勇者「パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」 13/16

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勇者「商ちゃんは商売上手だな」

戦士(といつつ、半分は国債券で支払いとかな……)

女商人(散々粘ってたくせに、どの口が言うんだか)

女商人「それよりも、本気なの?」

勇者「何がだ」

女商人「魔王を倒す決戦なのはいいけど、その……」

勇者「ああ、ここまででいいよ」

女商人「そうじゃなくてね? 半分はその、馬車に積み替えしたけど」

勇者「そりゃ、馬車に入りきらなかったんだから、しょうがないだろ」

女商人「あんたたちも止めなさいよ。なんで馬車に積むレベルの荷物をこいつ一人に持たせるのよ」

勇者「ん?」 ずっしり

戦士「……馬並みか」ニヤ

僧侶「正直、勇者様の体の構造が知りたいです」

魔法使い「意外と何とかなったのう」

女商人「何とかなってないでしょ!? あとうまいこと言ってないわよ、戦士!」

女商人「ねぇ、本当に必要なものなの? 爆弾石大砲とか」

魔法使い「そりゃまあな」

勇者「一応、図示しておくとだな……」

親分「おう、こことここと、ここ。三ヶ所だな、でっかい魔物がいたのは」

勇者「うん。三枚の壁と化している。つまり、真正面から入るなら三連戦しなくちゃならない」

親分「周囲から攻めるのは無理だぜ……自然の要害と化している」

親分「俺達みたいな潜入のプロでも、効率を考えるとそんなルートは取れない」

女商人「あ、はい」

勇者「というわけで、やっぱり体力温存のためにも、大火力で3つほど門をぶっ飛ばす」

戦士「おかしいよな」

僧侶「派手な花火を打ち上げるわけですね!!」

女商人「……それより、親分がここにいることに疑問を持つべきなわけ? 私は」

勇者「盗賊たちには、城門と正面の館をぶっ飛ばしたあと、囮として爆発を定期的に起こしてもらいたい」

盗賊たち『おう!』

勇者「報酬だけど、魔王城の内部の獲物は好きにしていいよ」

親分「へへ、あんたなら魔王くらい、簡単に倒せそうな気がするからな」

女商人「……」

女商人「勇者。私もやっぱり、荷物運びをやるわ。大砲背負った勇者なんか様にならないわよ」

勇者「え? いや」

女商人「大丈夫よ、ちゃんと報酬も請求するし」

女商人「何より、その、あんた一人でそんなに荷物を持つことないわ」

勇者「そうか……ありがとう、商ちゃん」

女商人「いい加減、商ちゃんはやめて」

僧侶「……ふん! 勇者様を騙そうとしていたくせに」

戦士「まったくだな」

魔法使い「ほっほ」

勇者「なら、盗賊たちは、娘さんと女商人の護衛も」

親分「構わんぞ。その……まあ、知らん間ではないしな」

女商人「……よろしく」

親分「ああ」

勇者「さて、と。もう行くかな」

女商人「よ、夜に行動するわけ?」

勇者「ああ。夜目のきく魔物はそれほど多くないらしいし」

魔法使い「行動は早いほうがいいしの」

戦士「まったくだ。これだけの準備とはいえ、少し時間がかかった」

僧侶「ごくっ」

勇者「行こう」

女商人「……」

女商人(はぁ、かっこ良くなっちゃって……)

魔王城。

魔王「側近、いるか」

側近「ここに」

魔王「うむ、軍の配置は済んだか」

側近「計画上ではまだです。最大限、集められる連中は集めましたが」

魔王「ええと、幹部クラスは角悪魔の娘と、機械竜か。この巨大スライムというのは?」

側近「新型です。大魔王様が試しに使えと」

魔王(まーた上司の思いつきかよ……)

側近「それから勇者の動向ですが……」

魔王「判明したのか?」

側近「それが、例の町の住民が口を閉ざすばかりで」

魔王「それ以外にも探す方法くらいはあるだろう!」

側近「偵察部隊によれば、人の出入りが多くなってきて、どれが勇者だか分からないと」

魔王「そんな馬鹿な話があるか」

側近「マジです。例の町で食い止めていた冒険者が、魔王城にまで近寄ってきていることもあります」

魔王「くそっ、北の城もつながりを残しておいたのが裏目に出たかな」

側近「それと、一部部隊で、無理やり任地から召集をかけたことで、不満が上がっています」

側近「現地の方からも、いつ次の増員が来るのかと」

魔王「ほうっておけ! どのみちここが潰されたら人界侵攻は失敗だ」

側近「しかし……」

魔王「……何か言いたいことがあるのか」

側近「いえ……」

魔王「だったらいいだろう! ガス室、催眠室の準備は」

側近「ええ、トラップはきちんと設置しております」

側近「ただ、外から来た部隊が、チェック中に引っかかって寝てしまいましたが」

魔王「コントやってんじゃねーよボケ!」

側近「解除しようとした魔物もうっかり」

魔王「全員ボケか!? ツッコミはいないのか!?」

側近「魔王様でしょう?」

魔王「うるせえ!」

ずどおおおおん……

魔王「お」

側近「ぬ」

魔王「でかい音したな……」

側近「しましたね」

魔王「伝令は?」

側近「伝令ー!」

小悪魔「はいはいはいはい」サササッ

側近「何があったか報告せよ!」

小悪魔「何者かが攻めてきたようです」

側近「……」

魔王「で?」

小悪魔「見張りのものがふっとばされたようでして……いま確認中です」

魔王(使えねぇ……)

側近「直ちに反撃せよ!」

小悪魔「はーい、伝えてきまーす!」

側近「まずいですな」

魔王「何がだ?」

側近「いや、せっかく罠をしかけていたのに、壁ごと壊されたのでは」

魔王「あ……! あの野郎ども!」

魔王「くそっ、せっかく半年くらい考えたパズル要素も吹っ飛ばす気じゃないだろうな!?」

側近(あれ半年もかけてたのか)

魔王「こうなったら、私も出る!」

側近「いえ、報告があるまではじっとしていてくださいよ」

魔王「アホか! どうせ壊されるのを黙って見ているくらいなら、自分から壊しに行くわい」

側近「……」

魔王「まったく、なんてことだ……」ザッザカ

側近「やれやれ」

側近(こいつももう潮時かね)

魔王城、二の城。

勇者「うおおおおおおお!」ズバッ

竜「ぎゃーす!」

戦士「おい!? 勇者、先行しすぎだ!」

僧侶「勇者様ー! まだ大砲の弾が残ってますよー!」

勇者「俺を盾にして撃ってくれ!」

魔法使い「囮を使っとる意味があまりないのう」

機械竜が現れた!

機械竜「ゴンゴンゴンゴン」

勇者「!?」

魔法使い「ほう、こいつは珍しい、機械でできたドラゴンとは」

機械竜「ゴンゴンゴンゴン」

勇者「うおおおお、重いぞ!」

戦士「だから、少しは下がれ!」

魔法使い「ほれ、氷結呪文」 ピキーン!

機械竜「ゴンゴンゴンゴン」 カン!

魔法使い「なるほど、対魔法装甲というわけか」

僧侶「ど、どうするんですか!?」

戦士「くっ、硬いぞ、こいつ!」

魔法使い「んー、ごり押しすれば勝てなくはないが……」

魔法使い「魔王を控えているしのう」

勇者「悠長なことを言ってる場合か!」

機械竜の攻撃! 勇者にダメージ!

勇者「ぐはっ!」

戦士「ちゃんと防げ! お前は!」

勇者「魔法使い! 機械ってのはなんだ!?」

魔法使い「端的に言えば物を動かす装置じゃな。これを多少組み合わせてできたのがあれじゃ」

勇者「装着ってどうすれば止まるんだ!?」

魔法使い「質問ばっかりするな。思い出しとるから待っとれ」

僧侶「回復ー!」

戦士「このっ、硬い!」キン

魔法使い「……ふむ。決まりじゃな」

勇者「どうする」

魔法使い「とりあえず、逃げ出すぞ」

勇者「分かった! みんな、撤退ー!」

戦士・僧侶「なんで!?」

勇者たちは逃げ出した!

魔法使い「ちゃんと扉は閉めておけよ」

戦士「なんなんだよ!」

勇者「一度、作戦タイムってことだ!」

魔法使い「作戦なんぞいらんわい。思い出したから」

僧侶「どういうことですか?」

魔法使い「機械っちゅーのは、組み合わせで複数作れるが、もともと同じ動きしかできん」

戦士「確かに動きは単調だったが……」

魔法使い「ほれ、掘削呪文!」 ボボボボコォ

ガラガシャーン!

魔法使い「これで終いじゃ」

僧侶「えっと、どういう……」

魔法使い「落とし穴に落としたんじゃ」

魔法使い「目の前の敵を攻撃するようにしかできとらんから、目の前に敵がいないとそこで穴を掘るしかない」

戦士「機械ってのは間抜けなんだな」

魔法使い「使い方次第じゃな。ほうっておけば大穴を深掘りしてとんでもないことになるかもしれんが」

勇者「今は魔王が優先だ、急ぐぞ!」

廊下。

戦士「ちっ、今、どのくらい深く進んだんだ!?」

僧侶「思ったより、爆弾でぶち抜けなかったですもんね……」

魔法使い「ほっ、ほっ、まあ、陽動にはなってたぞい」

勇者「罠の部屋はぶっ壊せたんだ、あとは地図だと……」

勇者「こっちの方だな!」

魔法使い「あー、待て待て。ちょっと休憩」

勇者「お、おう」

戦士「はぁはぁ」

僧侶「ひぃひぃ」

魔法使い「ほれ、全力で走りすぎて、勇者についていけん」

勇者「あ、ごめん」

戦士「くっそ。やっぱり、追いつけないな」

僧侶「勇者様、早すぎますよぅ!」

勇者「そう……か?」

魔法使い「お主、持ってた荷物をほとんど消費したからのう」

魔法使い「ジジイはもちろん、他の娘たちも、追いつく方が難しいわい」

勇者「いや、普通に走ってて……」

戦士「お前、突入前に、重装備って言ってたよな」

勇者「そうだっけか」

僧侶「うう、やっぱり勇者様はすごいです!!」

勇者「あ、ああ、ありがとう」

魔法使い「……魔王はどうしているのかのう」

戦士「そりゃ、玉座でふんぞり返っているんじゃないのか」

勇者「……」

僧侶「どうしました?」

勇者「ああ、俺が魔王なら、どうするのかなってさ」

魔法使い「ふむ」

勇者「……もし、俺が魔王なら、座して待つってわけにはいかないだろう」

魔法使い「そうじゃな」

戦士「……そうか?」

勇者「ああ。敵が一直線に罠に向かってくれれば良かったんだろうが」

勇者「そう、だな……魔法使いが言ってただろう。その、精神攻撃の罠を」

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