勇者「パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」 15/16

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魔王「……」

勇者「悪いな」

魔王「わ、たしは、魔王の中でももっとも弱い……」

勇者「は?」

魔王「いや……」

魔王「……私も、仲間さえいれば……」

勇者「知らねぇよ」

魔王「ち……話を聞かないやつめ……」

勇者「……」

側近「やはり、ここまでか」

僧侶「え、え?」

戦士「魔物の残党か!」

側近「おっと、もう抵抗するつもりはない。おとなしくやられるつもりもないがな」

魔法使い「悪いが、もうあんたの上司は死んだよ」

側近「だろうな。無理もない」

側近「やつは弱かったのだ」

勇者「……」

魔法使い「何か用件があるなら、火炎呪文」ボウッ

側近「や、やめろっ!」

魔法使い「もう、面倒くさいことをしとらんで、とっとと地獄に落ちろ」

側近「おのれ、巨大スライムよ!」

巨大スライムが現れた!

戦士「ちっ、面倒な」

勇者「なんのつもりだ?」

側近「ここを漁られても困るのでな。悪いが魔王城は破壊させてもらう」

僧侶「何をする気ですか!?」

側近「せいぜいお前たちはスライムと戯れていろ」タタタッ

戦士「うおおっ」 ザシュッ

戦士の攻撃! スライムは斬撃を受け止めた!

戦士「剣が効かないぞ!?」

魔法使い「火炎呪文」ボワッ

魔法使いの攻撃! スライムは炎を吸収した……

魔法使い「ふーむ、この調子じゃ粗方の魔法が効きそうにないのう」 ドォオン!

僧侶「ゆ、勇者様、城が揺れてますよ!」

勇者「爆発音がしたな……」

スライムはプルプル震えている……

勇者「……」

魔法使い「氷結も効かんな。竜巻もじゃ」

戦士「剣も槍も効かないか……」

僧侶「ど、どうしましょう!?」

勇者「魔法使い。天井に向けて爆裂呪文を撃ってくれ」

魔法使い「ほいほい」 ドオォン!

勇者「……まだ、小さいな」

魔法使い「なるほど。わしにも読めたぞ」 ドン!

勇者「けど、あの魔物がわざわざ出てきた理由がわからない……」

戦士「上司が死んだんだ。顔見せにくらいくるだろう」

勇者「そんなものかな」

魔法使い「……」

勇者「よし、みんな俺に掴まれ!」

僧侶「きゃ」ギュウー

戦士「ん」ギュッ

魔法使い「ほいほい」ニギッ

勇者は移動呪文を唱えた!

お城。

国王「よくぞやってくれた! 勇者よ!」

勇者「はあ」

国王「うむ、父親を超えたようだな」

勇者「そうですか」

国王「まさか魔王を倒してみせるとは思わなんだ……」

国王「褒美については、その……」

勇者「ああ。もちろん、宝物庫をまるごといただくなんてことはしませんよ」

国王「こないだのように、その、国債券などをまぜこぜに要求されても困るんじゃが……」

勇者「そうですか? 現金一括払いでもいいんですが」

国王「やめてくれ!」

勇者「とりあえず、金百万相当をパーティー分として……」

国王「分かったから! 後でな! 宴会も用意しているし!」

勇者「……ま、いいでしょう」

広間。

兵士「おお、勇者様! あなたこそ、真の勇者です」

勇者「はあ」

大臣「お父上を超えられましたな!」

勇者「そうですかね」

姫「なんて男らしい……」

勇者「そうでもないです」

町人「いやあ、勇者様って本当にすごかったんですね!」

勇者「どうですかね」

子ども「勇者様は勇者のお父さんより強かったんだねー」

勇者「どうだろう」

商人「おお、勇者様、ほら、宴会の準備ができておりますぞ!」

勇者「いや、休ませてもらってもいいかな」

勇者「結構怪我がひどくて……」

兵士「そ、そうなのですか?」

勇者「仲間はもう飲み食いしてるの?」

姫「ええ、お仲間はあちらに」

勇者「……おーい」

魔法使い「うーむ、やっぱりこの国の尻は柔らかさが違うの」サワッ

メイド「きゃあーっ」

戦士「おい、ジジイ」

僧侶「もう、いい加減にしてください!!」

勇者「おーい」

僧侶「あ、勇者様!」

勇者「悪いんだけど、俺、まだ背中が痛くて……」

戦士「ああ。まだ癒えてないのか?」

勇者「ああ、さすがに大砲を背中でぶっ放したのは……」

女商人「当たり前でしょう。というか、そんなことをして生きている時点で人間じゃないわ」

勇者「商ちゃん」

女商人「……その呼び方はやめてって言ったでしょう」

勇者「悪いな。いろいろと」

女商人「そうね、まさか空から降ってきて力尽きているとかね」

戦士「ふん」

僧侶「面目ないです……」

魔法使い「さすがに疲れきっとったからな」

女商人「回収費用はサービスにしておくわよ」

勇者「太っ腹だねぇ」

女商人「……そんなに出てないわよ」

勇者「ともかく、そういうわけだ。俺は実家に帰るよ」

戦士「実家って、お前一人だったよな?」

勇者「ああ、家政婦さんに月一で掃除だけはしてもらってたから」

勇者「みんなはこれから、どうするんだ?」

戦士「私は……兄の墓参りでもするさ。それが済んだら、また冒険屋稼業かな」

勇者「そうか」

僧侶「私、修道院に報酬を寄附しに帰ります」

僧侶「それで、そのあとは、その……まだ、少し考えてる最中です」

勇者「一人で大丈夫?」

僧侶「だ、大丈夫ですよ!! 私、怪我も少ないですし」

勇者「うん。じいさんは?」

魔法使い「向こうの大陸に、わしも墓参りするかな。あと、気になることがあっての」

勇者「うん?」

魔法使い「……ま、大したことじゃないがな」

戦士「勇者こそ、どうするんだ。これから」

勇者「俺は、まあ、褒美ももらったし、ぐーたら暮らすさ」

僧侶「なな、ダメですよ! そんな自堕落な!」

勇者「……商ちゃんは?」

女商人「私は、もうそろそろ逃げるわ。違法な商売をしてたのは知ってるでしょ?」

勇者「しかし、勇者の手伝いをしたとかで」

女商人「ふーっ、それじゃあ、あなたの立場が悪くなるでしょう」

女商人「……それより、本当に顔色が悪いわよ。こっちに戻る途中も、ずっと臥せってたみたいだし」

勇者「あ、ああ。気が抜けてしまってな」

戦士「……」

僧侶「勇者様、無理しちゃダメですよ? まだ優れないのでしたら、本当に」

勇者「うん、そうさせてもらうよ」

姫「あら!? 勇者様はお帰りになるのですか?」

勇者「ええ、まあ」

姫「残念ですわ……せっかくご馳走も用意しましたのに」

勇者「またいつでも食べられますよ」

姫「本当ですか? またお城に来てくださいます?」

勇者「はあ」

姫「……もし、勇者様が良ければ、その……」

勇者「……」

勇者「ま、そのうち。どうせ城下町で暮らしてますし」

姫「ぜひ!」

戦士「……ちっ」

魔法使い「これこれ、露骨じゃぞ」

戦士「分かってるが」

僧侶「むぅーっ」

町。

町人「お、勇者様!」

勇者「はい」

武器屋「へへ、立派になったもんだな、親父よりよ」

勇者「どうかな」

マスター「勇者くん、今度うちの店で飲んでってよ!」

勇者「気が向いたらね」

防具屋「サインをもらっていいかい? 親子二代で飾るぜ!」

勇者「適当にでっち上げといて」

シスター「勇者様、あなたの勇気が魔王を打ち砕いたのです」

勇者「勝手なことを言うなよ……」

勇者「……」

勇者の家。

勇者「……」

勇者「ただいま」

勇者「父さん、母さん」

勇者「……」

勇者「あー、背中いてぇなー」

勇者「……」

勇者「……寝よう」

寂れた裏山。

戦士「……」

元仲間「おい、お前、戦士じゃないか?」

戦士「うん?」

元仲間「俺だよ、俺! いやあ、すげぇな、魔王を倒したんだって?」

戦士「……」

元仲間「へへへ、勇者とのパーティーは解散したんだろ」

元仲間「そうしたらさ、また俺とパーティーを組み直さないか」

戦士「……」

元仲間「おい、黙ってないで……」

戦士「ここは墓前だ。私の兄の」

戦士「騒ぐのはやめろ」

元仲間「な、なんだよ」

戦士「……私は金は食うし、リーダーの指示には従わない」

元仲間「あ?」

戦士「仕事も危険なものを受けたがる……だったか」

元仲間「前に外したことを恨んでるのか? そんなこと気にするなよ」

元仲間「お前ほどの腕の持ち主なら、他の冒険者だっていくらでも貢いでくれるだろ」

元仲間「聞いてるぜ、ファンの連中がお前の村に押しかけてきて」

戦士「ああ。だから、兄の墓も、村より奥に移してもらった」

戦士「どこで嗅ぎつけてきたか知らんが、この場所のことは忘れろ。私もお前と会ったことを忘れてやる」

元仲間「なんだよ。な、なんだったら、今度はお前がリーダーでも」

戦士「私はお前をそれなりには信頼していた、かつてはな」

元仲間「なに?」

戦士「だが、今は違う。分かるだろう」

元仲間「……けっ、お高くとまりやがって」

戦士「そういうことじゃない。まさか私が、何も知らない間抜けだと思っているのか」

元仲間「な、なに?」

戦士「手っ取り早く稼ぐ手段として、麻薬の密売を引き受けたこと、知っているぞ」

戦士「捕まりそうになったところで、それを仲間の女商人に押し付けたのもな」

元仲間「は」

戦士「彼女はしばらく、盗賊団やら権力者やらに身を売りながら生活していたそうだ」

戦士「本人から聞いた」

元仲間「……そういえば、魔王退治に商人が関わってるって」

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