勇者「……」
魔法使い「ま、そう簡単に反省するやつらじゃなかろう」
戦士「だろうな」
僧侶「神に代わって裁きを下すべきです!」
勇者「いや、なんか利用できないかな」
戦士「……本気か?」
勇者「……よし、お前ら、その偵察能力を生かして、北の魔物の砦の情報を探ってきてくれ」
親分「ほ、本当にそれをやれば見逃してくれるのか?」
戦士「おい、勇者。解放したら確実にトンズラするぞ、こいつら」ヒソヒソ
勇者「まあ、俺もそう思うけど、別にリンチするほど恨んでるわけじゃないし」ヒソヒソ
戦士「だったら!」
勇者「でも、ここでぶった切っても寝覚めが悪いし」
魔法使い「ほいほい、それじゃあ、ジジイが約束の証にゆびきりげんまんしてやろうかのう」
親分「へ、へへ、そうだな」(ちょろいな……)
魔法使い「うむ。裏切ったら死ぬ呪いじゃよー」ユビキリ
親分「ぶおっ!?」
魔法使い「今度罪を犯そうとしたら、陰部が死ぬほど痛くなる呪いもかけておくかの」ゲンマン
盗賊たち「ひぎゃああ!」
勇者「お、おう」
城。
国王「まさか本当に冠を取り戻してくるとは……あっぱれじゃ!」
勇者「はい」
国王「お主はやはり、父の血を受け継ぐ、まことの勇者じゃな!」
勇者「仲間のおかげですよ。まあ、戦士とか強いですからね」
国王「ほう?」
戦士「どうも」
国王「ふーむ、女だてらに剣を振るうのであるか」
戦士「うるさい」
勇者「あ、あー、よく知りませんが、戦士にはドラゴン殺しの異名が」
国王「な、なんだと!?」
戦士(それは一人でやったわけじゃないんだけど……)
勇者「まあ、とにかくですね、最初に言ったとおり、報酬を」
国王「う、うむ。確か、金で三十万だったな……」
勇者「現実的な数字だと思いますが」
戦士(あの時は交渉がガチすぎてちょっと引いたわ)
魔法使い(お金の話のほうがいきいきしとったのう)
僧侶(勇者様は商人の素質のほうがあるんじゃないでしょうか……)
国王「実は、だな。その冠が金三十万くらいの価値で」
勇者「嘘ですね」
国王「ぐぬっ」
勇者「大方財務担当からあれこれ言われたんでしょうが、そうやって約束を破る王が信頼されますかね」
国王「ぐぬぬっ」
勇者「それと、冠は王権の象徴ですが、本当にこれを頂いてもいいんですか?」
勇者「私は自国に持ち帰って、そっちの王様に渡すこともできますが」
国王「ぬぐぐぐ」
三人(引くわ)
国王「で、では、宝物庫のだな……」
戦士「!」
勇者「再交渉はしませんよ」
戦士「勇者……」クイ
勇者「なんだよ」
戦士「この城に、伝え継がれている魔剣があるはずなんだが」
勇者「断る」
戦士「な、なんでだよ」
勇者「一度決めた約束を決め直すには、それなりの理由が必要だからだよ」
戦士「それなりの理由だろ」
勇者「欲しいなら最初から言うべきだろ」
戦士「勇者、新しい武器!」クイクイ
国王「し、城の宝物庫の中なら、自由に持って行っても良いぞ!」
勇者「……」
勇者「分かりました。じゃあ、そういうことにしましょう」
国王「!」ホッ
戦士「やった!」
僧侶「えええ!? いいんですかぁ?」
魔法使い「勇者、甘いのう」
勇者「いくつでも構いませんよね?」
国王「おお、いいぞ。魔剣も一本だけではなかったと思うしな」
勇者「だって、戦士」
戦士「よっし」
僧侶「勇者様、本当によろしいのですか?」
魔法使い「魔剣程度では金三十万にはならんぞい」
勇者「ま、いいよ。ごねられても仕方ないし」
国王(眼の前で話すなよ……)
宝物庫。
兵士「勇者殿、ここが宝物庫でございます。と言っても、半分倉庫みたいになってますが」
勇者「はい、戦士。とりあえず探してきて」
戦士「よっし、探すぞー」ガシャガシャ
魔法使い「勇者よ、ちょっとわしはがっかりじゃなー」
勇者「そうか?」
僧侶「うう、大人って汚いですよ!」
戦士「うわ! これは名剣! これは、魔法の鎚!」
僧侶「楽しそうですね」
戦士「魔物の牙を加工した短剣! これは……? く、組み立て式の短槍!」
魔法使い「ふーむ。素人でも魔法が発動する武器もあるのう」
勇者「よいしょっと」バサッ → 風呂敷。
僧侶「勇者様?」
勇者「戦士、魔剣は見つかったか?」
戦士「……あった」
勇者「二本もあったか?」
戦士「三本だ。さすがに三刀流とはいかないが、全部持って行っても良いんだろう?」
勇者「ああ」
僧侶「ううー、聖職者にはあるまじき発言かもしれませんが、金三十万に比べると……」
魔法使い「そうじゃのう」
勇者「三本はしばらく自分で持っててもらっていいか?」
戦士「構わないよ」
勇者「後は俺が持って行くから」
戦士「あと?」
勇者「ああ。後全部」
三人「……は?」
その後、ある国が財政危機に陥った。
闘技場。
戦士「負けたか……」
勇者「そう、気を落とすなよ」
戦士「勇者……すまん、せっかくの評判を下げてしまったかもね」
勇者「いんや、よくやったよ」
戦士「そういうわけにもいかない! 私は、ほら、勇者のパーティーの一員だから」
勇者「まあ、最後の相手はチャンピオンだったんだろ」
戦士「そうだけど……」
勇者「戦士はまだまだ強くなっていってる。だから」
戦士「……」
勇者「泣くなよ……」
戦士「……」フルフル
勇者「怪我は大丈夫か? 飲みに行こうぜ」
戦士「うん……」
酒場にて。
魔法使い「これ、勇者」
勇者「な、なんだよ」
魔法使い「お前さんが戦士を連れてきたんだから、もっと慰めんかい」
勇者「い、いや、あのな」
僧侶「……勇者様、泣いてる女の子を慰めるのはイケメンの義務です!」
勇者「泣いてる時に、声なんかかけられたくないだろう……」
戦士 ゴクゴク
魔法使い「ふうー、だから未だに童貞なんじゃよ」
勇者「うるさいな!」
魔法使い「ほれ、いけ、ほれ」
勇者「わ、わかった……」
勇者「おー、戦士、飲んでるかー」
戦士「ん」ヒック
勇者「傷にしみないか」
戦士「飲める」ヒック
勇者「そっか」
戦士「この調子なら、もっと戦えた」ヒック ヒック
勇者(やべぇ……)
戦士「強くなりたいなぁ」
勇者「そうか」
戦士「勇者くらい、強く……」
勇者「お、俺? 戦士の方が強いだろう……」
戦士「ゆうしゃ!」ヒック
勇者「ど、どうした」
戦士「じぎゃくふうじまんですか?」
勇者「あ?」
戦士「ふざけんなよ! え!?」
戦士「ったく……」ゴクゴク
勇者「なんなんだよ」
戦士「おまえはな、ぜんぜんわかってないんだ」
戦士「わたしが、どれくらいうらやましがってるか」ヒック
勇者「……」
戦士「つよくなりたいんだ」
勇者「なんでそんなに強くなりたいんだ?」
戦士「……おにいちゃんが」
勇者「お兄さんいるのか」
戦士「死んでから……」
勇者「……」
戦士「影を追っている。あのくらい、強くなりたいと」
戦士「お前は、似ている。自分は強くないんだ、というところも」
戦士「仲間のおかげだというところも。最後は、自分が責任を取ろうとするところも」
勇者「……」
戦士「目標だけど、きっと死ぬまで追いつけない」
戦士「私は、すぐ前が見えなくなってしまう」
勇者「そんなことは……」
戦士「ある! お前は、強い。お前くらい、強くなりたい」ヒック
戦士「だいたい、お前は、なまいき、だ。私より年下のくせに……」
勇者「せ、戦士?」
戦士「おにいちゃんみたいなしゃべりかたをなー!」ワシワシ
勇者「うおっ」
戦士「ぜったいにつよくなってやるぞー! そのかわり、ちゃんとはたらきもするから」
勇者「わ、わかった」
戦士「わかってない!」
勇者「はいはい……」
翌朝。
戦士「ん……くあっ、さすがに傷が痛むな」
僧侶「あ、おはようございます!」
戦士「ああ、昨日はすまない」
僧侶 ジーッ
戦士「どうしたんだ?」
僧侶「昨日のこと、覚えているんですか?」
戦士「ああ、まあ、少しは」
僧侶「ゆ、勇者様にべたべた甘えたこともですかっ!?」
戦士「……いや」
僧侶「頭をわしわしやったり、かと思えば膝枕要求したこともですかっ!?」
戦士「い、いや……」
僧侶「あまつさえ、今日は添い寝するって宣言したこともですかっ!?!?」
戦士「ね、捏造してないだろうなっ」
――魔法使いの場合。
魔法使い「ほれ、勇者。劇場に行くぞ、夜の劇場」
勇者「一人でいけよ……」
魔法使い「なんじゃ、まだこだわっとんのか」
勇者「うるさいな、俺はエッチなんかしないんだよ」
魔法使い「やれやれ、若いのに枯れてるのう」
勇者「じいさんが好色すぎなんだよ」
魔法使い「女の子と遊んでいると、MPが回復するんじゃ」
勇者「嘘だろ?」
魔法使い「ホントじゃよ。まあ、わしレベルの大魔法使いにしかできない芸当じゃがな」
勇者「……」
魔法使い「嘘じゃが」
勇者「だろうな」
魔法使い「酒は飲めるのに、どうして女の子は嫌いなんじゃ?」
勇者「嫌いっていうか、苦手なんだよ」