勇者「パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」 16/16

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戦士「そうだ。その彼女だ」

元仲間「くそっ、まだ生きてやがったのか!」

戦士「……ちっ」

戦士「私はな、竜の巣退治でも乗り越えてきた間柄だ。まさかと思っていたよ」

戦士「だが、金目当てに仲間を売る、真性のクズだとはな」

元仲間「へ……へっ!」

元仲間「そんなもの、お前の大事な勇者様だって似たようなもんだろうが!」

元仲間「知ってるぜ? お前らが各国にいくらせしめてたか」

元仲間「もちろん、そんなに表沙汰にはなってないが、結局カネだろ、お前らも!」

戦士「勇者はな、何か理由がないと動けないんだよ」

元仲間「はあ!?」

戦士「あいつはな、富と名声だの、親父を乗り越えるためだの、自分なりに理由をつくらないとダメだったんだ」

戦士「あいつは、結局、他人のためにしか戦ってない」

戦士「すぐ自分で抱え込んで、自分ばかり犠牲にするんだ」

戦士「お前みたいに他人を犠牲にするやつとは違うんだよ!」チャキ

元仲間「うっ」

戦士「墓前だ。斬るのはやめてやる」

戦士「だが、これ以上つきまとうなら……」

元仲間「……ち、ちっ」

戦士「他の連中にも近寄るなよ。今度こそ、私がやつの盾になるつもりだから」

元仲間「ふ、ふん、どうせ、誰も魔王を倒したことなんか喜んじゃいない」

元仲間「どうせすぐ忘れて、不満を言い始める」

戦士「結構だな。不満が言えるだけ健全だ」

元仲間「こ、後悔するなよ!」

戦士「後悔するのはお前のほうだろ」

元仲間「な、なんだと」

戦士「麻薬の栽培を行なっていた貴族が処刑されてな」

戦士「密売を頼んだ時の契約書が出てきたそうだ」

元仲間「うぐっ」

戦士「お前のサイン入りのも入ってるそうだ」

元仲間「ち、ちくしょう!」ダダダッ

戦士「……ふん」

教会。

神父「僧侶よ」

僧侶「はい! なんでしょう、神父様!」

神父「こ、声が大きいですね」

僧侶「えへへー、元気が私の取り柄ですから!!」

神父「い、いえ、それは良いのですが」

僧侶「何かあったんですか?」

神父「ええ、まあ、なんと言いますか……」

僧侶「あ、今日の晩御飯についてですかね!?」

神父「ち、違いますよ」

僧侶「買い物なら、私、準備しますよ!」

神父「そ、そうではなくてですね……」

神父「僧侶よ。聞きなさい」

僧侶「はい?」

神父「お前にはこの教会を出てもらうかもしれません」

僧侶「ええー!?」

神父(声が大きい)

僧侶「……なんて、やっぱりそうですよね……」

神父「分かっていたのですか」

神父「いくら教会に所属しているとはいえ、お前は世界を救った英雄です」

僧侶「そんなことはないんですけど……」

神父「問題なのは、それを妬む人がいるということです。同じ、聖職者でありながら」

僧侶「私、間違っていたんでしょうか? 報酬は寄附に回しました」

僧侶「まだ、一人で布教を行うほどの資格はありませんから、教会所属は当然ですし……」

神父「いいえ、お前は何も間違っておりません」

僧侶「だったら、どうしてなんですか!」

神父「それは……それは、まだ我々も未熟だからです」

僧侶「おかしいですよ! 非がある方が誤りを認めるべきではないでしょうか!」

神父「……」

僧侶「……いえ、神父様に言っても仕方ないです。周りにも直接言っているのですが」

神父「私も手は尽くしているのですが」

神父「なぜ、信仰を持つ者同士ですらこのような……」

僧侶「それより、私は、勇者様の風評の方が気になるんです」

神父「勇者、あの若者ですか」

僧侶「はい、あの、神父様も心配なさっていた」

神父「彼は、彼もまた、悩み苦しむ旅人でした」

神父「魔王を倒したと聞き、お前と一緒に帰ってきた時の、彼の晴れやかな顔は忘れられません」

僧侶「そうですよね! あの時はびっくりしちゃって、私も!!」

神父「そ、僧侶、声が大きいですよ」

僧侶「は、すみません!」

神父「コホン」

神父「……ですが、最近では、悪人との付き合いがあっただの」

僧侶「勇者様は、清濁併せ呑む人ではありましたから……」

僧侶「でも! 魔王を倒せたのは、勇者様をおいて他にはいませんでした!」

神父「うむ、彼の功績によって、多くの子どもたちが救われたことは間違いありません」

僧侶「神父様、私は悔しいです……!」

神父「う、うむ」

僧侶「もし、神父様が、やはり教会を出て行けとおっしゃるなら、私はそうします」

僧侶「やっぱり、勇者様の下で、神の御意思をまっとうしたい」

神父「……それは」

僧侶「私に、命じていただければ!」

神父「……僧侶よ。指導部から、お前を破門すべきでは、との意見が出ているのです」

僧侶「は、もん!?」

神父「破門です。つまり、お前が、神に並べて、勇者を信仰しているのではないか、と」

僧侶「そ、それは、信仰なんかじゃありませんー!」カァ

神父「う、うむ?」

僧侶「勇者様を、その、その……とにかく、勇者様を思う気持ちは、また、別ですから!」

神父「ふふっ」

僧侶「もうー! 笑わないでくださいよ!!!」

神父「お前の気持ちはよくわかりました」

僧侶「……むーっ」

神父「……ひょっとして、我慢していたのですか?」

僧侶「へ、へ?」

神父「勇者の下で暮らしたい、と思っていたのではないですか」

僧侶「そ、そんなこと! ……チョット。でも、私にとってはですね!」

神父「ふふっ、良いのですよ」

神父「自らの心に素直に向き合わねば、真の信仰など得られませんよ?」

僧侶「も、もうっ!」

神父「いずれにせよ、このまま放っておくつもりもありません」

僧侶「はい……」

神父「……僧侶よ」

僧侶「はいっ!」

神父「お前が、修道院から冒険者へと出された理由は、私も聞き及んでいます」

僧侶「……はい」

神父「その時と比べれば、お前はずっと成長しました」

僧侶「そうでしょうか?」

神父「少なくとも、他人を陥れるような人間ではないはずです」

僧侶「……それは」

神父「罪は消えません。けれど、お前が示した愛もまた、消えないものです」

僧侶「わ、私はその……!」

神父「ふむ。これを否定するとなれば、また一から学ぶ必要がありますよ?」

僧侶「あう……」

神父「……私はお前の愛を信じましょう。そして、それが指し示した光を、絶やさぬようにしましょう」

僧侶「は、はいっ!」

勇者の家。

ドンドン。

勇者「……」

ドンドン。

勇者「……調子悪いから! 帰ってくれないか!」

勇者「……」

勇者「はあーっ」

勇者「……」

勇者「親父と比べて、人を散々馬鹿にしたような目で見てたくせに……」

勇者「手のひらを返されると、こうも不愉快なものかな……」

勇者「……」

勇者「みんな、どうしてるかな……」

勇者「あー……」

ドンドン。ドンドン。

勇者「……ちっ」

勇者「うるせぇぞっ!」ガチャッ

魔法使い「わしじゃよー」

勇者「うおおわっ!?」

魔法使い「ほい、おじゃまするぞい」

勇者「ま、魔法使い!? お前、墓参りがどうとかって」

魔法使い「そんなもん、何週間前だと思ってるんじゃ」

魔法使い「戦士や僧侶と違って、わしゃ移動呪文も使えるしの」

勇者「いや、けど、なに?」

魔法使い「どうせ、家の中で腐っとると聞いてな」

勇者「いや、そうだけどよ……」

魔法使い「うひゃひゃ、エッチなダンスショーにどうかと思ってな」

勇者「……マジで言ってんのか?」

魔法使い「マジじゃよ」

勇者「そこは嘘でいいだろ」

魔法使い「で、本気で腐っとるなら、説明するが」

勇者「あー、例の気になること、か?」

魔法使い「大当たりじゃ。さすがにそこまでは抜けとらんかったか」

勇者「……なんだよ」

魔法使い「お前さんも気にしとったろう。魔王城を破壊したあの魔物」

勇者「ああ、そうだな」

魔法使い「盗賊どもががれきの山をずっと漁っててな」

勇者「おお……そういえば」

親分『まあ、魔王を倒すだろうとは思ってたけどよ、まさか城ごと壊すかね……』

勇者「とかなんとか」

魔法使い「うむ、で、どうも彼奴らが調べたところによると、あの下に大穴が空いてるそうでな」

勇者「……よく沈まなかったな」

魔法使い「例の機械竜がずっと掘ってて、開けちまった、のかもしれん」

勇者「嫌な展開だな」

魔法使い「で、どうする?」

勇者「どうするって、なんだよ。悪いが俺は土木工事屋じゃあないぜ」

魔法使い「そうじゃなくてな」

勇者「……そうだな」

勇者「あの魔物がわざわざ姿を現した理由は考えていたんだが……」

勇者「要するに、何か重要なものを隠すために、囮になったんだと思っていた」

勇者「それが、その大穴だってのか?」

魔法使い「かもしれんの。罠かもしれんが」

勇者「……かもしれない、か」

魔法使い「暇なら劇場に寄るついでに、そっちにも寄ってみんか?」

勇者「そっちがついでかよ」

魔法使い「どうせ気晴らしもできとらんのじゃろ」

勇者「……ああ」

勇者「なんつーか、その、魔王を倒して、おしまいってつもりではいたんだけど」

勇者「そうじゃないんだな。みんな、結局、態度が変わるだけで、前と同じだ」

魔法使い「それが分かっただけ、大したもんじゃ」

勇者「なんだよ、急に褒めて」

魔法使い「ほっほ」

勇者「……正直、しんどい」

魔法使い「勇者父もそう思ってたのかもな」

勇者「……そうかな」

魔法使い「さて。で、お前さんはどうしたいんじゃ」

勇者「実は、この家はもう譲渡することに決めてたんだ」

勇者「この間こもってたのは、財産を整理するのに書類を作っててな」

魔法使い「ほほう」

勇者「俺もさ、親父や母さんに、こだわりすぎてたかもしれなくて……その」

勇者「ただ、それ以上は、何をやったらいいか、分からなくて」

魔法使い「ほっほ、ええんじゃ、そんなもの」

魔法使い「たとえどれほど知識を蓄えても、道を見失うことは多々あることでな」

勇者「……魔法使いもか?」

魔法使い「血迷わなければ、お前さんについて魔王を倒しに行こうなんて思わんしな」

勇者「……」

魔法使い「何じゃ、どう思い出しても、会ったばかりのお前さんは頼りなかったぞ?」

勇者「うるせえな」

魔法使い「ほっほ」

勇者「そうと決まれば、もう旅に出る準備はしてあるんだ。どうせ出ていくと思って」

魔法使い「そりゃ都合がいい」

勇者「しっかし、ジジイと二人旅ってのも色気がないな」

魔法使い「何を言ってる。外に戦士と僧侶がおるぞ」

勇者「え?」

魔法使い「じゃからな、戦士も僧侶も、一時的に戻っただけで、またお前さんと一緒に旅したいと思ってたのよ」

勇者「……」

魔法使い「どうせ、故郷に帰ると聞いて、これでお別れだと勘違いしとったろ」

勇者「いや、だってさ……」

魔法使い「あの時も暗い顔しとったが、まさかそれで泣きそうになってたのか?」

勇者「……いや、その」

魔法使い「甘いのう、勇者は」

勇者「……うるさいな」

魔法使い「うひゃひゃ」

勇者「まったく、どいつもこいつも」

魔法使い「ま、わしもどこまでついていけるか分からんしのう」

勇者「ふん、死んだら適当に埋めてやるよ」

魔法使い「期待しとこうかのう」

戦士「……おい、勇者は説得できたのか」ヒョイ

僧侶「勇者様、僧侶ですよー……!」ヒョイ

勇者「お、おう」

戦士「どうもまだ冒険できる余地は残ってそうだからな」

僧侶「こ、今度は、私が勇者様をお助けする番ですよっ!」

勇者「……うん」

勇者「……ああ、ちくしょう」

勇者「やっぱり、パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」

おしまい

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