槍兵「竜騎士になりたいんです」 役所「無理です」 1/16

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槍兵「・・・・・・え?」

役所「申請期限が過ぎています」

槍兵「し、申請期限? そんなの・・・・・・あ、ありましたっけ?」

役所「竜騎士をご希望とのことでしたので、ご存じかとは思いますが・・・・・・」

槍兵「は、はい・・・・・・あ、いえ」

役所「竜騎士となるには、竜の加護を得るために特定の場所に行き、対象となる竜と契約しなければなりません」

槍兵「それは知ってます。 使役する竜もそこで手に入れることも・・・・・・」

役所「さようでございますか」

役所「しかし、近年では竜の個体数が減少傾向にあり、竜騎士への転向希望者をこちらで厳選させていただいているのです」

槍兵「え、ええ?」

役所「竜は元々、番いを作りにくく、繁殖は数十年に一度、または、数百年に一度など珍しくありません。 ですので、竜騎士となれるものは、その希少性に値するだけの実力者であること、そして、竜の個体数が契約出来るだけ増えた場合に限り、竜騎士への転向を許されるのです」

槍兵「は、初耳なんですけど・・・・・・いつ決まったんですか?」

役所「今月の王国会議で可決されました。 議題自体は二年前より出ていました」

槍兵「それも初めて知ったな・・・・・・」

役所「さようでございますか」

役所「城下の中央広場に設置されている掲示板に、告知として明記してあったはずですが・・・・・・」

槍兵「えっと、その、次の竜騎士転向期間っていうのは・・・・・・」

役所「決まっておりません。 コレばかりは、竜の個体数に依存するので」

槍兵「で、ですよね・・・・・・」

―――酒場

槍兵「そんな規約があるなんて全然知らなかった」

技師「ぶはははは!! ありえねぇぇぇwww」

槍兵「笑い事かよ技師! ようやく憧れの竜騎士になれると思ったのに、こんなのあんまりだ」

技師「んなこと言ったって、そういう決まりが出来ちまったんじゃ、くっくっww、しょうがねぇだろww」

竜騎士「俺の時はそんな規則はなかったがな。 確かに、竜の個体数は近年減少傾向にある。 俺が竜騎士となった時には右にも左もも竜騎士がいたものだが・・・・・・]

竜騎士「これも時代だと思って受け止めておけ」

槍兵「先輩はいいですよね。 自他共に認める有名な竜騎士になってるんですから」

竜騎士「そう恨み言を言うな。 こうやって、お前のヤケ酒に付き合ってやってるんだからな」

技師「そうだぞ。 俺だって親友の窮地に、急ぎの仕事を抜け出して駆けつけたっていうのに」

槍兵「お前はサボる理由が出来たから喜び勇んで駆けつけただけだろ」

技師「おおっと、名推理だな兄弟」

槍兵「序章で犯人が分かるくらい簡単だ」

竜騎士「・・・・・・しかし、そうなるとお前も現状に甘んじている場合では無くなったぞ」

槍兵「え・・・・・・と、言いますと?」

竜騎士「竜騎士を希望する者が誰でもなれる今までとは違い、役所が厳選すると言うんだから、それなりの実力を持っていないと、選考さえされないということだ」

技師「ちなみに、槍兵が竜騎士の選考基準になる可能性は・・・・・・」

竜騎士「現時点では難しいな。 まだまだ強さのランクとしては上がいるわけだから」

槍兵「そんなぁ・・・・・・」

技師「oh・・・・・・ご愁傷様」

槍兵「はぁ・・・・・・」

竜騎士「気を落とすのはまだ早いだろう。 直ぐに竜騎士選抜が始まるってわけじゃないんだ」

槍兵「ええ、まぁ・・・・・・」

竜騎士「逆に考えてみろ。 今のうちに実力をつけて、その時が来たらチャンスをモノにすればいいんだ。 幸運の女神には前髪しかないっていうだろ?」

槍兵「出来ることならロングヘアーの時に出会いたかった」

―――城内 会食の間

竜騎士「お久しぶりです、陛下、姫様」

国王「うむ。 こうして食事を共にするのも、ふた月ぶりか」

竜騎士「はい」

国王「しかし、相変わらず堅いな。 私と娘の前でくらい、もう少しその厳格さを崩しても構わんと言うのに」

竜騎士「いえ、コレばかりは・・・・・・。 平静を装ってはいますが。 大隊の指揮を執る時以上に緊張しているのですから」

国王「それは、私の前だからか? それとも、娘の前だから?」

姫「お、お父様!!」///

竜騎士「お戯れを・・・・・・。 もちろん、両方でございます」

国王「はっはっは。 本当に、変わらんな貴殿は」

竜騎士「王族との会食の席なら、コレが普通ではないでしょうか?」

国王「ふむ、そうは言うがな。 息子になるかもしれない男が、そうも他人行儀ではなぁ」

竜騎士「へ、陛下・・・・・・っ!?」

国王「まったく。 戦の腕は確かで、頭も切れる。 それなのに、色恋には奥手か・・・・・・」

姫「お父様!?」

国王「このくらい調べさせるまでもない。 お前達が隠れて逢い引きしていることも、文を交換していることも分かっておるわ」

竜騎士「そ、そうでしたか・・・・・・」

姫「い、いつから・・・・・・」

国王「さて、いつからかのう・・・・・・」

竜騎士「流石は陛下。 その見識眼なら、この国の未来も安泰でありましょう」

姫「竜騎士様、こういうのは目ざといというのです」

国王「つまりだ。 親公認。 いや、国王公認となったのだから、そうコソコソ会おうとせずともよい」

竜騎士「で、ですが・・・・・・」

姫「・・・・・・っ」///

国王「はぁ。 お前達が奥手過ぎるとこっちがやきもきする。 これでは、孫の顔を見るのはまだまだ先か・・・・・・」

竜騎士「・・・・・・」///

姫「・・・・・・」///

国王「まあよい。 せっかくの料理が冷めてしまう。 まずは、料理長の腕を振るった料理を頂くとしようじゃないか」

竜騎士「はい」

国王「それとな」

竜騎士「?」

国王「司令が貴殿に話があるといっていた。 後で顔を出してくれ」

竜騎士「司令が? ・・・・・・分かりました」

―――城内 司令私室

竜騎士「資源調査……でありますか?」

司令「うむ。 君も知っての通り、我が国の経済基盤は鉄鋼業だ。 近年の採掘量の減少を鑑み、調査団を結成し、現地へ赴いてもらいたい」

竜騎士「その様な重要な任務、私に務まりましょうか? こと、戦においては何人にもひけはとらないと自負していますが……」

司令「そう思うのも無理はない。 私としても、無理を言っている自覚はある」

竜騎士「はい……」

司令「しかし、魔王が死に、平和へと向けた軍縮が進んでいる今、調査隊にもあまり兵を割けんのだ」

司令「もちろん、専門家の補佐も付ける。 君には、万が一調査隊に危険が及んだ時に、力を貸してほしいのだ。 調査団の向かう島は、若干数の魔物が確認されている。 それらの脅威から調査団を守るのが、君の主な任務だ。 何かあったときには、君が皆を守ってやってくれ」

竜騎士「そういう事ならば、よろこんで引き受けましょう。 国の繁栄のため、民の幸せのために、私の力が役に立つというのであれば」

司令「期待している。 この国一番の……いや、世界一の竜騎士よ」

竜騎士「はっ」

司令「それに、だ」

竜騎士「はい?」

司令「日がな竜を駆り飛び回るよりは、一箇所に落ち着ける任務の方が、多少なり気も休まるだろう」

竜騎士「ご配慮頂き、恐悦至極」

―――王城 正門前

槍兵「先輩! 調査団の隊長に任命されたって、本当ですか!?」

竜騎士「・・・・・・どこで聞いたんだ?」

槍兵「戦では情報戦が命ですから」

竜騎士「(誰と戦っているんだ?)」

槍兵「まぁ、本当は竜の個体数を調べている部署に今の状況を聞きに行ったんですが、それが司令直轄の部署でして・・・・・・」

竜騎士「それで?」

槍兵「どうしても教えてくれないって言うんで、不貞腐れてトイレの壁でもブチ抜いてやろうと思った時に、調査団の事を話している者たちの事を個室の中で聞きまして・・・・・・」

竜騎士「はぁ・・・・・・」

竜騎士「そんな暇があるなら、槍の腕を磨くか、戦闘の勉強をしろ。 そんなんじゃいつまでたっても竜騎士にはなれないぞ」

槍兵「いや、まぁそうなんですけどね。 で、どうなんです。 本当なんですか?」

竜騎士「……機密事項だ」

槍兵「僕にさえ伝わっちゃう情報に、機密性なんてありませんよ」

竜騎士「お前、それはそれで問題だぞ」

槍兵「いいじゃないですか。 どうせ本当なら、数日後には国を挙げて見送ることになるんですから」

竜騎士「そういう問題じゃ……はぁ。 もういい。 お前の言う通り、三日後に出発だ」

槍兵「やっぱり!! 凄いじゃないですか!! 流石ですね、先輩」

竜騎士「凄いかどうかはともかく、光栄なことには変わりないな。 この身が国のために役に立つというのだから」

槍兵「先輩がこの国に来て、もう三年でしたっけ……」

竜騎士「そうだな。 初めは、少しでも人々の役に立ちたいと思い、この地に身を置いたが・・・・・・」

槍兵「置いたが……?」

竜騎士「今の私は、地位を頂き、役職もあり、敬われるようになってしまった。 これでは・・・・・・な。 私はただ、皆のために動ける存在であればよかったというのに」

槍兵「仕方ないですよそれは。 竜騎士というだけでも、人々が憧れる尊敬の対象なんですから。 竜を従え、竜の加護を受け、その力も精神も最高峰の騎士! あぁ、僕もなりたいなぁ」

竜騎士「だったら、今以上に鍛錬に励むことだ。 速さだけなら、お前は見所がある」

槍兵「え・・・・・・?」

竜騎士「身のこなしも槍さばきも、俺が今まで見てきた兵の中ではいい線いってると思うぞ」

槍兵「ほ、本当ですか?」

竜騎士「嘘なんかついてどうする。 まぁ、速さだけだがな」

槍兵「じゃあ、この調子でいけば、僕も竜騎士になれますかね?」

竜騎士「ふん、それはどうだろうな」

槍兵「え~!?」

竜騎士「そう簡単になれるようなものなら、世界は竜騎士で飽和状態だろう。 ま、今は役所が取り仕切っているがな」

槍兵「それは、そうですけど……」

竜騎士「・・・・・・前にも思ったが、お前はまだ若いんだ。 焦る必要なんかないだろう」

槍兵「けど、僕は……」

竜騎士「まぁ、早くなりたいという気持ちも、解らなくもない。 昔は俺もそうだった」

槍兵「先輩も?」

竜騎士「ああ。 だが、結局のところ、竜騎士とは騎士の延長線上でしかない。 その力量も、精神も、今研鑽していることを続けていけばいい。 時が経ち、その成果が出ていれば、きっとなれるだろう」

槍兵「そう、でしょうか……」

竜騎士「槍兵、お前にとって、騎士とは何だ?」

槍兵「それは、騎士道のことですか?」

竜騎士「もちろんそれもある。 しかし、そんな建前を聞きたいんじゃない」

槍兵「……騎士、とは……」

竜騎士「別に、あるならあるで言わなくてもいい。 しかし、まだないのなら、何でもいい。 自分の中にある、絶対に譲れないものを一つ持っておけ」

槍兵「絶対に、譲れないものですか」

竜騎士「いつかそれが、お前を支える力となるだろう」

槍兵「先輩には、あるんですか?」

竜騎士「もちろんだ。 今も昔も、それがあるから戦えるんだ」

槍兵「竜騎士になる前から?」

竜騎士「騎士を志した時からな」

―――城下 市場

薬師「あれ、槍兵さん?」

槍兵「ん? ああ、こんにちは、薬師」

薬師「どうしたんです? 道端でぼおっとしてるなんて・・・・・・」

槍兵「う、うん・・・・・・。 いや、別に大したことじゃないんだ。 薬師は何か買い出し?」

薬師「あ、はい。 今日の晩ご飯で使う食材を買おうと思って」

槍兵「なら、荷物持ちになるよ。 ちょうど時間が空いてたところだし」

薬師「本当ですか! 嬉しいです! あ、よかったら、その後一緒にウチでご飯を食べていきませんか?」

槍兵「いいの?」

薬師「もちろんですよ」

槍兵「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

薬師「ええ、うるさい兄がいつもお世話になってるんですから、これくらいはさせてください」

槍兵「流石、できた妹は言うことが違うね。 技師はまだ仕事中なのかな?」

薬師「はい。 まぁ夕飯時には帰ってくると思いますよ」

槍兵「そうか。 じゃあ、早速行こうか」

薬師「そうですね。 それじゃあ最初は・・・・・・」

―――薬師&技師の家

技師「ただいま~っと・・・・・・お、槍兵じゃん」

槍兵「お邪魔してるよ」

薬師「お帰りなさい兄さん。 今ちょうど御飯の用意が出来たところだから、早く手を洗ってきて」

技師「へいへい」

技師「(薬師)」ヒソヒソ

薬師「(な、何?)」ヒソヒソ

技師「(別に、俺は外で済ましてきてもいいんだぜ。 せっかく槍兵が来てるんだからよ)」ヒソヒソ

薬師「(い、いいから早く席に着いてよ兄さん!)」ヒソヒソ

槍兵「どうかしたのか二人とも」

薬師「な、何でもないです。 さぁ、食べましょうか」

三人は食卓を囲み、薬師の作った料理に舌鼓を打つ。 そして、話は竜騎士の話題へ・・・・・・。

技師「へぇ、遠征ねぇ・・・・・・」

薬師「凄い・・・・・・いつ出発なさるんですか?」

槍兵「三日後だって言ってたな。 きっと、見送るための式典とかが催されるんだとは思うけど・・・・・・」

技師「なら、その前にウチらはまた別に祝ってやるとするか」

薬師「いい考えだとは思うけど、お忙しい身なのに、時間を割けるのかしら」

槍兵「来れなかったらそれはそれで仕方ないさ。 僕らは先輩の旅立ちを勝手に祝うとしようか」

薬師「・・・・・・そうですね。 喜ばしいことには変わりないんですから」

技師「よし、そうと決まればちょっとマスターの所に行って、色々準備の段取りを決めてこようぜ。 祝うってなれば、結局あそこを使うんだしな」

槍兵「そうだね」

槍兵「薬師、ごちそうさま。 凄くおいしかったよ」

薬師「ふふ。 こんなものでよければ、いつでも食べに来てくださいね」

技師「じゃあちょっと行ってくる」

槍兵「またね」

薬師「はい。 行ってらっしゃい、兄さん。 槍兵さん」

―――酒場

技師と槍兵は酒場に到着次第、マスターに祝いの準備を提案し、大体の目処がついたところで、カウンターに座った。

技師「なぁ、家で飯食ってるときから思ってたんだが・・・・・・」

槍兵「・・・・・・え?」

技師「どうしたんだよ? いつにもまして暗いなお前」

槍兵「・・・・・・普段の僕のイメージってどういうの?」

技師「決まってるだろ? 何にも考えてない、能天気なイメージだよ」

槍兵「そ、そんな事ないだろ?」

技師「いいや、お前はずっとそんな感じだよ。 それが今日に限っては、まるでこれから牧師に会いに行ってきますって面してるぞ。 なぁマスター?」

マスター「確かに、いつもの調子ではなさそうですね」

槍兵「マスターにもそう見える?」

マスター「ええ。 まぁだとしても、人が胸の内を話したくなるのは、牧師かバーテンダーと相場が決まっていますから」

技師「だな。 ほら、なにやらかしたんだ? さっさと吐いて楽になっちまえよ」

槍兵「別に、罪の告白をしたいわけじゃないんだけど……」

技師「だったら何なんだよ。 女にフられたか?」

技師「(だとしたら、ウチの妹的には大問題だが・・・・・・)」

槍兵「違うって。 今日、先輩に聞かれたことで、ちょっとね・・・・・・」

技師「聞かれたこと?」

槍兵は技師とマスターに竜騎士から言われたことを話した。

槍兵「騎士とは何だ・・・・・・そう聞かれたんだ」

マスター「騎士とは……ですか」

槍兵「マスターは、バーテンダーとは何かって、考えたことある?」

マスター「もちろんですよ。 私の場合は、その事を常に自分に問いかけ続けています」

技師「真面目だね~」

槍兵「技師は?」

技師「俺か? 俺は……どうだかな。 そんな事、考えたこともねぇや」

槍兵「参考にならない奴だなぁ」

技師「そもそも畑が違いすぎるだろうがっ」

マスター「きっと、無い方はもっと別の部分で大事なものを持っているのでしょう」

技師「お、いい事言うねマスター! そうだぞ槍兵!! 大体な、俺達みたいなのは、考えるよりもまず体が動いちまうもんなんだよ」

槍兵「そう……か……」

マスター「見つけようと思っても、中々見つからない物かもしれませんよ。 研鑽の果てに気づくもの、時が経たなければ、気づけぬものかもしれませんし」

技師「そうだぜブラザー。 思いつめてりゃ見つかるもんでもないだろ」

槍兵「……かもな」

技師「おうよ! そういうのは、騎士になった時に考えても、遅くはねぇって」

槍兵「ああ。 焦りすぎて、おかしな答えが浮かんできても困るしな」

技師「そういうこった。 そんじゃマスター!!」

マスター「はい。 未来の騎士に、特別な一杯をお作りしましょう」

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