勇者「うおおおおおおおお!」
魔王「……」
勇者「もう一回だ!」
魔王「……」
魔王「……!」
勇者「ぐぅ……!」
魔王「ふぅ……」
魔王「ーーどうした?」
魔王「……勇者」
勇者「ぐぅ……!」
の無い蹴りが打ち込まれる。
勇者「はぁ……はぁ……」
鼻が折れた……か?
とりあえず、鼻が不味い事になってるか……
膝は……まあ、大丈夫か。
それにしても、強くなり過ぎだな……魔王。
魔王「はっ……ははははは……はははっ!」
魔王「どうした人間!?」
魔王「貴様が死ねば人間が全て死ぬぞ……?」
ーーそんな事はどうでも良い。
人間なんて、どうでも良いんだ……
ただ……俺は、お前と一緒に……
それは……
ーー叶わぬ夢……か。
なら……お前を楽にする為に闘う。
こんな辛い顔をした奴を放っておけるかよ……
魔王「どうした人間?」
……
勇者「嫌……何でも無い……」
救ってやるからな……
魔王「ほぉ……やるでは無いか」
勇者「まあな」
勇者「……」
神父の歌を思い出させてくれるな……
勇者「うおおお!」
魔王「来るか……」
魔王「ーーっつ!」
勇者「はあ!」
魔王「がぁっ……!」
魔王「人間……糞……人間……人間……この傷の痛みは忘れないぞ人間……」
魔王「貴様の五臓六腑一つ残さず切り裂き、跡も残さずこの世から消してやろう……人間!!」
勇者「がぁっ……はあ!」
勇者「くっ……」
勇者「うおお!」
勇者「どうやって、あの体制から……」
魔王「単純な力だろう……」
魔王「ほお……鳩尾は避けたか……」
身体を動かして……か。無駄な抵抗だ。
勇者「うおおおお!」
腹が痛い……けど……
魔王「くっ……」
魔王「……」
勇者「外れた……?」
勇者「があぁ……っ!うおおおお!」
勇者は身体を回す、背中に与えられた傷など気にもせず、衝撃波を放つ。
魔王「ぐあ……!」
魔王「人間ッッ!貴様ぁ!」
勇者「ふざけんな!!」
なんで……
勇者「お前が好きなのになんで……なんで……こんな思いをしないといけないんだ!?」
勇者「お前を何故殺さないといけない!?」
魔王「……」
ふっ……
「ーー私を殺してくれ」
勇者「……」
ーー分かった。
魔王「……」
魔王「見られたく無い所を見られたな……人間……楽には死なせないぞ……」
勇者「ああ……楽に死なせてやる」
勇者「行くぞ!」
魔王「はは……っ!ははは!ははは……」
魔王「……」
魔王「来い……格の違いを見せてやろう」
「姫」
姫「どうしましたか?」
「王がお呼びです」
姫「分かりました」
父上がお呼び……?
「私室に来て欲しいとの事です」
……?
何故?私の考えが気付かれた?
いえ……そんな事は無いはず……
王「入りなさい」
姫「はい」
姫「……」
姫「?」
鍵が閉まってる……?
姫「お父様……?」
王「早くベッドに来なさい……」
姫「嫌……!」
姫「嫌っ……!」
姫「嫌!誰か!誰か!助けて!いやああああ!」
姫「お父様ぁあ!やめてください!」
王「今の私は王である前に一人の男だよ」
王「母親に似て美しい……」
姫「やめてください!いやあっ!」
王「黙りなさい」
姫「……」
勇者様……
勇者「はああ!」
魔王「はははっ!」
魔王「死ぬなよ?」
勇者「来るなら来いよ……」
勇者「どうするか……」
勇者「……」
取り敢えず……あれだな
腕への負担なんて……気にしない……
勇者「おおおおおおお!!」
魔王「くっ……くくく」
魔王「良いだろう!」
勇者「はあ!」
ーーこれでいいのか?
勇者「……?」
勇者「もっと出さないのか?」
勇者「……」
魔王「ーー無論。私には当たらない」
魔王「最後の闘いだ、行くぞ」
魔王「勇者ああああぁぁぁぁ!」
勇者「魔王おおおおぉぉぉぉ!」
勇者「……」
血が……
凄い……
勇者「はぁはぁ……」
糞……糞……!
魔王「……?」
あの……かまいたちの様な物は出て無い……
私の勝ち……か。
魔王「ーーっ!」
魔王「……」
魔王「はあああ!」
魔王「……!」
勇者「がああああ!」
魔王「かはっ……」
勇者「魔王っ!魔王ぉ!」
魔王「ははは……どうやら……私の負け…………の様だ」
勇者「どうしてっ!今まで……手加減を……!」
魔王「気付かれていたか……」
魔王「途中で貴様が好きになったから……貴様に死んで欲しく無かったから……手の内を教えて行けば、私に勝てるだろうと踏んでいたら……まさか……」
魔王「本当に勝てるとはな……ははっ……」
勇者「もしかして……」
魔王「嫌……今日は全力だ、あくまで手加減をしていたのは99日目までだ……素晴らしい男だ……貴様は……」
勇者「お前……ずっと……正気だったのか?」
魔王「それも気付かれたか……」
魔王「何……ただ、私の中にある感情を惜しげも無く前面に押し出していただけだ……今まで留めていた感情を……な」
魔王「ただ……それ以上に貴様が好きだったらしい……嫌……愛しているから、途中から元に戻ってしまっていたな……」
勇者「どうして……!?」
魔王「そうでもしないと、貴様が闘えないだろう?ーーそれに。100日目の時点で、私はどうやっても貴様に勝てない事を悟った……」
魔王「だから、限界まで力を戻し、直ぐに負けない様に、勇者と居られる時間を長くした」
勇者「どうして……?殺してくれ……と言った!?」
魔王「本音だ…………私が死んだら……人間全てが不幸になる……それに……疲れた……」
魔王「嫌な役割を押し付けてすまない……」
魔王「だが……」
魔王「貴様との日々は」
魔王「ーー素晴らしい時間だったぞ」
勇者「そんなのどうでも良い!!」
勇者「俺は魔王が居れば!」
勇者「それだけで良いんだ!」
勇者「魔王を愛しているんだ!!!」
魔王「ははは……嬉しい……嬉しい……嬉しいなぁ……」
魔王「私も愛しているぞ」
勇者「魔王が居なくなった世界なんて……!何も無いだろ!?」
魔王「私は勇者に生きていて貰いたい」
勇者「……」
魔王「それだけは言っておく……」
魔王「……」
魔王「今……貴様は人を恨んでいるだろう?」
勇者「人間のせいだからな……」
魔王「安心しろ、そんな憎しみも全て私が貰って行く」
魔王「人間全てのな……」
勇者「お前はどこまでも」
勇者「お人好しだな……」
勇者「魔王……愛してる」
魔王「私もだ」
魔王「今になって、死にたくない……」
魔王「死にたくないなぁ……」
魔王「やはり、勝てると思っていたか?」
勇者「ああ……勝ちを確信してた」
魔王「ふふっ……私の事を愛しているか?」
勇者「当たり前だ、俺の方が愛している」
魔王「私の方が愛しているさ」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……」
俺の憎しみが……本当に消えた……
魔王……お前……本当に人間全ての負の感情を持って行くんだな……
分かった……生きてみるよ……
ーーありがとう。
王「があ!」
王「ふざけるなよおお!糞餓鬼がぁ!」
王「穢れた餓鬼がぁ!」
王「私に楯突いて楽に死ねると思うなよお!?」
姫「ひっひっひっ……!」
王「殺す……!」
王「……!」
姫「……!」
王「私の身体があ!?」
「楽に死ねると思うなよ?」
王「ひっ……!ひぃ!」
「貴様は殺す」
姫「……」
「ひいい!」
姫「逆臣は撃ちました」
姫「この国の歪みを撃ちました」
姫「私に着いて来て下さい」
姫「……」
「おばあさまー」
「おばあさまー」
「おばあさまー」
姫「どうしたの?」
「とりさんがきからおちちゃったの……」
「どうしよう……」
「ふえぇ……」
姫「ほら……見せてご覧なさい……」
勇者様が失踪してから私は、国の為、世界の平和の為に全てを注ぎました……とても素晴らしい世界になりました……後継は養子をとりました、勇者様……今……貴方は何処に居るのでしょうか?
でも……貴方が魔王を倒した事は確実です。
貴方のお陰で今……世界が成り立っています。
「おじいさん寝ちゃってるね」
「うん、起こしたら可哀想だから、そっとしておこうね」
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勇者「良い天気だな」
魔王「久しぶりだな」
勇者「魔王……!」
そうか……俺は……
魔王「私の居ない人生はどうだった?」
勇者「まあまあだったな」
勇者「孤児院に住ませて貰ったよ」
魔王「見たところ……我が城の近くにあるな」
魔王「森の中の孤児院……気付いて無かったな」
勇者「魔王から近い所に住んでいたかったからな」
魔王「ははっ……惚れさせてくれるな」
魔王「見たところ……子供しか居ない様だが?」
勇者「ああ、俺が来るまでは子供だけで生計を立てていたらしいな」
魔王「そして貴様が来て生活が楽になった」
勇者「多分……な」
魔王「さぞ感謝されているな……」
勇者「どうかな?」
魔王「きっと、感謝されているさ」
勇者「それなら、良いんだ」
魔王「ふふっ、愛しているぞ」
勇者「なっ!不意打ちはずるいな……」
勇者「……」
勇者「俺も愛している」
勇者「ふぅー…………」
魔王「疲れたか?」
勇者「まあな」
魔王「お疲れ様……愛してる」
勇者「ああ……愛してるよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
完