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槍兵「竜騎士になりたいんです」 役所「無理です」 5/16

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―――酒場

マスター「おや、これはまた珍しいお客さんだ」

槍兵「久しぶりだねマスター」

技師「今日はご無沙汰だったレアキャラを引っ張ってきたぜ」

マスター「技師さんも変わりなく。 槍兵さん、お元気でしたか?」

槍兵「うん。 最近は鍛錬に時間をとられてて、なかなか顔を出せなかったね」

マスター「いえいえ、自分を高めるのはよいことですよ」

技師「俺なんて高まりまくって、いつ名実共にゴッドハンドを持つ技師って感じの称号を手にしてしまうかと思うと・・・・・・」

槍兵「マスターは元気だった?」

マスター「私は、お客様からいつも元気を頂いていますから」

技師「HEY!! スルーはやめてくれよ!!」

槍兵と技師は運ばれてきた料理と酒を口に満足気に運び、この場でしか味わえない開放感に浸る。

技師「そう言えば、槍兵は聞いたか? 魔法部隊の話」

槍兵「ん? どんな話?」

技師「いや、城に勤めてるお前なら知ってると思ったんだけど・・・・・・」

槍兵「魔法部隊のことを? ・・・・・・ああ、もしかして、規模を拡張するっていうやつ? 周りが噂してたかな・・・・・・」

技師「ああ、やっぱり本当なのか」

槍兵「全然違う部署だけど、話だけなら耳にしたよ。 ていうか、そもそもあそこは秘匿性の高い部隊だから、そうそう詳しい情報は漏れてこないんだよ」

技師「けど、由緒ある部隊なんだろ? 魔王がいたころはもちろん、その前の時代から魔法部隊の活躍で、国は魔物達から人々を救ったって・・・・・・」

槍兵「そうだよ。 本当に強かったらしい。 ただ、最近までは魔法の研究や術者の確保、教育に維持費と、何かと大金の動く部隊だったから、むしろ縮小する話まで出てた位なのに・・・・・・」

槍兵「初めは、先輩が調査遠征に出ている間くらいだと思ってたけど、そんな事もないみたいだし」

技師「マスターは何か聞いたりした? 客たちの会話とかでさ」

マスター「私もそれほど詳しくはありませんが・・・・・・。 やはり、竜騎士の数が少なくなってきていることも、原因の一つではないでしょうか。 今ではその殆どが、他国への出向や、探求の旅に出ていたりもしますし。 この国に永続して残っているのは、あの方くらいなものですから」

技師「う~ん、あり得ない話ではないけど、そこまでの戦力低下とは思えないけどな~」

槍兵「うん、確かに一騎当千の竜騎士とは比べるまでもない戦力だけど、かといって、魔法部隊一人一人の練度は相当なものだ」

マスター「もちろん、代々王国を守ってきた方々の実力を疑ってなどいません」

技師「じゃあどういう・・・・・・」

マスター「・・・・・・未来を見据えるのも人ならば、思い出に浸るのも人」

槍兵「・・・・・・かつての栄光、ですか」

技師「・・・・・・!? おいおい、まさかっ」

マスター「ええ、私たちは憶測で語っているだけです」

槍兵「けど、あながち間違ってもいないんじゃないかな」

技師「・・・・・・魔法部隊が、竜騎士に張り合うみたいな真似をするってのかよ」

マスター「たった一人に、数百人規模の部隊がと、普通なら考えるところです」

槍兵「うん、普通ならそうだね・・・・・・」

技師「・・・・・・そうだったな」

槍兵「先輩は、最強の騎士。 天駆ける火竜を従えた・・・・・・あの当代きっての竜騎士なんだ」

技師「あの人も、おかしなところで苦労を背負い込むなぁ~」

マスター「ええ、本当に・・・・・・」

技師「それじゃあ、今度はうちらがやけ酒にでも付き合ってやるか」

槍兵「とか言って、本当はまた仕事をさぼる口実が欲しいだけだろ」

技師「もちろんだ」

槍兵「即答かよ・・・・・・っ!?」

その時、店内が僅かにぐらついた。 周りから、グラスや食器の接触する音が鳴り響く。

槍兵「な、なんだ・・・・・・!?」

技師「地震か!?」

マスター「地面が揺れたというより、店自体が押されたような感じでしたね。 揺れも、即座に収まりましたし・・・・・・ん?」

店の外から人々のざわめきが聞こえてくる。 徐々に大きくなっていく声は、よりはっきりと聞こえてくるようになる。

「うぉ!? すげぇ・・・・・・っ」

「何だあれ!?」

「空が、昼間になった!?」

マスター「外が騒がしいようです」

技師「槍兵」

槍兵「うん。 行ってみよう」

槍兵と技師は酒場の両開きドアを抜けて外に出た。

そこには、目を疑うような光景が待っていた。

時間も遅く、先程までは満天の星空が目の前にあったはずの空は、まるで昼間のように明るく、黒一色の本来あるべき姿をどこかに追いやっていた。

槍兵「あ、明るい・・・・・・」

技師「おいおい、さっきの地震でお日様が飛び起きちまったんじゃないのか?」

槍兵「そんな事あるわけ・・・・・・」

槍兵が技師の冗談を切り捨てようとするも、その空の明るさは、もしかしたらと思わせてしまうくらいの光量だった。

「何が起こったんだ」

「まさか、魔王が・・・・・・」

「馬鹿なこと言うなよ」

「け、けどよぉ・・・・・・」

技師「槍兵、あれ、見てみろ・・・・・・」

槍兵「あれ?」

技師の指差す方向。 地平線の向こうから、よく見れば光の柱が僅かに立ち昇っていているようにも見えた。

技師「この光・・・・・・あっちの方角から広がってるんじゃないか?」

槍兵「・・・・・・かも、しれない。 けど、水平線を越えてまで光量が落ちないなんて」

技師「爆光・・・・・・いや、魔術的な光・・・・・・。 何にしろ、ただ事じゃないぜ」

―――いつか俺が困った時、ちゃんと助けにきてくれよ―――

槍兵「・・・・・・っ!? この方角は」

マスター「皆さん、津波の恐れがあります。 念のため、早く高台に避難して下さい」

技師「そ、そうだな。 おい槍兵、俺たちも早く・・・・・・」

槍兵「技師、頼みがあるんだ・・・・・・」

技師「・・・・・・槍兵?」

―――工房

技師「だから、まだ調整がすんでないって言ってるだろう!!」

槍兵「そこを押して頼む!! 飛ぶだけなら出きるって言ってたじゃないか」

技師「そりゃ言ったけどよ。 計器類だって・・・・・・」

槍兵「・・・・・・先輩が、いるかもしれないんだ」

技師「なに?」

槍兵「先輩が向かった調査隊の遠征先、さっき、光っていた方角だったんだ」

技師「え、遠征?」

槍兵「あんなの、普通じゃない。 地震も、夜を昼間に変えてしまえるだけの光も、絶対に何かあったんだ」

技師「槍兵・・・・・・」

槍兵「先輩のことだから、大丈夫だとは思う」

槍兵「無事に帰ってくるに決まってるんだ」

槍兵「けど・・・・・・分からないけど、凄く、いやな予感がするんだよ」

技師「・・・・・・」

槍兵「こんな事、頼めるのはお前しかいないんだ。 だから・・・・・・」

技師「お前・・・・・・」

槍兵「頼む!!」

技師「・・・・・・一つだけ」

槍兵「ん?」

技師「無茶を押して飛ばせっていうんだから、これだけは覚えておけ」

槍兵「・・・・・・な、なんだ?」

技師「・・・・・・帰りは遠泳も覚悟しとけよ」

技師は柱に備え付けられていたレバーを両手を使って下げる。

工房全体が低い唸り声をあげ、工房の正面ゲートが開き、ワイヤーを牽引する装置がせり上がる。

槍兵「技師・・・・・・」

薬師「別に、お前のむちゃくちゃな注文は今に始まったことじゃねぇしな。 おら、さっさと乗り込め!!」

技師と槍兵はグライダーのハッチを開け、操縦席に乗り込む。

槍兵「の、乗り込んでみたはいいけど・・・・・・」

技師「何だ?」

槍兵「き、緊張するな・・・・・・。 空を飛ぶ乗り物っていうのは・・・・・・。 だって、魔法じゃないんだよな」

技師「ふ、安心しろ。 ・・・・・・俺も初めてだ」

槍兵「・・・・・・え?」

技師「ワイヤーの牽引機準備・・・・・・よし、射出の方角・・・・・・よし」

槍兵「お、お前も、初めてなのか?」

技師「調整も済んでない機体に、有人でテストするわけないだろう」

槍兵「・・・・・・だ、だよな」

技師「お前から言い出したんだから、腹括れよ」

槍兵「よ、よし。 分かった」

技師「よし・・・・・・行くぞ、舌噛むなよ」

槍兵「・・・・・・っ」

技師「・・・・・・俺だって、ちょっとビビってんだぜ」

槍兵「・・・・・・ありがとう、技師」

技師「・・・・・・ふぅ。 ・・・・・・行けっ!!」

技師が操縦席にあるレバーを手前に引く。

ガクンという衝撃のあと、工房のずっと先に設置された装置によって高速でワイヤーは巻き取られていき、凧揚げの要領でグライダーは一気に上昇していく。

槍兵「っぐ・・・・・・」

技師「ちゃんと捕まってろよ・・・・・・っ」

技師は一度引いていたレバーをさらに引き込む。

つながれていたワイヤーが外れ、グライダーは王国の大空に解き放たれた。

槍兵「・・・・・・す、凄い。 ほ、本当に、飛んでる」

技師「計器類が全然足りねぇし、大体夜間にこいつを飛ばそうだなんて自殺行為だぜ。 まぁ、今は昼夜逆転してるけどよ」

技師「深夜を真昼間に変えちまうだけの明かりがなかったら、こんな無茶はしねぇぞ」

槍兵「ありがとう技師・・・・・・」

技師「まぁ、俺も気になるっちゃあ気になるからな。 さぁ、上昇気流を捕まえながら、気張っていくとするか」

昼と夜が反転した大空を、槍兵と技師を乗せた大鳥が飛んでいく。

周りには草木も山もなく、あるのは雲海と静寂だけ。

二人はその光景からくる高揚感と、多少の不安、そして、竜騎士の安否を思い、まっすぐ地平の彼方へとグライダーを飛ばしていく。

全てが遠く、真新しい感覚を体験しながら・・・・・・。

―――遠方の地

やがて、光の柱が立ち昇る目的の島が見えてくると、二人は操縦席の窓に顔を押し付けて、その様子を見下ろした。

技師「・・・・・・地形が、おかしな事になってねぇか? 抉れるように所々変わっちまってるぞ」

槍兵「そんな・・・・・・山岳地帯が、まるまる吹き飛んでるなんて」

技師「どう、なっちまってるんだ? 一体、何があったら山が丸ごと無くなっちまうんだよ」

槍兵「分からないけど、地震もこの影響だったのかも・・・・・・」

技師「あ、光が・・・・・・」

槍兵「き、消えていく・・・・・・!?」

明るかった空が、目前の光の柱が小さくなっていくにつれて暗くなっていく。

技師「ちょ、ちょっとまて! 今真っ暗になられたらヤバイ・・・・・・っ」

槍兵「技師、急いでくれ!!」

技師「そういう事が出来る乗り物じゃねぇんだって!!」

技師はゆっくりと旋回しながら着陸ポイントを探し、徐々に高度を下げていく。

大地に近づくにつれ、その惨状の酷さがありありと目に飛び込んでくる。

抉れた岩塊、吹き飛んだ草木、ボロボロになったテント。

そして、微動だにしない倒れた調査隊達。

五体満足でいる者もいれば、体の一部、半分以上が欠損している者もいる。

技師「ひでぇ・・・・・・」

槍兵「いったい、ここで何があったんだ・・・・・・」

技師「よし、着陸態勢に入る。 ちゃんと捕まってろよ」

槍兵「・・・・・・っ!?」

その時、眼下を見下ろしていた槍兵の目に飛び込んできたのは、燻る煙をその身から出しながら、両翼で全身を包むように鎮座していた火竜の姿だった。

槍兵「あれは、火竜・・・・・・っ!? 先輩!!」

技師「お、おい待てよ槍兵!!」

槍兵は低空に位置したグライダーからハッチを開けて飛び出した。

大地に着地し、躓きながらも火竜に向かって駆け出す。

しかしその前に、火竜はぐらりとその大躯をふらつかせ、大きな音を立てて倒れふした。

その影に、一人の人間が倒れていた。

副官「・・・・・・っぐ」

槍兵「っ!?」

副官「わ、私は・・・・・・」

槍兵「先輩じゃ、ない・・・・・・?」

副官「ここ、は・・・・・・」

槍兵「あ、あなたは、火竜と一緒に倒れていたんです」

副官「た、倒れ、て・・・・・・? た、隊長、は・・・・・・調査隊は・・・・・・」

槍兵「調査隊の方ですね!? 先輩・・・・・・いや、竜騎士が一緒にいたはずです・・・・・・ご存知ありませんか!? 一体ここで何が・・・・・・!?」

副官「竜騎士・・・・・・っ。 隊長・・・・・・隊長は、あの時・・・・・・」

―――数刻前 遠方の地

竜騎士「っち・・・・・・っ!! 火竜よ!!」

その声は崩壊しつつある洞窟内に反響し、その波紋は魔方陣を中空に描き、爆炎と黒煙を伴い、その中心より竜騎士の従える火竜が現れる。

そして火竜は両翼を大きく広げ、天井より崩れてくる石や岩から兵達を守る。

副官「これが、火竜・・・・・・」

竜騎士「崩れてくる内壁や岩塊に注意しろ!!」

調査兵「ふ、副官殿!!」

副官「どうした!!」

調査兵「く、首飾りが・・・・・・外れません!!」

副官「何!?」

調査兵「そ、それどころか、どんどん熱くなって・・・・・・っぐ、がぁぁ!!」

「この、首飾り・・・・・・は、外れない!?」

「熱い・・・・・・っ、これ、何でこんなに!?」

「外れないんです!! くそ、何で・・・・・・っ!!」

「嘘だろっ!? こんなの嘘だろ!?」

「嫌だ!! 嫌だ嫌だ嫌だ!! 熱いっ!! 熱い!!」

竜騎士「(崩落の衝撃が竜の心臓に影響を与えずとも、自爆アイテムに込められた魔力が、竜の心臓に込められた魔力を暴走させてしまう・・・・・・)」

竜騎士「・・・・・・っく」

竜騎士「(ここにいる皆は・・・・・・救えない・・・・・・)」

竜騎士「(だが、ここで全てを諦めることもしない!!)」

竜騎士は国王より授けられた守護の魔石を握り締め、王国にいるであろう知人達の事を思い浮かべる。

竜騎士「(槍兵・・・・・・技師・・・・・・薬師・・・・・・皆・・・・・・)」

――――――姫様・・・・・・。

竜騎士「・・・・・・副官。 命令だ」

副官「!? はい! 如何様な命令でも!!」

竜騎士「(今ここで司令の首飾りを装備していないのは、私と副官だけか・・・・・・)」

副官「・・・・・・隊長?」

竜騎士「・・・・・・生きろ」

副官「え・・・・・・?」

火竜は大翼を広げ、副官の前に降り立つとその翼で副官を包み込む。

副官「隊長!? 一体何を・・・・・・っ」

副官の叫びが竜騎士の耳に届く瞬間、視界は目が眩むほどの強烈な閃光と聴覚を麻痺させるだけの爆音が調査隊を・・・・・・洞窟を、そして島を飲み込んだ。

副官「―――――――――――――――っ!!!!」

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