勇者「パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」 2/16

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勇者「僧侶、武器屋ってそういうもんなの?」ヒソヒソ

僧侶「そういうものみたいですわね」ヒソヒソ

武器屋「おい?」

勇者「あ、ああ、ごめん」

武器屋「それにしても……」

武器屋「この数はすごいな」 どっちゃり

勇者「売り時がわからなかったからなぁ」

武器屋「少し時間がかかるがいいか? 俺もこの量の買い取りは初めてだから」

勇者「おう。その間に武器を見てるよ」

僧侶(き、きた!)

僧侶「あのぉ、勇者様」

勇者「お、炎の剣かー、戦士によさそうだな」

僧侶「勇者様!」

勇者「は、はい?」

僧侶「そろそろ、勇者様も、武器を買い替えたほうがいいと思います!」

勇者「え、いいよ俺は」

僧侶「この先、魔物も手強くなってきますし」

勇者「でも、俺は戦士ほど剣の腕が……」

僧侶「少しでも、良い武器に切り替えたほうが懸命です!」

勇者「そーは言うけどね……」

僧侶「勇者様は、防具も私達優先で買われるじゃないですか」

勇者「魔法使いも僧侶も防御が低いんだ。重視するのは当然だろ」

僧侶「と、とにかくですね!」

武器屋「……武器の買い替えかい?」

勇者「ああ、いや」

僧侶「ぜひお願いします! 勇者様にぴったりのを!」

武器屋「そんなら、まず手持ちの武器を見せてみな」

僧侶「はい! はい!」グイッ

勇者「お、おい、僧侶」

武器屋「ふーむ、いやあ、こいつはひどいな」

武器屋「刃がボロボロじゃないか。これならどれに替えてもマシだな」

勇者「俺は、大して強くないからいいんだよ」

武器屋「そうは言うがな。物に引っ張られて強くなることもある」

僧侶「そうですよ!」

武器屋「錆びた包丁を使えば、かえって怪我するってこともある」

僧侶「そのとおり!」

武器屋「……あんたのお仲間はなんなんだ?」

勇者「気にせんでくれ。あれでも普段より落ち着いているくらいだ」

武器屋「いずれにしても、この状態なら引き取るのに金をいただくところだが、今ならただで引き取ろう」

勇者「うーん」

僧侶「ありがたい申し出ですよ! ね、ね」

武器屋「で、俺が代わりにオススメするのはこいつだ」

勇者「普通の剣だな」

武器屋「いや、そこそこ軽くてかなり丈夫な素材と、ちょいと特殊な製法でできている」

勇者「はぁ」

武器屋「切れ味より、壊れにくさ、扱いやすさを重視したつくりだが、何しろ地味で不格好だから、買い手がつかなくてな」

武器屋「手間暇自体はかかってるから、一万ほどなんだが……」

勇者「うおっ、けっこうするな」

武器屋「見たところ、長く、それからけっこう激しい戦闘をするんだろ? あんた向きだとは思うぜ」

僧侶「い、いいじゃないですか、勇者様!」

武器屋「買い取りの価格と相殺して見積もり出しとくから、もってくならもってけ」

勇者「……概算いくらになる?」

武器屋「……このくらいかな」

勇者「……ふむ」

勇者「そうだな。そろそろ」

僧侶(やった!)

武器屋「ほれ、さや袋。ちゃんと装備しておけ」

勇者「おう。すごいなこれ」ニギ

武器屋「なんでだ?」

勇者「新しい武器なのに、すげー馴染む」

僧侶「よかったです~、勇者様ぁ!」

勇者「お、おう」

武器屋「まだ、見積もりには時間がかかるから、昼過ぎにもう一度来てくれや」

勇者「そーだな、戦士のは本人がいないとしょうがないだろうし」

僧侶「ですね、ちょっとお散歩に行きましょう」

カランカラン。

武器屋「……あれが勇者ってやつか。オーラのなさそうな」

武器屋「……」

武器屋「しかし、あの男、使い込んでたし、本当なんだろうな」

武器屋「銅の剣でこの街までやってくるってんだから」

練兵場。

戦士「はぁっ!」 がいん!

兵士A「ぬおっ」

戦士「せやっ!」 だぁん!

兵士B「ぐわっ」

戦士「……これで終わりか」

兵士長「おお、おお。お前ら、だらしがないぞ」

兵士長「女だと思って手加減してるんじゃないだろうな」

兵士A「へ、へへ」

兵士B「それは、そのう……」

戦士(女だと思って手加減してくれるんだから、楽勝だな)

戦士(魔物はそういうわけにもいかないし)

戦士「いや、さすがにお強いですね。武器も良い物をもってらっしゃる」

兵士長「う、うむ」

戦士「もしよろしければ、兵士長殿もお手合わせは」

兵士長「私は女人を斬る趣味はないのでな」

戦士「そうですか」ニコ

戦士「ではこれで失礼します。勇者が待っておりますので」

兵士長「お、おお、あの父上殿の息子か」

戦士「ええ。強いですよ」

兵士長「それはそれは。手合わせしてみたかったな」

戦士「まあ、まだ滞在する予定ですし、機会があれば」

兵士長「そうか、うむ。そうか」

戦士「では」

カッカッカッ……

戦士(……魔王の居城に近いとはいえ、ろくな相手がいない。兵よりも、城壁や魔法によるものかな)

魔法使い「うおーい、戦士や」

戦士「ジジイ……早いじゃない」

魔法使い「ダメじゃダメじゃ。あんな婆さんと話す気にはなれんかったわい」

戦士「そりゃ、高名な魔法学者と言ったらねぇ」

魔法使い「おかしいじゃろ? 女魔法使いといえば、若い小娘ぷにぷにぴっちぴちであるべきじゃ」

戦士「知らないわよ……」

魔法使い「学者つーても、わしが若い頃に書いた研究をちょいと複雑にした程度じゃったし」

戦士「あ、そう」

魔法使い「こりゃもう、戦士の尻で埋め合わせをするしかないのう」

戦士「おい」

魔法使い「冗談じゃよ、いい時間じゃから昼飯にしようかの」

戦士(ウェイトレス触りに行く気だな……)

広場。

勇者「ん、そろそろお昼かな」

僧侶「うふふ」

勇者「……なんなんだ、さっきから」

僧侶「え!? いや、その、新しい装備ってなんだかいいですよね」

勇者「ん、手に馴染んでるせいか、新品感がないんだよな」

僧侶「少なくとも、私はうれしいですよ!」

勇者「そういうもんなの?」

僧侶「そういうものです!」

勇者「……僧侶の武器でもないんだけどな」

僧侶「いいんです!」

勇者「……防具買いに行こうか」

僧侶「は、はい!」

男戦士「……お」

武闘家「かわいい子がいるな」

男戦士「なぁ、お姉さん」

武闘家「お昼でも一緒に食べないか?」

僧侶「だからですね、年経た武器でも、新たな使い手が持てば、神のですね」

勇者「あーうんうん」

男戦士「おい、お前ら」

武闘家「ちょーっとストップ!」

僧侶「なんですか?」

勇者「うわ」

男戦士「ちょっと、君、そろそろお腹すいてきたよね」

僧侶「はあ」

武闘家「俺らとさあ、一緒に食べようぜ。冒険者同士の交流をさ」

僧侶「お断りします! パーティーがいますので」キュッ

勇者「お……」

武闘家「いやいや、そんな弱そうなやつよりも、俺たちの方が楽しいぜ?」

男戦士「それとも、あれかな。荷物持ちくんなのかな、彼は」

勇者「……」

僧侶「何を言いますか! この方は勇者様なのですよ!」

男戦士「勇者……?」

武闘家「こいつが……?」

「ぷっく……」

ぎゃはははははは!

勇者「……うぜ」

男戦士「勘弁してくれよ、こんなオーラもなさそうなやつが!」

武闘家「勇者様! ハライテー」

僧侶「まったく愚かな人たちですね!」

僧侶「顔面からして神のご加護を受けられていないくせに!」

ピタッ。

勇者(うわあ)

男戦士「おい、おねーちゃん」

武闘家「誰がなんだって?」

僧侶「あなた方は悪魔に呪われてそうな顔面をしてらっしゃいますね、と言っているのです!」

男戦士「面白いことを言うな」

武闘家「こりゃ、顔面の呪いを払ってもらわんといけんな、体で」

勇者「ぶふぉっ」

男戦士「てめぇも笑ってんじゃねぇよ!」

武闘家「ぶっ潰してやる!」

勇者「い、いや俺は、だな」

戦士「何してんの」

勇者「戦士!」

僧侶「ええ、呪いをかけられた方を解呪していたところです」

勇者(悪化させてただろう……)

戦士「はいはい」

男戦士「お、なんだよ、また女か」

戦士「連れが何か」

武闘家「ちょうどいい、まとめて……」

戦士「まとめて、なに?」

魔法使い「ほっほ、手合わせしたいということじゃないかね」

戦士「そうなんだ。力が有り余っているし、相手になってやるわよ」チャキ

勇者「おい! 町内だから、ここ!」

男戦士「や、やってやろうか!」

勇者「お前も乗るな!」

酒場。

勇者「あー、びっくりした」

戦士「せっかくだから、格の違いを見せつけてやればよかったのに」

僧侶「そうです! あんな失礼な人達!」

魔法使い「昼間に酒場に来ても面白くないのう」

勇者「昼飯食うだけなんだからいいだろ……」

マスター嫁「いらっしゃいませ~」

マスター「本当に来たのか」

勇者「うるさいな、とりあえず定食4つ」

戦士「酒」

魔法使い「わしもじゃ」

僧侶「お水を!」

勇者「お前ら……」

勇者「ちょっと、トイレ行ってくるわ」

マスター「店出て、右手」

勇者「へいへい」

戦士「……」

魔法使い「……ふむ」

僧侶「……行っちゃいましたね」

戦士「よし、それじゃあ、僧侶」

僧侶「ばっちりです! やっと武器を買い換えさせました!」

戦士「よおしっ!」

魔法使い「やっとかい……」

僧侶「武器屋の店主さんの一言が効いたみたいですね。錆びた包丁の方が危険だとかなんとか」

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