勇者「遂に、辿り着いた……」
勇者「早く行って、力の供給を止めなければ……!」
勇者「……!」
勇者「……扉が開かれた」
勇者「望む所だ」
勇者「はぁっ!」
魔物「ギャー!」
勇者「……」
――思えば……色々な出来事があった。子供の頃に、王様の乗る馬車に轢き殺されてから、身寄りの無い、貧しい人生から一変!世界の希望を一身に背負う勇者様だ。確かに、栄光の人生だよな。
勇者「はぁ……!」
魔物「グゲー!」
かなり強いな、今までの奴等が可愛く見える。しかし……こいつ等を統べる魔王と言うのは、一体どれほどの……?
勇者「辿り着いたか……」
俺には、まだ死ぬ事が許されている、確かにこんな体だと、勇者認定されるよな。
俺は希望……この世界唯一の……希望。
俺が居なかったら、皆、絶望を待っているだけだ。
俺は勇者なんだ……だから、魔王を倒す。
勇者「お前が魔王か?」
魔王「……!」
勇者「?」
魔王「お前が勇者か?」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「如何にも。俺が勇者だ」
魔王「成程。私は魔王だ」
魔王「勇者よ、良くぞ此処まで辿り着いた。褒美だ、今までの魔とは違う、魔の真髄を地獄の土産に教えてやる」
なんだ……こいつは?全てにおいて違う……間違い無く魔の頂点だ……こいつを倒せば、確実に世界を救う事が出来る!
勇者「――うおおおお!」
魔王「落ち着きが無いな……」
勇者「……!」
神父「勇者殿、貴方が此処に来るのは、幼少の頃を入れて、二回目……でしたね」
勇者「はい……」
神父「相手は?」
勇者「魔王」
神父「貴方も大変ですね、死んでも蘇る体を持ったお陰で、勇者へと祭り上げられてしまったのですから」
勇者「貴方が、居なければ、俺は勇者になっていませんよ」
神父「最初は冗談かと思いましたね、王の馬車に轢かれた子供の話を聞いた翌日に、貴方が、光に包まれて、此処に現れたのですから」
神父「そして、死んだ筈だと困惑した貴方を見て、確信しましたね、貴方は勇者だと」
勇者「それだけで?」
神父「条件が見事に合致しましたので」
勇者「――世界を救う覚悟がありますか?」
勇者「そう、聞かれた時は、流石に驚きましたよ」
神父「ははは……お恥ずかしい」
神父「死んでも蘇る事が出来るのが、勇者ですからね。昔から決まって」
男「何故?」
神父「死んでも蘇る事の出来ない人間が、勇者をやっても、無意味だから……かと」
男「案外適当ですよね……神の啓示も無いですし」
神父「貴方が蘇った事が神の啓示ですよ」
勇者「伝説によると、俺は、後何回……蘇る事が出来ますか?」
神父「悪魔で、伝説だと99回ですね」
勇者「神父様らしく無い言葉ですね」
神父「神は全能ではありますが、伝説は、人が作った物ですので。其れに……元々、神は、必ずしも。全員を助けてはくれません」
勇者「貴方らしい」
神父「貴方も大概ですよ」
勇者「……食いはぐれ無い為には、其の道しかありませんでしたからね」
神父「一昨年まで、面倒を見て貰ってらっしゃったのですよね?」
勇者「剣術や魔法の教育等の英才教育がありましたからね」
神父「挫折は?」
勇者「勿論ありません、元々才能はあった様で、何でも、吸収しましたからね」
神父「そして、昨日、挫折を味わったと……」
勇者「……はい」
勇者「所で……“昨日”と言うのは?」
神父「貴方が死ぬと、一日経ちますからね……」
勇者「そうでしたね」
神父「幼少の頃も、死んでから一日ですよ、蘇りは」
勇者「伝説では?」
神父「さぁ?」
勇者「死体は、光になるんですよね?」
神父「ええ……そして、身体では死ぬ直前の時を回復させた身体が光と共に現れて、蘇る事ぐらいしか、蘇りの事は関知していません」
勇者「成程、1番強い時で蘇るのを繰り返して行く、そして。魔王を倒す……ですよね?」
神父「はい。伝説によると、ですが」
勇者「お茶、ありがとうございます」
神父「私の前だからって、礼儀正しくする必要はありません」
神父「寧ろ、これからも、本来の貴方を見たいですね」
勇者「……」
勇者「分かった」
勇者「神父様……これから、魔王を倒しに行って来るからな、気楽に待っていてくれ」
神父「はい、お気を付けて」
神父「……」
神父「――勇者に神の御加護があります様に」
魔王「死体は光となったか」
魔王「口程にも無かったな」
魔王「我を立ち上がらせる事すら出来ずに、人の希望は果てた……光となってな」
勇者「よう」
魔王「……!」
勇者「何故生きているか?」
勇者「お前が生きていたら、教えてやるよ!」
魔王「……」
勇者「……!」
魔王「跡形も無く、消した。我が魔導によって……」
魔王「……!」
勇者「驚くなよ、教えてやるから」
勇者「教えてやるよ」
勇者「俺は、101回死ねる。理由は分からない、ちなみに……後、何回死ねると思う?」
魔王「……」
勇者「……」
勇者「98回だよ」
魔王「そうか」
魔王「ハッハッハッハッ!」
勇者「行くぞ……!」
魔王「……力を溜める事が出来ないのだが」
勇者「お前の力の供給が終わったら、人類が滅びるだろ!」
魔王「こんな雑魚を相手にするのにも、力を溜める事を止めなければいけない……か」
勇者「七度目の正直だ!喰らえ!」
魔王「貴様が来てから7日か……」
勇者「あっ……ぐぅ……」
魔王「単純だな」
魔王「また死んで来い」
神父「鍛練したらどうですか?」
勇者「だな……」
勇者「鍛練……雑魚狩りか」
魔物「ぴぎゃー!」
魔物「ぎゃー!」
魔物「げげげー!」
魔物「ガー!」
勇者「強くなれたのか?」
魔王「遅かったでは無いか」
勇者「待たせたな」
魔王「死ね」
勇者「はぁ!」
魔王「ぐっ!?」
魔王「勇者……か……」
神父「……どうでしたか?」
勇者「希望が見えた」
魔王「17回目の挑戦か」
勇者「悪いか?」
勇者「はあ!」
魔王「ふん!」
魔王「良いな……貴様」
勇者「?」
魔王「貴様の理想は?」
勇者「お前を倒す事だよ!」
魔王「何故?」
勇者「――お前の理想は?」
魔王「貴様を倒し、世界を手中に納める事だ」
勇者「何故だ?」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……話を変えよう」
魔王「私を倒した“後”はどうする?」
勇者「……!」
魔王「……」
勇者「お前は、俺を後83回倒して世界征服をした“後”はどうする?」
魔王「何時は聞き慣れている音だが……」
魔王「今は不快だ」
勇者「俺達って……ただ、目標を掲げているだけなのか?」
魔王「……」
魔王「話すのは、また明日だ」
勇者「なっ……!」
魔王「今は、一人にさせてもらう」
勇者「ゴフッ……!」
魔王「お大事に」
遂に、30回目がやって来た。
もう、俺は、魔王を倒せるだろう。
既に、俺の優勢続きだ、昨日で確信した。今日で俺が勝つ。
魔王「速いな」
勇者「お陰様でな!」
魔王「……私を倒したらどうする?」
勇者「倒してから決める!」
分かってる、俺には、何も無いって事を。
分かってる、俺は、空っぽだって事を。
そして、あいつ……魔王だって、きっと……空っぽだ。
勇者「はぁ!」
魔王「ぐっ……!」
勇者「うおおお!」
魔王「……!」
……倒した。
……これで終わりか。
この後、どうしようか……悩むな。
魔王「どうした……悲しいのか?」
……!
女の声?
なんだ?……何が起きている?
魔王「……力の溜めが不十分だが、この姿に”戻る”しかあるまい」
魔王「これから力を溜める手段は、幾らでもある」
なんだよこれは?逃げなければ……死ぬ。絶対死ぬ。――逃げろ、全力で逃げろ!……糞っ!
動けよ、体……!
魔王「恐いのか?」
勇者「!」
魔王「無理も無い」
…………黒髪の……女?
勇者「!」
勇者「……」
神父「おはようございます」
神父「行ってしまいましたね」
勇者「……」
神父「あの様な、警戒心の強い動物は、死んだ人間でも無い限り近寄りもしませんよ」
勇者「行って来る」
神父「早いですね」
神父「神の御加護を……」
――見たい
姿を見たい
顔を見たい
体を見たい
あいつをもう一度、出来るだけ長く見たい
魔王を見たい……
勇者「……」
勇者「……うおお!」
勇者「はぁ……はぁ……」
勇者「……」
魔王「弱い」
――また、負けか。