勇者「パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」 10/16

12345678910111213141516

バニー「きゃあっ!」

魔物「ま、待てっ、宿屋にいるお前の仲間がどうなってもいいのかっ!」

魔法使い「ほ……そういえばそうじゃったな」

魔法使い「……死んだらそれまでかのう」

魔物「おいっ!?」

チビ悪魔「いまだ、魔封じの杖!」 ムニョニョ

魔法使い「うおっ」

魔法使い「しもうた!」

チビ悪魔「ウケケ、ざまーみろっ」

魔物「でかしたっ」

魔法使い「うーむ、極大爆発呪文で酒場ごと吹っ飛ばすつもりじゃったのに……」

チビ悪魔「で、デストロイヤージジイめ」

魔法使い「こうなったら仕方があるまい。ほれ、爆弾石」コロコロ……

魔物「うわあっ」

魔法使い「今のうちに逃げるわい」

魔法使いは逃げ出した!

魔物「……? 何も、起きない」

マスター「……これ、ただの石ころですよ」

魔物「あ、あのジジイ!」

チビ悪魔「みんな追えーっ、逃がすなーっ!」

さかのぼって、宿屋。

勇者「……」グー、グー

夢魔A「寝てるな」

夢魔B「寝てますな」

夢魔A「睡眠を誘発する香というのはよく効くな」

夢魔B「人間に開発させた甲斐がありますな」

夢魔A「それで、えーと、勇者にはどんな夢がいいんだったか?」

夢魔B「悪夢ですな。とにかく、精神攻撃をして動きを鈍らせると」

夢魔A「で、他の魔物は?」

夢魔B「町に待機させております。なんでも、ジジイが一人、酒場に行ってしまったそうで」

夢魔A「ふーむ、全員就寝していればよかったがな」

夢魔B「一応、勝手に動かないように釘でも指しておきますか」

夢魔A「どうせ言うことを聞くまい……全く、戦闘に向いてないからと、我々を軽視しおって」

夢魔B「悪夢には睡眠呪文が必要ですからな……早いところ、勇者にかけてしまいましょう」

夢魔A「うむ。他の二人はすでに夢に囚われおったしな」

夢魔A「さあ、勇者よ……悪夢にうなされ、いっそ二度と還らぬほど、苦しむがよい……」

夢。

幼勇者『やあっ! たあっ!』

勇者父『……』

幼勇者『とうっ! てやっ!』

幼勇者『はあ、はあ』

勇者父『どうした、勇者。もうおしまいか』

幼勇者『お、お父さん……休ませて……』

勇者父『駄目だ。まだ日が高いし、ノルマも達成していない』

幼勇者『で、でも……』

勇者父『勇者よ。できないことを私は言っていない』

幼勇者『……』

勇者父『お前がたとえどんな道を進もうと、この先の世界は力が必要になる』

幼勇者『でも、僕はそんなに強くないよ……』

勇者父『なぜそんなことを言う?』

幼勇者『こないだの剣術大会、負けちゃったもん……』

勇者父『そういうこともある。あれは目安の一つだ』

幼勇者『ま、魔法試験だって、真ん中くらいだったし』

勇者父『私も魔法が得意とは言えない』

幼勇者『じゃあ、なんでこんなことさせるの? 僕よりもっと強い人ががんばればいいじゃない!』

勇者父『それは違う。これからは誰もが強くならなければ』

幼勇者『そんなの、わかんないよ!』

勇者父『別に人々を救うような人間になれとは言っていない』

勇者父『たとえば、母さんを守る時、力があれば……』

幼勇者『お、お父さんがやればいいじゃない』

勇者父『……』

幼勇者『お父さんが強いんだから、僕がやらなくても』

勇者父『私がいなくなったらどうする?』

幼勇者『え?』

勇者父『私がいなくなったら、お前はどうするのだ』

勇者父『母さんが殺されそうになっても、震えてじっとしているのか』

幼勇者『……』

勇者父『勇者よ。お前が救いたいと思った時、その力を手にしているとは限らないのだ』

勇者父『心に見合った力を手にしていなければ、たとえ勇気を起こしても、ただの無謀にしかならない』

勇者父『分かるか、強くならなければ!』

幼勇者『それは、お父さんが強いからでしょ』

幼勇者『強いから、そんなことが言えるんだ』

勇者父『……』

幼勇者『僕は弱いんだ、お父さんより、周りのみんなより、ずっと弱い……』

幼勇者『お母さんなんか守りたくないよ……誰かを助けたいなんて、思えないよ……』

勇者父『何を言ってるんだ!』ガシッ

幼勇者『うっ』

勇者父『勇者、お前は……!』

幼勇者『ほ、ら……振り払う、ことも、できな……』

勇者父『馬鹿なことを……! 大切な人を守れない悔しさを、お前は分からんのかっ!』

幼勇者『うああ、やめて……助けて……』

勇者母『あなた! 何しているの!』

勇者「うぐ、ぐぐぐぐ……」

夢魔A「効いてる、効いてる」

夢魔B「このまま目が覚めなければよいのですが」

夢魔A「しかし、どうやら親父の夢を見ているようだな」

夢魔B「あなたのお父様も、厳しい方でしたからな。こういう悪夢に心当たりは」

夢魔A「うわー、やめてくれ」

――どおぉん!

夢魔A「な、なんだっ!」

夢魔B「……外で戦闘が始まっているようですな」

夢魔A「なんだと!?」

夢魔A「くそー、勝手に動くなって言っただろうに!」

夢魔B「どうなさいますか」

夢魔A「中止するわけにもいかんが……」

夢魔B「別室の人間どももいますよ」

夢魔A「ど、どうしよう」

夢魔B「指揮権はあなたにあるのですよ」

夢魔A「ええい、こうなったら、まず勇者の夢をめちゃくちゃな感じに……」

勇者母『あなた! 何しているの!』

勇者父『お前は分からんのかっ!』

勇者『ぐうっ……』

勇者母『あなた!』

勇者父『強くならなければ!』

子ども『勇者って言われてるけど、大したことねぇな、こいつ』

勇者『ううう……』

子ども『だっせ、悔しかったら一本取ってみろよ』

男戦士『ほれみろ、七光りだ』

魔法使い『甘いのう、勇者』

武闘家『血筋って得だよな~』

戦士『バカ、勇者!』

幼勇者『誰かを助けたいなんて思えない』

勇者『ああああ』

幼勇者『僕は弱いんだ』

勇者『うあああああ』

子ども『おら、魔法使ってみろよ』

幼勇者『もっと強い人が』

勇者『いやだ、いやだ、いやだ』

僧侶『……大丈夫です』

僧侶『大丈夫ですよ! 私達なら!』

勇者『あ』

戦士『私を信用してないのかっ!』

勇者『あ、あ』

魔法使い『お前さんは、親父よりはマシだな』

勇者『うあ』

勇者母『勇者、逃げなさい!』

勇者『』

――勇者は跳ね起きた!

夢魔A「うおっ!?」

夢魔B「な、なに!」

勇者「ううううううううううう」

夢魔A「ちょっと待て! ストップ!」

夢魔B「に、逃げますぞ!」

勇者「ああああああああああっ! 助ける、俺が助けるんだああああああああああ!」

勇者は剣を掴むと、魔物に襲いかかった!

勇者の攻撃!

夢魔A「ぐわあっ!」

夢魔B「くっ、こ、こちらです、早く!」

勇者の攻撃!

勇者の攻撃!

勇者の攻撃!

勇者の攻撃!

別室。

戦士「……お兄ちゃん」

戦士「どこにもいかないでよぉ……」

僧侶「うう……ごめんなさい……」

僧侶「もうしませんから……許してください」

勇者の攻撃! 扉が音を立てて吹き飛んだ!

戦・僧「!?」

勇者「うああああああああっ!」

勇者「助けるんだ! 俺がぁあっ!」ダダダッ

戦士「え、え、なに」

僧侶「ふぁっ!?」

戦士「なんだ、頭が、痺れてる……」

僧侶「ああ、眠気、覚ましぃ、呪文っ!」パッ

戦士、僧侶、そして娘の眠気が吹き飛んだ!

戦士「どうしたっ!? 何があった!?」

僧侶「わ、分かりません……勇者さまがいたような……」

戦士「おい、娘!」

娘「あ、あ……」

戦士「何があったのか分かるか!」

娘「ご、ごめんなさい……戦士様、僧侶様……」

戦士「謝るな! 何があったのかだけ言ってくれ!」

娘「この町は、冒険者を捕らえる、罠なんです……」

僧侶「ええっ!?」

戦士「……ああ、そういうことかっ。くそっ、油断した!」

娘「ごめんなさい、町には手出ししないって、ずっと言ってたのに……」

娘「今回は、入り込んで、逆らえなくて……」

僧侶「い、いいんですよ、それは」

戦士「おい、町中で戦闘しているぞ!」

娘「あ、ああ! そんな!」

僧侶「加勢しなくては!」

戦士「武器を持って来い! まさか奪われてないだろうな!?」

僧侶「だ、大丈夫です!」

戦士「縛られもしてない……なめられていたのか、自信があったのか……」

僧侶「あ! 魔法使いさんが!」

戦士「くそっ、おい、娘!」

娘「はい、はいぃ~」

戦士「いいから隠れていろ! 宿が襲われそうなら、全力で逃げろ!」

娘「わ、私、皆さんを……陥れようとぉ」

僧侶「今は罪を問いません! とにかく隠れていてください!」

娘「わ、私」

戦士「急ぐぞ、僧侶!」

僧侶「はい! いいですか、気に病む前に、ちゃんと生き延びるんですよっ」

娘「は、はい」

今夜はここまで。あともう一回くらいで終わらせたい。

どう考えても人間同士で足を引っ張ってる件について。

広場。

戦士「くそっ、多くはないが、かなり入り込んでるな!」

僧侶「戦士さん、あっちに勇者様が!」

戦士「う!」

勇者の攻撃! 魔物は反撃を繰り出した!

勇者の攻撃! 勇者の攻撃! 勇者の攻撃!

魔物「うおおおお! 怯むなああああ!」

チビ悪魔「数では勝ってるんだぞー!」

勇者の攻撃! 勇者の攻撃!

僧侶「ち、血だらけですよ!?」

戦士「まずい、回復を忘れてるのか」

僧侶「私、行きます!」

12345678910111213141516