勇者「俺と魔王の101日決戦」 12/14

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勇者「……」

神父「お帰りなさい」

勇者「ただいま……」

神父「おや……?どうしましたか?」

勇者「分からない……」

神父「貴方は良く悩む。せっかくだ……私に何か話してみませんか?」

勇者「……」

勇者「分かった」

神父「……」

勇者「昨日、俺は魔王に勝った……勝った筈なんだ……」

神父「……!」

我が息子ながらに尊敬の念を禁じ得ないな。

勇者「殆ど不意打ちの形だけど、俺は魔王が反応出来ない速さで迫って、喉仏に剣を突き刺そうとしたんだ……けど」

神父「けど?」

勇者「止まったんだ……突き刺す筈なのに…寸前で」

神父「……」

神父「そう言えば……魔王がどの様な者か聞いていませんでしたね」

突き刺す寸前で勇者が止めた?少なくとも魔王は空虚な人間に何か思わせる者と言う事は確かだ、ふふっ、羨ましいな。

勇者「魔王の……」

勇者「性別は女」

神父「っ!?」

勇者「どうかしたか?」

神父「いえ……」

まさか、魔王が女だったとは……

勇者「姿形は正直華奢で美しい」

神父「……」

勇者「?」

神父「気にせずに続けてください」

魔王がまさか、華奢で美しいとは……巨体で醜いと思っていたが……

勇者「身長は、普通より少し低いぐらいだと思う」

神父「なるほど……」

ああ……分かった……

神父「魔王に惚れていますね?」

勇者「……」

勇者「ああ……」

勇者「でもそれは、闘いに関係無い」

神父「……では何故、とどめをささなかったのですか?」

勇者「……」

神父「好きな者を殺す事は、私にも出来ません」

勇者「……」

神父「私に出来ない事が貴方に出来るとは思えません」

勇者「だが……倒さないと……」

神父「貴方は闘う事で自分の存在の意味を知りたいのでは?」

勇者「ああ……」

神父「なら……目的は達成していますね」

勇者「達成している?」

勇者「……どうして?」

神父「きっと……魔王と幸せに生きる事が貴方の最大の存在価値だと思いますが?」

勇者「……!」

神父「魔王との今日を含めた101日間……貴方は、初めて協会で私と会った時よりずっと……!表情が生き生きとしていましたよ」

勇者「だが……!」

勇者「自分の為に闘うが……それは、一般民全ての為に闘う事が大前提の話だ!」

神父「……それが本音か?」

神父「勇者!……お前は、空虚な人間だ!」

神父「本当は、他人の事など考え無い男だ」

勇者「だけど……!俺と魔王は分かり合え無い……それに……」

神父「それに……?」

勇者「俺と魔王は、幸せになれない!」

神父「何故そう言える?」

勇者「俺と魔王は、同じ夢を見た……幸せでは無い夢を!」

神父「……」

神父「ふふふっ……はははっ……はははははははっ!」

勇者「なっ……!」

神父「笑わせるな!たかが夢で勇者の人生は左右されるのか!?」

神父「お前の人生はお前が決める……」

神父「それに……勇者と魔王が分かり合えば、真の意味での平和が訪れ、他人も幸せになると思うが……違うか?」

勇者「だけど……魔王は人を殺し過ぎて……!」

勇者「……!」

魔王は人の負から……!

勇者「嫌……なんでも無い」

神父「……」

神父「安心しろ……想いを伝えればきっと……分かり合える」

勇者「……本当か?」

神父「……ああ!」

勇者「……」

俺は魔王と……

勇者「分かった。伝えるよ……想いを」

神父「さて……結婚祝いだ……」

神父「讃美歌を聞かせてやろう」

勇者「……讃美歌?神父が?」

神父「こう見えて、声は高いからな」

勇者「……ああ」

言われてみれば……

神父「~~~~」

勇者「……」

神父「~~~……。」

神父「さあ。早く行け……魔王の元へ」

神父「絶対に後悔はするな!」

神父「絶対に幸せになれ!」

勇者「ああ!」

神父「絶対に……生きなさい……」

最も伝えたい事は今……伝えた。

勇者「分かってる」

神父「そうだ、今度……魔王を紹介してくれ」

勇者「はははっ……分かったよ」

神父「……」

ああ……悔いは無い……初めて見たな、息子のこんな表情……

神父「ーー勇者と魔王に……神の加護があらんことをーーーー」

勇者「行って来る」

神父「ーー行ってらっしゃい」

勇者のこれからを見ておきたかった……が。

お迎えが来たみたいだな。

何……勇者のお陰で拾った命……いつ捨てても、後悔は無い……。

ああ……

少女…………今行くぞ。

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「久しぶりだな」

「うん」

「長い話は後にするか……」

「私達の子供……ううん……勇者……とっても成長したね」

「自慢の息子だよ」

「でも……私似だよね~ふふふ」

「ははは、お前の子供だからな」

「とっても綺麗な恋人も見つけたみたいだし……これ以上の悔いは無いよね!」

「ああ」

「……」

「……」

「来世でも……“少年”と一緒に居て……良いかな?」

「……」

「……」

「当たり前だ」

「嬉しいな~ふふふ」

「なあ」

「どうしたの?」

「少し疲れた……」

「うん」

「少しの間……寝てても良いか?」

「うん、しっかり休んでね」

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「ーーありがとう」

勇者「……!?」

勇者「城が……無い?」

何があった?

勇者「魔王……魔王は何処に!?」

「ーーここに居るぞ」

勇者「なんだ……居たのか……」

ーー涙を流していない?

勇者「聞きたい事が山積みだな……どれから聞こうか……」

魔王「質問はいくらでも答えよう」

勇者「なら最初に……城はどうした?」

魔王「ああ……あれは、私の一部だ」

勇者「因みに……“城”はどんな感情からか教えてくれるか?」

魔王「城に感情は無い」

勇者「……感情が無い?」

勇者「分散した力では無いのか?」

魔王「城は……感情を分散した後に“余った”力で作った物だ」

魔王「確かに一応分散した力だ」

勇者「次に……涙は?」

魔王「ああ……涙か……」

魔王「涙は……感情の垂れ流し……」

魔王「それは、力を垂れ流す事と同じ……」

魔王「だから私は涙を止めた……」

魔王「だが、其のおかげで私の中にある色々な物が爆発しそうだ」

勇者「色々な物?」

魔王「貴様なら分かるだろう?」

魔王「溜まりに溜まった感情だ」

魔王「ああ……憎い」

勇者「魔王」

魔王「貴様等が憎い」

魔王「絶対に許さない……」

勇者「この黒い水溜りは?」

魔王「……」

魔王「私の涙だ、乾く事の無い……な」

勇者「そうか……今のお前が、本当のお前だな?」

魔王……

魔王「そうだ……」

魔王「貴様への感情等取るに足らない」

魔王「涙を流さなければ、真の私が浮き彫りになる」

魔王「私は全てが憎い」

魔王「何故私を苦しめる?」

魔王「貴様か?」

魔王「貴様か?」

魔王「貴様か?」

魔王「貴様等だ!」

魔王「人間だ!」

魔王「他者を蔑ろにし!蔑み!嘲笑い!自らのエゴを満たす為には手段を選ばず……争いを立て続けに生み!貴様等以外の種族……存在……を迫害……!」

魔王「あらゆる感情……を生み……全ては結局は貴様等の為……だけに貴様等は行動する……」

魔王「先ずは貴様……そこに居る“人間”を殺す!」

魔王「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いいぃっ!必ずも人間を根絶やしにしてくれる!」

魔王「全てを消してやろう!」

勇者「……」

殺すしかないだろ……

魔王「来い!“人間”っ!葬り去ってやろう!」

勇者「……行くぞ」

こんなにも、悲しそうな顔をした奴は……初めて見た。

こんな奴に、愛を伝えるなんて……出来ないだろ?

俺があいつの全てを救わなければ、誰があいつを救う?

ーー待ってろ。

直ぐに楽にしてやる。

勇者「……」

不思議と、孤児院までは広がっていないか。

……俺の足元も、黒い水。

……あいつの涙か。

魔王「さあ……宣言通り。早く来い」

勇者「……!」

勇者「……」

不意打ちか……

勇者「くっ……!」

魔王「死ねぇ!人間!」

勇者「昨日とは別人の様に強いな……」

これが魔王の最大の力……

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