勇者「パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」 11/16

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戦士「おい待て! ……ジジイはどうしたんだ?」

僧侶「えっと……ああ!」

僧侶「どうしましょう!? 勇者様の足元……!」

戦士「あっちもぶっ倒れてるかっ、急がないとまずいな!」

戦士「僧侶! 私が引き付けるから、お前は左から回り込め!」

僧侶「はい!!」タタタッ

戦士「……」

戦士「こちとら腕を見込まれて雇われた傭兵だ……」

戦士「腕の見せ所ってのはこういうときなんだろうな」

戦士は大剣を構えて、魔物に襲いかかった!

魔物は驚き戸惑っている!

戦士「うらあっ!」ギイィン!

戦士「よーし、こっちだ! こっちにも相手がいるぞ!!」

魔物「な、なんだと……夢魔のやつらは何をやっていたのだ!」

戦士「夢? ……やっぱりあの夢は連中の仕業か、くそっ」

戦士「どうした!? 魔王の配下ってのはこんなに弱くていいのかっ!」

チビ悪魔「……まずいっすよ」

魔物「どうした!?」

チビ悪魔「町の連中も抵抗するような素振りを見せてるっす」

魔物「ち……恩知らずな連中め!」

魔物「どうせなら、やつらを取り押さえる壁にでもなれば役に立つものを!」

チビ悪魔「どうしましょう」

魔物「夢魔の連中も失敗したのに、これ以上戦えるかっ」

チビ悪魔「ああ~、失敗したらボーナスなしだぁ」

魔物「それだけで済みゃいいがな、くそっくそっ」

魔物「撤退するぞ、撤退ー!」

チビ悪魔「逃げるぞー! 散れ散れー!」

ドドドドドド……

戦士「はあーっ、はあーっ」

僧侶「戦士さぁん!」

戦士「……ああ、僧侶。意外と撤退が早かったな」

僧侶「多分、魔法使いさんと勇者様が、押していたから」

戦士「そうだ、勇者は? 魔法使いは?」

僧侶「そ、それが……」

勇者の攻撃! 勇者の攻撃!

勇者は誰も居ないところで剣を振っている……

戦士「勇者……!」

僧侶「あ、危なくて、私じゃ」

戦士「ちっ、バカやろっ」

戦士の攻撃! 勇者の剣を受け止めた!

戦士「勇者! もう魔物はいないぞ!」

勇者「うわああああああ」

戦士「落ち着け、どうどう、大丈夫だ!」

勇者「うぐぐぐぐぐ……」

戦士「よし、ほら、動くんじゃない」

戦士「ぎゅーってしてやるから、大丈夫だ、血まみれなんか怖くない……」

勇者「ううううぅぅ」

戦士「……よしよし」

戦士「よくやったな。お前はよくやったよ」ぎゅーっ

勇者「うう……」

戦士「……」

僧侶「あのう」

戦士「な、なんだ!?」

僧侶「魔法使いさんが、危険な状態なんです!」

戦士「なんだって」

僧侶「すでに魔物の攻撃をかなり受けていたみたいで……」

戦士「どれ……」

僧侶「回復呪文はかけたんですが、すでに流れた出血が」

戦士「うっ……! もろに受けたな、これは」

戦士「ジジイが、一人で戦おうとするから」

僧侶「ど、どうしましょう、私一人の回復呪文じゃ」

戦士「とにかく、宿に運ぼう」

僧侶「大丈夫でしょうか」

戦士「まさか、町の近くでテントを張って野宿するわけにもいくまい」

僧侶「でも、この町の人は」

戦士「……私が見張りをやる。とにかく多少なりとも安静にできる場所がいい」

宿屋。

娘「み、みなさん」

戦士「もう、魔物はいないぞ」

娘「そ、そうですかぁ~……」

僧侶「あの、宿に怪我人を運ばせてもらっても良いですか!? 一刻を争いますので!」

娘「は、はいぃ」

僧侶「回復呪文じゃ足りません、水と、包帯、なければシーツを貸してください!」

娘「わ、わ、わかりましたぁ!」パタパタ

戦士「僧侶」

僧侶「戦士さんは、二人をベッドまで運んでくださいね!」

戦士「分かった。他に何か必要なものは」

僧侶「魔法使いさんが危険です、考えたんですが、蘇生呪文を使いますので」

僧侶「ただし、成功率が低いので、その……」

戦士「分かった。魔法水を持ってこよう」

僧侶「お願いします!」

そして、夜が明けた――

魔法使い「……」

僧侶「クー、スー」

戦士「ヌグ、ぐぅぅぅ」

魔法使い「……」

娘「……スピー」

魔法使い「……なんじゃ、まだ生きとったか」

魔法使い「やはり女の子に囲まれて起きる目覚めは良いのう」

魔法使い「……」

魔法使い「勇者がおらんようじゃな」

戦士「ん……」

魔法使い「おはようさん」

戦士「んー……あ、お、まえ」

魔法使い「よだれついとるぞ」

戦士「ジジイ! 目が覚めたんなら言え!」

魔法使い「今、起きたばかりじゃわい。うるさいのう」

戦士「痛みはあるか」

魔法使い「まったく動く気になれん。口は回るがの」

魔法使い「ああー、女の子の尻を触ったら回復するかもしれんのう」

戦士「そんだけ喋れるなら、大丈夫だろう」

魔法使い「ほっほ」

戦士「……僧侶に感謝しろよ。慣れない蘇生呪文をかけたんだから」

魔法使い「老い先短いジジイにありがたいことじゃ」

戦士「……」

魔法使い「すまんな。本気で恩に着る」

戦士「ちゃんと僧侶にも言えよ」

魔法使い「わかっとるわかっとる」

魔法使い「で、勇者は?」

戦士「……」

戦士「向こうの端っこのベッドにいる」

魔法使い「なに、あんな隅にいたんかい」

魔法使い「おうい、勇者よ。昨日は助かったわい」

勇者「……」ガタガタガタ

魔法使い「……なんじゃ?」

戦士「いや、傷は決して浅くはなかったが、回復呪文も効いたし……」

戦士「ただ、夜中からずっとそうして震えているんだ……」

僧侶「……あ、お、じいさん」

魔法使い「おう、僧侶ちゃん。昨日は頑張ったみたいじゃの」

僧侶「いえ、私は……不覚を取って眠らされてしまいましたし」

戦士「うっ、それは、私も……」

魔法使い「情けないのう」

戦士「そういうお前も、苦戦していたじゃないか」

魔法使い「うっかり魔封じ食らったんじゃ。テヘペロ」

戦士「ふん! 魔王の居城も近いのに、油断し過ぎていた」

僧侶「うう……面目ないです……」

魔法使い「さて、ここが魔物を呼び込む町とわかれば、とっととおさらばしたいところじゃがな……」

戦士「……勇者!」

勇者「……」ガタガタガタ

魔法使い「どうしたっちゅうんじゃい」

僧侶「そ、それがですねぇ」

魔法使い「なるほど。夢魔に悪夢を見せられたと」

僧侶「わ、私は、皆さんに置いてかれる夢を見まして」

戦士「……」

魔法使い「戦士ちゃんは何を見せられたのかのう」

戦士「覚えてない!」

魔法使い「じゃが、勇者があんな振動物になったのも、その夢のせいじゃろ」

魔法使い「それぞれどんなものを見せられたか、知らんと」

戦士「わ、笑うなよ」

魔法使い「はよ」

戦士「……兄に」

魔法使い「ふむふむ」

戦士「兄に突き放される夢だ! はい、言ったぞ!」

魔法使い「戦士はブラコンだったんじゃな」

戦士「うるさい!」

僧侶「あの……すみません、私、さっきのは嘘でして」

魔法使い「ほう?」

戦士「な、なんだと。聖職者のくせに」

僧侶「うっ、す、すみません……」

魔法使い「はよはよ」

僧侶「あああの、この事は何度も神に告白したことなのですが、人に話したことはなくてですね」

戦士「……言い難いことなのか」

僧侶「……すー、はー」

僧侶「そ、うです」

僧侶「私、小さい頃から修道院にいまして……」

戦士「うん」

僧侶「……」

僧侶「よくいじめてきた子を、町の外に出た時、置き去りにしたんです……」

魔法使い「なるほど」

戦士「えっと……それが、悪夢なのか?」

僧侶「……」

僧侶「それで、そのことでこっぴどく叱られましてね!」

僧侶「私、もう、世界を救うような人間にならなきゃ、もうこれはダメなんじゃないかっていう!」

僧侶「その、叱られてる時の悪夢が、わーって!」

魔法使い「分かった分かった。十分じゃ」

僧侶「そ、そうですか?」

魔法使い「要するに、トラウマになっている過去の出来事を、悪夢として呼び起こされたんじゃな」

魔法使い「勇者の場合は、それが極端に操られたに違いない。だから、爆発した」

戦士「……それで、あんな風に暴走したのか」

僧侶「すごかったですよね……」

魔法使い「その後遺症がひどいんじゃろう」

戦士「つまり、その、どうすればいいんだ」

魔法使い「しばらく待ってみるしかないんじゃないのか」

僧侶「そんな! ここまで来て!」

魔法使い「そうは言ってものう、わしゃ勇者のトラウマなんぞ知らんし」

戦士「お前、確か父親と親交があったんだろ、何か知らないのか」

魔法使い「……知らんな」

戦士「何か手がかりになるようなことでもいいから」

魔法使い「それに、知ってどうする? 勇者のトラウマをわしらがほじくり返して、さあ、すぐ目の前にラスボスだ、早く乗り越えろ、と声をかけるのか?」

僧侶「そんなこと!」

戦士「だが、ここに長居はできまい」

僧侶「そうですよ! 魔物と仲良くしてる町で、私達が……あ」

娘「……」

娘「あのぅ~、私のことなら、気になさらないでぇ~」

魔法使い「そうじゃな。気にしても仕方あるまい」

戦士「……いずれにせよ、長居できないのは変わりないだろう」

魔法使い「そうじゃな」

僧侶「う、うう、そうですか」

魔法使い「……」

戦士「……」

僧侶「……」

魔法使い「ここいらが潮時かもしれんな」

戦士「な、なに」

僧侶「な、なんですか!?」

魔法使い「ここでパーティーは解散するかいなっちゅうことじゃ」

戦士「なぜだ?」

魔法使い「ちょっと考えれば分かるじゃろう」

魔法使い「敵方は、明らかにこちらを調査しとる」

魔法使い「指揮系統がうまくいかなかったから失敗したんじゃろうが、もしわしが町の人も巻き添える気がなかったら、まず全滅しとった」

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