「誰だ?」

「今更言わせるな、勇者」

「だな……」

「強大な正反対が繋がったら世界が壊れる……もっと早く気づくべきだった」

「大勢の人が亡くなった……」

「私は、負を抱えたとは言え、世界に迷惑を掛け過ぎた。既に死ぬべき存在だった」

「……」

「最後に頼みがある」

「なんだ?」

「私以外の女でも見つけて、幸せになってくれ」

「分かった……」

「勇者」

「……」

「愛しているぞ」

グサッ

「……あははははははひっ!」ポロポロ

「魔王を倒したぞおおお!」

ザワザワ

「さあ……」

「ありがとう……」

「共に生きるのが長過ぎた……」

「魔王が居ない生活等……あり得無い……」

「今……行くぞ……」

「愛してる」

グサッ

勇者「……!」

夢?……途中からのやり取り……

俺と魔王の……

勇者「死んだ時も夢を見るんだな……」

……

考えるのはよそう……

勇者「あ……」

気付いたら……

神父「おかえりなさい……」

独り言……していたな。

姫「勇者様!」

勇者「うわ……!」

王「おお!勇者、どうだ?魔王討伐は?」

勇者「いえ……まだ……」

王「そうか……」

勇者「……」

王「どうした?」

勇者「えーっ……」

勇者「何用でございますでしょうか?」

王「嫌……姫がどうしても勇者に会いたいと言うのでな……ついでに用がある」

姫「はい!」

姫「私です!」

“ついでの用事”が本来の目的の癖に……

王「勇者……ついでの用事はだな……」

勇者「はい」

王「姫の事だが……」

姫「……」

やっぱり……

勇者「私にはまだ、答えかねます……」

王「……そうか」

糞餓鬼が……

みせしめに神父でも殺してやろうか……

勇者「申し訳ございません」

王「嫌……気にしなくても良い」

王「魔王討伐、期待しているぞ」

勇者「はっ……」

王「……」

このまま、婚約が不可能だとすれば……姫は“処分”しなければならない……

この国も、私の代で終わりか。

楽しませてもらったさ。

神父「……」

相変わらず、下衆な発想をしているな……

屑が。

勇者「……」

早く、91回目に行きたい……

王「さて。勇者も行った事だ……帰るぞ」

姫「はい」

神父「ふぅー……」

神父「相変わらず、御元気で……」

神父「……」

神父「勇者……」

勇者「……」

魔王「今日は少し遅かったな」

勇者「あー……ちょっと立て込んでな」

魔王「そうか」

魔王「ところで……見たか?」

勇者「何を?」

魔王「ふふ……夢だ」

勇者「ああ。見たぞ」

魔王「どの様な夢だ?」

勇者「……」

勇者「幸福な、ありがちな、幸せな夢だよ」

魔王「……」

魔王「私と同じか」

魔王「……」

恐らく……私と同じ夢を見たな。

勇者「……」

魔王も、俺と同じ夢を見たのか……?

やはり……俺と魔王は……

“そういう”運命か。

魔王「さあ、始めよう」

勇者「随分と余裕だな」

魔王「そう見えるか?」

勇者「始めても良いか?」

魔王「今更……だな」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14