魔王「……私は世界の悲しみ妬み苦しみ痛み憎悪恨み、そして……破壊衝動」
魔王「から産まれた者だ」
勇者「……で?」
魔王「続きは70回からだ」
魔王「これで、70回……」
勇者「だな」
魔王「随分と余裕があると見える……」
勇者「当然だ」
勇者「俺の勝ちだ……」
魔王「昨日聞いたぞ」
きっと今日の闘いが終われば、私の涙は止まらないだろう……
魔王「勇者」
勇者「ん?」
魔王「来い」
勇者「……」
勇者「行くぞ!」
魔王「そう焦るな」
勇者「……!」
魔王「一々、手で剣を受けるのも疲れる……」
魔王「だから、私も剣を使う」
勇者「……」
厄介な、物がまた出て来た……
前までは瘴気だけだったのが、今回は瘴気が剣になった。
……剣の分は、爆発範囲が減るんだろうな?
魔王「どうした?」
勇者「別に……!」
勇者「くっ……!」
勇者「……!」
勇者「ぐっ……!」
魔王「終わりか?」
勇者「抜いたら大変だよな?」
魔王「勿論身体中から血が出るな……そして……」
勇者「そして?」
魔王「貴様は簡単に死なないだろう」
勇者「……」
こいつ、絶対抜くな……
魔王「身動きが取れ無いのなら……楽にしてやろう」
勇者「……!」
魔王「……」
勇者「……!」
魔王「おお……血が出ているな」
勇者「……」
魔王「腕だけでこの量……全てを抜いたらどうなるか……」
魔王「力は落ちないな……」
魔王「先程……」
勇者「……」
魔王「頭に線が刺さるのを阻止したのは、立派だった」
魔王「……呆気無い」
魔王「さて……止めでも刺しておこう……」
勇者「……」
今だ……!
勇者「隙ありだ!」
魔王「この出血で動けるか!」
魔王「……ぐぅ!」
勇者「もう一つっ!」
魔王「がぁ……!」
勇者「くっ……!」
魔王「中々やるでは無いか……」
勇者「お前のお陰だよ……!」
魔王「中々効いた……」
魔王「瘴気があるから、部屋が中々見えないだろう?」
勇者「いきなり……関係無いだろ?」
魔王「瘴気もそろそろ晴れそうだ」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「行くぞ」
勇者「お前はズルいな!」
魔王「ほぉ?」
勇者「この瘴気……自由自在じゃないか!」
魔王「101回蘇る男に言われたくは無い」
魔王「それに……」
勇者「それに?」
魔王「魔導だって使えるぞ」
勇者「くっ!」
魔王「……」
正直……限界だな。
私の方が。
あの背中への攻撃はかなり効いた……
魔王「……」
勇者「うおお!」
魔王「来い……!」
勇者「ぐおおお!」
魔王「……!」
勇者「はぁ……!ぐっ!」
来たか……
魔王「はあ……!」
魔王「くっ!」
勇者「ここだあ!」
魔王「見えた!」
勇者「はぁ……はぁ……」
魔王「……」
魔王「ごふっ……」
勇者「俺の勝ち……だな」
魔王「……どうかな?」
勇者「……お前血は赤いんだな。」
魔王「涙は黒いがな」
勇者「?」
魔王「約束通り……教えてやろう」
勇者「ああ……昨日の……」
魔王「私は全てが憎い」
勇者「……?」
魔王「ああ……そうか」
勇者「……」
魔王「いきなり過ぎるな」
魔王「私は昨日述べた様に、負の感情から産まれた者だ」
魔王「現在は憎しみが大部分だがな……」
勇者「……それで?」
魔王「そう焦るな……」
魔王「この城に、辿り着く前に色々な街と迷宮や洞窟や国を見ただろう?」
勇者「確かに見たさ……」
勇者「行った先々での情報収集のお陰で、ここに辿り着く事が出来たからな」
魔王「それは話の本質では無い」
勇者「……?」
魔王「色々な特徴を持った魔物を見なかったか?」
魔王「そうだな……勇者が強いと思った魔物はかなり特徴的だったと思うが……」
勇者「……!!」
魔王「最も厄介だと思った感情……破壊衝動は」
魔王「徹底的に分散した……一つに集えば厄介だからな」
魔王「勇者が戦って来た我が眷属の数が多く、弱い部類は、破壊感情を徹底的に、分散した者だ」
勇者「強いと思った奴等は……」
魔王「そこまで、厄介では無い感情だ」
魔王「破壊衝動が私から“そのまま”離れれば、私の手にはおえないからな」
勇者「……」
魔王「私が産まれた原因は確実に、人間だ」
魔王「人間が行う事で産まれた負の感情が、逃げ場を無くし、積りに積もって、私が産まれた」
魔王「ただの憶測だがな」
勇者「……」
魔王「様は、私に言わせれば。貴様等の方が魔王と言う事だ」
魔王「産まれた瞬間なんて分からない、気が付いたら泣いていた」
魔王「ごった返しにされた、色々な負は私を支配しながら」
魔王「ずーっと……色々な人間の負の出来事と感情が頭の中に直接再生された」
魔王「気が付いたら、叫びと共に、何かが吹っ切れた様に私は国の軍勢を滅ぼしていた」
魔王「“魔王”の誕生だ」
勇者「……」
魔王「人の負の部分たる、私を殺せば」
魔王「人々を救う事と同意義だ」
魔王「だから、お前は“勇者”だ」
勇者「殺したくは無かった……」
魔王「そう言う宿命だ……それに……」
勇者「それに?」
魔王「私は死んでいない」
勇者「もう死ぬだろ……」
魔王「寧ろ、私達の闘いはこれからだ……」
勇者「大気と地が……震えている?」
魔王「外では、天変地異が起こっているぞ」
勇者「くっ!」
勇者「どうなっている!?」
魔王「元の私に戻るだけだ」
神父「何が起こっている!?」
息子よ……
「王様……!」
「……?」
「魔物が立て続けに消えていると言う情報が!」
「勇者が勝ったのか!?」
魔王「そもそも我が眷属は、私の血から産まれた者」
勇者「……!」
勇者「そう言う事か」
魔王「尻尾が、吸収をしているのだ」
魔王「我が眷属を」
魔王「嫌……私を」
魔王「私に戻った……か」
勇者「傷も治っているか……」
魔王「瘴気も無くなった……が、何時でも出せるぞ」
勇者「丁寧にどう……」
魔王「もしかしたら……負の感情以外の物を私は、貴様に抱いているのかもな……」
「私は好きだぞ」
「えっ?」
「私は好きだと言っている」
「今言う事か?」
「貴様と一緒になれる様になったのだ、それに……貴様の方が先に死ぬ」
「……」
「今の内に好きと言ったって、バチは当たらないだろう?」
「だな……俺も好きだよ……」
「……素直だな」
「愛しているからな……」
勇者「ーーはっ!」
神父「……帰って来るのがかなり遅いので、心配しましたよ?」
勇者「俺は……?」
勇者「ああ……そうだ……」
あいつが俺の方を向いただけで……
勇者「もう、勝ったと思っていたら……」
神父「思っていたら?」
勇者「あいつ……まだ隠し球を持っていた……」
神父「それは災難ですね……」
神父「……!」
神父「災難で思い出しました。」
勇者「……」
神父「貴方が戦っている間でした」
神父「大規模の災害が各地で起きたました……ですが一時間程で唐突にそれは、ぱったりと、消えました。けれど……暫くすると、魔物が、世界各地から消えたとの報告を受けたのです」
勇者「本当だったのか……」
神父「魔物達が消えたと言う事は……」
神父「魔王を倒したのですか?」
勇者「嫌……倒していない」
神父「それではあの現象は、一体……?」
勇者「……」
言うべき事では無いな。
あの会話は俺と魔王、二人の会話だ。
勇者「王様への報告を俺の代理として、頼めるか?」
勇者「気が滅入るかも、知れないけれど……」