貧民の娘風情が偉そうに……
王女「穢れた生れの貴方にはとっても似合っているわ」
姫「……」
姫「……」
分かっている。
私が穢れた生れだと。
分かっている。
御父様は恨むべき存在だと……
でも、御世話になり過ぎた。
姫「勇者様……」
私は過去……城で鍛錬と勉学に励む少年の顔を忘れない。
とても……ある意味純粋で、全てを吸い込みそうな瞳。
その瞬間、私の悩みは吹き飛んだ。
一目見た時から忘れない……
そして、報告で伺ったひたむきな姿。
私は勇者様と幸せになりたい……
そして、全てを忘れたい……
勇者様……
待っています。
魔王「やはり、私が手を下すまでも無かったな」
勇者「かはっ……!」
魔王「まだこんな物か」
勇者「……一瞬か」
魔王「貴様と私の差を簡単に示しているな」
勇者「……」
魔王「痛いか?」
勇者「当然だな」
魔王「そうか……」
魔王「私の勝ちは決まっている……これ以上痛い思いはしない方が良い」
魔王「ふぅ……」
苦しむ顔は見る必要が無い。
勇者「くっ!」
魔王「ほぉ、抑えるな……意外に」
勇者「これくらい……!」
魔王「気を抜くな」
勇者「……!」
魔王「抱きしめたかっただけだ」
勇者「……っ!」
魔王の顔が赤い……?
魔王「むぅ……」
気分で抱き締めて見たものの、恥ずかしい……勇者の顔が赤い事もあるが……
魔王「うむ、問題無い」
勇者「……」
勇者「……今切っても良いか?」
魔王「貴様の攻撃を私が全て躱したが……まだやるのか?」
勇者「……」
何百回斬りかかっても躱された……屈辱だな……
魔王「それに」
魔王「今の貴様では、私は、まだ切っても斬れ無い」
勇者「だな」
関係も肉体も……か。
魔王「中々の抱き心地だ」
勇者「まだ殺さないのか?」
魔王「なら……全力で抱き締めてやろう」
魔王「88日目」
勇者「……」
魔王「後13日で、勇者が本当の意味で死ぬのか」
勇者「死ぬのは魔王だけどな」
魔王「笑わせてくれるな」
勇者「どうかな?……それに、魔王って意外と笑うよな」
魔王「お陰様でな……」
勇者「……?」
魔王「さあ……始めよう」
魔王「決戦だ」
魔王「生死を賭けた、闘い……」
勇者「ぐおおお!」
魔王「生死を賭ける事には条件がある」
魔王「対等であると言う事だ」
魔王「貴様と私は最初から命を賭けていない」
勇者「……」
魔王「特に貴様だ」
魔王「甦れる事に、慢心をしていなかったか?」
魔王「安心をしていなかったか?」
勇者「……」
魔王「だが、それで良い」
魔王「貴様は私と、“真の意味で”生死を賭ける為では無く、“他”の為に闘うのだからな」
勇者「ああ……」
魔王「私はそれが嬉しい」
勇者「っっ!」
待て……!
神父「おや、おかえりなさい」
勇者「ああ、ただいま」
神父「どうですか?」
勇者「さっぱり、全然勝てないよ」
神父「でも」
神父「帰ってくるのが、七時になっただけ良いと思いますよ?」
勇者「魔王が本気をだしてから……な」
神父「朝食は?」
勇者「遠慮するよ」
神父「そうですか……」
勇者「闘う理由……見つけた」
神父「聞きましょうか……」
勇者「俺が闘う理由は……ーー自分の意味を見つける為だ」
神父「昨日……見つけたのですか?」
勇者「ああ……今まで、何回でも蘇る事が出来る俺は、自分の命をどこか、別の物と見ていた」
勇者「だから、この闘いで自分の命を賭ける事で、自分の存在の意味を知りたい」
勇者「自分が勇者である事は俺にとって意味が無いからな」
神父「……とても良いですね」
可哀想に……本当にすまない。
自分が存在する意味すら、教えてあげる事が出来なくて、本当にすまない。
可哀想な子供だ。本当に、空虚な人間に育って来たのか……
何回でも蘇る事が出来るから、自分の存在を見出せなかったのか……
ーーすまない。
勇者「と……言う訳だ、行って来る」
魔王「まだか……」
勇者「待たせたな」
魔王「何。問題無い、今起きた所だ」
勇者「それなら良いけど……」
魔王「ふむ……」
魔王「さあ、始めよ……「待ってくれ」
勇者「……」
魔王「どうした?」
勇者「確かに俺は本当の意味で、命を賭けていなかった」
勇者「それでは、まだ自分の生きる意味を見出せない」
勇者「だから、俺は命を賭ける」
魔王「……誰の為に?」
勇者「自分と他人の為だ」
魔王「愚か者」
魔王「……昨日、あの様な話をするべきでは無かったな」
勇者「いや、感謝している……」
魔王「貴様が本当の意味で死ぬ可能性が増えてしまった……」
101日目にも差がありながらも、闘いに赴く可能性が……
勇者「101回目の死……か?」
魔王「そうだ」
勇者「俺は魔王に勝つから問題が無い」
勇者「そもそも、俺の死を気にする立場では無いだろ」
……自分で言うのも変だけど、心が痛む
魔王「……!」
魔王「そうか……そうだったな……」
……心が痛い。
勇者「……」
そうか……俺は……
魔王「……」
前から分かってはいたが、改めて……私は……
魔王が……
勇者が……
好きなのか……
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「クククッ……フフッ……アッハッハッハ!」
勇者「……!」
勇者「なっ……なんだ?」
魔王「ふふふっ……何とも滑稽だな……」
魔王「気にする必要は無い、勇者……」
魔王「悪い夢を見ている様だ……」
後悔は無い……がな。
勇者「……」
俺は魔王が好きだ……
魔王「ふっ……」
私は勇者が好きだ
勇者「……」
魔王「……」
しかし……
ーー闘う宿命だ。
魔王「さて、始めようか」
勇者「ああ」
魔王「勇者」
勇者「ん?」
魔王「“死ぬな”」
勇者「……!……ああ!」
魔王「……行くぞ」
しかし、結局は相入れぬ存在、種族……
闘う事が宿命……か。
勇者「あー、そっか……使えるもんな」
魔王「何を今更」
勇者「くっ……!」
勇者「くっ!」
魔王「これで終わりか?」
魔王「期待外れか?」
勇者「ぐぅ……!」
魔王「もう少し耐えてくれ」
魔王「壁は堅くしていおいた」
魔王「押し返す事も出来ないのか?」
勇者「くっ……!」
勇者「ぐうぅ……!……あっ……ぁぁ……ガッ……」
魔王「うーむ……」
殺した今になっても恥ずかしい……
いきなり笑ってしまって、変な女と思われていないだろうか?醜く見られていないだろうか?
ーー恐れられていないだろうか?
私と対等に応じる初めての人間……
他の人間は私に恐れて此処に来る事も無かった。
初めてまともに会話した人間……
人間も捨てた者では無い……が、眷属に好き放題させてしまったな……
……それすらも関係無いか、元よりこうなる宿命だ。
勇者……
勇者「……」
ーー情けない……昨日の俺は情けない様に見えたか?
糞……情けない……
神父「どうでしたか?」