勇者「俺と魔王の101日決戦」 6/14

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魔王「……私は世界の悲しみ妬み苦しみ痛み憎悪恨み、そして……破壊衝動」

魔王「から産まれた者だ」

勇者「……で?」

魔王「続きは70回からだ」

魔王「これで、70回……」

勇者「だな」

魔王「随分と余裕があると見える……」

勇者「当然だ」

勇者「俺の勝ちだ……」

魔王「昨日聞いたぞ」

きっと今日の闘いが終われば、私の涙は止まらないだろう……

魔王「勇者」

勇者「ん?」

魔王「来い」

勇者「……」

勇者「行くぞ!」

魔王「そう焦るな」

勇者「……!」

魔王「一々、手で剣を受けるのも疲れる……」

魔王「だから、私も剣を使う」

勇者「……」

厄介な、物がまた出て来た……

前までは瘴気だけだったのが、今回は瘴気が剣になった。

……剣の分は、爆発範囲が減るんだろうな?

魔王「どうした?」

勇者「別に……!」

勇者「くっ……!」

勇者「……!」

勇者「ぐっ……!」

魔王「終わりか?」

勇者「抜いたら大変だよな?」

魔王「勿論身体中から血が出るな……そして……」

勇者「そして?」

魔王「貴様は簡単に死なないだろう」

勇者「……」

こいつ、絶対抜くな……

魔王「身動きが取れ無いのなら……楽にしてやろう」

勇者「……!」

魔王「……」

勇者「……!」

魔王「おお……血が出ているな」

勇者「……」

魔王「腕だけでこの量……全てを抜いたらどうなるか……」

魔王「力は落ちないな……」

魔王「先程……」

勇者「……」

魔王「頭に線が刺さるのを阻止したのは、立派だった」

魔王「……呆気無い」

魔王「さて……止めでも刺しておこう……」

勇者「……」

今だ……!

勇者「隙ありだ!」

魔王「この出血で動けるか!」

魔王「……ぐぅ!」

勇者「もう一つっ!」

魔王「がぁ……!」

勇者「くっ……!」

魔王「中々やるでは無いか……」

勇者「お前のお陰だよ……!」

魔王「中々効いた……」

魔王「瘴気があるから、部屋が中々見えないだろう?」

勇者「いきなり……関係無いだろ?」

魔王「瘴気もそろそろ晴れそうだ」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「行くぞ」

勇者「お前はズルいな!」

魔王「ほぉ?」

勇者「この瘴気……自由自在じゃないか!」

魔王「101回蘇る男に言われたくは無い」

魔王「それに……」

勇者「それに?」

魔王「魔導だって使えるぞ」

勇者「くっ!」

魔王「……」

正直……限界だな。

私の方が。

あの背中への攻撃はかなり効いた……

魔王「……」

勇者「うおお!」

魔王「来い……!」

勇者「ぐおおお!」

魔王「……!」

勇者「はぁ……!ぐっ!」

来たか……

魔王「はあ……!」

魔王「くっ!」

勇者「ここだあ!」

魔王「見えた!」

勇者「はぁ……はぁ……」

魔王「……」

魔王「ごふっ……」

勇者「俺の勝ち……だな」

魔王「……どうかな?」

勇者「……お前血は赤いんだな。」

魔王「涙は黒いがな」

勇者「?」

魔王「約束通り……教えてやろう」

勇者「ああ……昨日の……」

魔王「私は全てが憎い」

勇者「……?」

魔王「ああ……そうか」

勇者「……」

魔王「いきなり過ぎるな」

魔王「私は昨日述べた様に、負の感情から産まれた者だ」

魔王「現在は憎しみが大部分だがな……」

勇者「……それで?」

魔王「そう焦るな……」

魔王「この城に、辿り着く前に色々な街と迷宮や洞窟や国を見ただろう?」

勇者「確かに見たさ……」

勇者「行った先々での情報収集のお陰で、ここに辿り着く事が出来たからな」

魔王「それは話の本質では無い」

勇者「……?」

魔王「色々な特徴を持った魔物を見なかったか?」

魔王「そうだな……勇者が強いと思った魔物はかなり特徴的だったと思うが……」

勇者「……!!」

魔王「最も厄介だと思った感情……破壊衝動は」

魔王「徹底的に分散した……一つに集えば厄介だからな」

魔王「勇者が戦って来た我が眷属の数が多く、弱い部類は、破壊感情を徹底的に、分散した者だ」

勇者「強いと思った奴等は……」

魔王「そこまで、厄介では無い感情だ」

魔王「破壊衝動が私から“そのまま”離れれば、私の手にはおえないからな」

勇者「……」

魔王「私が産まれた原因は確実に、人間だ」

魔王「人間が行う事で産まれた負の感情が、逃げ場を無くし、積りに積もって、私が産まれた」

魔王「ただの憶測だがな」

勇者「……」

魔王「様は、私に言わせれば。貴様等の方が魔王と言う事だ」

魔王「産まれた瞬間なんて分からない、気が付いたら泣いていた」

魔王「ごった返しにされた、色々な負は私を支配しながら」

魔王「ずーっと……色々な人間の負の出来事と感情が頭の中に直接再生された」

魔王「気が付いたら、叫びと共に、何かが吹っ切れた様に私は国の軍勢を滅ぼしていた」

魔王「“魔王”の誕生だ」

勇者「……」

魔王「人の負の部分たる、私を殺せば」

魔王「人々を救う事と同意義だ」

魔王「だから、お前は“勇者”だ」

勇者「殺したくは無かった……」

魔王「そう言う宿命だ……それに……」

勇者「それに?」

魔王「私は死んでいない」

勇者「もう死ぬだろ……」

魔王「寧ろ、私達の闘いはこれからだ……」

勇者「大気と地が……震えている?」

魔王「外では、天変地異が起こっているぞ」

勇者「くっ!」

勇者「どうなっている!?」

魔王「元の私に戻るだけだ」

神父「何が起こっている!?」

息子よ……

「王様……!」

「……?」

「魔物が立て続けに消えていると言う情報が!」

「勇者が勝ったのか!?」

魔王「そもそも我が眷属は、私の血から産まれた者」

勇者「……!」

勇者「そう言う事か」

魔王「尻尾が、吸収をしているのだ」

魔王「我が眷属を」

魔王「嫌……私を」

魔王「私に戻った……か」

勇者「傷も治っているか……」

魔王「瘴気も無くなった……が、何時でも出せるぞ」

勇者「丁寧にどう……」

魔王「もしかしたら……負の感情以外の物を私は、貴様に抱いているのかもな……」

「私は好きだぞ」

「えっ?」

「私は好きだと言っている」

「今言う事か?」

「貴様と一緒になれる様になったのだ、それに……貴様の方が先に死ぬ」

「……」

「今の内に好きと言ったって、バチは当たらないだろう?」

「だな……俺も好きだよ……」

「……素直だな」

「愛しているからな……」

勇者「ーーはっ!」

神父「……帰って来るのがかなり遅いので、心配しましたよ?」

勇者「俺は……?」

勇者「ああ……そうだ……」

あいつが俺の方を向いただけで……

勇者「もう、勝ったと思っていたら……」

神父「思っていたら?」

勇者「あいつ……まだ隠し球を持っていた……」

神父「それは災難ですね……」

神父「……!」

神父「災難で思い出しました。」

勇者「……」

神父「貴方が戦っている間でした」

神父「大規模の災害が各地で起きたました……ですが一時間程で唐突にそれは、ぱったりと、消えました。けれど……暫くすると、魔物が、世界各地から消えたとの報告を受けたのです」

勇者「本当だったのか……」

神父「魔物達が消えたと言う事は……」

神父「魔王を倒したのですか?」

勇者「嫌……倒していない」

神父「それではあの現象は、一体……?」

勇者「……」

言うべき事では無いな。

あの会話は俺と魔王、二人の会話だ。

勇者「王様への報告を俺の代理として、頼めるか?」

勇者「気が滅入るかも、知れないけれど……」

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