―――酒場
竜騎士「今となっては、懐かしむことが出来る記憶か」
槍兵「ですね」
技師「ていうか、これだけ活躍してると、他から目をつけられたりしないんすか?」
技師「城の中も一枚岩じゃないんでしょ? 上の連中も下の奴らも、あんまり面白くないって思ってるやからも、少なからず出て来るんじゃないっすか?」
竜騎士「まぁ、技師の言ってることもあながち間違ってはいないが、ありがたいことに、今のところ俺に実害は来てないよ」
竜騎士「それに、最近司令の部隊が目覚ましい活躍をみせている。 だから、俺ばかりが日の目にあたっているわけじゃない」
技師「司令殿か・・・・・・」
竜騎士「あの方は他者をどうこう言う前に、己の力を磨くような人だ。 他の者がどうかは知らないが、あの人に限っては、妬み嫉みを考える前に自分を鼓舞し、理想を実現する。 もちろん、私も応援しているしな」
槍兵「司令とはまるで知己の仲の様に話されていますしね」
薬師「司令さんの部隊といえば、最近ではまるで、疲れを知らない様に僻地の魔物を討伐し、民の暮らしを安寧に保っていると噂になっていますね」
竜騎士「ああ。 私は一人しかいないが、あの方の部隊は、国中を広い視野と行動力で守っている。 あの方こそ、真に王国の守護者と言えるだろう」
竜騎士「(それでも、軍縮の煽りを受けてしまう。 もしかしたら、私があまり動かない方が、むしろ国のためになったのではないか・・・・・・)」
槍兵「・・・・・・先輩?」
竜騎士「あ、いや、なんでもない。 大丈夫だ。 少し、城で飲みすぎたかな」
薬師「竜騎士さんにしては、珍しいですね」
竜騎士「そうだな。 たまには、な」
技師「ま、どの道その二人がいる俺達の故郷は、何があっても安心だな」
槍兵「ああ。 それこそ、再び魔王が復活しない限り、そう易易と落とされはしないだろうさ」
竜騎士「おいおい、縁起でもないことを言わないでくれよ」
槍兵「大丈夫ですよ。 その時には、僕ももっともっと強くなっていますから」
技師「そこに、俺のサポートが入れば完璧っすよ」
竜騎士「まったく、こいつらは頼もしいのかそうでないのか・・・・・・」
薬師「ふふ。 でも、こんな調子でも最後は結局二人で何でもこなしてしまうんですよね」
竜騎士「そうか・・・・・・。 なら、いつか俺が困った時、ちゃんと助けにきてくれよ」
槍兵「任してください!!」
技師「了解っす!!」
それからも四人は話に花を咲かせ、日を跨ぐ頃には槍兵と技師がテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
竜騎士「こいつら、酔い潰れる早さは相変わらずだな」
薬師「ええ。 でも、いつもよりは頑張っていましたよ?」
技師「う、うぅ・・・・・・」
槍兵「・・・・・・zzz」
竜騎士「薬師は大丈夫か」
薬師「もちろんですよ。 それこそ、“百薬の長”である私が、酔いつぶれるなんてありえません」
竜騎士「しっかりしているな。 薬師は」
薬師「しっかりしないと、この二人を面倒見る人がいなくなってしまいますから」
竜騎士「ははっ。 違いない」
薬師「もう、本当に・・・・・・あんまり心配かけないで欲しいんですけどね」
竜騎士「こいつらはじっとしていられるようなタマじゃないさ」
薬師「まぁ、そうですね。 それが分かっているから、余計に疲れるんですけど・・・・・・」
竜騎士「・・・・・・さて、そろそろおひらきにしようか」
薬師「ですね。 この二人も、もう目覚めそうにもないですし。 まぁ、私の特製気付け薬なら跳ね起きますけど」
竜騎士「いや、それで後々小言をグチられるのも面倒だ。 ここは寝かせておいてやろう。 大丈夫かなマスター?」
マスター「それこそ、いつものことですよ。 ご心配には及びません」
竜騎士「ありがとう。 まぁ、それでも閉店までには何とかしないとな」
薬師「分かりました。 じゃあ、二人のことは私に任せてください」
竜騎士「ああ、薬師に任せておけば、何の心配もない。 すまないが、よろしく頼むよ」
薬師「はい。 竜騎士さんも、今日はお忙しい中ありがとうございました。 二人とも・・・・・・特に槍兵さんは凄く喜んでましたよ」
竜騎士「ああ。 俺も楽しかった。 城のパーティーで飲む酒なんかより、マスターの出す酒を皆で飲むほうが断然美味いしな」
マスター「ありがとうございます」
薬師「調査隊の遠征任務、お気をつけて行って来てくださいね」
竜騎士「ああ。 ありがとう。 薬師も、俺がいない間こいつらのこと頼んだぞ」
薬師「はい。 その点は抜かりなく」
竜騎士「・・・・・・槍兵と、うまくいくといいな」
薬師「・・・・・・っ!?」
薬師「は、はい・・・・・・」///
こうして、竜騎士の調査隊隊長拝命祝いの場は、静かに締めくくられた。
・・・・・・その後。
槍兵「・・・・・・うっぷ」
技師「オエェ・・・・・・」
薬師「・・・・・・はぁ」
槍兵と技師は薬師に解放されながら、家路についた。
―――城内 玉座の間
国王「長きに渡る魔族との戦争も終わり、今日まで続いてきた復興も、ようや戦いの傷跡が見えなくなり、節目としての目処がついてきた」
国王「過去の精算を民たちは乗り切り、緩やかではあるが、安寧の時を刻み始めたのだ」
国王「ならば、今以上に未来へ向けた足がかりを、指導者たる我らが作らねばならぬ」
国王「この度、栄えある精鋭たちが、国益の為に長き遠征へと旅立つこととなった」
国王「我が国の先進技術である鉄鋼業は、自国のみならず、他国の発展にも大いに役立つ」
国王「諸君の働きは、後に世界を支える功績となるだろうと、私は確信している」
国王「竜騎士よ・・・・・・」
竜騎士「はっ」
国王「貴殿は、何度となく我が国の助けとなってくれた。 また、これからもそうであることを望む」
竜騎士「お任せ下さい」
国王は竜騎士の前に歩み寄る。
国王「これは、守護の呪術を刻んだ魔石だ。 民を思う貴殿が倒れては、それこそ多くの民が悲しむ。 これは、そんな貴殿への餞別だ」
竜騎士「ありがとうございます。 謹んで頂戴いたします」
国王「(我が娘も頂戴せぬか?)」 ヒソヒソ
竜騎士「(お戯れを)」 ヒソヒソ
そして、竜騎士を含めた調査隊は多くの民に見送られ、晴天広がる青空の下、港より出た船で王国を後にした。
家族を見送る者、同僚を見送る者、出港していく船、背中に憧れを抱く者・・・・・・。
皆、調査隊の船へと手を振り、無事を祈り、大きく手を振って、声を上げて口々に壮行の言葉を口にして見送った。
それが、国民が“竜騎士”を見た最後の姿となった。
―――薬師&技師 家
薬師「あら、こんにちは槍兵さん」
槍兵「こんにちは薬師。 ・・・・・・技師は一緒じゃないのか?」
薬師「兄さんなら、もう工房に出ていきましたよ」
槍兵「時々、あいつがワーカーホリックなんじゃないかと疑いたくなるよ」
薬師「ふふ、私もです。 あればっかりは、万能薬でも治せそうにありません」
槍兵「違いない」
薬師「兄さんに用事があったんですか?」
槍兵「いや、傷薬を切らしちゃってね。 評判のいい店で新しいものを買おうと思って」
薬師「いつもありがとうございます。 それじゃあ、ご贔屓にしてくれる槍兵さんには、サービスしておきますね」
槍兵「助かるよ。 最近カツカツで・・・・・・」
薬師「大変なんですか?」
槍兵「大変・・・・・・ていうことでもないかな。自分で望んでやっていることだし」
薬師「差し支えなければ、聞いても・・・・・・」
槍兵「あ、うん。 本当に大したことじゃないんだ。 ちょっと自主訓練の為に自分自身に投資したんだ」
薬師「自主訓練、ですか」
槍兵「まぁ、今のままじゃダメだと思ってね。 全部竜騎士になるための必要経費ってやつだよ。 家の裏にトレーニング場を作ったり、装備品を見直したり・・・・・・技師にも、色々協力してもらったりさ」
薬師「兄さんに?」
槍兵「ああ。 この間作ってくれた鎧はよかったなぁ。 筋肉の動きを抑制して、出せる力を半減させるなんて、トレーニングにはピッタリだ。 その分なかなかいい値段を請求されたけどね」
薬師「もう、兄さんたら・・・・・・」
そこへ、仕事帰りの技師が帰ってきた。
技師「当然の報酬だろ。 こっちだって遊びでやってるんじゃないんだ」
槍兵「よっ、お邪魔してるよ技師」
薬師「お帰りなさい兄さん。 けど、親友の槍兵さんからの注文なら、もう少しサービスしてあげたらいいじゃない」
技師「あれでも破格の値だったんだけどな。 前々から研究してた素材も使ったし、儲けを度外視して作った代物だ」
槍兵「ああ。 あんな自分の首を絞めるだけの鎧を作ってくれる奴なんて、お前くらいだよ」
技師「だろうとも。 また何か入り用になったら言ってくれ。 俺の気が向いたら作ってやるからよ」
薬師「気が向かなくても作ってあげるくせに」
技師「そりゃ、こいつの要求する物は変わり物ばかりだからな。 興味がわかないって方が無理な話だ」
―――遠方の地
竜騎士「調査隊と積み荷が船から下り次第、予定されたキャンプ地に向かおう。 この調子だと、一雨来そうだ。 早めにテントを張った方がいい」
副官「了解しました。 調査自体は、計画通り明朝からでよろしいですか?」
竜騎士「そうしよう。 しかし、先見隊に準備だけはさせておけ。 天候によっては、先に出てもらう」
副官「隊長は、この地に詳しいのですか?」
竜騎士「昔はここに竜のコロニーがあった。 調査報告では、この地で生きていた竜もその数を減らし、今となってはコロニーの跡があるだけらしいが・・・・・・」
副官「なるほど。 もしかして隊長はここで、自身の従える火竜と出会ったのではないですか?」
竜騎士「・・・・・・その通りだ。 だから、そういった一面も、俺が調査隊の隊長を任命された理由だろう」
副官「では、この地に誰よりも詳しいということですね」
竜騎士「詳しいと言っても、当時と今とでは生態系も変わっているかもしれない。 食物連鎖の頂点がいなくなってしまってるからな。 注意するに越したことはない」
副官「確かに、仰る通りです」
竜騎士「それでも、この度選出された調査隊は精鋭揃いだ。 自分の身ぐらいは自分で守れるだろう」
副官「はい。 それに、こちらには隊長がいますからね。 期待しています」
竜騎士「期待してくれるのは大いに構わないが、私の出番が無いのが一番だろう」
副官「ごもっともです。 それと・・・・・・」
竜騎士「何だ?」
副官「こちらに、司令からの封書と厳重保管されたケースが届いています」
竜騎士「・・・・・・司令から?」
竜騎士「(あの司令が、私に直接ではなく・・・・・・人伝に、か。 初めてのことだな)」
竜騎士「・・・・・・」
副官「どうぞ、封書です」
竜騎士「ああ」
―――竜騎士へ
此度の調査において、君の役にたてばと思い、我が魔術部隊で研究していたアイテムを送る。
君が国王より賜った品には劣るが、それでも、魔を退ける力を付与した首飾りだ。
全部隊分とはいかないが、危険な地帯を調査する兵達に渡してくれれば、それだけ君の心労も減り、きっと助けとなるだろう。
調査の成功と、無事の帰還を祈っている。
竜騎士「・・・・・・」
副官「隊長、司令はなんと?」
竜騎士「調査隊のために、司令の魔術部隊で作成したアイテムをお送り頂いた。 退魔の力が備わった首飾りだそうだ」
副官「なんと!? それは凄い・・・・・・」
竜騎士「調査ポイントと状況を見て、兵に配るようにしよう」
副官「了解しました」
調査隊の上陸作業は滞りなく終わり、主任務である資源調査が開始された。
先見隊「鉱山を調査するとなると、やはり、竜の巣穴跡がやりやすそうですね。 既にある程度深さがあり、横穴も広がっていますから」
竜騎士「やはりそうなるな。 ただ、奥に行けば行くほど、大型の魔物が住処として利用しているかもしれない」
先見隊「しかし最深部には、貴重な鉱石が存在する可能性があります」
副官「・・・・・・確かに。 では、グループを三つに分けます。 一つは戦闘経験の豊富な者を中心に、巣穴跡深部へと進む部隊。 次に竜の巣穴中部で鉱石の調査をするグループ。 最後に残るは、入口付近で地質調査」
竜騎士「キャンプ地には私と副官、連絡要員だけ要ればいい。 これから皆が向かう先は、主が居なくなったとはいえ、元々竜の住処だったところだ。 油断だけはするな」
副官「最深部に向かう部隊だけは、違和感やおかしな空気を感じたら、それ以上は決して進むな。 隊長か私の到着まで、その場で待機だ。 入口付近まで引き返しても構わん」
竜騎士「皆の働きが国の更なる発展、そして愛する民達の生活と安心を守る事になる。 だが、これだけは言ってく。 決して、無理だけはするな。 これは戦ではない。 身の安全を第一に行動し、何かあればすぐに知らせろ。 お前達の後ろには、最強の騎士が控えているんだ」
「「「「「「はっ!」」」」」」
竜騎士「あまり気張りすぎるな。 少しは隊長の仕事を残しておいてやろう位でも構わない。 とにかく、第一は自分の命だ。 それだけは、決して忘れるな」
「「「「「「はっ!」」」」」」
そして、竜騎士が遠征に旅立ってから数週間が経った・・・・・・。
―――槍兵の家 裏庭
槍兵「ふっ、はっ、・・・・・・やぁっ!!」
技師「精が出るな」
薬師「こんにちは槍兵さん」
槍兵「技師、薬師・・・・・・こんにちは」
技師「即席の訓練場を、よくもまあこんな短期間でシゴき抜いてるもんだな。 もうどの的も木人もボロボロじゃねぇか」
槍兵「うん、まぁ、時間があればとにかく槍を振るっているからね。 今度、槍も新調しないと・・・・・・」
技師「はぁ・・・・・・。 特訓するのはいいにしても、適度に休憩を挟めよ。 オーバーワークは逆効果だからな」
槍兵「わかってるよ」
薬師「あの、私、パイを焼いてきたんです。 よろしければ、お茶にしませんか?」
槍兵「うん。 一区切りついたし、よろこんでいただくよ」
技師「あと、パイを食いながらでもいいから、訓練道具の見積書を確認しといてくれよ」
槍兵「わかった」
薬師「じゃあ、私準備してますね」
槍兵「ありがとう。 茶器とかはいつものところに置いてあるから」
薬師「はい、わかりました」
技師「勝手知ったるなんとやらか」
槍兵「茶器なんて、家にあるだけで薬師しか触らないからね」
技師「だな。 俺達の食事事情は、ほとんどあいつが主導権持ってるようなもんだし」
槍兵「昔からね」
薬師「二人とも~。 早く手を洗ってきて」