町人「取引を増やして、ゆくゆくは世界中に商売を広げたいと」
勇者「……ふうん」
町人「もしよければ、かわいい女の子も揃ってますよ」
魔法使い「ほうほう」
町人「実を言うと、生贄だの人質だので、要求もしていないのに差し出される娘が多くてですね……」
勇者「……なるほど」
僧侶「なんてひどい!」
戦士「待て、そんな子たちを商売に使ってるのか」
町人「ち、違いますよ。希望者に希望の仕事を割り当てているだけです」
魔法使い「ふむ」
勇者「じいさん、気がのらないのか」
魔法使い「いや、いくぞい。老いたりとはいえ、そう簡単には枯れんわい」
戦士「ジジイは自重しろよ……」
勇者「……俺はいいかな」
町人「あ、でしたら、宿でマッサージというのはいかがですか?」
勇者「いや、別に……それより、補給を」
戦士「勇者。補給なら明日でもいいだろう」
僧侶「そ、そうですよぉ。さすがに激戦を抜けてきたんですから、今日くらい!」
町人「お嬢さん方もどうです? 美容にも良いですし」
僧侶「そ、そうですね」
戦士「私は遠慮する。見せる肌でもないからな」
勇者「行っとけ。減るものじゃないんだから」
戦士「……」
僧侶「行きましょうよ! 戦士さん」
戦士「勇者が言うなら、まあ、いいだろう」
勇者「俺は宿の部屋で、先に寝てるわ」
僧侶「あ、あうう」
魔法使い「わしは酒場行っとるぞ」
勇者「ああ。飲み過ぎるなよ」
魔法使い「さすがに魔王城を控えて、そこまではせんよ」
宿屋、風呂。
僧侶「んー、気持ちいいー、っていうか、お風呂広い!」
戦士「そうだな」
僧侶「もう、戦士さん、どうしたんですか?」
戦士「いや、魔王に許された町っていうのもな」
僧侶「正直、信じられません……」
戦士「どうかな。魔王だって、人間を絶滅させるのが目的ではあるまい」
僧侶「じゃ、じゃあ、その、こうやって人間を服従……!」
戦士「本人たちは命を助けられて喜んでいるんじゃないか」
僧侶「そんなこと……あ、実は脅されてたり……!」
戦士「脅されていようが、生かされていようが、命をかけて抵抗するにはそれなりに理由がいる」
戦士「まして、それが自発的に服従しているとなれば、厄介のきわみだ」
僧侶「でも、実際には魔物に殺されている人も大勢います!」
戦士「どうだろう。抵抗するからやられるんだ、と考えているかもしれない」
僧侶「それに、全部の国を攻め落としたら、牙をむくのかも……」
戦士「……今の生活には関係がない、と思っているんだろう」
僧侶「そんなぁ……」
戦士「まあ、私達にとっても、そういう態度なら、利用するだけさせてもらうのでいいさ」
僧侶「な、そんなこと!」
戦士「おそらく、ここが最後の補給地だ。いざこざを起こしても仕方があるまい」
戦士「それに、魔物が冒険者との接触を禁じていないのも、魔王側がよほど自信があるということだろう」
戦士(その方が好都合だがな)
僧侶「でも、ひどすぎます! 魔物に襲われた村もあるのに!」
戦士「ふうーっ」
僧侶「戦士さん!」
戦士「自主的に生贄を捧げてる村だってあったんだろう。人間もひどい奴はひどいもんさ」
僧侶「そ、それは……」
戦士「それより、体を洗ってもいいかい?」
僧侶「むう~っ!」
ザバーッ。
僧侶「……うーん」
戦士「……なんだ?」
僧侶「本当だったらここで、『わあ~、戦士さんの肌って綺麗ですー!』とか『戦士さんってやっぱりグラマーなんですねー!』とか」
戦士「傷だらけだろう?」
僧侶「そうですねぇ、やっぱり、前線で戦ってるから……」
戦士「ああ、まあな。それほど胸も大きいわけじゃないし」
僧侶「おっぱいというより大胸筋ですもんねぇ」ニコニコ
戦士「……」
僧侶「あ、disってるわけじゃないんですよ!?」
戦士「まあ、僧侶もあまり無いものな、おっぱい」
僧侶「あ、ありますよ!」
戦士「幼児体型とは言わんが……」
僧侶「ななななに言ってるんですかー!」
僧侶「私は、その、ちょっと小さい頃、栄養不良でぇ!」
宿、女性部屋。
戦士「ん……?」
娘「こんばんはぁ~」
僧侶「えっと、あ、マッサージの方ですか?」
娘「そうですぅ~」
戦士「私は別にいい。体を見られたくもないし」
娘「え、え、でも……」
僧侶「あ、じゃあ、私が受けますよ! お願いしまーす!」
娘「本当にいいんですかぁ~?」
戦士「……」
娘「じゃあ、せめてこの安眠のお香でもぉ……」
戦士「ふーっ」
娘「あ、あのう……」グスッ
僧侶「別にいいんですよぉ、ぶっきらぼうですけど、優しいんですから」
娘「そ、そうですか~」
僧侶「ん、んー」
娘「どうですかぁ~、気持ちいいですかぁ~」
僧侶「あー、う、ん、んー」
僧侶「ふあ……」
僧侶(眠くなってきちゃった……)
娘「眠くなったら、そのまま寝ちゃってもいいですよぉ~」チラッ
戦士「……」
娘「ちゃんと、ベッドまで運んで上げますからね~」
僧侶「ん、ふぁ、あー、あ、あー」
娘「……」
戦士「……」グーグー
娘「……大丈夫ですからね~、悪いことにはきっとならないですからね~」
僧侶「んー……」スースー
娘「……大丈夫ですから」
夢魔「……どうだ?」
娘「オッケーです、みんな寝ちゃいました~」ヒソヒソ
夢魔「……勇者の方は?」
娘「宿についたら着のままで寝ちゃったそうです~」ヒソヒソ
夢魔「よし、よくやった」
娘「あと、おじいさんは……」
夢魔「そこまで気を回さなくてもいい」
娘「あ、あのう……」
夢魔「なんだね?」
娘「……わ、悪いコトはしないですよねぇ~」
夢魔「疑うのか?」
娘「い、いえ、そんなことは……」
夢魔「もちろんだ。ちょっと夢を見てもらうだけだ」
娘「ほっ」
夢魔「だが、その前に、君も夢を見た方が良さそうだな」
娘「え」
酒場。
魔法使い「……ふむ」
バニー「ねぇ~、おじいさん、もっと飲みましょうよ」
魔法使い「確かにうまいが、わしゃ酒はあまり好きではなくてなー」
マスター「ははは、そうおっしゃらずに。どうです?」
魔法使い「女の子はかわいいのう。わしゃ、かわいい子は大好きじゃ」サワッ
バニー「やだー、おじいさんったら」
マスター「それにしても、この町はいい町でしょう」
魔法使い「そうかのう」
バニー「いいところよ~、魔王様も良くしてくれてるし」
魔法使い「ほっほ、バニーちゃんは魔王が好きなんじゃのう」
バニー「あ、えーと、そ、そうなのよ~」
魔法使い「わしは魔物も魔王も大嫌いでのう……すまんのう」
バニー「あ、あはは」
マスター「いやいや、おじいさんもいろいろあったんでしょう。わかりますよ」
魔法使い(本当に分かるのか?)
マスター「ですが、まあ、話せば分かるお方ですし、それこそ、人間の方がよほど……」
魔法使い「なんかあったのかい?」
マスター「ええ、まあ……こう、妻に濡れ衣を着せられましてね。生まれた町を追われることに……」
魔法使い「そりゃ、大変じゃったのう」
マスター「絶望して、魔物に食われてやろうと思っていたんですよ。そこでね」
魔法使い「そうかそうか」
バニー「人間なんか、最低よね」
魔法使い「バニーちゃんもなんかあったのかい?」
バニー「私は、その……」
魔法使い「ん? ん?」
バニー「なんでもない! 無理やり聞く人は嫌ーい」
魔法使い「ふーむ、突っぱねれば寂しそうな顔をするのにのう。ほんとにバニーちゃんじゃな」
バニー「な、なによ、もう!」
マスター「おじいさん、悪いことは言いませんよ」
魔法使い「んー?」
マスター「魔王退治なんて、無茶すぎますよ」
魔法使い「……」
マスター「まあ、その、もういい年でしょうし……お仲間にも言って」
魔法使い「ふーむ、そうじゃのう」
魔法使い「確かに、この町は栄えているな。魔王のおかげでな」
マスター「え、ええ……」
魔法使い「で、お前さんはここに来る冒険者たちに、みんなそういうことを言ってるのか」
マスター「ま、まあ、一応……何しろ、魔王退治に行った人は、誰も帰って来ませんでしたよ」
魔法使い「そうかそうか」
バニー「おじいさんも、無理しちゃダメだよ?」
魔法使い「バニーちゃんも優しいのう」
バニー「だ、だから……」
魔法使い「そうじゃのう」
魔法使い「そこまで言うなら、帰ろうかの」
マスター「え?」
魔法使い「どれ、お会計をしてくれんか」
マスター「えっと、え」
魔法使い「仲間に言わないといけないから、宿に帰るんじゃ」
魔法使い「ほれ、つり銭はいらんから」ジャラ
マスター「えっと……」
魔法使い「予想外みたいな顔をするでない。それとも、強引に引き止めるかい?」
バニー「お、おじいさん」
魔法使い「ふはははっ! 誰が薬を混ぜた酒なんかに引っかかるかよ」
魔法使い「心底説得するつもりなら、そんな下らんことをするもんじゃなかったな!」
マスター「あ……」
魔物「もういいぞ! 店主」
酒場に魔物が現れた!
キャー! ナニナニ、ドウシテマモノガ……
魔物「やはり、報告通り、ジジイが参謀役だったな」
魔法使い「ほうほう、なるほど、わしらのことを調べてあったというわけかい」ガタッ
マスター「ま、魔物の皆さん、こ、これは……」
バニー「あ、あの」
魔物「動くなジジイ! 動けばここにいる人間を殺すぞ!」
魔法使い「よもや、たった四人のために殺しにかかるとはな」
魔物「光栄だろう? さすがに塔や砦も落とされては、見過ごすわけにはいかなかったからな」
魔物「ほら、動くんじゃない!」
マスター「う、嘘だ……」
バニー「ど、どうして」
魔法使い「別に構わんぞ。殺しても」
マスバニ『!』
魔物「ほう」
魔法使い「親兄弟も、息子も友人も魔物に殺されたしの」
魔法使い「もちろん、一緒に逃げたお姉ちゃんたちも大体殺されたわ」
魔法使い「今更、少し知り合った連中を殺されてもどうってことはない」
魔物「貴様……それでも人間かっ!」
魔法使い「演技が下手じゃのう。まあ、そういうことでもええわい」
魔法使い「ジジイが一番恨みつらみが溜まっておるんじゃ。家族の仇を誰が忘れると?」
マスター「う、ぐ……」
魔法使い「うひゃひゃ、ほれ、爆発呪文」 どうっ!