勇者「パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」 8/16

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僧侶「その間、えっと、これかな、水筒、出しますから」

勇者「ありがとう」

僧侶「えへへ、そんなに褒めなくてもいいんですよ!」

勇者「……」

勇者「僧侶、下がっていてって言ったのは、その、俺も見えてなかったかもしれない」

勇者「正直なところ……最後は僧侶に回復してもらえればいい、と思って、きちんと連携を取ることを考えてなかった」

僧侶「無茶は、ダメなんですよ」

勇者「うん」

寂れた村。

村人A「あんれ、勇者父さんでねぇか」

勇者「え?」

村人B「ホントだ、あんた、勇者父さんだろ」

戦士「ああ、いや、彼はその人の息子さんで……」

村人A「息子さんだったかー! いや、よく似てんだなぁ」

勇者「あ、はぁ……」

村人B「ゆっくりしてってぇ。勇者父さんも、ここにしばらくいたからなぁ」

勇者「そうですか……」

僧侶「ほうほう、ここには勇者様のお父様が」

魔法使い「……ふむ」

戦士「どうする、勇者?」

勇者「次の町まで一気に進むつもりだったけど……」

僧侶「ゆっくりしていきましょうよ、ね!?」

魔法使い「わしは反対じゃな」

僧侶「なんでですかー!」

魔法使い「こんな寂れた村じゃ、かわいい女の子がおらんじゃろ」

戦士「そんな理由かよ……」

勇者「あの娘なんかどうだ?」

村娘「……やだ、お父さん、勇者父さんと息子さん間違えるだなんて」

村人A「はっはっは、だって似てんだもんよぉ」

魔法使い「確かにかわいいの。胸も大きいし」

僧侶「殴られたいですか?」ニッコリ

魔法使い「でも、ほれ、わしはわきまえとる方でな、素人には手を出さんのよ」

魔法使い「ちゃんとプロにお願いする。それが男としての礼儀というもんじゃ」

戦士「ジジイ、こないだもウェイトレスの尻を触ってただろ」

魔法使い「ウェイトレスは尻を触られるのも仕事のうちじゃ」

勇者「尻がすり減るぞ?」

僧侶「勇者様、ツッコミがおかしいですよ!?」

勇者「ま、いいんじゃないのか。無理して急がなくても」

僧侶「あ、で、でしたら、武器の買い替えに……」

勇者「ああ、じゃあ、一緒に見に行こうか」

戦士「勇者。お前もいい加減……」

勇者「あ? 戦士も見に行く?」

戦士「いや、いい。というか、こんな村では良い武器はないぞ。道具類を揃えるくらいにしておけ」

勇者「言われてみればそうだな」

魔法使い「お前さんがいいなら、わしも適当にうろつくことにするかの」

戦士「徘徊老人」

魔法使い「うひゃひゃ、ただの徘徊ではないぞ」

戦士「……勇者、このジジイが妙なことをしないように、ちょっと見張る」

勇者「別に構わんが」

僧侶「……じゃあ、行きましょう!」

村の中。

僧侶「うう、なんだか、デートみたいですね~!」

勇者「んー?」

僧侶「デートですよ、デート!」

僧侶「なんか言ってて恥ずかしくなって来ましたけど……」

勇者「女の子と二人で歩いてたらデートなのか?」

僧侶「そ、そうですよ!」

勇者「……戦士とも何度もデートしてることになんのかな」

僧侶「あ、あのー」

勇者「ん?」

僧侶「もう、二人でいるときは他の女の子の話はNGですよ!」

勇者「そうか。あ、肉まんじゅうでも買う?」

僧侶「あー、無駄遣いはダメなんですよ!」

勇者「僧侶は説教臭いなぁ」

僧侶「む。私は聖職者ですから、神様の御心に沿う教えをですね」

勇者「聞こえない」

村人A「おお、勇者父の息子さんでねぇか」

勇者「あ、はい」

村人A「勇者父さんはすごい良い人だったァ」

村人A「傷だらけでここにたどり着いたんだけど、タダで泊まってけって言ったら、えらい恐縮してな」

勇者「……」

僧侶「あ、あー、あの、それじゃ、宿屋は……?」

村人A「ねぇな。うちに泊まってけばええよ」

僧侶「そ、そうですか! お願いします!」

村人A「そんでな、傷が治ってからすごくてなぁ。土が良くないつったら、開墾してくれて」

村人A「肥料も、良い作り方をいろいろ教えてくれてなぁ」

村人A「この辺、魔物が強くなってきてな、一人で倒してきてな」

村人A「怪我もあったし、無茶すんでねぇと思ったんだが、いや、ホント強い人だった」

勇者「……そうですか」

僧侶「あのー、私達、そろそろ……」

村人A「ん。後でお仲間ともども連れてき」

僧侶「は、はーい」

村娘「あ、勇者父さんの息子さん」

勇者「ああ、はい」

村娘「お父さんが失礼なことばっかり、すみません」

勇者「いや、えーと」

僧侶「あの! 村に宿がないというので、今日は一晩お借りすることになりますのでっ!」

村娘「あ、そうなんですか」

村娘「えっと、勇者父の息子さんの……彼女さん?」

僧侶「ぱ、パーティーです!」

村娘「ぱーてぃー? 私、難しい言葉はちょっと……」

僧侶「その、冒険仲間というわけです」

村娘「はぁ……」

村娘「でも、勇者父の息子さんもかっこいいですね」

村娘「私、親子揃ってファンになっちゃうかも」

勇者「そうですか」

村娘「私、勇者父さんに助けられて……ほら、向こうの方の森、けっこう良い材木があるんですけど」

村娘「そこで魔物に襲われちゃって……」

勇者「……」

村娘「もう、私を抱きかかえて、さっと魔物を斬りつけて!」

村娘「その時、一人で出歩いちゃダメだって、怒られちゃったんですけどね」

村娘「結構長い間、この村にいてくれたんですけど、家族もいるしって言って帰っちゃってー……」

僧侶「あーのー!」

村娘「は、はい?」

僧侶「また、お邪魔した時にたっぷり聞きますから、後ででもいいですか?」

村娘「え、ええ」

僧侶「あとは、道具屋さんの場所をですね……」

僧侶「な、なんていうか、失礼な人たちばっかりですね!」

僧侶「そりゃ、勇者様のお父様も、この村の英雄的な存在だったのかもしれませんけど」

僧侶「勇者様だって、冠を取り返したり、エルフの子どもを助けたり……魔物の塔を解放したり」

僧侶「その、いろいろ」

勇者「そうだね。でも、親父は一人で戦ってたから」

僧侶「そ、それだって、どうかと思いますね! 私は」

僧侶「ほ、ほら、私だって、勇者様と一緒じゃなかったら、全然、こんな」

勇者「うん……」

僧侶「あのですね~、私はいっぱい、勇者様に感謝してますよ」

僧侶「だからですね、全然、気にすることなくて、その……」

僧侶「た、助け合うのが当然なんですよ! 一人でできるばっかりじゃなくて」

勇者「うん。俺も、戦士や魔法使いや、それに、僧侶がいなかったら、ここまで来れなかったよ」

僧侶「そ、そう、ですよね!」

勇者「うん。ありがとう、これからも、よろしく」

僧侶「はい! よろしくお願いします!」

勇者「あ、そうだ。ちょっとトイレでも借りてくるよ」

僧侶「え、ええと、はい」

勇者「ちょっと、行ってくる」タッタッタ

勇者(……ここまで来れたのは、みんなのおかげだ)

勇者(俺が、一番不安材料なんだ)

勇者(前に出て、盾になるくらいしか、できない)

勇者(でも、指揮官役がそんなことを繰り返してちゃ、本当はダメなんだ)

勇者「結局……」

勇者「俺が、パーティーの中で一番弱いんだ……」

僧侶「勇者様……」

僧侶編、おしまい。

これで、冒頭シーンに戻る感じです。

今日はこれにて。

側近「魔王様」

魔王「どうした」

側近「またしても、やられました。魔王城東の砦が落とされました」

魔王「なんだと!? あそこには強力な角悪魔がいたはずだ」

側近「報告によれば、戦死と」

魔王「うむむ……人間ごときにやられるやつではなかったはずだが」

側近「もうすでに、飛龍も、大妖樹も、巨人兵もやられました」

魔王「となれば、角悪魔も」

側近「ええ、勇者と呼ばれる連中のようです」

魔王「……まさか、小集団にやられるとは思わなんだ」

側近「他の魔物たちからも、報告が出ています」

魔王「よし、報告せよ」

側近「『倒せない』」

魔王「……」

魔王「それだけか?」

側近「『大して強くないと思っていたら、妙に手こずり、いつの間にか逆転されていた』」

魔王「油断しておったな……」

側近「『何回攻撃しても立ち上がってくる、悪夢だ』『知恵の回るやつがいる』『剣の腕の立つ奴がいる』『チビが回復役でウザい』」

魔王「ふーむ、わからんな」

側近「『飛龍様の攻撃が数十回当たったはずなのに、血だらけになっても動いている。バケモノだ』」

魔王「お前も魔物だろ」

側近「『流し斬りが完全に入ったのに……』」

魔王「ソウルスティール……まさかこの世界に使い手がおったとは……」

側近「いまのは巨人兵の遺言です」

魔王「だったら水鳥剣でもいいだろ!」

側近「ま、魔王様?」

魔王「はっ、しまった」

側近「どうなさいますか……わが軍は削られる一方です」

魔王「……ゲリラ、テロリストへは、国攻めをしても無駄だ」

側近「し、しかし」

魔王「本来、小集団を相手にする際は、警察力と国際協力が必要なのだがな」

魔王「あいにく、我々は攻める側だ。協力など期待できない」

側近「では……」

魔王「本拠地付近まで落とされた以上、例の罠を強化するしかあるまい」

側近「あの町ですか……」

魔王「人間の冒険者どもも、魔王城に侵入しようとすれば、必ず補給を要する」

魔王「どうも体力に自慢があるようだが、ならば体力勝負をしなければよいだけのことだ」

側近「なるほど……では、夢魔、淫魔の類を派遣します」

魔王「あ、待て。淫魔は私が楽しむから」

側近「おい」

町。

勇者「ここが最後の補給地になりそうだな」

僧侶「……はぁーっ、疲れましたぁ」

戦士「だが、砦もひとつ落としたし、順調に来ているんじゃないか」

勇者「そうだな……魔王の居城も近いのに、少し弱くなった気もしたが」

戦士(お前が武器を買い替えたからだよ)

魔法使い「ふむ。しかし、ここは賑やかじゃの」 ザワザワ、ガヤガヤ

僧侶「魔王の城に近いのに、ピカピカしてます」

戦士「思いっきり怪しいな」

勇者「ああ。用心していこう」

魔法使い「お、かわいいお姉ちゃんがいっぱいいるのう」

戦士「ジジイ、ここまで来て」

魔法使い「たまには仲間以外の尻も撫でたいんじゃ」スルッ

僧侶「ひゃん! やめてください!」

町人「おや、冒険者の方ですか」

勇者「はい……ここはやけに賑やかですね」

町人「ええ! 何しろここは魔王様に公認いただいた町ですから!」

戦士「魔王様?」

僧侶「こうにん?」

町人「みなさんは冒険者なので、ご存じないと思いますが、魔王様は帰属を誓えば無闇に殺したりはしないのです」

町人「そればかりか、魔界の技術と融合させて新しい町の発展も考えてくださると!」

魔法使い「魔物はおるのかのう」

町人「あ、いやぁ、さすがに冒険者の方もいらっしゃいますし、そのへんはお断りさせていただいてますが」

戦士(くっそ怪しいがな)

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