息子の戦いを見届ける迄は、死ぬ訳には行かない……
神父「少女……」
神父「薬等……宛にもならない」
“薬草と言われる物”をすり潰しただけ……この国の医学基準は、他国よりも遥かに劣る……
本当。
糞に塗れた世界だ……
勇者「……」
神父「お帰りなさい」
勇者「……」
神父「おや……」
勇者「……」
神父「想像以上に相手が強い様ですね……」
勇者「ああ……」
神父「勇者……貴方の戦う理由は?」
勇者「……」
神父「見つからないのですか?」
俺……嫌、少女と同じ空虚な人間……か。
行動に理由は無い、なんとなくの人間。
掴み所の無い人間……母親似だな……
神父「なら……」
勇者「……?」
神父「貴方の戦う理由を、魔王を倒すまでに教えて下さい」
勇者「戦う……理由……」
戦う理由……勿論……魔王を倒す為。
ああ……結局は魔王を倒す理由か……
どうしてだ?
空っぽな人間は俺だけ……
魔王は空っぽでは無かった。
しっかりと中身があった……感情が……理由もしっかりと。
世界征服した後……あいつは世界を滅ぼすと思う……きっと。
聞いてはいないけど……
そんな気がする。
俺は理由が無い……ならば、見つければ良い。
勇者「ーー分かった」
神父「……そうですか」
神父「待っていますよ」
勇者「ああ」
75回目……瞬殺
76回目……瞬殺
77回目……瞬殺
78回目……瞬殺
魔王「79回目……秒殺」
魔王「信じられない成長の早さ」
魔王「まさか。79回目で数秒耐える様になるとは」
魔王「思ってもいなかった」
勇者「……」
魔王「勇者、待っていたぞ」
勇者「ぐっ……」
魔王「……そこ迄の域には達してはいないか」
勇者「……何故俺は、今迄一瞬で死んでいた?」
魔王「無論」
魔王「私が強過ぎるからだ」
勇者「は?」
勇者「なんの種も仕掛けも無いのか?」
魔王「うむ。瘴気も使っていない」
魔王「純粋な私の魔の力だ」
勇者「只の“力”だけで?」
魔王「そうだが……何か問題でもあるのか?」
勇者「お前……今迄のは何だったんだよ……」
魔王「今迄加減をされたと思い、怒っているのか?」
勇者「……」
魔王「加減等していない」
魔王「私も真の力に気付いたのは、殻が壊れた頃からだ」
勇者「最初の……」
魔王「過去の記憶が蘇ってな……」
魔王「出来るだけ泣きたくは無かった」
それに……それでは、勇者が強くなる事が無い。
勇者「涙……」
黒い涙……
魔王「私自体は悲しい等、思ってはいないが……」
魔王「身体は正直だ」
魔王「涙が止まらない」
勇者「魔王……」
魔王「ーーさて」
魔王「そろそろ死ぬか?」
勇者「……!」
魔王「……」
勇者「!」
魔王「……所詮こんなものか」
神父「お帰りなさい」
勇者「ただいま」
神父「……!」
!
勇者「……?」
神父「いえ……なんでもありませんよ」
ただいまと言われるとは……存外嬉しいな。
神父「朝食は?」
勇者「食べる」
勇者「……」
神父「もう少しゆっくり頂きましょう……」
勇者「……ん」
勇者「……」
神父「どうしましたか?」
勇者「食べないのか?」
神父「今はまだ、空腹では無いので……」
勇者「そうか……」
神父「食器はそのままで大丈夫ですよ、後で片付けるので」
勇者「行ってくる」
神父「行ってらっしゃい……」
魔王「待っていたぞ」
勇者「お前と出会って、81日か……」
魔王「感慨深いな」
勇者「そうか?」
魔王「どうだろうな」
勇者「せっかく……が……」
魔王「なんだ?」
勇者「……嫌、何でも無い」
魔王「そんな悲しそうな顔をするな……」
魔王「私が……寂しい」
勇者「ん?」
勇者「……行くぞ」
魔王「はあ……」
魔王「もっと話したい……」
勇者「お前、俺に切られた時の傷は何時も次の日になったら消えるが、どうなっているんだ?」
魔王「一日でも経ったら癒えるぞ」
勇者「今もそうなのか?」
魔王「勿論」
魔王「最も、貴様が私に傷を付ける事は無いがな」
勇者「それはまだ分からないだろ?」
魔王「っつ……!」
勇者「?」
勇者「どうした?」
魔王「気にするな」
勇者「……」
勇者「行くぞ」
魔王「ふんっ……」
勇者「お前強過ぎだよな」
魔王「当然だ、私を誰だと思っている?」
勇者「魔王……」
勇者「女……」
魔王「女は余計だ」
勇者「どうしてだ?」
魔王「……」
意識してしまうからだ……
勇者「?」
魔王「さあ」
魔王「早く始めよう……」
勇者「……っ!」
魔王「ふん……!」
勇者「……凍結はズルいぞ」
魔王「なんだ。気付いたのか」
勇者「正直気付いた頃には、向こうに居たよ」
魔王「向こう?」
勇者「ああ……知らないんだったな」
勇者「協会の事だ」
魔王「神の加護と言う物か」
勇者「多分。な」
魔王「そんな物を信じて居たって、意味が無いと思うが……」
勇者「それは同感だな」
魔王「気が合うな」
勇者「始めよう」
勇者「?」
勇者「……」
魔王「そう、緊張をするな」
魔王「暖かいな」
勇者「冷たいな……」
魔王「私の音が聞こえるか?」
勇者「聞こえる……」
魔王「貴様の音も聞こえているぞ」
勇者「そうか……」
勇者「…………!」
勇者「糞!」
魔王「むっ……」
勇者「はあー……」
勇者「昨日どうやって俺を殺した?」
魔王「強くなったな……」
勇者「……」
魔王「瘴気が貴様の心臓を潰しただけだ」
勇者「結局お前自体は手を下していないのか……」
魔王「案ずるな。今から私が手を下す」
姫「はあ……」
姫「退屈……」
姫「お父様は私を部屋から出してはくれないし……」
姫「どうぞ……」
“あの女”か……
王女「あら、姫……居たのね」
姫「はい、“お母様”」
王女「姫にとってもピッタリなドレスを作らせたの、どうかしら?」
姫「……」
臭い……
王女「使用人が掃除に使った雑巾を仕立人に縫わせてみたの」
王女「最初は嫌な顔をしたけど、難なくこなしてくれたわ……」
姫「……」
姫「はい!有り難う御座います……」
姫「お母様のお心遣い、大変嬉しく思います」
王女「ささ!早く着てみて?」
姫「……」
嫌だ……
王女「は・や・く」
王女「気に入らなかったのかしら?」
王女「……」
無駄に綺麗な身体ね……腹立たしい……
姫「……」
王女「……」
王女「ふふふ……」
王女「あはは……!」
姫「……」
王女「あーっはっはっはっ!」
王女「うふふっ!」
王女「きゃーっはっはっはっ!」
姫「似合っていますでしょうか?」
王女「ええ……とても似合っているわ……ぷっ」
王女「ぷ……っ……とっ……ても……」