勇者「俺と魔王の101日決戦」 1/14

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

勇者「遂に、辿り着いた……」

勇者「早く行って、力の供給を止めなければ……!」

勇者「……!」

勇者「……扉が開かれた」

勇者「望む所だ」

勇者「はぁっ!」

魔物「ギャー!」

勇者「……」

――思えば……色々な出来事があった。子供の頃に、王様の乗る馬車に轢き殺されてから、身寄りの無い、貧しい人生から一変!世界の希望を一身に背負う勇者様だ。確かに、栄光の人生だよな。

勇者「はぁ……!」

魔物「グゲー!」

かなり強いな、今までの奴等が可愛く見える。しかし……こいつ等を統べる魔王と言うのは、一体どれほどの……?

勇者「辿り着いたか……」

俺には、まだ死ぬ事が許されている、確かにこんな体だと、勇者認定されるよな。

俺は希望……この世界唯一の……希望。

俺が居なかったら、皆、絶望を待っているだけだ。

俺は勇者なんだ……だから、魔王を倒す。

勇者「お前が魔王か?」

魔王「……!」

勇者「?」

魔王「お前が勇者か?」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「如何にも。俺が勇者だ」

魔王「成程。私は魔王だ」

魔王「勇者よ、良くぞ此処まで辿り着いた。褒美だ、今までの魔とは違う、魔の真髄を地獄の土産に教えてやる」

なんだ……こいつは?全てにおいて違う……間違い無く魔の頂点だ……こいつを倒せば、確実に世界を救う事が出来る!

勇者「――うおおおお!」

魔王「落ち着きが無いな……」

勇者「……!」

神父「勇者殿、貴方が此処に来るのは、幼少の頃を入れて、二回目……でしたね」

勇者「はい……」

神父「相手は?」

勇者「魔王」

神父「貴方も大変ですね、死んでも蘇る体を持ったお陰で、勇者へと祭り上げられてしまったのですから」

勇者「貴方が、居なければ、俺は勇者になっていませんよ」

神父「最初は冗談かと思いましたね、王の馬車に轢かれた子供の話を聞いた翌日に、貴方が、光に包まれて、此処に現れたのですから」

神父「そして、死んだ筈だと困惑した貴方を見て、確信しましたね、貴方は勇者だと」

勇者「それだけで?」

神父「条件が見事に合致しましたので」

勇者「――世界を救う覚悟がありますか?」

勇者「そう、聞かれた時は、流石に驚きましたよ」

神父「ははは……お恥ずかしい」

神父「死んでも蘇る事が出来るのが、勇者ですからね。昔から決まって」

男「何故?」

神父「死んでも蘇る事の出来ない人間が、勇者をやっても、無意味だから……かと」

男「案外適当ですよね……神の啓示も無いですし」

神父「貴方が蘇った事が神の啓示ですよ」

勇者「伝説によると、俺は、後何回……蘇る事が出来ますか?」

神父「悪魔で、伝説だと99回ですね」

勇者「神父様らしく無い言葉ですね」

神父「神は全能ではありますが、伝説は、人が作った物ですので。其れに……元々、神は、必ずしも。全員を助けてはくれません」

勇者「貴方らしい」

神父「貴方も大概ですよ」

勇者「……食いはぐれ無い為には、其の道しかありませんでしたからね」

神父「一昨年まで、面倒を見て貰ってらっしゃったのですよね?」

勇者「剣術や魔法の教育等の英才教育がありましたからね」

神父「挫折は?」

勇者「勿論ありません、元々才能はあった様で、何でも、吸収しましたからね」

神父「そして、昨日、挫折を味わったと……」

勇者「……はい」

勇者「所で……“昨日”と言うのは?」

神父「貴方が死ぬと、一日経ちますからね……」

勇者「そうでしたね」

神父「幼少の頃も、死んでから一日ですよ、蘇りは」

勇者「伝説では?」

神父「さぁ?」

勇者「死体は、光になるんですよね?」

神父「ええ……そして、身体では死ぬ直前の時を回復させた身体が光と共に現れて、蘇る事ぐらいしか、蘇りの事は関知していません」

勇者「成程、1番強い時で蘇るのを繰り返して行く、そして。魔王を倒す……ですよね?」

神父「はい。伝説によると、ですが」

勇者「お茶、ありがとうございます」

神父「私の前だからって、礼儀正しくする必要はありません」

神父「寧ろ、これからも、本来の貴方を見たいですね」

勇者「……」

勇者「分かった」

勇者「神父様……これから、魔王を倒しに行って来るからな、気楽に待っていてくれ」

神父「はい、お気を付けて」

神父「……」

神父「――勇者に神の御加護があります様に」

魔王「死体は光となったか」

魔王「口程にも無かったな」

魔王「我を立ち上がらせる事すら出来ずに、人の希望は果てた……光となってな」

勇者「よう」

魔王「……!」

勇者「何故生きているか?」

勇者「お前が生きていたら、教えてやるよ!」

魔王「……」

勇者「……!」

魔王「跡形も無く、消した。我が魔導によって……」

魔王「……!」

勇者「驚くなよ、教えてやるから」

勇者「教えてやるよ」

勇者「俺は、101回死ねる。理由は分からない、ちなみに……後、何回死ねると思う?」

魔王「……」

勇者「……」

勇者「98回だよ」

魔王「そうか」

魔王「ハッハッハッハッ!」

勇者「行くぞ……!」

魔王「……力を溜める事が出来ないのだが」

勇者「お前の力の供給が終わったら、人類が滅びるだろ!」

魔王「こんな雑魚を相手にするのにも、力を溜める事を止めなければいけない……か」

勇者「七度目の正直だ!喰らえ!」

魔王「貴様が来てから7日か……」

勇者「あっ……ぐぅ……」

魔王「単純だな」

魔王「また死んで来い」

神父「鍛練したらどうですか?」

勇者「だな……」

勇者「鍛練……雑魚狩りか」

魔物「ぴぎゃー!」

魔物「ぎゃー!」

魔物「げげげー!」

魔物「ガー!」

勇者「強くなれたのか?」

魔王「遅かったでは無いか」

勇者「待たせたな」

魔王「死ね」

勇者「はぁ!」

魔王「ぐっ!?」

魔王「勇者……か……」

神父「……どうでしたか?」

勇者「希望が見えた」

魔王「17回目の挑戦か」

勇者「悪いか?」

勇者「はあ!」

魔王「ふん!」

魔王「良いな……貴様」

勇者「?」

魔王「貴様の理想は?」

勇者「お前を倒す事だよ!」

魔王「何故?」

勇者「――お前の理想は?」

魔王「貴様を倒し、世界を手中に納める事だ」

勇者「何故だ?」

魔王「……」

勇者「……」

魔王「……話を変えよう」

魔王「私を倒した“後”はどうする?」

勇者「……!」

魔王「……」

勇者「お前は、俺を後83回倒して世界征服をした“後”はどうする?」

魔王「何時は聞き慣れている音だが……」

魔王「今は不快だ」

勇者「俺達って……ただ、目標を掲げているだけなのか?」

魔王「……」

魔王「話すのは、また明日だ」

勇者「なっ……!」

魔王「今は、一人にさせてもらう」

勇者「ゴフッ……!」

魔王「お大事に」

遂に、30回目がやって来た。

もう、俺は、魔王を倒せるだろう。

既に、俺の優勢続きだ、昨日で確信した。今日で俺が勝つ。

魔王「速いな」

勇者「お陰様でな!」

魔王「……私を倒したらどうする?」

勇者「倒してから決める!」

分かってる、俺には、何も無いって事を。

分かってる、俺は、空っぽだって事を。

そして、あいつ……魔王だって、きっと……空っぽだ。

勇者「はぁ!」

魔王「ぐっ……!」

勇者「うおおお!」

魔王「……!」

……倒した。

……これで終わりか。

この後、どうしようか……悩むな。

魔王「どうした……悲しいのか?」

……!

女の声?

なんだ?……何が起きている?

魔王「……力の溜めが不十分だが、この姿に”戻る”しかあるまい」

魔王「これから力を溜める手段は、幾らでもある」

なんだよこれは?逃げなければ……死ぬ。絶対死ぬ。――逃げろ、全力で逃げろ!……糞っ!

動けよ、体……!

魔王「恐いのか?」

勇者「!」

魔王「無理も無い」

…………黒髪の……女?

勇者「!」

勇者「……」

神父「おはようございます」

神父「行ってしまいましたね」

勇者「……」

神父「あの様な、警戒心の強い動物は、死んだ人間でも無い限り近寄りもしませんよ」

勇者「行って来る」

神父「早いですね」

神父「神の御加護を……」

――見たい

姿を見たい

顔を見たい

体を見たい

あいつをもう一度、出来るだけ長く見たい

魔王を見たい……

勇者「……」

勇者「……うおお!」

勇者「はぁ……はぁ……」

勇者「……」

魔王「弱い」

――また、負けか。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14