僧侶「ええ。でも、そういうのはなかったですよね?」
魔法使い「おそらく、最初に眠らせたりする罠をしかけたんじゃろ」
魔法使い「目の前で幻惑呪文をかけるのは、なかなかこれで難しいからの」
勇者「うん。でも、それは大砲をぶっ放して、まとめて破壊した」
勇者「すると、やっぱり情報が混乱すると思うんだ。まともに城を攻略する気がないと」
戦士「思わせといて、潜入だからな」
勇者「となれば、伝令の混乱をただ待つというわけにはいかない」
戦士「だったら、どうする?」
魔王「……自ら出向いてやる、というわけだ」
四人『!』
魔王「どうした、こんなところに現れたのがそんなに意外かね」
魔王「くくくはは、お前たちにとってはどこで死のうと変わりはないだろう」
勇者「……」
魔王「だが、どうも部下は弱くて役に立たん。こんな虫けらども相手に……」
勇者「みんな、構えろ!」
魔王「ちっ、話くらい聞け」
勇者「聞いて欲しいのか?」
魔王「……」
勇者「役立たずだの何だの……お前らの言うことはみんな変わらない」
勇者「『虫けら』『くだらん』の見下し発言ばっかりだ!」
魔王「ふん、そんなのは人間も同じ事だろう」
勇者「魔物どもよりはマシさ」
――魔王が襲いかかってきた!
魔王の大火球呪文!
勇者「ぐわーっ!」
魔王「はっはっは、口だけではないか!」
勇者「このやろう!」 ブン
魔王「ぬおっ!? ちょっと待て!」
魔王(くっ、おかしいぞ、こいつ! 一発ぶつけたのにいきなり攻撃に転じただと)
魔王(あと、何を背負ってんだこいつは)
戦士「勇者! 相変わらずお前は!」
僧侶「大丈夫です! 鎧の効果で軽減されてます!」
魔王「だよね」
魔法使い「ほい、こっちも火球呪文じゃ!」 ゴオオッ
魔王「おおっと」
魔法使い「効いとらんな……さすがに魔王か」
魔王「そ、そうだ、私は魔王だ」
魔王「私は魔王なのだ!」
魔王の極大爆発呪文!
勇者「ぬわーっ!」
戦士「くうっ」
僧侶「きゃあーっ」
魔法使い「魔法防御呪文」 ホワワ
勇者「いいかげんにしろ!」 ズバッ
魔王「おまえだっ」
魔王(くっ、こ、こいつなのだな……報告にあった、不死身のバケモノというのは)
魔王(だが、人の身でありながら、不死身など、ありえない)
魔王「勇者よ! 貴様は……」
勇者「僧侶、大丈夫ならみんなを回復!」
僧侶「は、はい!」
魔王「聞けよ」
魔法使い「筋力倍加呪文」 モロロ
戦士「やーっ!」 グサッ
魔王「ぐふっ」
僧侶「回復しますー!! みなさん集まって!」
魔王「させぬ!」
勇者「させる!」ギシッ
魔王「くっ、ぬっ」
勇者「くううううっ」
魔王「……勇者よ、なにゆえ私を倒そうとする?」
魔王「私を倒しても、人間たちはきっと争うに違いない!」
魔王「私を倒したところで、魔物が消えることもないのだぞ!」
勇者「復讐に決まっているだろうが!」
魔王「なんだと」
勇者「自分の親を魔物に殺されたんだ。これ以上の理由はないだろ」
魔王「くだらん、私が殺したわけでもないというのに……」
勇者「そうだな、そのとおりだ」
ガイン!
勇者「あとは富と名声かな!」
魔王「……俗物め」
勇者「高尚なあんたは、どんな理由があって人間を襲うんだ?」
魔王「仕事だからな」
勇者「は?」
魔王「いや、ふん……闇の力を世界に行き渡らせ、魔物に住み良い世界を作ることが私の目的だ」
勇者「なるほど」
戦士「納得するなっ!」
僧侶「そんな世界を人界に求めないでください!!」
魔王「なぜだ? 我らは元来、精霊どもによって貧困な世界に追いやられた種族」
魔王「つまり、被害者なのだよ」
僧侶「え、えう、それは……」
戦士「悩むなっ!」
魔王「確かに敵対して悲劇を幾度も引き起こしただろう」
魔王「だが、我らはそれを無くしていきたいとも考えているのだ」
戦士「嘘をつけっ!」
魔王「本当だとも。お前たちがめちゃくちゃにしたあの町が、まず友好の――」
魔法使い「あそこで襲いかかってきたのは魔物の方からじゃの」
魔王「……先走りがあったのは事実だ」
魔王「だが、友好関係を築くのにも、なめられてはいかんしな」
戦士「めちゃくちゃだっ!」
魔王「さっきからうるさいな、お前」
魔王の痛恨の一撃! 戦士に大ダメージ!
戦士「うわあっ」
勇者「戦士!」
戦士「うぐっ、くっ、うっ」
僧侶「か、回復しますっ」
魔王の竜巻呪文! 僧侶は吹き飛んだ!
僧侶「きゃああっ!!」
戦士「げほっ、うっ、くっ」
勇者「くそっ、こっちを狙えよ!」
魔王「……弱いやつから潰すのは定石だろうが」
魔王「いずれにしても、我らは戦いを必ずしも望んではいない……」
魔法使いは魔封じの杖を振るった! 魔王に効果はなかった……
魔法使い「……効かんか」
魔王「……ふん」 ゴスッ
魔法使い「げほっ」
魔王「……無論、抵抗する者はこうなるがな」
勇者「みんな!」
魔王「これが私の『高尚な』理由だ。納得してもらえたかね」
勇者「……」
魔王「脆いな。これ一つをとっても、本来魔物が人間どもの顔色をうかがう存在ではないことは分かるだろう」
魔王「勇者よ、どうやらお前は違うようだ。もし、お前が望むなら、富や名声もくれてやってもいいぞ」
勇者「……」
魔王「そうだ、世界の半分を、お前にくれてもいい」
魔王「無駄な争いをして、互いに傷つけあうよりその方がよほど合理的だ」
魔王「どうだ?」
勇者「……そうだな」
魔王(おっしゃ)
勇者「お前、俺の父親を知ってるか?」
魔王「な、なに?」
勇者「俺の父親も、勇者のようなことをしていたらしい。今は行方不明だが」
魔王「……そんなやつのことは知らん。どこで野垂れ死にしたか」
勇者「強い人だったよ。俺よりずっと」
魔王「何が言いたい?」
勇者「俺は、弱いんだよ」ブルッ
勇者「剣の腕は二流、魔法もダメ、勇気もない……」ガタガタ
勇者「誰も守れないし、世界だって救いたいわけじゃない」ガタガタガタ
勇者「でも、そいつが強いばっかりに、そいつの息子だからってことで期待されて冒険に出た」
勇者「お前と同じさ、魔王討伐なんざ、ただの仕事だ」
魔王「な、なんだと……」
勇者「そうだ、仕事だ」
勇者「そうでなけりゃ、こんなところまで来るものか」
勇者「とにかく、お前をぶっ倒せば、あとはどうなってもいいんだ」
勇者「そう思ってたぜ」
勇者「どいつもこいつも俺を父親と比べて、頼りないだのなんだの……」ブルブル
勇者「知ってるよ、自分が誰も守れないことくらい、弱いことくらい」ガタガタガタ
勇者「けどな」ピタ
勇者「仲間を殺されそうになって、その上バカにされたままで、誰が黙ってますかって!」
魔王「そ、それは」
魔王「実に低能な考え方で……」
勇者「点火ァ!」
勇者は背中の大砲に火をつけた! 轟音とともに、魔王が吹き飛んだ!
魔王「」
勇者「……そ、僧侶、回復!」
僧侶「ひあは、はいぃ!!」
勇者「ま、ほうつか、い、補助呪文かけて!」
魔法使い「……背中が焼けとるぞい、お前さん」
勇者「ほっとけぇ」
戦士「げーっほ、えほっ。くっそ、耐えられなかったか……」
勇者「はぁーっ、はっ、戦士、俺を盾にして攻撃しろ!」
魔王「……おのれ勇者」
勇者「第二弾、点火ァ!」
魔王「やめ」
勇者は大砲に火をつけた!
勇者「ぐうっ……!」
戦士「無茶するからだ」
僧侶「勇者様!」
勇者「回復、頼む……」
僧侶「! はいっ!」
魔法使い「小手先はなかなか通用せんのう、勇者」
勇者「……縦列隊形!」
戦士「ほ、本気か!?」
勇者「俺を先頭に据えて、戦士と僧侶を魔法使いで挟む!」
勇者「俺はもう、攻撃しかしないつもりだから」
魔法使い「後ろは任されたぞ」
僧侶「前は見ません! 回復だけしますから!!」
戦士「ああ、ちくしょう、やってやるよ!」
広間。
魔王「う、ぐ……馬鹿な真似をしおって……」ガラガラ
魔王「自爆テロまがいの……」
ドドドドドド……!
魔王「お、おい」
勇者「うあああああああっ!」
魔王「ばかよせ、まだ態勢が」
勇者の攻撃! 勇者の攻撃! 勇者の攻撃!
戦士が後ろから斧を投げつけた! 剣を投げつけた! 爆弾石を投げつけた!
魔王「やめろ、貴様ら……っ」
魔王の攻撃! 勇者はひるまずに向かってくる!
僧侶の回復呪文! 回復! 回復!
魔法使いは筋力倍加呪文を唱えた! 速度倍加呪文も唱えた!
勇者の攻撃! 勇者の攻撃! 勇者の攻撃! 勇者の攻撃!
魔王「こん」
魔王「おかしい」
魔王「ふざけ」
魔王「おのれ」
――魔王を倒した!
魔法使い「……ぜぇはぁー」
勇者「はぁーっ、はあーっ」
僧侶「ひぃ、ふう」
戦士「……終わったか?」
勇者「ああ。動かない」
僧侶「やったー!! で、いいんですよね!?」
魔法使い「うむ、まあな」
戦士「なら、とっとと脱出だ。宝は盗賊たちが片付けるんだし」
僧侶「わわわ、ふら、ふらする」
勇者「大丈夫か?」
僧侶「あ、えへへ……ありがとうございます」
魔法使い「やれやれ」
戦士「勇者。もういい加減、大砲は外しておけ」
勇者「ああ。そうだな……」