勇者「っ……!」
勇者「大分……増えているな……っ!」
魔王「ああ……当然だ」
勇者「……!」
魔王「さぁ……更に行くぞ」
勇者「うおお!」
魔王「ぐう……!」
……左腕に衝撃を受けてしまったな。
魔王「昨日と同じ事をしても……貴様は、対応をしてしまうだろうな……」
勇者「無理だろ」
魔王「ふふっ……謙遜をするな謙遜を」
勇者「嫌……無理だろ……」
魔王「……」
この会話の間も、機会を伺っているな。
一瞬で勝負を決めてみるか……
魔王「勇者」
勇者「ん?」
魔王「正面からいくぞ」
勇者「正面から……?」
勇者「……」
不味い……何かが来る?
勇者「ーー凄いな」
魔王「隙が多い事は、余り……行いたくは無かった」
魔王「が……貴様の為だ。今回は直ぐに死ね」
勇者「……!」
魔王「行くぞ……!」
魔王「全てを速さに回しただけ……其の分隙も多い」
魔王「ーーどれだけの速さか分からないがな」
魔王「何に、恐怖をしたか分からないが……」
魔王「流石の警戒力だ」
次には……通用しないだろう……
魔王「おお……速いな」
勇者「……」
9時ぐらいか?時刻を確認していないから分からないけど……大分強くなったんだな。俺……
勇者「……昨日はどうやって?」
魔王「全ての力を速さに変えただけだ」
勇者「なるほど……そういう闘い方も出来るんだな」
魔王「私はな……」
魔王「どうだ?恐いか?」
勇者「嫌……あれが最高の速さと分かれば、これからは、闘いやすい」
魔王「ーーその言葉は。後二回闘った時の言葉だと思うが……」
既に通用しない事は、私でも分かる……勇者が精神的に強くなったと言う事か。
魔王「……」
勇者「次は……なんだ?」
魔王「魔導で一斉に攻撃しようと思ったから、させてもらう」
勇者「冗談だろ?」
魔王「さぁ、行くぞ」
勇者「ははは……無理だろ……」
勇者「うおおおおおお!」
魔王「……死んだか」
魔王「くっ!」
勇者「くぅ……!」
勇者「うおお!」
魔王「はあああ!」
魔王「これで……!」
魔王「……!」
魔王「くうぅ……っ……」
魔王「やるではないか」
魔王「勇者」
魔王「ふふふ……」
魔王「昨日の貴様には驚かされたぞ」
勇者「ああ……驚かす様な事をした記憶が無い」
勇者「それに……お前の手刀は、相当の業物以上だな」
魔王「我が手刀は、如何なる剣にも“負ける事”は無い」
勇者「凄い……な!」
魔王「残念だな」
勇者「糞っ……!」
魔王は両手で斬れるが……俺は……一つ。
けど……俺の方が斬る事を心得ている。
ーー僅かに。
勇者「ぐふっ!」
魔王「……細かい傷は付いたが、大きな傷が付く事は無かったな」
魔王「それにしても貴様の防具は弱いな、まあ……其の軽い防具が一番私に対抗出来るが……」
魔王「貴様には常に驚かされる」
魔王「気付いたら、私を超えているかも知れない」
魔王「今回は、手数の勝利。次にはその手数も……」
通用しない。
魔王「……死んだか」
姫「……」
私は勇者様が好き……だけど……“ついでに”勇者様を利用しようとしていた。
私が必要の無い者にならないためへの……
けれど!自分で何も変えられない女を勇者様が好きになる筈が無い……
私が国を変える……
大丈夫……父上と王女が亡くなれば……私が国を……
きっと……皆は分かってくれる。
神父「11時ですか……驚くべき進歩ですね」
勇者「そうか?」
神父「ええ、全く持って驚くべき進歩ですね」
勇者「そうか……それは、自信が付くな」
神父「朝食等はいかがでしょうか?」
勇者「ああ、いただくよ」
神父「では、紅茶とパンを」
勇者「毎回それだな……」
神父「朝には紅茶とパンですよ」
勇者「いただくよ」
勇者「さて、96回目の闘い……始めよう」
魔王「気が早いな」
もう少し、会話でもしたいが……仕方が無い。
魔王「良いぞ。来い」
勇者「……!」
魔王「……」
勇者「はあ!」
魔王「……!」
力を開放してからは、全てが上回っていたのだが……
ここ迄来たか……勇者。
勇者「はああ!」
魔王「……」
勇者「……!」
これでは周りが見えないな……
勇者「はああっ!」
魔王「……っ!」
勇者「……っ!!」
指先で止めるのかよ!?やはり、桁違いだ!
勇者「ぐっ!」
魔王「はぁ……」
魔王「流石に危険だったぞ……」
神父「……朝食にしますか?」
何時もより、明るい……な。
勇者「嫌。遠慮しておくよ」
神父「そうですか……」
勇者「ああ……97回目。行ってくる」
神父「いってらっしゃい」
勇者「……鼻血出てる」
神父「……おや?気付いてませんでした……教えてくれて助かります」
勇者「大丈夫か?」
神父「心配無用ですよ」
そろそろ……だな……
魔王「……」
魔王「貴様は、私の間に唐突に現れたり、扉を介してやって来たりで、大変だな」
勇者「気分だからな」
魔王「……気分?」
魔王「ふふふ……ハハハハッ!」
魔王「ぷっ……久しぶりに大きく笑わせてくれたな……その、抜けた所が最高だ」
勇者「……侮辱された気分だ」
魔王「ふふふっ……気にするな」
魔王「ーー来い」
魔王「爆ぜるぞ」
勇者「?」
魔王「……」
魔王「私の涙は止みそうに無いな」
魔王「跡も残らないとは、可哀想に」
神父「今日は、早いですね」
勇者「油断してた」
神父「それはいけませんね、意識をしっかり持たないと」
勇者「分かってる」
神父「もう行きますか?」
勇者「そうだなー。行くか」
神父「はい、行ってらっしゃい」
神父「貴方は、勝てますよ」
勇者「……」
勇者「ありがとう、行ってくるよ」
神父「勇者……」
魔王「来たか」
勇者「当然だ」
傷は全て元通りか……右腕も……
魔王「まだ闘うか?」
勇者「今更言われてもな」
勇者「俺は闘うよ」
魔王「そうか……」
勇者「……?」
俺の覚悟は知っているのに……何を今更……?
魔王「不思議な顔をするな、反応に困る」
勇者「……」
魔王「だんまりか……」
勇者「悪いか?…………っ!!」
勇者「かはっっ……!」
魔王「すまないな、貴様の為だ」
これで……全ての攻撃手段を教えた……
ここまで知れば、対等に渡り合ってくれるだろう……
勇者「昨日はやってくれたな……」
魔王「差も無くなって来た……貴様の死を稼ぐ為だ、そう怒るな」
勇者「怒って無い」
魔王「本当か……?」
勇者「……ああ」
落ち込んだ様に言われると……心に来るな……
勇者「……」
魔王「勇者?」
勇者「気にしないでくれ」
魔王「?」
魔王「……」
何を気にしなければ良い……?
まさかっ!?
昨日の仕返しを……!?
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……」
本来なら反応していた筈だが……ここまでとはな……
悲しくなる。
魔王「何故殺さない?」
勇者「分からない」
魔王「……」
魔王「……」
そうか……明日私は……
…………
ーー短い闘いだった。
ーー101日目。